山【「お山の狐は連れ添いたい」後日談】
電車を乗り継ぐ度に、あたりの景色は山がちに変化していく。
いつの間にかICカードの範囲外に出てしまっていて、嫌そうな顔をした車掌に頭を下げて精算してもらう。自販機で水を買い、鳴りやまないスマホをついでに駅のごみ箱に捨てる。
駅を出ると、すぐそこから登山道が伸びていた。
スーツで歩いていると何か言われるだろうか、と思ったが、意外なことに誰もすれ違わない。汗だくになりながら山頂についた頃には、丁度昼になっていた。中央にある不自然に聳える黒く巨大な岩にはしめ縄がかけられており、「むかしこの地に住んでいた人食い狐がどうのこうの」という謂れが書かれた看板が立てられている。紆余曲折あり、改心した狐は「悪人を成敗する」ことで仙狐を目指すことにしたらしい。
「……ふうん」
小さな賽銭箱にお金を投げ入れ、手を合わせる。
――悪人とは、誰だろうか。
到底できない仕事を僕に押し付けてくる上司か、電子レンジを壊してくれたメンヘラの彼女か、それとも彼らの期待に応えられない僕か。
「その願い、聞き入れた」
目を開けると、石があったはずの場所に巨大な黒狐がいた。
「えっ」
呆然としていると「楽しみに待つがいい!」と狐はぴょん、と空中に飛び出した。
「ちょ、待っ――」
まだ何も願っていない。慌てて狐を追おうとした僕は、崖の先へと踏み出していた。




