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筋肉フェチ

「だって兄さまの方が男らしくて強くて逞しいから!!」


もっと深い理由があると身構えていたのだが、聞こえてきた回答はあまりにも単純なものだった。


「えっと・・・・・それだけ?アモスさんの方が能力的にふさわしいからとか、アモスさんに何かしらの負い目があるとか」


「いえ、戦闘面ならともかく領地経営者として兄さまは失礼ですが能力皆無ですし、私の方が適任なのは分かってます。父上もそれを思って私に家督を譲るとおっしゃっているので、そこは理解して兄さまを送り出しました」


「それじゃあ何が不満なんだ?俺が戻ってきたところでできることなんて無いと思うが」


「もちろん兄さまのその姿、見た目こそ必要なのです!!今私が家督を継いだとしても貫禄というものがありません。矢面に立って人々を導くには私よりも兄さまがふさわしいと父上にも言っているのです!!」


アモスさんはチンプンカンプンのようだが俺には何となく分かる。確かに父であるアルスさんはアモスさんには劣るものの見事な体躯をしている。その後継者として美青年なアレンさんが継ぐのは確かに違和感がある。


「ノルドー領は元々聖国を見張るために作られた領であったこともあり、代々の領主は経営だけでなく武道や貫禄というものが特に備わっていました。兄さまも歴代の当主様たちの自画像をみたことがあれば分かると思いますが、私がそこに入っては明らかに違和感しかないのです!」


確かにガチムチマッチョの中に一人美青年がいるのは違和感がある。家を継ぐにあたって自分が分不相応だと思うのも納得できる。


「俺はそんなの関係ないと思うけどな。見た目なんて問題でなく、アレンが何を成したかが重要だと思うぞ」


「そうではないのです兄さま!!こちらの歴代当主の自画像をご覧ください。皆様見事な体躯をなさってるではありませんか!!!」


アレンが見せてきたのはノルドー家歴代当主の自画像を集めた本だった。何故か全員パンイチでボディービルダーのような筋肉を強調させるようなポーズばかりだった。


「なぁアモスさん、自画像にしてはちょっと変な感じなんだが・・・・これが普通なの?」


「そんなこと言われても俺だって他の当主たちの自画像なんて見たことねーし、ウチはこれが伝統だと言われてきたからなんの違和感もないな」


さっきまで何となく分かるだったのが確証に変わる。確かにここに連なるのは俺でも嫌だ。


「ご覧のようにここに私が加わるのは不自然すぎる、いえ、冒涜と言ってもいい。この素晴らしい歴代当主様たちに私が入ることなど万死に値します。その点、アモス兄さまであればその見事な上腕二頭筋や上腕三頭筋や腕橈骨筋に三角巾、僧帽筋に広背筋という上半身の筋肉が歴代でも特に素晴らしいのです!!これは後世に残す至高の筋肉といえます!」


どんどん早口になって興奮していく様子。同類だと思ったがこれは違う。


「まさかの筋肉フェチだったとは・・・・」


「主様筋肉フェチ?とはいったいなんですの?」


「うーん、簡単に言うと俺たちが恋愛模様をみて萌えるように綺麗な筋肉を見て萌える人もいるってことだ」


高校のときに水泳部の女子マネージャーがその類だった。西城に理想の筋肉を付けるためのアドバイスをもらいにきて数時間筋肉談議をしていた。食事の面からと俺も呼ばれてアウェイ状態になったのは懐かしい思い出だ。


「よーく観察してみろ今のアレンさんの姿、俺やお前が妄想を話しているときの姿と酷似してるだろ。それでこうすると」


俺はアモスさんの服を捲し上げて見事に割れたシックスパックをアレンさんの目の前に見せる。見事に鼻血を出して悶絶しているアレンさん。


「は、隼人さんなんてことを・・・・あぁ、兄さまの素晴らしい腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋がめ、目の前にぃぃぃぃ。美しすぎます!!!!!」


「あ、主様がアモス様の服をぬ、脱がせるなんて!!!こ、これはこの後押し倒して主様が主導権を握ろうとして逆に押し返されてしまう逆カプ展開!主×アモスが一瞬にしてアモス×主展開に発展する流れ!!!!!!」


