VSペルマナ
部屋中に睡眠ガスのようなものを撒かれて眠ってしえればどれだけ幸せだったことだろう。
「俺ってば異常状態に完全耐性持ってるから寝ないんだよなぁ」
同室にいたアモスとシンラには影響があり今では俺の隣でゴーゴーといびきをかいて眠っている。俺もその場のノリで眠ったふりなんかしたもんだから今では手足を縛られて拘束されている。なかなか丈夫な縄のようで力では振りほどくことはできないようだ。そして俺たちは馬車でどこかに運ばれている。
「俺だけならいくらでも逃げれたんだけど、シンラはともかくアモスさんは運べない」
それでもアモスさんの寝顔をうっとりとした表情で眺めているこの猫がいれば容易だっただろう。
「お前だって完全異常耐性持ってんだからその場でアモスさんを守れよ」
「にゃにゃにゃにゃぁ、にゃ~」
「お前の言ってることは分からんがどうせ、アモスさんの寝顔を眺めるのに忙しかったとかそんな理由だろ!」
「にゃ、にゃ~♪」
こいつ誤魔化しやがった。
縄も魔法でどうにかできるしオケアノスもいるからここから逃げることは容易いのだが、ここまできたら黒幕の顔を拝んで思いっきり暴れてやろうと思った。本当なら今頃宿屋のベットで数日ぶりの安眠を満喫するはずだった俺の予定を狂わせた罪を償わせてやる。そのためにここまで大人しく捕まって着いてきたのだ。
「それにしてもギルドから結構な時間馬車に乗ってるけどどこに向かってるんだ?」
小さな窓はあるが縛られた状態だと上手く立てないし、万が一物音で外にいるやつらに気づかれたら面倒なので極力静かにしている。俺たちを運び出して移動を始めてからかれこれ1時間ほど移動している。そろそろ目的地に着いてもおかしくない時間なのだが未だに移動を続けているのはおかしい。
「とっくに村からは出てるよな。なら向かってるのは外に作られた秘密基地みたいなところか?」
そんなことを考えていたら急に馬車が止まった。とりあえずは寝たふりをつづけよう。
「ようやく着きやしたね。全く村にこんなところがあるなんて驚きでさぁ」
俺たちを眠らせたときにいた人物だろう。どうも小者臭がするような話し方だ。
「いいからとっとと運び出せ。大男は例の部屋で残ってるやつは地下室との指示だ。俺たちは頼まれた仕事をただこなすだけだ」
声に妙に迫力のある感じがするのでおそらくこいつが一番偉い立場なのだろう。盗賊や闇ギルドなんかの悪どいことを生業にしている人たちなのだろうか。
それからアモスさんとは別々の場所に運び込まれた。俺とシンラはセット、オケアノスはアモスさんの服の中に隠れている。俺たちが運び込まれたのは窓もない部屋、簡素なベットがあるだけのまさに牢屋のような作りだった。
「見張りの気配はなし、俺たち相当雑魚だと思われてるのかね。シンラ!そろそろ起きろ!!」
魔法でロープを切断すると未だに眠っているシンラを起こす。薬のせいなのか、それとも元々寝起きが悪いのか定かではないがなかなか起きない。
「どうするかな、あんまり大きな音を出すと敵も集まってきて面倒になる可能性もあるし」
シンラには魔法が効ないので、起こすなら物理的な衝撃を使う他ない。軽く頬を叩く程度ではおそらく起きないだろう。
「こいつ起きないだろうし、このまま放置しとくか。一人の方が何かと動きやすいだろうし」
シンラを起こすことを諦めてさっさとアモスさんと合流しよう。こいつの実力なら放っておいても問題ないだろう。
「幻影付与」
俺が仕様したのは幻影を付与する魔法。隠形の付与をすることも考えたが、幻影を選んだのは単純に魔力消費が少ないから。俺が仕様する幻影は名ばかりの代物だ。簡単に言えば俺の周囲の空気に反射の付与を施し周りの景色を反射させるというもの。触ればたちまちバレる上に足音や臭いなどは全く誤魔化せない。だが、なにより消費魔力が低いことが利点だ。今いる場所がどれだけ広いか分からないため、消費する魔力は少なくしておくことにこしたことはない。ちょうど俺の自動回復と幻影の消費魔力が同じくらいなので無限に使えるというのも理由の一つだ。
「消費魔力の割に性能はいいんだよな」
幻影のおかげで見張りにも見つからずに難なく探索ができる。地下室から出てみると貴族の御屋敷といった雰囲気だった。ところどころに調度品が並び、執事やメイドのような恰好をした者たちが忙しそうにしている。
