雪の下の地の底 2
イサマは青々強い藻のスープに口をつけ顔をしかめた。
「いいや、たるんでるな。今回の失敗で遠征隊に大勢の欠員が出るはずだ。それでいてすぐにでも次の遠征の準備を始めるはず。俺は技師の募集が出たら応募するぞ」
「技師の募集? そんなのがあるのか」
「あるある、車両の整備が必要だからな。それ以外にもいろんな機械の整備が必要になる。俺もお前みたいに手広く色々直せればもっと早くに遠征隊に志願してたんだけどな。知ってるか、遠征隊は外で獣を仕留めてその場で食うんだ。俺らがこんな最低限の栄養しか取れない味気ない食事しかできないのに、遠征隊は外にいる間毎日油の滴る肉を腹いっぱいに山ほど食えるんだ」
「それはうらやましいな、虫の脚が歯の間に挟まらなさそうで」
「こっちの虫団子いるか? そっちのミートラットの肉と交換で」
「いいや、香辛料の無い虫団子はまずいからいいや。何で香辛料が足りてないの知ってて頼んだんだよ」
「せめて一切れ、ここまで味が薄いとは思わなかった。養殖蝸牛にしとけばよかった」
「帰りの運転をイサマが引き受けてくれるなら」
食事を終えて食堂を出ると道が見えなくなるほど人がひしめき合い、二人は店の並んでいない別の道へと入る。
工場へ資材を搬入する車両がメインの通路は他より天井が高かったが、人が通ることはあまり考慮されていない作りで歩道が狭く天井も低い。
駐車スペースからやってくるものもおらず大通りと違ってこの道は静かだった。
「少し遠回りになるけど、人かき分けて進むよりはいいだろ。どうせあとは帰るだけだしな」
「いろんな食べ物の匂いもここは薄いし、この時間は搬入もないから静かだ。少し歩くには手狭だけど」
空気を送っている空調機のファンがキリキリ音を立てて回っている以外の音はなく細い道を進む。
「さっきの話、遠征隊に志願するってのは本当だぜフウテツ。選ばれるかどうか知らないけど何もしないよりはましだろ。正直今の暮らしはどんどん厳しくなってる」
「まぁ、それもありなのかもな。頑張れよイサマ」
放置された何らかの機械部品や送熱用の配管がむき出しになっている個所もありそれらをよけて下への階段へと向かう。
「こんな道でも奇麗ってことは掃除ロボが掃除してんのかね」
「そうなんじゃないか、カビも生えてないし。イサマ、そこの階段から下に行けるんじゃないか」
「さっきの場所はもう少し先だったけどここから降りてみるか、別の場所に続いててもどこかの大通りには通じてるだろ」
階段を降りると駐車スペースの前で、通りの向こう側で落ち着きなく周囲をきょろきょろとする小柄の男性がいた。
調節された軽装でも過ごしやすい気温の中で寒がりというわけでもなく、くすみの無いはっきりとした色合いの上着を着ている。
小男はこちらを見てフウテツと目が合うとまっすぐ駆け寄ってきた。
「ちょうどいい所に! 兄さんたち、見たところ技師だろ? 頼むよ車が故障して動かなくなっちまったんだ」
工場労働者と違い技師の作業着は古い汚れのついたものが多く、敗れた個所の修復や機械油などでまみれているので声をかけてきたのだろう。
小男は非常に困っているようで眉をハの字にして顔に多くの脂汗をかいていた。
「営業外だ帰ってくれ」
「まぁまぁ、見るだけなら。直せそうなら直しますよ、直せないないならあきらめてください」
相方は肩をすくませ先に戻るといって下層へと戻っていく、フウテツは何度もハンカチで顔の汗をぬぐう小柄の男についていき故障車両の元まで案内される。
灰色の無機質な通路の脇に家庭菜園の青々とした苔が育てられ、その先に路肩に停車する二人乗りの小さな電気自動車が見えた。
一般的に町中で走っているものではなくピカピカな高級車両。
「どころでどこが壊れているんですか?」
「あの車です。走っていたら急にエンジンが止まってしまって。それ以降何をしてもうんともすんとも」
車の中には誰か乗っているようで座席を深く倒し眠っている。
身なりが整っているようで工場の偉い役職の人なのだろうとフウテツはあまり見ないようにし車両の後方に回った。
「わかりました、見るだけ見て見ます。ぱっと見で直せなかったらいったん上に帰って専門の道具を持ってきます」
「お願いです、時間通りに上に帰らないといけないんです」
ポケットから小さな工具箱を取り出し仰向けに寝そべって車両後部下を調べた。
掃除の行き届いた奇麗なモーターと変速機に感心しながら一つづつ部品を調べフウテツは顔を上げる。
「バッテリーが古くなってますね、多分原因はこれだと思います。他は掃除と化されてて綺麗なんですけど、バッテリー付近にショートしたような跡があったので。火災にならなくて幸いでしたね。これを取り換えれば動き出すと思います。それでも動かないならちゃんと調べられるとこへもっていった方がいいですね。他の個所も焼き切れてる可能性があるので」
「ば、バッテリー……」
「できそうなこともないので、俺はこれで。それでは失礼します」
他にできることはなくフウテツは周囲をきょろきょろと見まわす小男の背に一礼してこの場を去ろうとすると、そこへ撤収の準備を進め車両を上の階へと持ってきたイサマが営業車で迎えに来た。




