指名依頼
オケアノスが戻ってきたので何か進展があったようだ。契約者であるアモスさんはオケアノスが何を言いたいのか何となく分かるようだ。ちなみにどんな言語でも翻訳される俺のスキルをもってしてもオケアノスが何を言っているか分からない。オケアノスがまた幼体のためか言葉を上手く発することができないようで、いくら俺のスキルを持っていたとしても言葉と認識されていない物までは翻訳されないようだ。
「にゃにゃにゃにゃぁ、にゃ~」
「やっぱりあのギルマス昼間にあったお嬢さんに金を積まれて無理やり俺たちに指名依頼を出したらしい。しかも元の依頼はそのままで今もハンスってやつが請け負ってるようだ」
2重依頼とはやってくれる。おそらくハンスの方には妨害を与えて依頼を完遂できなくさせようとしているようだ。
「だけどアモスさんとお近づきになりたいためだけにそこまでする?」
「にゃにゃにゃにゃぁ!!!」
「今のは僕でも何となく言ってる事分かるよ。でもいくらカッコいいアモスさんと繋がりを作るためだけにそんな犯罪めいたことをするのかなって思ってさ」
「確かにシンラの言うことも最もだと思う、リスクに対してリターンが少なすぎるとも思う。まだ俺たちが知らない目的があるのかもしれないな」
「まぁまぁ、ここで話し込んでてもしょーがねーし、サクッと目的の魔物を倒しに行こうぜ」
本当ならあとは寝るだけという状況だったのにまさかの労働。
ジュリアンヌの依頼は近くにある森に住みついている主の討伐。ジェネラルホーンと呼ばれる大鹿の魔物ということらしい。
「ジェネラルホーンって俺聞いたことないけど2人は知ってる?」
「おお、俺がCランクの時によく世話になった魔物だな。角に宝石が付いてる品種でその宝石が結構高値で売れるんだよ」
「僕は一度手合わせをしたくらいですね。突進力はかなりのものですけど、とりわけ危険というほどの魔物じゃなかったと思います。縄張りに勝手に入ったり、こちらから攻撃するようなことが無い限り大人しい魔物ですよ」
なるほど強さの割に金が手に入る魔物ってわけか。それにしても王都でCランク指定の魔物がここだと主レベルなんだね。
「そういえばジェネラルホーンから取れる宝石は魔力を貯めることが出来るってギルドで聞いたことあるな。本当かどうかは分からんが」
「それよりもジェネラルホーンのお肉の方が大事ですよ。あれはちょっと癖はありますけど、結構油が乗ってて美味しいんですよ」
二人ともすでに魔物の素材にしか興味を示していない。そりゃCランク指定の魔物ならそこまで警戒する必要はないんだろうけど、足元をすくわれるってこともありえるんだから俺は油断しないぞ。
手荷物は基本的に俺のアイテムボックスに入っているので、すぐに支度をして部屋を出る。このメンツなら誰か一人でも余裕で依頼は完了できるだろうが、魔力感知で俺たちを見張っている奴がいると分かったからなるべく怪しまれないように3人で行くことになった。
「それにしても雑な尾行しやがるな。感知系スキル持ちの隼人やシンラじゃなくてもあれはバレバレだろ」
アモスさんの言う通り、俺たちを見張っている奴はそこまでレベルが高くない。ちゃんと距離をとって暗闇に紛れているが、動きが怪しすぎる。俺たちと一定の距離を常に保っているもんだから余計に目立つし、なにより恰好が黒づくめ。闇に紛れるという面からいえば正解だが、まだ夜も更けてない夕方にあの恰好は目立つ。
「ちなみにあの尾行以外に監視している奴はいるか?」
「僕はなにも感じませんけど」
「一人ちょっと怪しい動きをしている奴が反対側の門にいるけど、俺たちを監視してるかまでは分からないな」
俺たちがいる南門の反対側、北門でちょっと怪しい人物を見つけている。俺たちに直接なにかしてきているわけではないが、町全体をスキルか魔法で監視している感じだ。
「相変わらず隼人の索敵範囲は半端ないな。ここから北門まで結構離れてるぞ」
アモスさんが褒めてくれてなんだが、ちょうどそこまでが俺の索敵範囲内になる。大体町や村一つ分が限界。だが、術者は自分の手の内を簡単には明かさないものだ。
「まぁこれぐらいはね」
「隼人さんの魔力的にその辺りまでが限界なんだと思いますよ」
簡単にシンラにばらされてしまった。
「それだって村一つ分が索敵範囲内ってかなりすごいぜ。隼人から逃げるのは至難の業っぽいな」
