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ノルドー領へ

綿あめを食べ続けてようやく満足したコクロはスヤスヤとおねむ。そりゃ合計30個ほどの綿菓子を食べつくしたのだから腹は膨れるだろうが糖尿病とか心配。


「それでこの後のことはどうしようか?」


後処理としてやることは山のようにある。この屋敷の主人であったペルマナはイフリートとして転生をしてしまいこの世にはいないし、村に戻ってギルドのこともどうにかしないといけない。ついでにイフリートの拘束魔法で捕らわれているジュリアンヌもどうにかしないといけない。


「屋敷のことは心配ありません。元々ペルマナという女性はこの屋敷の主を殺して成り代わった者にすぎません。悲しむ肉親こそいなければ使用人たちからもそこまで慕われていたわけではりませんので」


どうやら憑依していた間の記憶もあるようでこの屋敷はペルマナの物ではなかったことが分かった。それならこの土地を管理している人たちに任せて問題なさそう。

そしてギルドの方もアモスさんが鳩を飛ばして事前に報告をしていたようで今頃ギルドに監査が入っているだろうとのことだった。


「それなら残る問題はこいつだけか」


一斉にジュリアンヌを見つめるが彼女は未だに諦めていないようでこちらへの敵対心をむき出しにしている。


「彼女もペルマナの被害者と言っていい方ではあるのですが、欲望を優先してペルマナに仕えていたもので癇癪を起した子供と大差ないかと」


「そもそもこいつの目的ってペルマナに魔力の強い人を連れてくることだったんだよな。こいつの容姿に騙されたアホな男が多かったみたいだけど」


「間違ってはいませんが、魔力を欲していたのはあくまで彼女です。ペルマナが欲していたのは若い肉体、それを食すことで力が増すのだと言っておりました」


つまりジュリアンヌが魔力を吸い取り、残った体をペルマナが食べていたということだろう。綺麗なお姉さんに連れていかれたら魔力も吸われ肉体は食べれらるなんてご愁傷様としかいえなかった。


「私は食事をしていただけよ!美味しい血と魔力を貰うかわりに体を活性化させてあげてるの。まぁ活性化させたところでお姉さまが食べちゃうんだけどね。活性化した肉体は美味だって言ってたわ」


「お前ヴァンパイアだったのか!」


「ヴァンパイアってこっちにもいるんだ」


「隼人はヴァンパイアを知ってたのか?結構珍しい種族なんだぞ」


アモスさん曰く、俺の知っているヴァンパイアと共通していることは血を吸うということだけだった。こちらの世界のヴァンパイアは血と魔力を貰う代わりに肉体を強化することが出来るらしい。それは付与魔法などではなく、ヴァンパイアの体液が人間の体に入ることによって筋肉や体の機関を活性化させることが出来るらしい。そのため滋養強壮にもよく肩こりや筋肉痛にもよく効くらしい。感覚でいうのであれば血や魔力を与えると風呂に入ったりマッサージを受けたような感覚があって気持ちいいらしい。


「ただ、ヴァンパイアって長命で子供ができにくいらしくてな。数が圧倒的に少ないって話だ」


「僕も聞いたことがあります。有用な効果をもつヴァンパイアは人間の権力者に捕らわれ一生家から出してもらえなかったって」


こういう有能なスキルや魔法を持っている種族が捕らわれて飼い殺しにされているという話は聞いたことがある。現代の日本ではありえなかったことだが、ファンタジーの世界ならではのことだろう。


「そんなヴァンパイアの私を救ってくれたのがお姉さまです。この屋敷で捕らわれていた私をここから出してくれて、あまつさえ私に役割をくれたんです」


いいように利用されているだけだともいえるが、彼女のなかでペルマナが救いだったのだろう。


「それで犯罪にまで加担してたんじゃせわねーよな。一応ギルドか近くの軍の駐屯地まで連れてけば国が裁いてくれるだろうが、どう説明したもんか」


主犯格であるペルマナはすでに消滅してしまっているし、ここで起こっていることを証明するのも難しい。証人といえばいまだに倒れている被害者のハンスがいるが、先ほどからオケアノスの治療を受けており目を覚ます様子はない。


