黒幕と父
時刻は11時59分。戦いが始まり58分が経過していた。武装国家アルドンスを迎え撃つべく未来視を通して配置に着いていた国防軍の団長達は徐々にではあるが戦況を好転させていた。武装国家アルドンス所属の冠位代行執行官であるフェルテレス・サルジオンは現在も国防軍統括総司令官荒山厳十郎との戦闘を行っていた。国防軍の兵力は3万、援護で参戦した他組織などを組み込めば総勢7万強。それに対し武装国家アルドンスがとった手段は生物兵器や改造人間、培養に成功したクローンの厄災、総数は18万。数だけ見れば圧倒的に不利であったが、国防軍の全団長や、アルベシアの騎士団や魔法師団、厄災対処協会などの数ある猛者の徹底抗戦により今やその数は半数を切っていた。しかしそんな中1人の男は今の戦況に対し憎悪めいた怨嗟を口にしていた。
???「馬鹿共め!これだけのお膳立てをしてなぜ劣勢になる!?私が数年かけて作り上げた叡智の結晶を無駄にするつもりか!?」
そう喚く者は武装国家アルドンスの将軍、モリアーレ・テルルソン。今回の侵攻に大きく関わっている男だ。
モリ「厄災のクローン1体を作り上げるのにどれだけの費用がかかると思っている!?そんな貴重な戦力をなぜ、こうもあっさり潰される!?それになんだあの女は!?レリーフをあんな一方的に倒せる者が居るなんて聞いていないぞ!?」
モリアーレ・テルルソン、5年前に勢力を伸ばし武装国家アルドンスの将軍の任に就いた男。その特殊異能は精神支配。モリアーレはその特殊異能を使い国全体に洗脳を施し自身の理想とする国を数年かけて作り上げた欲望の求道者。武装国家アルドンスが日本の事を目の敵にする理由、それはこの男の歪んだ認識のせいである。
モリ「日本の土地さえ手に入れれば、妖怪も、神も、学園都市も、全て私の物になる!だから策を練った!国も私の意のままに操れる様に認識を歪ませ、駒にした!なのに何故、私の作戦を邪魔する存在がこうも多く生まれる!?」
モリアーレの口から出る言葉はその全てが身勝手で、醜悪極まりない物だった。そう、この男は自身の欲望の為であれば、国も、人の命も全てゴミなのだ。
モリ「おい!今すぐ日本にアルドンスの精鋭を全員送れ!クローンや生物兵器達もだ!今日この作戦が失敗すれば、貴様ら全員処刑だ!!」
モリアーレは部下にそう怒号を飛ばす。今現在、武装国家アルドンスに存在する生物兵器、クローン厄災は総数89万体。空間系統で作り上げた別空間に隠され、その存在をひた隠しにしていたのだ。
モリ「私を舐めやがって.....!日本め、今日必ずお前達を滅ぼし、全てを私のモノに.....!」
部下「生物兵器、クローン厄災を目標日本へ転移させます。多重詠唱開始。」
部下の一人がそう言うと同時にその場にいたモリアーレの部下10人が同時に詠唱を開始する。
モリ「先に送ったクローンや生物兵器達は全て撃破されたが、疲弊した所に100万以上の災害が現れれば、どうしようも出来まい!さぁ、行け!」
モリアーレのその言葉を合図に多重複合魔法が発動する。その瞬間、別空間に隠されていた全ての怪物達が日本へ向け転移する。
モリ「これでお前らは終わりだ!」
そう、モリアーレは高笑いをするのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
???「ダメに決まってんだろ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
発動した多重複合魔法が突如として制御を失う。その影響は転移にも影響が現れ、転移する座標が日本から武装国家アルドンスへと変更された。
モリ「.....はぁ!?」
モリアーレは怒りと困惑の入り混じる声を上げる。無理も無いだろう、目の前まで迫っていた勝利が今の一瞬で消え失せてしまったのだから。
モリ「貴様らぁ!なぜ失敗した!?」
モリアーレは怒りに任せ部下に掴みかかる。
部下「わ、分かりません...何故か、突然魔法が制御を失い、暴発したんです.....!」
モリ「ふざけているのか!?」
モリアーレは部下の話に耳を貸さず大声で詰め寄る。頭に血が上ったモリアーレは部下の顔に拳を叩き込んだ。
部下「あぁ.....!」
殴り飛ばされた部下は鼻血を出しながらその場に倒れ込む。怒りが収まらないのだろう、モリアーレは部下に馬乗りになり顔を殴り続ける。
モリ「ふざけるな!私を馬鹿にしているのか!?貴様なぞ、今この場で殴り殺してやる!」
部下「も、申し訳、ございません。」
顔を殴られ続けながら部下は謝罪を続ける。最後の一撃と言わんばかりに振り上げた拳をモリアーレは容赦なく振り下ろす。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
???「あのさぁ、大の大人が少しミスしただけで女性の顔を殴るんじゃねぇよ。」
モリ「は?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その言葉と共にモリアーレの体はとてつもない衝撃で吹っ飛ばされる。地面をバウンドしようやく止まったのは、手違いで転移させられたクローン達の居るだだっ広い荒野だった。
