光と騎士
小さな衣擦れの音に目を開ける。頭を上げると、簡易式のテントから出ていく白い裾が見えた。
横に置いていた長剣を腰に差し、自分も外に出る。夜明け前の、薄青色の闇の中に立つ、白い姿を見守る。
世界に光が差し、あたりが赤く染まる。赤い輝きは白い衣をも鮮やかに染め、その前に広がる湖を、空を飛ぶ鳥を、浮かび上がらせていく。
「あっ……」
後ろに立つと、華奢な青年が振り向いた。恥ずかしそうに頬の涙跡を拭う顔立ちは、この国の人のものではない。
救世の御子。定期的に瘴気が増えて作物が生育しなくなり、魔物が増えるこの国を救うために異世界より呼び寄せられた存在。
「ごめん、ちょっと……前の世界のこと、思い出しちゃってた」
「いいえ、当然のことかと」
当然のことながら、事前の合意や承諾などない。だから、彼の「大切な人」も向こうの世界に置いてきぼりだ。
「安心して、一番好きなのは君だから」
私の視線に何かを感じたのだろうか。ふわりと笑う様子に、狡い人だ、と思う。
――でも、あっちのほうが、私より大事なんでしょう?
聞きたいけれども、そんな質問に彼は答えてくれないだろう。
無言で隣に立つ。
透明になりゆく空気の中、空と湖の青と草の緑が鮮やかになる様子を、ただ眺めて目に焼き付ける。
今、この景色を彼と共有しているのは、自分だけなのだから。
「神の僕は愛を謳う」前日譚