「この冒険者も何をされたか覚えているかわかりませんしね。仕方ありませんし、僕とイフリートが一緒に行くしかありませんかね」


ここで最も適任だが最も心配なシンラが名乗り出た。シンラがいればジュリアンヌが逃げ出そうとしても止められるし、イフリートは上位精霊であることから契約者であるシンラ以外とも会話ができる。おまけに当事者の一人ということで説明も問題ないだろう。


(本来精霊である私が人間の事情に踏み込むのはまずいのですが、今回ばかりは仕方ありませんね)


「問題ねーだろ。なんなら俺からオベロンに話をつけてもいいぜ」


コクロが怖いことを言っているが本人はいたって本気だろう。


「そんな簡単に精霊王を呼ぶもんじゃないだろ。それじゃあ悪いが後始末はシンラたちに任せる。ここで大分時間を食っちゃったからな。俺とアモスさんは急いで聖国に向かう」


そうと決まれば準備を進めようと旅先で食べる料理の支度を始める。


「隼人、悪いんだが俺も少し抜けてもいいか?」


手に入れた食材たちを次々と料理にかえていると突然アモスさんが別行動をすると言い始めた。


「実は実家から手紙が来てな。無視できない内容だったんだ」


付き合いの長いアモスさんだが、実家のことはほとんど聞いたことがない。昔姉と弟がいると聞いたことがあって兄弟BLを妄想したことがある程度だ。


「こんな状態じゃなければ隼人にも来てほしい内容だったんだが、流石に今の状態で隼人を巻き込むわけにはいかんと思ってな」


「ちなみに差支えなければ手紙の内容を聞いてもいい?」


アモスさんはちょっと悩んだ様子だったが荷物から手紙を出して渡してくれた。


“アモスへ

 家を出たお前にこんな手紙を送るのは申し訳ないが聞いてほしい。

お前が家を出て我がノルドー家を継ぐのはアレンということは理解していると思う。だが当のアレンが自分は当主にふさわしくない、長兄であるアモスが継ぐのがふさわしいと言っている状態だ。最初のうちはすぐに当主として自覚するだろうと思っていたのだが、お前が家を出てもう10年になるのにいまだにアレンの考えが変わらん。むしろ昔よりも酷くなっておる。しまいには、自分が兄を説得すると言って聞かん。

私たちではどうしようもないので一度家に戻ってアレンを説得してくれんか。


追伸

ジュリアンヌもカレンもお前に会いたがっておる。たまには顔を見せに来い“


「ノルドーって確か聖国の近くにある村の名前だよな。ってことはアモスさんってノルドー辺境伯の息子!!」


「まぁ、そうなんだが・・・・俺は家を出て家督は弟に譲ってるんだ。理由は隼人でも想像できると思うが、俺が領地経営なんてできると思うか?昔っから勉強が嫌いでずっと剣術や体を動かすことばかりしていた。幸いウチの親は子供の将来は自由にしていいという寛容な親でもあったし、弟のアレンは領地経営も勉強も得意だったこともあって弟に家督を譲ったんだ」


「なんとなく分かったけど、アモスさんが家を出るって追い出されたってこと?話を聞いてる限り家庭円満に思えるけど」


「その辺は貴族っていう面倒があったからだな。貴族社会ってのは何より格式を大事にするってなもんで長兄が家を継ぐのは当たり前、それが出来ないのならそれ相応の理由が必要だったんだ。それで俺は家を出てノルドーの家名を捨てたってことにしたんだ。それでも親父や母さんとは手紙のやり取りはしてるし、たまに特産品とか送ってきてくれるぐらい仲はいいぞ」


