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トンボ
暑い。だが、家にいるのが自分一人だと冷房をつける気になれない。開けっ放しの和室に転がっていると、まだ赤くないトンボがふいっと室内に飛び込んできた。
あらま、と思うが追い出す気力もない。手を高く上げると、狙い通り指先にトンボがしがみつく。
「お義兄さん、いますー?」
がらがらと玄関の開く音がして、ふわりとトンボが飛び上がった。じっとしていると、また指の上に降りてくる。
「あっ何してるんですか冷房もつけずに。熱中症になっちゃいますよ」
「トンボと遊んでた」
「はい?」
不思議そうな顔をした義弟は、俺の指にとまるトンボを見てああ、と頷いた。足音と気配を殺して近づいてきた義弟の手がそろそろとトンボに伸び、そして――
「あっ」
すっと飛び立ったトンボを掠めた手が、俺の手を握った。




