雪の下の地の底 4
足音すらわずかに反響して聞こえる静かな階層を二人は恐る恐る進んでいた。
「ここは空気がきれいだな」
「地上が近いからかも、それに工場よりだいぶ遠いし。この階のどこかには上層階への直通エレベーターがあるはずだから」
「それってあれだろ、遠征隊が行き来するやつだよな。これってチャンスだよな、うまくここで目立てれば遠征隊に入れるかもしれねぇ」
「そううまくいくのかな。下の階で昔遠征隊だった人と何人か出会ったことあったけど、みんなすごいたくましい体つきだったよ」
「いっつもおんなじ話してる元ハンターの爺さんと昼間っから酒飲んでる作業員してたおっさんだろ。いいんだよ俺は技師で遠征隊に入るんだから」
広い通路を進んでいると通路の向かいから台車を押した女性が歩いてくる。
何処からからの買い物の帰りの様で台車に大きな箱いっぱいに水の入ったボトルと様々な食料が入っていた。
「この辺のはずだけど、あの人に聞いてみようか」
「くれぐれも粗相のないようにしろよ、俺たちの移動の話がパーになるかもしれないんだからな」
市街地に出回っている服は古着が一般的。
限られた資源でやりくりしているため色の違いはあれど作業着のような動きやすい服が出回っており、衣服の繊維が丈夫なため完全にボロボロになることは珍しく色がくすんだ衣服を着たものが多い。
そんな中、目の前の女性の衣服は色あせも解れた糸もなく細かな刺繍が施され何より真新しさを感じるものだった。
「あの、技師雇用の件で来たんですけどカザヒ家はどちらでしょうか?」
「ああ、技師雇用の方ですね! 集合場所はこの先の部屋です、私が案内いたしますね!」
二人の手にしたカザヒ家のハンコが押されている封筒を見ると女性は道案内を快く了承する。
「お願いします」
「お任せください!」
台車を押してきた道を引き返す女性に続いて歩く二人。
「仕事の途中でごめんなさい」
「いえ、いいんです! 厨房への配達は急ぎの様ではありませんから、午後の鐘がなる前に届いていれば問題はありません!」
立派な苔むした岩壁の噴水のある部屋へと案内される。
封筒に押されたハンコと同じ文様が門や柱に施されていて、女性はその奥の扉を指さす。
「あちらで時間までお待ちください! もうすぐ時間のはずですよ」
「ありがとうございました」
高い天井広い通路、見慣れぬ装飾や殺風景な空間に彩を添えるため多く育てられている苔、下の階層では見ない建物の作りに言葉が出ないでいると、その先の古びた大きな木製の扉を指し女性は一礼して去っていく。
「ここか」
「準備はいいか」
扉を開けて部屋に入る。
奥の部屋から腕まくりした作業着から体中に古傷の見える金髪の大男がやってきた。
「よしそろそろ時間だな、なんだちょうど来たところか。お前たちがフウテツとイサマだな。俺はハンデンだ、お前たちの上司になる予定だ。付いてこい」
「え、あっと、フウテツです」
「イサマですよろしくお願いします」
立ったまま話をしフウテツたちと握手を交わすと二人を連れてハンデンは自分が入ってきた奥の部屋へと案内する。
大きな機械と部品が並んだ部屋、壁には見知った工具と見慣れない工具がかけられていた。
ハンデンは傷だらけの腕を伸ばしてテーブルの上のを荷物を指す。
「明日から作業着はそこにあるものを着ろ、卸したてだ。カザヒ家で働く以上古着は着用禁止だ。最初の給金が入り次第全て服に使え。そこで初めて外の仕事を回す、それまでは上層階で雑務を行ってもらう。仕事着と仕事道具は用意できるがそこまでは負担しきれないからな。更衣室は向こうだロッカーもある、すぐに着用しここに戻ってこい」
言われるがままテーブルの上の荷物を受け取り更衣室へと向かう。
「これ着て来いって、もう働くのか」
「みたいだね。工具の鞄ももらえるみたい。すごい、獣の革製だよ」
「新品の匂いがする。初めて買ってもらった靴下と同じ匂いだ」
「急がないと。あと比べる対象はそれでいいのイサマ?」
支給された上着を羽織り更衣室から出るとハンデンがさらに奥の部屋の前でこっちへ来いと手招きしている。
「まぁ、少しは様になったか。ついてこい新人ども、お前たちの今日の仕事場は資材仕分けを下に下ろすことだ。上の階に向かうぞ」
「さらに上ですか?」
「このさらに上って遠征用の荷物置きですとね」
広い建物内をハンデンに続いて歩いていくと通路に出た。
遠征で持ち帰ってきたであろう植物を植えた鉢植えや動物の頭骨が飾られている。
廊下のいたるところに飾られたそれらを見てイサマが目を輝かせてハンデン訪ねた。
「これってやっぱり遠征で手に入れたものですか?」
「ああ、ここいらのは結構昔のものだな。もっと状態のいい奴は本館に並んでるぞ。果実をつける木々や連れ帰った野生の動物もな」
「本館には遠征から持ち帰ったものがたくさんあるんですか」
「なんだ、気になるか? あるぞ、昔の美術品やこのコロニーじゃ作れない大きなオブジェとかな。コロニーの四派閥は遠征のたびに持ち帰ったものを、記念と歴史を残している」
「俺、遠征に行きたいんすよ。狭いコロニーの外に、外が厳しい場所だって教わって育ってきてますけど」
「遠征に興味があるのか。来年の遠征部隊に選ばれたいのなら、育成プログラムに応募しておくぞ。ここでの仕事の後にさらに働いてもらうことになるが」
「お願いします」
「いい返事だ気にったぞ、イサマ」




