路地裏の花屋
いつもと違う路地を曲がると、細い道の奥に花屋があった。
(こんなところに店があるなんて知らなかったな……お客さん来るのか?)
若干失礼なことを考えながら眺める。表に並んだ鉢植え、ショーケースの中にはアレンジメント、奥のガラス冷蔵庫に並んだ切り花。どれも枯葉1枚なく、丁寧に手入れされているのが分かる。
「こんにちは」
声に振り向くと、俺のすぐ横にエプロンを付けた青年が立っていた。
「あっ、えっと……」
「寒いですし、店内へいかがですか? ハーブティーお出ししますよ」
背中を押されるように店内へ入ってしまうが、別に俺は花が欲しかったわけでもなんでもない。紙コップに入ったハーブティーのサービスを受けながら「見ていただけです」ともそもそと謝罪すると、そんなことは承知だとばかりに青年は微笑んで頷いた。
「でも、たまには花のある生活もいいですよ。例えば、こんなのとかどうです?」
近くの花桶から取り出された花が、俺の目の前に差し出される。穂のような紫色の小さな花に、カサついた繊維質の茎——名前は知らないが、見覚えはある。
「スターチスです。見ての通り元から水分量が少ない花なので、これをあえて水なしで花瓶に活けておけば、気づいた時には勝手にドライフラワーになってますよ」
「ふうん……」
放っておくだけなら悪くないのかもしれない。じゃあそれで、と返す。
満面の笑みを浮かべた青年が、また花桶に手を伸ばす。
花を選ぶ優しげな手つきは、まるで恋人へのプレゼントを選ぶかのようだった。