「ほーら、そっくり」


この残念すぎる従魔と同じような反応する人がいることには驚いたが、この筋肉フェチを説得するのが結構難しくなってきた。


「隼人、寒いんだが」


とりあえずアモスさんの服を元に戻すと悶絶している変態たちが落ち着くのを待つ。その間にどうやってアレンさんを説得するか考えよう。仕方ないここは買収するしかない。


「アレンさん、その自画像の中にアモスさんが入ればいいんですよね?」


「わ、私としてはそれが理想であり必然です!」


「それならこんなのはどうですか?ゴニョニョ」


「え!そんなこと出来るわけが!」


「でもそれをしたらアモスさんの体が手に入るんですよ?」


ゴクリ


これは返答だと受け取っていいだろう。そうなったら早速準備をしよう。アモスさんと空き部屋に移動するとさっさと仕事を始めた。


数時間後


「父上、私の我儘でお手数をお掛けしてしまった事を深くお詫びいたします。今後は後継者として恥じぬことをお約束いたします」


何が何だか分からない様子のアルスさんは目をパチクリしている。


「あ、アモス。一体これは何がどうなってこうなったのだ?」


「さぁ、俺もよく分からん。隼人のやつが絵を描いてやってコソコソと話をしたらすっかりこんな感じになった。まぁいいじゃねーか!本人がやる気になってんだし」


「ま、まぁそうなんだが・・・隼人殿、アレンは大丈夫なのか?」


「はい、もちろん!今まで以上にアルスさんの後継者として頑張っていくと思いますよ」


何泊か泊っていくようにと勧められたが罪悪感もあり早々にお暇をする。結局アモスさんのお姉さんとお母さんには会えなかったが、後々怒られそうなので急いで屋敷を出た。


「それにしてもやっぱり隼人を連れて来て正解だったな!あんな簡単にアレンのやつを説得しちまうなんて、本当に隼人にはできないことなんてないんじゃないかと思っちまうぜ!!」


俺は特に酷いひっかき傷部分を治療しながらアモスさんの肩に乗っているオケアノスを見る。


「ちょっとアモスさんを脱がせたぐらいでそんな怒ることないだろ。別にやましいことに使ってるわけじゃないんだし」


「にゃにゃにゃ~ん、ゴロゴロゴロ」


「それとこれはとは別の話だそうですわよ。私としては従順に主様の言うことを聞くアモス様の姿を見てグッときてしまいましたわ」


俺がやったことは簡単に言えば合成、アモスさんの体を魔法で紙に複写して顔をアレンさんそっくりにさらに複写しただけ。つまり顔だけアレンさんで体はアモスさんの自画像を作っただけだ。


「ああいう筋肉フェチは理想の筋肉さえ拝めれば基本は何でもいいってやつが多い。まぁ、その反面筋肉に関しては無茶苦茶こだわりが強すぎる」


複写したアモスさんはカメラで撮影したように寸分たがわぬ姿だったはずなのだが、筋肉も盛り上がり方やラインの線など事細かに修正をされてしまった。最初は歴代の自画像をパクって複写したのだがその全てをアレンさんに見破られてしまった。本人曰く「歴代当主の筋肉は全て熟知しております、こんな小手先で私を騙そうとするのは一億年早いです」と少々お叱りを受けてしまった。


「あのままウチに泊まっても良かったんだぞ。今回は父さんに呼ばれたわけだし」


「いやぁ、あのままアモスさん家にお世話になると色々と面倒が起きそうで。とりあえず今日は村の宿に泊まることにしよう。アモスさん悪いんだけど宿の手配お願いしてもいい?俺村の人に食材とか分けて貰ってくる」


宿の手配をアモスさんに任せると俺は村から出て人気のない森に入る。


「よろしかったんですの?おそらくですがアモス様も狙われているお一人、当事者の方々をのけ者にして勝手に始末してしまうのはどうかと思いますけど」


「当事者の人たちもまだ気づいてないみたいだし、何よりもアモスさんだからね。色々お世話になってるしこの場で恩を返すのも悪くないと思ってさ」


今回俺たちがノルドー家を訪ねてからずっと見張られていた。最初は俺を狙ってコーネリアが刺客での差し向けたのかと思ったが、どうやら俺たちが訪ねるよりも前からノルドー家を見張っているようで、特にアレンさんとアルスさん、それに帰ってきたアモスさんを見張っているようだった。


