VSドラゴンゾンビ
ヒスイのお品書き
「主~!どこ~~!!
・ドラゴンゾンビ
・召喚
主をいじめたら許さないんだから!!」
ものすごい光線が俺に向かって飛んできている。当たれば間違いなく塵も残らない、そしてこの光線を発射した張本人はきっとピンピンしているんだろう。
「まったくどんな状況ならこんな大出力の砲撃を撃つのやら」
このまま放置してしまえば間違いなく被害が大きくなってしまう。仕方ないので、ここで食い止めるしかない。
「壁エンチャント」
付与するのは分厚い鉄板。もちろん一枚では到底防ぎきれないので、数十枚の巨大な鉄板を盾替わりに設置した。
「魔法抵抗と物理防御エンチャント」
さらにただでさえ強硬度を誇る鉄板に魔法と物理の耐性を付与して守りを固める。だが、これでも足りない。おそらくあの光線はこれすら打ち抜いてくるだろう。
周りに人もいないことを確認して、アイテムボックスから本を一冊取り出しページをめくる。
「白き息吹もて、我に白銀の奇跡を与えたまえ、コールドエンチャント!」
氷属性の付与を与える魔法だ。本来なら呪文名も詠唱も省略して発動可能なのだが、より強い威力を出すために詠唱も呪文名も正確に唱えている。
大気中に存在する空気に氷属性を付与して分厚い氷の壁をさらに数十枚展開させる。鉄板と氷塊全部合わせて48枚、光線は最初の鉄板を容易に貫いたが徐々に威力を落としていき残り氷塊が3枚、鉄板が2枚残って光線は消えた。
「ここまで壁作ってもこれしか残らないか。相変わらず驚異的な破壊力の兵器を作るな」
こんな攻撃をしてくるのは十中八九相棒のオネエだろう。だが、あいつがこれほどの威力がある攻撃を放つなんてよほど強敵と出くわしたということだろう。
「早く合流した方がいいか」
魔力感知でおおよその位置は分かっている。ここからそう離れてはいないし、なんだったらこっちに近づいてきている。このままここで待って手も合流はできるだろうが、早いに越したことはない。身体強化の付与をかけなおして西城たちの元に向かう。
この距離でお互いが近づいているなら合流にはそれほど時間はかからないだろう。近づいてくるアンデットたちはほとんど無視。無限に湧いてくると思われるアンデットをわざわざ相手にしていられない。姿を隠す付与を施してもいいのだが、魔力の消費が激しい。自動回復があるとはいえ、俺の魔力は無限ではない。常時発動型の付与は自動回復を上回る速度で魔力を消費していくし、さっき作った壁でごっそり魔力を持っていかれた。失った魔力を取り戻すまで、少なくとも30分は強力な魔法を使いたくはない。とはいえ魔力残量は3分の2程度、いざという時のために3分の1は残しておきたい。自分の魔力残量と配分をきっちり考えることは後方魔法職の基本だ。
「こういう時前衛職がいてくれると助かるんだけど。ってか支援魔法士を一人にさせるんじゃねーよ!!」
ついつい愚痴がこぼれてしまう。普通のパーティーなら絶対にあってはいけないことを俺の周りにいるやつらは平然とやってくる。冒険者ギルドの初心者講習でも教えられる基本中の基本だ。俺だって自分からソロで動くことなんて滅多にない。必ずと言っていいほどヒスイやコクロやハクトと一緒だ。それなのにあいつら平気だろうと平然と俺を一人にしやがる。
「これで何かあったら一生恨んでやる」
恨みぐらいじゃ俺の周りにいる奴らには足りないかもしれないが、最低限の足掻きとして恨みぐらい残してやる。自分で言っていて情けなくなるが、それ以上なにかしようものなら倍返しぐらいしてくる奴らばっかりなので、これぐらいが俺にできることはない。
そしてこういう時は定番中の定番としてフラグ回収がやってくるものだ。
目の前にはアンデット種の中でも最高位の10メートルを超えるドラゴンゾンビが立ちふさがっている。聖魔法以外は9割が無効というチート能力に加え、火炎と冷気のブレスを無尽蔵に撃ってくる。おまけに斬撃耐性と空中飛行までついてる正真正銘の怪物。
「普通なら前衛が抑えて、聖魔法で倒すのがセオリーだけど。こんなやつ相手にして聖魔法が使えるわけねーだろ!!」