家名は捨てたが親子の縁までは捨てていないということなのだろう。それにしても格式とかやっぱり貴族って面倒だなと思ってしまう。


「そんでアモスさんの弟は家督を継ぐはずなのに、正当な後継者であるアモスさんの方が適任だと主張していると。だけどそれって今更じゃない?手紙の内容を見る限りこれまでも弟さんはアモスさんがふさわしいってずっと言ってたんだろ?なんで急にこんな手紙を送ってまでアモスさんを家に戻らせようとしてるんだ?」


「そこまでは俺も分からんのだが、弟はちょっと・・・・・変わっててな」


アモスさんが変わってるという弟に興味が湧いた。


「なんか隼人ににてるんだよなぁ。体は弱くないはずなのに俺と一緒に風呂にはいると必ず鼻血を出すし、俺が剣の稽古をしてるのをじーっと見てるかと思ったら急に赤面して倒れる。そのときなんかブツブツと訳の分からんことを言ってるし」


ここまで聞いて俺は弟さんにシンパシーを感じてしまった。これは間違いなく俺と同類とみた。この世界に来て3年、ようやく同士(腐男子)と巡り合えるかもしれない。


「相棒であるアモスさんの一大事なのに俺が知らん顔はできないよ。この俺にドーンと頼っちゃってよ」


「はぁ!!!!何言ってんだよ!!!!!ただでさえこの村で時間喰ってんのにこれ以上寄り道できるわけ」


「できますわ!!!!!!!」


コクロのお怒りが炸裂している途中でハクトと強制的に入れ替わった。そしてご本人は超ハイテンションだ。その気持ちは分かる!!


「ノルドー領は目的地である聖国の隣、向かう方向は一緒ですし、私にかかれば一瞬で皆さまをお連れすることができますわ」


「一瞬ってまさかお前・・・・」


「ええ主様、つい先ほど、まさに今このために集団転移魔法を編み出しましたわ!!!!」


おお!!俺たちが追い求めていたルー〇がついに実現できた!!!!


「といってもかなり複雑な魔法ですし、主様の魔力を借りないと発動できないほど燃費の悪い魔法ですの。それに一度使うと丸一日は使えないというデメリットもありますわ。ですが、それを差し引いても通常のルートで移動するよりも随分時間は短縮できると思いますわ」


確かにこのまま通常通り移動すると聖国まで5日ほど、今すぐにノルドー領に行って問題を片付けてから聖国に行っても明らかに時間は短縮できる。


「でも、それができるならお前らだけ先に聖国に言った方がいいんじゃないか?」


「アモス様、この魔法は私と主様の魔力を完全に一致させねば発動しない魔法ですの。つまり主様が今強く願っている“アモス様の力になりたい”という思いがないと発動ができませんのよ。アモス様の弟様の問題を片付けねば聖国に転移することはできないということですわ!!!」


なんというこじつけをおっしゃってるのかと思ったが、アモスさんは「そうなのか!なんか悪いな」と信じてしまっている。もちろんこの魔法にそんな誓約があるわけがない。だけどこれで堂々とアモスさんの弟さんに会える。


「(それにしてもアモスさんよくあんな言い分で納得したよな)」


「(そこがアモス様の美徳であり、チョロ・・・ゴホン、素直なところですわよね)」


「(いま完全にチョロイって言おうとしただろ)」


可愛いハクトの腹黒部分を垣間見たが、早速集団転移魔法の準備をしてもらう。といってもハクトが地面に魔力で魔法陣を描いてそこに俺の魔力を流すだけというものだ。


「正確にいえばこの魔法は術者の好きなところに転移できるというものではありませんの。地脈と呼ばれる地下を流れる力に乗って移動する術なのですわ。地脈に入ることはどこからでもできるのですが、出るときには特に地脈の力が強いところでないと出ることができませんの。幸いにもノルドー領には地脈の強い力場があるようですからそこに移動しますわ」