「気配は上手く隠してるみたいだけど魔力でバレバレだしね」


「私としてはなかなか上手く隠れていると思いましたわ。ニオイも気配もしっかりと消せていますし、人間で彼らを見破れる者は少ないと思いますわ。どちらかといえば主様が規格外なだけだと思いましてよ」


だって魔力感知を発動させると明らかに魔力が消えている箇所がいくつも見られた。魔力は大気中にも漂っており、この世界のあらゆる物体に魔力が宿っている。つまり魔力が存在しないということ自体あり得ないことなのだ。シンラが使う魔力無効も魔力を分解しているのであって消し去っているわけではない。つまり魔力を意図的に隠している者がその近くにいるということだ。


「魔力を隠すなら消すんじゃなくて偽らないとね」


棍を地面に立てて集中する。魔力感知で隠れている人たちの位置を特定してそこに重力増加の付与をしていく。


「っぐ!!」


「っが!」


「うぇ!!!」


何人かは重力に押されて動きを止められたが数人重力の力場を脱出した者たちがいる。


「貴様、何者だ?」


目の前には全身を覆う黒ずくめのローブ姿の人が5人、重力で捕らえた人たちを含めれば魔力感知で見つけた全員が目の前に集合したことになる。


「何者と言われても俺はノルドー家に来た客にすぎない。あんたたちこそ、ノルドー家を見張っていたようだがどこの命令で監視していたのかな?」


5人のローブを着た人たちは素早い動きで俺を取り囲む。動きからして手練れなのは間違いない。冒険者でいえばB級、なかにはA級に迫る者もいるかもしれない。鑑定のスキルを使えばわかるのだろうが、戦闘中に鑑定が出来るほど俺の魔力コントロールは良くない。一人見るだけで膨大な情報量が頭の中に流れ込んできてパンクしてしまう。ゆっくりと魔力を込めればロールプレイングなんかでよくあるステータスだけを見ることが出来るのだが、自分も相手も動かない状態でないと無理だ。


「この程度なら私が蹴散らしても良いのですがいかがします?」


「あんまりお前に負担を掛けるのもあれだし、俺がやるよ。とりあえず動けなくさせてからゆっくり話を聞かせてもらう」


何人か俺に切りかかってきたが物理障壁で防御ができる。魔法を使う人もいたので魔法障壁も一緒に展開。


「捕まえるなら網かロープか」


付与する魔法のイメージを固めて敵周辺の空気にエンチャントする。魔力の網で1人、ロープで1人を捕まえることしかできなかった。思った以上にこの集団はレベルが高いようだ。


「なら痺れさせるか」


雷の属性を含む魔力をエンチャントして針のような形状で射出する。【避雷針】と呼ばれる魔法のアレンジ版だ。貫通力よりも雷の力を強くして四肢を麻痺させることに重点を置いたものだ。ちょっと魔力を込めすぎて数百の針の雨となってしまって2人が動けなくなった。


「あと一人」


残ったのは最初に何者だと言っていた男。性別は声から判断したものだ。網やロープを避け、無数の針を全てナイフで撃ち落とした強者。明らかに他の人たちとはレベルが違う。


「あんたがリーダーさんかな?素直に目的を喋ってほしいんだけど」


返答は無言で繰り出された投げナイフだった。これも物理障壁で防御しようとしたのだが、不思議とナイフは障壁をすり抜け俺の頬をかすめた。そのまま俺の真後ろにあった木に刺さったナイフをチラッとみたが何の変哲もないナイフだった。


「障壁をすり抜ける能力なのか、それとも別のなにか仕掛けがあるのか。さて、これは困った」


今は何とか最小の被害で場を制圧しようとしているが、このリーダーらしい男は正直手加減をして倒せる相手ではない。あの避雷針で制圧できなかったのは悔やまれる。


「あんまり目立ちたくなかったが仕方ないか。凍結」


魔力コントロールをより正確なものにするため呪文名を口にする。ローブ男の足元を凍り付かせ止まったところで体全体を凍結させていく。ただローブ男の魔力抵抗が高かったのか完全に凍結させられたのは首より下の部分だけだった。


