第2話『混沌はすぐそばまで』
翌朝、1年B組の教室は朝から蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。クラスメイト達の話題は、当然のように昨日このタウンを襲ったモンスターの件で持ち切りだ。
「なぁ、昨日見たか!? 空が破れてさ……!」
「マジだって! 商店街の方でもデカい蜥蜴みたいなのが暴れてたらしいぞ!」
昨日の事件はこのみ達が遭遇した現場だけでなく、街の各地で同時に発生していたらしい。平穏そのものだった有降タウンに突如として訪れた異常事態に、教室の温度は異常なほど上がっていた。
そんな狂騒の渦中で、席についた波音と燐は生きた心地がしていなかった。自分たちがその中心でモンスターをぶちのめし、土柱を叩き立てたことまでバレて噂になっていないか、ヒヤヒヤしながら身を縮めている。
「化け物を見たのはオレ達だけじゃないみたいだな。SNSでも目撃証言ゴロゴロ出てくる」
波音はスマホの画面をスクロールしながら、周囲に聞こえないような小声で呟いた。タイムラインには、空の亀裂や怪物の映像が次々と流れては拡散されている。
『モンスター、いっぱい、みんな、怖がってる』
燐は机に突っ伏すようにして小さく声を漏らした。いつもなら朝のパンを美味しそうに頬張っている時間だが、今日ばかりは喉を通らない様子だ。その時、波音のポケットの中でスマホがブッと短く震えた。画面を開くと、D組にいるこのみからのメッセージだった。
《うちのクラスでもモンスターの話ばっかり。やっぱりなんかおかしいよ…》
波音はチラリと教室の入口の方へ視線をやり、素早いフリック入力で返信を打つ。
《こっちもだ。噂が本当なら、昨日のやつらはほんの爆心地の一部だったってことか》
画面を見つめながら、波音は深く息を吐き出した。イヤホンの隙間から漏れ聞こえるクラスメイト達の思念は、恐怖と好奇心、そして漠然とした不安で重く濁っている。
『シマ君……コノちゃん、なんて?』
『放課後、屋上に来いってさ』と波音が囁こうとしたその瞬間、教室の扉が勢いよく開いた。
「はーい、全員席につけー! 朝のホームルーム始めるぞー!」
担任の呑気な声が響き渡るが、その声すらも、どこか上滑りして教室の緊張感を消し去ることはできない。
昨日の事件は、ただの一回きりの事故などではない。
自分たちの愛する「ありふれた日常」が、確実に別のナニカへと変貌を始めようとしていることを、三人は予感していた。