ハクトの説明で何となく理解はしたが魔法の構造まではチンプンカンプンだった。隣に立つアモスさんなど訳が分からないと言った表情をしている。


「とにかく主様、この魔法陣に魔力を注いでください。かなりの量が必要になりますので、めまいなどあるかもしれませんがご注意を」


大量の魔力を使ったり体内の魔力が一定以上減ると体が危険だと察して頭痛やめまいなどの症状が発生する。酷い時はそのまま気絶してしまうケースもあるらしい。俺は魔法陣に触ると魔力を流し始めた。大抵のものならすぐに発動するはずなのに魔法陣は一向に発動する気配がない。


「主様、もっと魔力が必要ですわ!!」


今俺が流している魔力量は熟練の魔導士数人分に匹敵する量だ。これ以上ともなるとさすがに軽い頭痛がしてきたが構わず魔力量を増やす。ちょっと意地になって一気に魔力を流すと魔法陣は輝き魔法が発動した。


「はぁ、はぁ、はぁ、これかなり辛いぞ。一体どんだけ魔力喰うんだよ」


体内にある魔力をかなり消費したことで体が危険信号を出している。こんなに消費するなんて師匠のところで儀式魔法を発動させたとき以来だ。


「この魔法は数百人単位の儀式魔法に匹敵しますもので、主様でなければ一度で魔力充電ができませんの」


これは確かに頻繁に使おうとは思わない魔法だ。今も魔力は回復しているが冷や汗と頭痛が治らない。相当量の魔力が消費された証拠だ。


「隼人平気か?」


アモスさんだけが心配そうに俺を見ている。ハクトからすればこれぐらいで俺がどうにかなるとは思っていないのか心配する必要を感じていないようだし、オケアノスにいたっては俺への心配なんてするわけがなかった。


「俺のことを思ってくれてるのはアモスさんだけだよぉ」


イケメンなうえ包容力MAXレベルのアモスさんに思わず抱き着いてしまいたくなる衝動にかられたが背後から感じるなまめかしい視線を感じてグッと堪えた。


「残念ですわ」


どこぞのワンちゃんがぼそっととんでもないことを言った気がしたが、本人は魔法陣の上で魔法発動のための準備を始める。


「目的地の座標を固定しましたわ。ご準備がよろしいようでしたらすぐに迎えますがいかがしましょう?」


未だに頭痛は収まらないが歩けないほどでもないので転移を開始してもらった。転移独特の浮遊感を感じるとあっという間に周りの景色が変わる。深い山の中という辺鄙な場所だったが空気が澄んでいてとても気持ちい場所だった。


「地脈の力が強い場所ですもの、正常な魔力に包まれております」


アモスさんも慣れない転移で驚いていたようだが、転移先がアモスさんの慣れ親しんだ場所だったようで「懐かしいな」と呟いている。


「アモス様、懐かしんでいるところ申し訳ありませんがご案内をお願いできますか?私が案内しては獣道に入ってしまいます」


「あ、ああ悪い。こっちだ」


アモスさんの案内で進んでいくと所々に小さな小屋や大きな葉っぱで作られた屋根のようなものが見える。


「ここはノルドー領の中でも神聖な山とされてると同時に子供の遊び場でもあるんだ。危険な動物もほとんどいないし、聖なる力で守られてるってんで親たちも安心して送り出してるところなんだぜ」


「おそらく地脈の影響ですね。地脈から溢れる魔力は悪なるものを寄せ付けないとされていますわ。この山全域をカバーは出来ていないようですが、我々が転移した場所から数キロは安全地帯と呼んでも良い場所だと思いますわ」