聖魔法は信仰の対象に祈り発動する魔法。しかも俺の聖魔法は実は正規の魔法じゃないため、アンデットの上位種を滅するためには信仰と祈りの時間が相当必要になる。その時間はおよそ10分。10分間無防備な状態で祈りを捧げなければドラゴンゾンビは倒せない。
「うん、無理ゲー」
ヒスイがいてくれれば、ドラゴンゾンビの攻撃を全て防いでくれている間に準備をすることもできるのだが、一人では集中攻撃の的になるだけだ。そうなると選べる選択肢はただ一つ。
「全力で逃げる!」
身体強化を最大限にかけ、ドラゴンゾンビの目元周辺に煙幕の付与を施す。これで最低限視界は塞げた、後は全力で逃げるだけ。
「やっぱ追っかけてくるよね」
しかし、ドラゴンの五感は人間のものよりはるかに優秀だ。視覚がなくとも音やにおいで大抵の居場所が分かるらしい。そのおかげか俺の居場所は筒抜けだった。
「火と氷のダブルエンチャント!」
迫る冷気のブレスを炎の壁で防ぎ、続けざまに放ってくる炎のブレスを氷の壁で防ぐ。ただ、即席で作れる壁では本気のドラゴンブレスを完全に防ぐことはできない。それぞれの壁にブレス耐性の付与をかければ防げるのだろうが、逃げながらでは壁を作るだけで精一杯だった。ドラゴンゾンビのブレススピードの方が壁を作り出している俺より早いのが致命的な差だった。
「(こうなったら被弾覚悟で至近距離から動きを封じるか)」
相手の体に触れさえすれば強力な拘束魔法を発動できる。西城が作ってくれた防具のおかげで一撃で死ぬことはないだろう。だが、おそらく無茶苦茶痛いし苦しい。HP自動回復のスキルがあるため、傷を負っても常人よりはるかに速いスピードで回復はしていく。だが、決して痛みを感じないわけでもましてや死なないわけでもない。心臓を貫かれれば死ぬし、腕を切断されれば再生は不可能。あくまでも人の自己治癒能力が他より長けている程度だそれを自分から進んでやろうとは現代っ子の俺にはどうしてもできない。冒険者歴の長い先輩方ならおそらく勝機がある行動をとるだろうが、残念ながら俺にそこまでの覚悟はない。
そうなると残るはこのまま逃げ続けて西城たちと合流するのを待つという選択だ。合流さえできれば、ヒスイに守ってもらいながら聖魔法も使えるし、西城ならもしかしたらドラゴンゾンビに対抗できる兵器を作っているかもしれない。
ブレスを防ぎながら西城たちがいるであろう方向に移動をするが、なぜか西城たちは方向を変えて俺から遠ざかっている。
Why!!!なぜ?!!!!
混乱しているのか頭の中に同じ意味の言葉が2回も木霊する。
冷静に考えれば分かりきったことだが、お互い近づいていて俺のいるであろう方向にドラゴンゾンビを見つければ方向を変えて逃げようとするのは当然だ。だが、切羽詰まっている俺にとっては、なぜ助けに来てくれないのか理解できなかった。
「危なかったわね、まさかドラゴンゾンビなんてものまで使役してるなんて。中条もあんな目立つ敵に向かって行くわけないし、迂回してさっさとあいつを見つけましょ」
「(プルプルプル!!)」
後で聞いたらこんな会話をしていたらしい。
だが逃げることで頭がいっぱいだった俺には西城たちが俺から逃げるようにしているようにしか思えなかった。
「あいつら俺を囮にしたばかりか助けようともしないなんて!!!!!目にもの見せてくれる」
俺が使用したのは召喚の魔法。ハクトやコクロと違いヒスイとはちゃんとした従魔の契約をしている。ある程度離れていてもヒスイを呼び出すことができる。
「来い、ヒスイ!」
従魔召喚の魔法は以外と簡単。従魔との絆が深ければ深いほど容易なのだと魔物使いの先輩が教えてくれた。俺とヒスイの絆はバッチリなのだ。
召喚されたヒスイは驚きの表現の後、俺を心配してくれるように抱き着いてくれた。本当に真剣に心配してくれるのはお前だけだよ (泣)
「来てもらって早々悪いんだけど、あいつの攻撃を防いでくれるか?」
任せろと言わんばかりにヒスイの体が肥大化する。ドラゴンゾンビと比較しても遜色ないほどの大きさになっており、ドラゴンゾンビからの攻撃をことごとく防いでくれている。