「(人を拉致した割にはなんか普通)」
邪悪な貴族が至福を肥やして従業員たちは疲労困憊。あるいは強面の用心棒たちが徘徊しているなどそんな想像をしていたのだが、期待を裏切るほど室内は普通だった。
「お夕飯の準備に取り掛かりますわ」
「客室のお掃除をして本日の業務は終了です」
「ご主人様にお茶を」
聞き耳を立ててみてもこれといって有益な情報は得られなかった。
「そういえば地下室に運ばれたお荷物はお嬢様が買い付けた物だと伺いましたが」
「ええ、なんでもとても繊細な物だから誰も近づいてはいけないとか」
どうやら俺たちをここに運んだ犯人はお嬢様らしい。だがこんな屋敷に住んでいるお嬢さんがギルドと結託して俺たちを拉致までしてアモスさん一人を狙うだろうか?そうとうアモスさんにご執心なのか、それとも別の目的があるのか分からないが、さっさとアモスさんを見つけてこんなところおさらばしたほうがいい。
アモスさんの魔力を探すが人が密集してるせいか居所が正確につかめない。この屋敷内にいることは間違いないのだが、こういう時はビオラさんの探知能力の方が上手だ。
「(仕方ない、しらみつぶしに探してみるしかないか)」
手始めに一番近くにあった立派な扉から中を覗いていく。
立派な調度品だけでなく何着ものドレスに大きな鏡が付いた化粧台。そして何よりでかいベッド。この屋敷の奥様かお嬢さんの部屋だろう。そんなベッドの上には見知った顔がすやすやと寝息を立てていた。
「(まさか一発で見つけるなんて・・・・・こういう時に運を使うと損したなとおもうんだよな)」
中には何人か人もいるみたいだし扉をそっと開けて中に侵入する。改めてアモスさんに危険がないか確認しようとするとちょっとドン引きな光景。
「(アモスさんパンイチにひん剥かれてる上に、手足を手錠で拘束ってなんかのプレイかよ。それよりも両脇でだらしない顔をした女性とエロ猫がアモスさんを顔をじっと見つめてるし)」
オケアノスがいつの間にかいなくなっていたが、まさか寝ているアモスさんを助けもせずにじっと眺めていたとは思わなかった。
「はぁ、なんて素敵な殿方なのかしら。強靭な肉体に爽やかなお顔立ち、飼い猫ちゃんと戯れている様子を見るに性格も文句のつけようがありませんわね。ますます私の物にしたくなりますわ」
ヤバい女認定確定。それによく見るとこの女性、俺たちに依頼をしてきた人とは別人だった。
アモスさんを狙ってたのは一人じゃないってことなのだろうか。
とにかくアモスさんを助け出さないとこの女の毒牙にやられてしまいかねない。そんなの全然美味しくない!!それならさっきすれ違ったイケメン執事さんとかとのカプの方がいいに決まってる。冒険者×執事とか最高かよ!!!!
「それでは時間もあまりありませんし、早速目的を果たしましょうか」
女性がアモスさんにまたがるようにベッドに乗る。それを見たオケアノスは大激怒。女性の顔を引っ掻きアモスさんから離れるようにと威嚇をする。
「こ、この猫風情が!!この私に傷を付けるとはいい度胸ですわ!この猫を即刻処分なさい」
周りにいた護衛たちがオケアノスを捕まえようとするが、普通の猫ではないオケアノスは次々と護衛たちを蹴散らして言っている。
「(おいおい、流石に魔法まで使ったらシャレにならんぞ)」
引っ搔いたり猫パンチまではよかったのだが、よほど許せなかったのか水の刃を作り出して護衛たちと応戦し始めてしまった。もちろんリヴァイアサンの加護持ちの攻撃だ。手加減はしているようだが戦力差は圧倒的だった。
とにかくオケアノスを止めるにはアモスさんを起こして止めてもらうしかない。騒ぎに乗じてアモスさんに近づいてアモスさんの体を揺らす。
「アモスさん、起きてくれ!」
あまり大きな声をだすと気付かれる恐れもあったので小声で起こすが全く起きない。それなりに寝起きのいいアモスさんがここまで起きないのはおかしい。薬を追加されている可能性もある。
「あんまり使いたくなかった手だが仕方ない」
アモスさんには申し訳ないが強硬手段を使うことにする。
1.中華鍋を顔、又は頭にかぶせます
2.金属のお玉、又は上部な棒を用意します
3.力いっぱい鍋を叩きましょう
これぞどんな寝起きの悪い人でも簡単に起こせる中条家の秘儀“鎮魂歌”中二病大好きな父が編み出した地獄の技だ。良い子は真似しないように!!
