岬【おばけとカフェと、オーナーと】
開店前、カフェの前を箒で軽く掃く。どこかから飛んでくる枯れ葉や砂をちりとりに集めていると、背後から幾人もの足音が聞こえた。
「おはようござ――」
朝から珍しいこともあるものだ。私が挨拶をしようと頭を上げると、いつの間にか背後に立っていたオーナーに手で目隠しをされた。
「な、何っ……」
「黙れ。見るな」
耳元で低く囁かれ、おとなしく言う通りにする。
ザッザッザッと近づいてきた足音が目の前を通り、そして崖の方へと消えていく。
つん、と夏の磯の香りを何十倍にもしたような悪臭が鼻に突き刺さった。
「……もういいぞ」
完全に音が聞こえなくなってから、オーナーに手を離される。左右を見回すが、どこにも人影はない。
「な……何だったんですか、今の」
「お前がなりたがってたやつだよ」
そう言ってオーナーは少しだけ口角を歪めた。笑ったのかもしれない。
「お仲間になりたくなかったら姿を見るんじゃねえぞ、いいな」
わかりました、と答えると、どうだかね、という表情でオーナーは肩をすくめた。
――そして、夜。
私が看板をしまおうと表に出ると、またザッザッと足音が聞こえてきた。今度は崖の方からだ。オーナーに言われたとおり、じっと目を閉じてやり過ごす。
ザッザッザッザッザッザッ……びちょ。
朝と一つだけ足音が違ったのは、きっと気のせいだ。