「よし、今のうちに」
いくらヒスイの防御が優れているとはいえダメージがないわけではない。本来なら完全に消滅させるほどの聖魔法には時間が掛かるんだが、ヒスイがいてくれるのならそれほど時間を掛けなくてもいいだろう。
膝をつき祈りを捧げる体勢を作る。もちろん祈るのはアイナ先生。新しいイラストが投稿されるたびにお布施とファンクラブ内で作者を尊ぶ語らいをしたあの日々を思い出す。
光が満ち、ドラゴンゾンビの体を浄化していく。完全消滅させるには10分ほど時間が必要だが、ある程度弱ってくれればヒスイのご飯にしてしまえばいい。
「食べられそうなら食べちゃっていいからな」
5分ほど浄化の光に触れ弱ったドラゴンゾンビめがけて、ヒスイはその巨大な体にドラゴンゾンビを押し込む。
最初は抵抗をしていたドラゴンゾンビだったが、徐々に動きがゆっくりになり、完全に停止したと思ったらその体が徐々に溶かされていった。半透明の体のため、ヒスイの内部で消化されていく様子が鮮明に見えてしまうのはちょっとグロイ。
「助かったよヒスイ、あれだけ大きいの食べればおなか一杯になったろ」
満足そうにしているヒスイを見ていると、ここがアンデットがひしめく戦場ということを忘れてしまう。
「ちょっと、中条!!いきなりヒスイちゃんを持っていかないでよ!」
ポヨポヨのヒスイの体を堪能しているところに諸悪の根源がやってきた。
「持ってったのはどっちだよ!おかげでドラゴンゾンビなんて厄介な奴を相手にする羽目になったんだぞ」
「あんな目立つ奴なら避けられるでしょ。どうせ何も考えないで真っすぐ直進してただけでしょ」
図星を付かれてしまった。
「それにあんたは自衛できるかもしれないけど、私はか弱いのよ!ヒスイちゃんに守ってもらうのは当然じゃない」
「どこがか弱いだよ!あの砲撃だって防ぐのめっちゃ苦労したんだぞ!!」
「あれはちょっと頭に来てぶっ放しちゃっただけよ。あんた以外に被害らしい被害出してないんだから問題ないわよ」
「俺に被害が出てる時点でちょっとは悪びれてくれ!!」
口ではどうあっても勝てないのは分かっているが、文句を言ってやらないと気が済まない。足元でヒスイが困ったようにオロオロし始めたのでヒスイに免じてこれ以上口を開くのはやめた。
「それで、この状況はやっぱり普通じゃないよな」
「ええ、さっき帝国に向かわせた子がアンデット化しているのを見つけたわ。こんな胸糞悪いことをするなんて一体何者よ」
この状況なら間違いなく死霊使い(ネクロマンサー)が関与している。アンデットを集めるだけなら他の輩でもできるだろうが、生きた人間を殺してアンデット化させるなんて死霊使い(ネクロマンサー)以外ありえない。
「サウスランド帝国に死霊使い(ネクロマンサー)がいることは分かったけど、当初の予定通り帝都まで行く?この惨状を見る限り町が機能しているとは思えないんだけど」
おそらく帝都に住む人たちはほとんどアンデットにされてしまっているだろう。それなら元凶共々ここから用意した破壊魔法をぶっ放せば済むのではないか。
「ここで奥の手を使っちまうか」
「それも選択肢の一つだと思うわ。でも問題なのは帝都にまだ生きた人たちがいる可能性があるってことよね。あんたここから生命反応とか分からないの」
「無茶言うなよ。俺が探れるのは魔力だけ、アンデットも生きた人もともに魔力を帯びてるから生死までは分からない。ここから探っても帝都には結構な人数がいるってことしか分からない」
「仕方ないわね。ちょっと危険かもしれないけど、帝都で生きている人がいないことを確認しないとこちらも手は出せないわね」
流石にアンデットの住処となった帝都でも安否の確認もせずに破壊しては、殺戮者と変わらない。ここは面倒でもちゃんと警告して生存者を確認するしかない。
「それじゃあとっとと帝都に向かうわよ」
お読みいただきありがとうございます。
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