ガンガンガンガンガン!!!!!!!!!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!な、なんだ!!」
流石中条家秘儀、薬を盛られていようとも目覚めは完璧のようだ。ちなみに周りにも被害が甚大に広がってしまうのが難点。耳栓をしていない者たちは頭がガンガンしてしばらく立ち上がるのも難しくなる。
「あ、頭、痛ぇ。でもちょっと気持ちいいかも」
あ、アモスさんこれでもスキルが発動するのね。
「それよりなんで俺こんな格好で身動きとれなくなってんだ?」
ようやく自分の置かれている状況を理解してくれたようだ。幸い周りは全員頭を抱えてうずくまっている。
「今手錠を壊すからじっとしてて」
切断の付与を使って拘束している手錠を壊そうと試みるが切断の付与が弾かれた。
「この金属まさか!!」
「そ、その通りです、わ。それは魔力を完全に遮断する、封魔石を加工して作ったもの。魔法での破壊は、できませんわ!!あ、頭がガンガンしますの・・・」
ご高説いただいたように封魔石は魔力を通さない石、それを使った金属は魔法に対する高い耐性を備える。
「お嬢さん一ついいことを教えてあげましょう」
ご高説にはご高説でかえしてやる。
「封魔石は確かに魔力を断つが、それは純度100%のものだ。金属に加工するときには必ず混ぜ物が入る、その混ぜ物の量によって魔力の遮断率は変わるのさ。つまり明らかに加工されているような封魔石なら、魔力を流し続ければいずれ壊れるってこだ」
俺は先ほどよりも多くの魔力を使って切断の付与を行った。量で言えば先ほどの5倍、多少抵抗される感覚はあったがあっという間に手錠は切断され、アモスさんを解放する。
「ば、バカな!!!混ぜ物とはいえ、封魔石で遮断できないほどの魔力なんて」
「魔力量には自信がありますからね。アモスさん、さっさと服着てさっさとここから出ますよ」
「おう!サンキューな」
アモスさんの服や荷物は部屋の隅にまとめられていたのでアモスさんはさっさと服を着始めた。
「に、逃がすとお思いですの!この私に逆らった者は誰であろうと許しませんわ!!」
怒りに燃える女性から凄まじい魔力が放出される。それはAランク冒険者の魔力に匹敵するほど。
「この魔力量、あんた一体・・・」
「私はペルマナ、リングスター家長女にして、聖なる獣の力を宿す者ですわ!!」
ペルマナと名乗る女性の姿がどんどん変わっていく。ドレスの背中から炎の翼が生え、炎の尻尾に燃える髪。
「この姿って!」
「俺たちが結界の中で戦ったやつに似てるな」
戻ってきたアモスさんの言う通り、フレイムイーグルと呼ばれる女神ネリスが従える四獣を宿した男と戦ったときのことを思い出す。
「私以外にも力を授かった方がいらっしゃるのは聞いておりますが、本当に力を受け継いでいるのはこの私。自我を保ち、力を自由に操れる選ばれし者ですわ!」
つまり四獣の力はいくつもに分かれて宿主を探していたということなのだろう。以前戦った男は四獣の力を制御しきれずに自我を失った。そして目の前にいるこのお嬢さんはその力を使いこなしている。
「まさかこれもコーネリアの仕業なのか!」
「あなた方が知る必要はありませんわ。私はただコーネリア様に力をいただいただけ、そして私の目的は強い殿方を食らうこと。これまで多くの殿方を頂いてまいりましたが、あなた様は極上と言っても良い食材ですわ」
「俺は食われるより食う方が好きだ!」
「にゃにゃにゃ!!!!」
自分が栄養分だと言われているのにどこか的外れなアモスさん。アモスさんは自分のものだと主張したいオケアノス。もう少し緊張感は持てないものだろうか。
「大人しく私の養分とおなりなさい!!」
ペルマナが炎の翼を羽ばたかせると炎の竜巻が俺たち目掛けて放たれた。
「にゃぁ!!」
オケアノスが氷の壁を作るがあっさりと溶かされてしまう。ならばとアモスさんが盾を構えて前に出るが、あの竜巻はヤバい。急いでアモスさんに耐熱の付与を全力で掛ける。
「うぉぉぉーーーーー!!!!」
付与と盾の性能でなんとか防げてはいるが、威力を殺しきれない。そもそもオケアノスの氷を一瞬で溶かすほどの炎だ。耐熱の付与が無ければ大火傷どころか命の危険すらある。