「俺も昔はよく遊びに来たんだぜ。ほらあそこの木にある傷とか俺が付けたやつだ!」


まるで童心にかえったようにアモスさんのテンションは高い。それだけこの山が思い出の場所なのだろう。


少し歩くと山道と思われる整備された道に出て山を下ると町が見えてくる。町と言っても簡素な防壁と畑が大半で人が住んでいる家はちらほらと見える程度だ。


「あんまり人口はいないみたいだな。ノルドー領って人少ないの?」


「ノルドー領は領地こそ広いが人口はあんまり多くないんだ。王都からも離れてるし、田舎貴族なんて呼ばれてるしな。元々冒険者だった俺の爺さんが王から爵位と領土を与えられたのがノルドー領なんだよ。なんでも爺さんが王都に襲撃して来た魔物を倒した褒賞なんだってさ。まぁ爺さんも領地経営なんてできなかったもんだから今でも人口も増えない田舎貴族なんて呼ばれちまってるがな」


「それでも初代ノルドー領主は人格者として噂にはなってましたわよ。強靭な体で常に民を守る領主、領民からは慕われ少ないながらも領民の結束力はとても強かったと。それにノルドー領の本来の目的は聖国の監視ですもの」


ハクトの言葉でアモスさんが驚いた顔をしたがすぐにいつもの優しい顔に戻る。


「さすが聖獣だな。それノルドー家の者にしか伝わってない極秘情報なんだけどな」


「私も知っていたわけではありませんが、当時の王や初代ノルドー領主を知っているからこそ申し上げた推測です。あの者たちならば聖国を自分たちで監視しようとすると思ってましたから」


「それってやっぱり聖国が王国に敵対するって話?」


聖国が王国に属するようになったのは割と最近のことらしい。100年ほど前の出来事らしく、当時聖国はどこの国にも属さず独自国家のような体勢だったらしい。


「当時の国王と教皇、それに聖女が平和のために手を取ったって話だよな」


「あくまで美談として残っているのはそうでしょうが、真実はかなり酷かったようです。国に属することを反対した聖国の信者たちが暴走して聖国や帝都だけでなく大陸を消滅させるようなデモを始めたと聞いてます。我々聖獣が赴く前に人間たちで鎮圧したようですが、被害はかなり大きかったと聞いてますわ」


「それもあって聖国との戦争で活躍した俺の爺さんが聖国の隣の土地を預かって見張りをしていたってのが真実だ。連れてきた領民も全員腕が立つ冒険者や騎士たちだったこともあって小規模ながら最強の領地とも当時言われてたらしいが、今は平和になって武器を捨て農具を持って仕事に励んでいるわけだ。一応言っておくがこの話はノルドー家の極秘情報なんだからな、噂でも広まるようなことにはしないでくれよ」


今では良好な関係になっている聖国にわざわざ争いの種をばらまくような真似はしないと俺もハクトも頷いた。


ノルドー領に入るとアモスさんに領民の皆さんがどんどん集まってくる。


「あら坊ちゃんお久しぶりですわね」


「坊ちゃんまた男らしくなられてウチの娘なんて嫁にどうです?」


「これ今年ウチで取れた野菜なんだけどよかったら坊ちゃん食べてください」


坊ちゃんと呼ばれて照れくさそうにしているが、領民の誰もかれもがアモスさんを歓迎している。家を出たと言ってもそこまでそこまで重い意味合いではなかったようだ。


領民の方からいただいた野菜や果物は一旦俺が預かりアイテムボックスにしまう。手渡された物を見たが、どれもこれも色艶がよく、なかなか美味しそうな物ばかりだった。


「随分と愛されてるようですなぁ。坊ちゃん」


「隼人までその呼び方は止めてくれよ!もうそんな年でもないのに坊ちゃんなんて呼ばれてむずかゆい!!」


確かに優しくて頼りがいのあるアモスさんは「兄貴」と呼ばれることが多く、坊ちゃんと呼ばれるのは新鮮だった。それだけに坊ちゃんとして接しているアモスさんはどことなく幼い感じがあった。