モリ「な、何が.....!?」
???「うん、ここだったら民間人に被害を出さずに済むな。」
モリ「......!?」
状況が理解できず痛みにもがいていると不意にそんな言葉が前方から聞こえた。モリアーレはすぐさま声の聞こえた方向へ目を向けた。そこには一人の青年がたっていた。
モリ「貴様、何者だ...!?私が誰か、分かった上での蛮行か!?」
モリアーレはその青年に対しそう叫ぶ。青年は煩そうに耳を塞ぎ、しかめっ面で答える。
??「お前声でかい。もう少し音量下げてくれ。」
モリ「貴様、私の質問に答えろ!?」
???「あ、まぁいいけど。俺が誰か、だったか?初めましてだな。俺の名前は祇梨清和、関東便利屋如月の代表取締役だ。」
モリ「便利屋?関東...?いや、そんな事より、祇梨、だと.....?」
モリアーレは目の前に立つ青年が名乗った名前に息を呑んだ。今眼前に立っている青年が抹殺対象である祇梨蓮斗と同じ姓を持っていたからだ。
清和「流石にか。お前の想像通り、俺は蓮斗の父親だよ。」
モリアーレはその言葉を聞き再び驚愕する。父親と名乗った青年は見る限り20歳にも満たない若々しい容姿。その言葉を易々とは信じる事は出来なかった。
モリ「貴様、私をおちょくっているのか.....!?お前のような小僧が父親だと?」
清和「そう言われても、事実だし。」
モリ「まぁ良い、この場に一人で来たその無謀さだけは褒めてやる。やれ、お前達!」
その合図と共に祇梨清和へ向け複数のクローンが迫る。が、その場で摩訶不思議な現象が起きた。
モリ「おい、お前ら、何故そのガキに攻撃しない!?目の前に居るんだぞ!?」
そう、クローン達は眼前にいる祇梨清和へ攻撃を加えずその場を走り続けていた。その意味不明な光景にモリアーレは思はず声を上げた。
清和「いやぁ、どんなに頑張ってもお前らじゃ俺の居る場所には辿り着く事は出来ないよ。」
そう言いながら祇梨清和は歩を進める。
モリ「貴様、クローン達に何をした!?」
モリアーレがそう絶叫する。祇梨清和はそれに対しこう返した。
清和「簡単な事だよ。今こいつらは俺に向かってずっと走ってるんだよ。」
モリ「......?」
清和「詳しく言えば見た目の距離は1m位だが本来の距離に直せば地球三周半位かな?」
モリ「3周、半.....?」
モリアーレは突如出されたふざけた数字に困惑を見せる。モリアーレ自身、優秀な科学者だ。その距離がどれだけ馬鹿げているか瞬時に理解する。だからこそ、困惑しているのだ。距離に直せば21万km。そんな馬鹿げた数字が出てきて困惑しない方がおかしいのだ。
蓮斗「今俺はほんの少し境界を弄ってるんだよ。目測1mの距離、地球3周半分の距離に引き伸ばしてるって考えてくれればいい。このクローン達はその途方も無い距離を今も尚走り続けてるって訳。」
モリ「いや、そんな芸当が、人間に出来る訳無い!その魔法の種、私直々に暴いてやる!」
そう意気込みモリアーレも祇梨清和へ突進する。が、走っても走っても、一切距離が縮まらない。姿は見えている。なのに、一切近づけないのだ。
モリ「(なんだ、この感覚...知覚を弄られたのか?だが、私にそう言った干渉は出来ない筈.....)」
清和「馬鹿だなぁ、人の話は素直に聞くべきだぜ?青二才。お前は本当に馬鹿な事をしたもんだよな。俺の息子を殺そうだなんて...命知らずだな。」
モリ「(ダメだ、何をしても近付けない.....)」
清和「とりあえず、お前は死んでいいよ。」
そう、祇梨清和はモリアーレに向かって告げる。そして、次の瞬間だった。
モリ「あぇ......?」
突如としてモリアーレの視界が反転した。
モリ「(なんで、空が下に見えるんだ....?なんで、私体が見えるんだ.....?)」
ぼとりっ、と何かが落ちる音がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
清和「さてと、あとはお前らだな。」
そう言い目の前に密集する厄災のクローンに目を移す。数がおよそ89万。
清和「まぁ、模造品に用はないか。」
清和「境界魔法〝虚空之旅〟」
その短い詠唱が唱えられた瞬間、その場に存在していた全ての怪物達が忽然と姿を消した。
清和「終わる事の無い暗闇の中で永遠と彷徨い続けろ。絶望したら、自死すればいい。お前らは俺の家族に手を出そうとした。報いだと思って後悔しろ。」
そう言い終えると祇梨清和は手に持つ刀で空を斬る。そして空間は切り裂かれ穴が空いた。
清和「さて、帰るか。紗奈の方は大丈夫そうだし、蓮斗と凛ちゃんに何かお土産でも買って行くかな?蓮斗は良いとして、凛ちゃん何が好きかな...」
そう言いながら祇梨清和はその場を後にする。荒野に残されるのは首が切断され絶命したモリアーレ・テルルソンの亡骸だけだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
蓮斗「闇系統最上位魔法〝黒刀夜神〟」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




