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BLIND SPOT〜真実には、死角がある〜  作者: 日向 葵衣


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1 挑戦状

お読みいただきありがとうございます。

右のモニターが、一度だけ瞬いた。


「……?」


 続いて中央、左、三台すべてが同時に暗転した。


「愛!」


『……はい、解析を開始します』

 愛の声が変わった。普段の軽い応答から、感情を排した解析モードへ移行している。

『通常の表示障害ではありません。三台の表示系統に、同一時刻の外部入力が発生しました』


「外部入力? サーバー側からじゃないのか?」


『現時点では断定できません。施設内ネットワークの中核、認証基盤、サーバー群、監視系統に異常はありません』


「じゃあ、何が起きてる?」


『調査中です。確認できているのは、蓮の解析室にある三台のモニターで、通常とは異なる表示が発生していることだけです』


 蓮は画面を見つめた。今まで一度だってこんな事はなかった。室内を見渡したが、他は正常に作動しているようだった。

(俺のモニターだけなぜ…)


 施設全体の電源が落ちたわけではない。壁面の大型モニターも、サーバールームも、通常どおり稼働している。異常が起きているのは、自分のモニターだけだった。真っ黒な画面に、白い文字が一行浮かび上がる。


 ”南野蓮”

「……俺を知っている?」

 数秒後、続きが表示された。


 ”ずいぶん長い間待った”


 蓮の顔から表情が消えた。


「愛、画面表示の記録を保存してくれ。それと、認証記録と通信記録も確認だ」


『承知しました。記録を保全し、関連するシステムの確認を開始します』


 さらに文字が現れた。


 ”お前なら分かるだろう?”


「……何のことだよ」

 蓮は眉をひそめた。心当たりがないわけではないが…15歳の頃から、蓮はさまざまなシステムに関わってきた。危険な目に遭ったことも一度や二度ではない。


 しかし、この文章だけでは、相手が何のことを指しているのか分からなかった。さらに一文が表示された。


 ”さぁ、南野蓮。ゲームを始めよう。お前は私に辿り着けるのか?”


 数秒後、文字は消え、モニターは再び黒い画面に戻る。室内には沈黙が落ちた。蓮は止めていた息をフーッと吐いた。


「……愛。今の表示、追えるか?」


『確認を続けています。ただし、現時点では送信元を特定できていません』


「施設の中に侵入者がいる可能性は?」


『否定できません。しかし、入退室記録や認証系統に異常は確認されていません。現段階で、施設内部に侵入者がいると判断する根拠はありません』


「じゃあ、外部から?」


『その可能性もあります。ただし、外部からの通信によるものだと断定できる記録も見つかっていません』


「……つまり、お前でも分からないってことか」


『はい。分からないことを、分かったとは報告できません』


「そうだな」


『正確性を優先しています』


「はいはい」


 蓮は椅子に深く腰を下ろした。ここは、あらゆる侵入を想定して設計された施設だ。受付での認証、通路での継続認証、区画ごとのアクセス権限…全て独立した監視系統を備えたBASTIONで、いったい何が起きたのか。少なくとも、目の前の三台のモニターに、誰かが自分宛てのメッセージを表示させた。それだけは間違いない。


 ただそれは、本庁のコンピュータに侵入するよりも難しい。それほどまでに、BASTIONのセキュリティは厳重なのだ。


「愛、今後同じことが起きたら、すぐに知らせてくれ。表示が出ても、原因が分かるまでは勝手に判断しないでいい」


『承知しました。確認できた事実と、推測にとどまる情報を分けて報告します』


「頼む」


 蓮はもう一度、黒い画面を見た。

 ”ずいぶん長い間待った。お前なら分かるだろう”


 自分を知っている人間なのだろうか。過去の何かを知っている人間、それとも知っていると思わせたいだけなのか。まだ、何も分からない。


「……面白いじゃねぇか」


『蓮』


「ん?」


『その発言は、あなたが危険な案件に興味を持った際によく使用する表現です』


「そうだったか?」


『はい。過去の行動記録と照合した結果、単独で調査を進めようとする可能性が高いと判断しました』


「お前、俺を何だと思ってるんだよ」


『優秀ですが、興味を持った対象に対して慎重さを失いやすい人物です』


「褒めてるのか、それ」


『前半は評価、後半は注意喚起です』


「一言多いんだよなあ」


『蓮との会話から学習した成果です』


「それは俺のおかげか?」


『原因を特定するには、さらなる検証が必要です』


「もういいよ!」

 いつものやり取りに、蓮は小さく笑った。だが、すぐに表情を引き締める。


「愛。今夜はこの件を優先する。まずは表示が起きた原因を調べよう」


『承知しました。記録の保全を優先し、確認できた情報から順に報告します』


「それでいい」


 蓮はキーボードに指を置いた。挑戦状を送りつけてきた相手は、何者なのか。なぜ自分を名指し(指名)したのか。そして、どうやってBASTIONの厳重なセキュリティの中で、あのメッセージを表示させたのか。


 今のところ、答えは一つもない。だが、相手は明確に自分を狙っているようだ。ならば、こちらも予見して動くしかない。蓮は黒いモニターに向かって、静かに呟いた。


「必ず見つけてやるよ」


『蓮』


「おー」


『調査を開始する前に、一つだけ確認します』


「今度は何だ?」


『今回の件について、神崎所長にも共有しますか?』


 連は、しばらく考え込んでいた。


「いや。まずは確認できたことを整理してからだ。根拠のない話を広げる必要はない、それに昨日頼まれた案件もまだだ。そっちもやっとかねぇと所長うるせぇからな」


『承知しました。情報が確定するまでは、推測を事実として扱わない方針ですね』


「そういうこと」


『了解しました。では、解析を継続します。神崎所長に依頼された分析も、並行して行います』

 愛の声が響き、三台のモニターには分析画面が戻った。


 蓮にとってここは、何もかもが馴染み深い場所だ。いつもの作業環境とすぐそばにいる相棒の愛。しかし、蓮の日常は、もう以前と同じではなかった。


 誰かに指名され、自分がそこへ辿り着くことを待っている。


 南野蓮は、まだ知らない。この挑戦状が、自分の過去と深く結びついていることを。そして、送り主が何を求めているのかも。


 ただ一つ確かなことがある。これは、偶然届いたメッセージではない。

 誰かが、南野蓮を選び送りつけた挑戦状だった。

10月も残すところあと3日になりました。あっという間でちょっと驚いています。

年を取るのが早いわけですね…

先ほど千葉北東部にて震度5弱の地震がありました。私の家も結構ゆら~り~ふら~~りと、揺れておりました。本当に自然災害はいつ何時来るかわからず怖いですね。皆様もお気をつけて下さいませ!

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