「やっぱり故郷っていいもんだよな」


もう一生故郷には戻れない俺にとってはちょっと胸にくるものがあったが、今更深く考えても仕方ない。今この瞬間を楽しく生きられればそれでいいと切り替える。


「あれがノルドー伯爵の家だ」


家を出ているためかアモスさんは自分の家でなく、ノルドー拍車の家と説明する。


「アモス坊ちゃま、お帰りなさいませ」


門の前には老齢の執事が深々と頭を下げて出迎えてくれた。


「クレマンさん、もう俺はこの家の人間じゃない。執事長であるあなたが頭を下げる必要はない」


「いえいえ、家督を継がれず家を出たと言っても私たちにとってお坊ちゃまはお坊ちゃまです。それにお坊ちゃまがいつでも家に戻れるように準備はちゃんとできておりますよ。ほっほっほっほ」


「俺が家を出た意味・・・・・・まぁ、その辺はいいや。それより仲間たちに部屋を用意してもらってもいいか?父さんからの呼び出しだし、それくらいは用意してあるんだろ?」


「もちろんでございます。なんでしたら坊ちゃまの部屋もそのままにしておりますので」


「いい!俺も客間に行く」


「寂しいことでございますなぁ。おっと、お客様の前で大変失礼をいたしました。私ノルドー家の執事長を務めさせていただいておりますクレマンと申します。以後お見知りおきくださいませ」


「ご丁寧に、アモスさんとパーティーを組んでます隼人と申します。こちらが私の従魔でハクトです」


クレマンさんとあいさつも終わり俺たちはノルドー家の客間に通された。屋敷自体は貴族ということでそれなりに広いが、帝都の貴族たちと違い内装は質素なものだった。財を尽くしたような調度品などは見当たらず、どちらかといえば使いやすさ重視といった内装だ。


「旦那様たちをお呼びしてまいります。よろしければお茶などご用意いたしましょうか?」


「いえ、手持ちがあるので」


せっかくの申し出だが、実を言うとこの世界のお茶ってあんまり美味しくない。紅茶に似た風味なのだが雑味が多く、香は良いのだが味がどんなに蒸らす時間を変えても苦い。


「アモスさんも飲む?」


「もらう」


俺が取り出したのは緑茶。お茶の木はこの世界でも見つけたのでそこで摘み取った新芽を乾燥させたものだ。ちなみにこれを半発酵させればウーロン茶、完全発酵させると紅茶が出来上がる。


「やっぱり緑茶は落ち着くよなぁ。お茶請けになんか作っとけばよかったなぁ」


「主様、それでしたら以前作っていただいた芋ようかんが残っております。お出ししましょうか?」


ハクトの好物でもある芋ようかんはサツマイモをペースト状にして固めただけの簡単なお菓子だ。蒸かしたサツマイモに砂糖と塩を入れ風魔法で細かくする。それをざるなどを使ってこして形を整えて冷蔵庫で冷やせば出来上がりだ。このペーストのサツマイモを布巾などで包んで絞れば簡単な茶巾が出来上がる。


コクロと違いハクトは貰ったお菓子をアイテムボックスに収納して少しずつ消費しているようで、急な来客のときなど自分の分から分けてくれたりする。ええコやろ!!!


「ありがとう、こんど代わりの和菓子を作ってやるからな」


今回はありがたく芋ようかんをもらい、今度ハクトの好きな和菓子を作ることを約束した。


「これ美味いな!なめらかな舌触りと芋の甘みが口いっぱいに広がって何個でも食えるぞ」


アモスさんもオケアノスも芋ようかんを美味そうに食べている。口の中が甘くなるとさっぱりとした緑茶を口に入れて洗い流す。このループが最高なのだ。


「あの、よろしければそちらの茶葉を分けていただくことはできますでしょうか」


とっくに部屋を出たと思っていたクレマンさんが俺たちの飲んでいた緑茶を欲しているようだ。


「お譲りするのは構いませんが特別珍しいものではりませんよ」


無発酵の緑茶が珍しいのであって茶葉自体は珍しいものではない。俺はアイテムボックスに入っている茶葉を茶筒に入れてクレマンさんに渡した。


「紅茶よりも低い温度で入れるのと短時間で蒸らすのががコツです。温度が高いと風味が飛んでしまいますし、紅茶と同じように蒸らすと苦味が出て美味しくなくなります。沸騰したお湯をカップに注いでそのお湯を温めてないポットに茶葉と一緒に入れて2,30秒ほど蒸らすと美味しい緑茶ができますよ」