「完全凍結させられなかったけど、事情を聞き出すならこれでいいか」


「主様!早く止めを!!」


珍しくハクトが声を上げる。一瞬のことで判断が遅れた。ローブの男の体から赤黒い魔法陣が浮かび上がり魔力を収束していく。その魔力の源になっているのは俺が捕らえた仲間たちだ。動けなくなっている人たちからどんどん魔力を吸い上げローブから見えている手などはカラカラのミイラ状態になっている。


「一体何が!?」


「これは贄の儀ですわね。契約した者の命と魔力を明け渡す最悪な儀式魔法ですわ。術者も一時的な力は得ますが数時間もすれば死ぬと聞いております」


つまりこのローブの男と仲間たちは契約によって繋がっており、全員の命と魔力を贄にして確実に対象者を殺すことができる儀式魔法を仕込んでいたというわけだ。


「本当に最悪な魔法を仕込んでくれる」


儀式魔法は一度発動してしまうとどんなことをしても妨害ができない。魔法を無効化できるシンラのスキルをもってしても発動後の停止は不可能。だが儀式魔法はとにかく時間を有することと発動条件が難解なため発動前であれば簡単に破壊することができる。今回の場合であれば俺が黒ローブ集団の誰か一人でも殺していれば儀式魔法は発動しなかった。自分の甘さに腹が立つが今更後悔しても仕方がない。


「けれどこれほどの魔力、人間数人程度で賄えるものではありません。それにこの魔力はどこか覚えが」


ハクトが何かを考えているうちに儀式が完了したのかリーダーらしき男の姿が変わる。真っ黒な体は肥大化し、筋肉がこれでもかと盛り上がっている大男。何故か不釣り合いな5本の美しい狐らしき尻尾を付けている。


「あの姿はもしや、九尾!まさか霊獣を触媒としておりますの!!外道が・・・」


珍しくハクトが本気で怒っている。霊獣は野生動物や魔物が強い魔力を持って進化した存在。アリスのところにいるユニコーンの守護獣ピューイも元は霊獣と分類される。

そして、おそらく触媒として用いられているであろう九尾はハクトやコクロの眷属だろう。


「九尾って九尾の狐か?」


「はい、9本の尾を持つ狐の霊獣ですわ。高い魔力はもちろんですが、何より美しいその姿は人のみならず霊獣や魔物をも魅了すると呼ばれるほどの種族です。まさか人間に捕らわれ触媒にされているとは・・・」


ハクトの感じからして、フェンリルにとって九尾は近しい存在だったのだろう。だからこそ日ごろは他者に無関心のハクトもこれだけ感情の起伏が伺える。


「主様、お手数をお掛けして申し訳ございませんが九尾を助けるご助力をお願いできますでしょうか。眷属としてもですが、九尾は我らフェンリルに古くから仕えてきた一族です。助けられるなら助けてやりたいと思います」


「もちろん、ハクトからのお願いだ。任せろと言いたいが具体的にどうすればいい?」


変身した男は物凄いスピードで俺の張った障壁を壊してくる。重力の付与もものともせず襲い掛かってくるため避雷針や拘束の付与で動きを止めているがあまり長くは持たないだろう。


「現在の実体化している尻尾の数からして完全に儀式に取り込まれてはいないはずです。私が魔力の痕跡を辿って九尾本体を封印している儀式魔法を破壊いたしますわ。主様にはそれまでこいつの相手をお願いします。儀式の効果範囲的にこの近くに九尾が封印されているのは確かですから」


「分かった。倒さないように弱らせればいいんだな」


「はい、九尾からの魔力供給を断てば自壊する可能性もありますが、そこは主様が被害を最小限にしていただければと」


「さらっと最後とんでもないことを言うね。まぁなんとかしよう」


「さすが主様ですわ!!」


ハクトはそう言うと森の中に消えた。俺はなんとかこの怪物を足止めするために魔力を練り上げる


お読みいただきありがとうございます。


少しでも面白かった、続きが気になる方は高評価コメントよろしくお願いします。

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