「シンラはよく俺の索敵範囲が分かったな。これまで正確な範囲はバレたことなかったんだけど」
「魔力には僕敏感なんです。スキルの影響でしょうけど、薄っすらと魔力の波みたいのが見えるんです。隼人さんが索敵に魔力を使ったときに広がった波がちょうど村の反対側辺りを少し過ぎたぐらいで消えたので」
そうなるとシンラの索敵は俺よりもすごいことになると思ったが、一定以上の魔力保持者じゃないと分からないらしい。
「隼人さんの魔力量はえげつないですから、普通の人たちの魔力なんて見分けられるわけないですよ」
なんか俺が変人みたいな言い方されたような気がするが気のせいだろう。明らかに隣を歩く2人の方が異常なのだから。
それから南門を通って森へ移動する。見張りも村から出たところでこちらの監視から離れたので、あくまで村の中での監視を命じられていたのだろう。シンラ程早くは走れないので一番遅い俺のスピードに合わせてもらって森まで移動することになった。本来は1時間ほど距離があるらしいが、最大限の付与を施し20分ほどで森に到着した。
「はぁ、はぁ、はぁ、ここ、まで、ガチで、走った、の、久しぶり」
「情けねーな。あれぐらいの距離でそこまで息が上がるなんて体力落ちてるんじゃねーか」
「お、オケアノス、に、乗ってる、人に、言われたくない」
「じゃあ僕なら言っていいです?」
「おま、えは、人じゃ、ない」
本当にみんな褒めてほしい、この体力お化けどもに付き合わされれば誰だってこうなる。俺は繊細なんだ。
俺の体力が回復すると森に足を踏み入れた。明かりを用意してもよかったが、明かりで目標の魔物に警戒されても嫌なので、暗視の付与と気配遮断の付与を発動させる。シンラには付与魔法が発動しないので、自力でどうにかしてもらう。
「シルフ頼む」
どうやら精霊魔法で似たような効果を発動させたようで俺たちの後ろから難なくついてくる。
「それで、目標のジェネラルホーンは見つかりそうか?」
「うーん、魔力感知だと引っかからないな。シンラは分かるか?」
「うーん、僕の方でもそれらしい気配は分からない。ジェネラルホーンってその特性上魔力が少ないところにいるみたいなことは聞いたことあるけど」
俺は改めて魔力感知で森全体を探してみた。すると一点だけ魔力が他より薄い場所を発見した。
「魔力が他より薄い場所を見つけた。特に宛がないようならここに向かうが問題ないか?」
二人とも納得してくれたのか静かに俺についてくる。魔力感知で見つけた場所はひときわ大きな木がある場所だった。予想通り角に宝石が付いた大鹿が眠っている。
「あれがジェネラルホーンか。思ってたよりもでかいな」
「俺が昔見たのよりもでかい。おそらくそれが主と呼ばれている所以なんだろう」
「それでもそこまで強そうには見えないけど、3人で一斉に叩く?」
「いや、俺が一人で行こう」
アモスさんが指をポキポキと鳴らしながらジェネラルホーンの前に立つ。もちろん眠っているジェネラルホーンも気配を察知したのか起き上がり臨戦態勢にはいっている。
アモスさんは背負っていた大盾を構えるとジェネラルホーン目掛けて突進した。
「うわぁ、あの巨体相手に真正面から力比べってありえない」
「アモスさんだからやれるってのもあるだろうけど、普通なら考えないようね。ちなみに隼人さんならどうやって倒す?」
「重力の付与で動きを止めて切断の付与で首を落とす」
「隼人さんは物騒だよね。僕なら腹部に一撃かなぁ。あの巨体だから内臓の一部でも破壊できれば立っていられないだろうし」
「お前だって容赦ないじゃん」
結局3人の誰が相手にしてもジェネラルホーンの運命は変わらない。
「うぉりああああああ!!!!」
アモスさんがジェネラルホーンを押し返し始めた。2トントラック並みにある巨体を盾だけで押し返しているアモスさんの腕力に驚かされるばかりだ。
「ちなみにだけど、アモスさんに付与魔法って使ってる?」
「使ってない」
素の能力であれをやってのけていることに更に驚いた。
「これで終わりだ!!!!」
盾の側面を刃に変えてジェネラルホーンの首を一刀両断する。アモスさんの圧倒的勝利で終わった。
「いやぁ、なかなか楽しかったぜ」
「あんな脳筋なことやるのアモスさんぐらいだよ」
あれだけの戦いの後なのにアモスさんはまるで疲れた様子がない。結構接戦だったように見えたがアモスさん的にはまだまだ余裕だったのか?