「なるほど、大変勉強になります。おおっと、失礼いたしましたすぐに旦那様を呼んでまいります」


かなり上機嫌のクレマンさんが部屋を出ると俺は残りの芋ようかんを食べる。


「クレマンのやつお茶に目がないんだ。この緑茶は初めて見たみたいだから思っている以上にご機嫌だろうぜ」


そう言われればクレマンさんが用意してくれるお茶も貰っておけばよかったと少し後悔する。もしかしたら美味しいお茶なのかもしれない。


「すまない、待たせたな」


そんなことを考えているとアモスさんに負けないくらいの巨漢が部屋に入ってきた。貴族らしく着飾っているわけではなく、質素な恰好だが清潔感のある顔立ちが印象的だった。さらには鍛え上げられた肉体のおかげか姿勢もよく、どことなくアモスさんの顔立ちに似ている。


「父上、ご無沙汰しております。手紙でやり取りをしておりますが、息災なようでなによりでございます」


アモスさんが姿勢を正して挨拶をしている。その所作の一つ一つが丁寧で普段のアモスさんから想像もできないほど繊細な言葉遣いだった。


「そんな堅い挨拶はよい。今日はジュリアンヌもカレンも出かけておる、クレマンすまんがアモスたちと話したいゆえ席を外してくれ」


「畏まりました。御用がございましたらお呼びくださいませ」


クレマンさんがそっと退室するとアモスさんのお父さんがソファにドスンと座った。


「フゥ、かたっ苦しいのは疲れるのぉ。さぁ、二人ともゆっくりと話しをしようではないか」


「親父も大変だよなぁ。俺も久しぶりにあんな挨拶したけどやっぱがらじゃねーわ」


先ほどの威厳ある態度から打って変わって砕けた言葉遣いになり二人してガハハハッと笑っている。笑い方や表情は二人ともそっくりだ。


「それでこっちが手紙で何回か話した隼人だ。そっちで寝てるのがハクト」


「おお、お前さんがS級冒険者の万能に聖獣フェンリル様か。儂はアモスの父で、アルス・ノルドーだ」


「お初にお目にかかります、礼儀など知らぬ田舎者ゆえ、ご無礼がございましたら申し訳ございません」


一応貴族に対しての礼儀に習って挨拶をしてみる。


「よいよい、堅苦しい挨拶は好かん。アモスと話すように喋ってもらって構わん。ただ、ウチの女性陣がいるときはちと堅苦しくなってしまうがそこは気にせんでくれ」


「ウチの母さんと姉貴は礼儀作法にちょっとうるさいんだよな。基本は優しいんだけど」


どうやらノルドー家も女性陣の方が強いようだ。


「それよりアレンの方は大丈夫なのか?」


「ああ、手紙で書いたようにお前を復縁させるようにと言っておる。ジュリアンヌとカレンも一緒に今説得している最中だ。あまり効果はないようだがな。そもそもなぜ家を出たアモスを当主とさせようとしておるのか儂らにも分からんのだ。あいつは昔っからお前に懐いていて、お前が家を出ると言ったときもかなり騒いでおったが、確かあのときはアモスが説得したんじゃろ」


「ああ、2人で話してアレンの方が当主にふさわしいからよろしくって言って納得したはずだ」


それで納得するのもどうかと思うが、本人が納得して当主になることを承諾したのに今更駄々をこねる理由が分からない。


「とにかく俺がアレンと話しをしてみる」


「主様私たちも共に参りましょう!!」


さっきまでソファで寝ていたハクトが目を輝かせている。俺だってこの世界で数少ない同士を見つけられるかもしれない期待に胸を膨らませているが、ここは大人の対応をしなくてはならない。


