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蚊取り線香
「不健全だよ、全く」
古書店奥のレジ横。一段高く畳敷きになっている部分に腰かけて本を読んでいると、店主が開け放された窓辺に蚊遣り豚を置いた。
「夏休みってのはこう……友達とプールに行ったり、塾で勉強したりするもんじゃないのかい。それを君は毎日こんな古本屋に入り浸って。もっと建設的に過ごしたらどうだい」
「俺が俺の夏休みをどう過ごそうが、それは俺の勝手でしょう」
「せめて立ち読みじゃなくて買ってくれればねえ」
店主が手に持った団扇を緩く動かすと、クーラーのない店内の空気が動いた。除虫菊の匂いと、それから彼の微かな汗の匂いが、それに乗って俺のところまで流れて来る。あつ、と呟く声と共に店主が浴衣の胸元をはだけるのが見え、俺は慌てて本に視線を戻した。
「……店、クーラー付けたらどうですか」
「ええー? 居心地がよくなったら、君みたいな不埒な立ち読みが増えるだけじゃないか」
「増えるも何も、俺以外誰も来てないでしょうに」
「……その通りだよ」
囁き声が耳のすぐそばで聞こえて、俺は本を取り落としそうになった。
「だから、これでいいんだ」