「にゃにゃにゃ~ん!!」
オケアノスが炎を相殺するように水の竜巻を作り出す。ここまでしてようやく炎の竜巻を相殺することができた。
「流石は私の見込んだお方、この竜巻を相殺した方は初めてですわ」
攻撃を相殺されたというのにペルマナは余裕の表情。対してこちらはちょっと劣勢、アモスさんの体にはところどこに軽い火傷が見られるがそれはスキルの影響で力として還元しているだろうし、火傷もオケアノスが癒し続けている。問題なのはこの場であまり大立ち回りができないこと。それなりに広い部屋だが所詮貴族の御屋敷、ここで強力な魔法や技を使えば建物自体が倒壊しかねないし、無関係の使用人たちを巻き込むわけにはいかない。
「アモスさん、とにかく戦闘場所を移さないと」
廊下は無関係な人たちがいる可能性もあるので狙うは窓。この部屋は屋敷の3階部分にあるので地上まではそれなりの高さがあるのだが、身体能力が上がっているのでこれぐらいの高さなら問題ない。もちろんアモスさんも余裕で着地できる。だが、ペルマナも先ほどから際限なく攻撃を仕掛けてきているため、隙を作る必要がある。
「俺とアノスで引き付ける、移動場所の確保を頼む」
アモスさんとオケアノスが俺をかばいつつ窓際へ移動する。外を確認すると手入れされた庭園があるだけで人の姿は見えない。一応魔力探知で探ってみるがやはり細部までは確認ができない。おそらくペルマナの大きな魔力が邪魔して感知しにくくしているのだろう。確証は得られないがこのままここで戦っているよりはマシだと判断して外に飛び出す。
「結界」
着地と同時に結界を張って迎撃に備える。幸いアモスさんが全て防いでくれているおかげで被弾は無かった。
「安全確保!アモスさんこっちへ!!」
俺の声と共にアモスさんも窓から飛び出して来た。一瞬ではあるが空中は最も無防備な場所となるためここは俺が防ぐ番だ。
「混合障壁!」
魔法にも物理にも対応する障壁をアモスさんとオケアノスに付与。炎弾がアモスさんたちに襲い掛かるがなんとか障壁だけで耐えることが出来た。
「すまん、助かった!」
「いいえ、それにしてもアモスさんでもここまでダメージがあるなんて」
アモスさんの体には軽い火傷から皮膚が酸化するほどの酷い火傷まで、皮膚が見えている部分からは火傷が無い箇所の方が少ないほどだった。
「あれはヤバいな。盾も半分くらい溶けちまってもう少し長引いてたら完全に焼け死ぬところだったぜ」
アモスさんの手に持つ大盾も半分ほどが溶けてしまっておりアモスさんの体全体を守ることが出来なかったようだ。
「代わりの盾はありますか?」
「予備の盾がマジックバックにあるが、正直性能はこの盾より劣る。今依頼してる盾が完成してくれてれば問題なかったんだろうが、それを言ってもしょうがねぇしな」
ギルドの報酬でもらったオリハルコンとヒヒイロカネを元にしてアモスさんの盾を作ってもらっているのだが、何分伝説とまで言われた金属のため完成までにはかなりの時間が掛かるらしい。
「西城には怒られるかもしれんがこれを出すか」
俺はアイテムボックスに眠らせていたある盾を取り出す。祈りのポーズをした女性がモチーフになっている真っ白い盾。女神ネリスとの戦いに赴くため西城が作り上げた至高の一品だ。
「(あいつのチートスキルで作った品だから性能が半端ないんだよな)」
・イージス
盾の形をしているが魔道具の一種。純粋な願いを守りの力へと変えることができる聖具。もちろん盾として使っても大丈夫。
「アモスさんこの盾使って」
「こいつは盾・・・・いや、魔道具だな。凛の奴が作ったのか?」
さすが本職。手にしている物が盾ではないことに一目で気づいた。だがこの魔道具の本質はそんじょそこらの盾よりも高性能。
「盾としても一級品だから問題ないだろ。アモスさんが使うにはちょっと小さいが性能は保証するぞ」
アモスさんが使う大盾よりも二回りほど小さいがこの盾の神髄は盾の大きさに関係はない。
「隼人がそこまでいうならいっちょ使ってみっか!!」
お読みいただきありがとうございます。
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