「それでこいつの討伐部位を持って帰ればいいんだよな。角だっけか?」
「あ、ああ、依頼書にはジェネラルホーン(主)の角とあるから首をそのまま持ってけばいいだろ。俺のアイテムボックスに入れてもいいけど」
「隼人さんのアイテムボックスを見せるのもちょっとあれなのでアモスさんが担いで持って帰るのが良いかもですね。実際倒したのはアモスさんですし」
「ならそうするか。アノス、悪いがちょっと重くなるけど頑張ってくれな」
「にゃ~!!」
「ちょっと待って!もしかしてまた走るの?」
もちろん森から村まではまた全力疾走。オケアノスのスピードが若干遅くなったが俺が疲れ果てることには変わりない。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、や、っぱり、こう、なった」
1日に2回も全力疾走すれば誰だってこうなる。
「「隼人はもう少し鍛えた方がいいぞ(ですよ)」」
脳筋2人はケロッとしているのがまた腹が立つ。実際俺のステータスはこの世界に来た当初よりもかなり落ちている。人間鍛えねば体が衰えていくのは当然。元の世界のような文明の利器がない世界だと自然と体が鍛えられていくはずなのだが、便利すぎる魔法と膨大な魔力のおかげか、俺がそこまで鍛えなくても何とかなってしまう場面ばかりだった。結果この世界に来た当初は誰にも負けないようなチートステータスだったのが、今は魔力以外軒並み下がってしまっている。それでもこの世界のステータス上位陣より高い数値ではある。なのに体力と力とスピードに関してこの2人に勝てる気が全くしない。
「(半引きこもりの腐男子だったころに比べれば相当体力付いたはずなんだけどなぁ)」
とりあえず息を整えて俺が動けるようになったら冒険者ギルドに向かう。アモスさんの体より大きなジェネラルホーンの頭を持って移動しているので夜間とはいえ注目の的だった。
「ようこそ、クルタミラの冒険者ギルドへ・・・・・ヒィ!!」
夜間といえども時間でいえばまだ18時を少し過ぎたぐらい、冒険者ギルドも営業中の時間だった。受付の女性は最初は笑顔で出迎えてくれたのだが、ジェネラルホーンの頭部を持っているアモスさんをみて小さな悲鳴を上げてしまった。普通に見たら結構グロい光景だし仕方ないよね。
「指名依頼で討伐を依頼された魔物だ。討伐部位は角だが頭でも問題ないだろ」
「は、はい、か、確認いたしますので少々おまち、ください」
こんな光景を目の当たりにしているのに仕事を遂行しようとしている受付嬢に関心。そんな受付嬢は依頼書を再確認して処理を行おうとして疑問を持ったようだ。
「あれ、この依頼書指名依頼なのに名前も所属も書いてない」
「そちらは私が処理した特殊依頼でね。私の方で処理しておくので君は別の冒険者を頼むよ」
カウンターに現れたのはギルドマスターであるシャタンだった。
「ギルマス、何度も申し上げておりますがこのような不備の依頼書を直接冒険者に届けられては困ります。ギルドにはギルドのルールがありますし、これ以上は私も本部に連絡を入れないといけなくなりますよ」
「私のやり方に文句があるということかな?副ギルドマスターである君がこの私に!こちらは正規の手続きを踏んで依頼を受けているのだよ。それに市民の依頼を迅速に対応するためにはサインの一つや二つ飛ばしても問題ないだろう。それとも君は急ぎの案件である依頼をちまちまと時間を掛けて受理するのかい?」
「それは緊急性の高い依頼に限られての緊急措置です。ギルマスのものは危険ランクはありますが、そこまで緊急性の高いものだとは思えません」