「ハクト、まずは前菜としてアモスさんと弟さんを陰から見守るところから始めよう。もしかしたら美味しい、違った、素晴らしい展開になるかもしれない」


「さすが主様ですわ!!確かにアモス様の弟様ですものね。まずはじっくりと弟様の容姿を観察して受け攻めをじっくりと考えるといたしましょう」


俺とハクトの会話について来れないお二人は置いておいて、さっそくアモスさんと一緒に弟のアレンさんの部屋へ向かう。なぜかアルス様も着いてくる。


「アモスよ。隼人殿は先ほどから何を言っているのだ?」


「俺にもよくわからんが、隼人はもしかしたらアレンのことを理解できるかもしれないと言っていたからな。とりあえず隼人にアレンを直接見てもらってそれから俺たちにも分かるように教えてもらおうぜ」


目の前の欲望に負けて後先を考えていなかった。もしアレンさんが腐男子だとしてこの二人にどうやって説明しよう・・・・・・・うん、なるようになれ!


「アモス兄さま!!」


廊下を移動していると向かいから中性的な美青年がやってくる。アモス兄さまと呼んでいることから弟のアレンさんだと思うのだが・・・・・アモスさんに全く似てねぇ!!!


「アレン久しぶりだな。元気にしてたか?」


「はい、アモス兄さまもお変わりなく、いえ、以前よりも逞しくなられておりますね」


アモスさんは爽やかイケメンマッチョ系、方やアレンさんはアモスさんと同じく栗色の髪を肩まで伸ばしておりサラサラ、アモスさんのようにごつい顔立ちではなく華奢な塩顔イケメンだ。体格も正反対で痩せ型で俺とそこまで身長も変わらない。


「これは典型的な受けか」


「いえ、鬼畜攻めというのならこちらもありかと」


俺とハクトが妄想を膨らませていると兄弟のスキンシップがどんどん激しくなっていく。


「私も兄さまのように筋肉を付けたいのですが」


「お前は母さん似だからなぁ。俺としてはお前のように頭がいいことが羨ましいのだがな」


「そんな、僕の理想はアモス兄さまのような人ですから」


アレンさんがアモスさんに抱き着いてわちゃわちゃしている。これだけでご飯が何杯食べれることやら。


「ところでそちらの方は兄さまのお客様でしょうか?」


突然話を振られて現実に戻される。もうちょっと妄想していたかった。


「ああ、冒険者仲間で隼人だ。そんでそっちの白い狼が隼人の従魔でハクト、隣の青い猫が俺の従魔のオケアノス」


アモスさんの実家ということで大分大人しかったオケアノスだったが大分フラストレーションが溜まっているのか定位置であるアモスさんの肩から離れてハクトの隣にいる。


「初めまして、アモスさんとパーティーを組んでる隼人です。よろしく」


「こちらこそ、アモス兄さまがお世話になっております。弟のアレンと申します。それにしても兄さまが正式にパーティーを組むなんてビックリだよ」


なぜか俺を品定めするような眼差しを向けられた気がしたが、敵意も何も感じなかったのでスルー。大事なお兄ちゃんのパーティーとして合格を貰えたと思っておこう。


「それでな今回は父さんから家督のことで呼ばれてな。アレンと話をしようと思って戻ってきたんだ」


先ほどまで満面の笑顔だった。アレンさんの表情が曇る。その場で立ち話もとアルスさんが自室に案内をしてくれた。アルスさんは席を外してくれて俺とアモスさんそれぞの従魔だけでアレンさんの自室に入る。


「俺も席外した方がいい?」


「いえ、聞かれて困るような話はないので」


それからアモスさんとアレンさんはお互い家督のことについて話し合った。家を出る前に家督をアレンさんに譲ることを承諾したのに今もなおアモスさんが正当な後継だというその理由は・・・・・



お読みいただきありがとうございます。


少しでも面白かった、続きが気になる方は高評価コメントよろしくお願いします。

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