「君それを依頼者に直接言ってくれたまえよ。私は依頼者が緊急だというからこの方法をとったまでだよ。なんなら君が直接依頼主に話を付けてくれてもいいんだよ。これはそこまで緊急性の高いものでありません、正規のルートでご提出ください。とね」
何とも口が回るギルマスだ。明らかに受付嬢をしていた副ギルマスの言っていることが正しい。依頼主が至急だと言ってもそれの有無を決める決定権はギルマスにある。市民が懇願してきたものを無下にできないと善良なギルマスを演じている以上副ギルマスからは何も言えないだろう。
「お取込み中のところ申し訳ないんですけど、こちらの処理を先にお願いできますか?我々も忙しい身でしてね」
「これは失礼しました。それでは討伐部位をお預かりしましてすぐに精査を開始いたします。皆さんは私の部屋までお越しください」
俺の言葉でその場は解散となったがこのギルドにもまともな人がいることが確認できて安心した。
「それでは私は討伐部位の確認に立ち会ってきますのでこちらで少々お待ちください」
ギルマスの部屋に案内され俺たちは用意されていたソファに腰掛ける。
「それにしてもその依頼書本当に何にも書かれてないですね。アモスさんをリーダーだと思ってただけに僕たちのことは何も調べてないみたいですね」
改めて俺とシンラはアモスさんが持っていた写しの依頼書を見せてもらった。よくこれで依頼書として受理したと思うほど酷いものだった。依頼書には依頼内容、期限、報酬、依頼主の情報を最低限明記しなくてはならない。指名依頼ともなれば指名する冒険者名またはパーティー名や指名理由なんかも記載されるのだが、この依頼書には依頼内容しか明記されていない。しかも「森に住む主の討伐」としかない、よくこれで依頼書だと言いきれたと感心してしまうほどだ。
「アモスさんもその場で言ってやれば良かったじゃないですか!こんな依頼書を持ってくるなって!!」
「シンラの怒る気持ちも分かるが、これも証拠の一部ってことで確保しておきたかったしな。それよりもこの後ギルマスがどう動くかが気になるところだよな」
「普通ならこのまま依頼達成で報酬もらって終わりだよな。俺たちに直接依頼主のところに討伐部位を持っていけとか言うんじゃないか?」
「あのギルマスのことだから何か悪知恵でも働かせて俺たちを捕まえようとするとかな!がっはっはっはっは!!」
流石にそこまで酷い計画を立てるわけがないと思ったとき、部屋にいきなり黒づくめの見るからに暗殺者っぽいやつらが5人突入して俺たちを囲んだ。
「どうしよう。馬鹿にした計画通りになっちゃった」
「隼人よぉ、こいつらいること気づかなかったのか?」
「魔力感知切ってたから、まさかギルド内で事を起こそうなんて思わなくて」
完全に俺が油断していただけなのだが、相手の力量次第ではこのギルドを壊しかねない。そしたらギルド本部のお偉いさんたちに滅茶苦茶怒られる。常に魔力感知を発動させとけばよかったと思うが、常に魔力感知を発動させ続けると脳の処理が追い付かなくなって激しい頭痛がする。こればかり鍛えようがないので戦闘中や警戒態勢を取っているときぐらいしか魔力感知は発動させない。
「さて、大人しく付いてきてくれると嬉しいんだがね」
ドアから現れたのは予想通りギルマスであるシャタンだった。
「こちらの皆さんがご依頼主様のところまでご案内してくださるそうです」
妙にニヤニヤした顔つきに若干イラっとしたら部屋中に紫色の煙が充満してきた。
「それまでゆっくりとお休みください」
お読みいただきありがとうございます。
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