ゴーストタウン
ヒスイのお品書き
ヒスイ「なんかいや~な感じしかしない・・・・
本日のお品書き
・結界
・奇襲
壁が、壁が主たちとの冒険の邪魔をする!!!」
ドラゴンゾンビと西城たちが戦ったアンデットの塊以外に強敵と呼べる存在はいなかった。結果としてサウスランド帝国の首都を守っていたのはこの2体がメインだったようだ。
「あからさまに怪しい感じしかしないわよ」
無事サウスランド帝国の首都“アドビノ”にたどり着くことはできたのだが、城壁はところどころに返り血のような赤黒い跡が残っており、大勢の人が通行していた門は開けられたままの状態になっている。
「廃墟というよりホラータウンだなこりゃ。バイ〇ハザードに出てくる町みたいな感じだな」
有名なサバイバルホラーゲームを連想させるアドビノだったが、生きている人間どころかアンデットすら見つけられず、人っ子一人いない状況だった。
「でも魔力は感じられるからアンデットなり生きている人間は中にいるってことだな」
「じゃあこれからの目的としては生存者の確認ってことで問題ないわね。手分けするのが早いけど、こんな危険な街で手分けするのは危ないから時間が掛かっても二人(+ヒスイ)で行動しましょ」
これで攻守ともに問題はないだろう。よほどの敵が来ない限りはこのメンツで切り抜けられる。
「ってヒスイは何してるんだ?」
門のところまで来るとヒスイがアタフタした様子でこちらに何かを訴えかけている。
「何か問題でもあったのかしら?」
門のところでベターと張り付いてこちらに近寄ってこようとしない。いや、こちらに近づけないように見える。
「もしかして、そこから先に進めないのか?」
当たっていたようで触手で〇を作って答えてくれた。
「ヒスイが入れないってことは魔物除けの結界が発動しているのか?でもアンデットもいるのになんで?」
各町や村には強力な魔物除けの結界を発動させる魔道具が存在している。この惨状なのでその魔道具も壊れているものだと勝手に思っていたがそちらは健在のようだ。
「アンデットは結界内で生まれたからいても不思議はないんだけど、ヒスイちゃんなら従魔の腕輪があるから入れるはずなんだけど」
西城の言葉でヒスイは体の中から金色の腕輪を取り出した。この腕輪は従魔の証であり、結界をすり抜けられる優れものだ。ただし登録した者にしか使うことができず、登録にはギルドで申請して体の一部を触媒にしなければならないため、野生の魔物や他の従魔が間違って使えないようになっている。
「腕輪があるのに通れないってことは、誰かが結界をいじって魔物という対象全てを退けるようにしたってことかしら」
「そんなこと可能なのか?結界の魔道具って構造が滅茶苦茶難解で製造とか複製ができないって聞いたことあるけど」
現代の技術では複製不可能な古代遺物の一つとされているのが結界の魔道具だ。各町や村に分配されているのも古代遺跡から出土したものや、昔からあったものを使っている状態だ。
「メンテなんかは各々の町や村でやっているみたいだから、少しいじるぐらいはできるんじゃない。それでも専門的な知識がないと無理だとは思うけど、素人じゃまず無理ね」
つまり死霊使い(ネクロマンサー)の他に古代の魔道具の構造を理解している者がいるということになる。死霊使い(ネクロマンサー)がそちらにも精通している可能性もあるが、強力な魔導士と構造を理解している魔道具師を両立することはあまりない。その理由が魔力の大きさだ。魔力を多く持っている者は魔道具師を目指すことをほとんどしない、魔道具師は魔力で回路を引く際微量の魔力を使うのだという、魔力を多く持っている者では回路を引いた際魔力が大きすぎて使い物にならないだとか。
「これだけ大量のアンデットを操れる奴が魔道具まで熟知しているわけないよな。だったら少なくとも敵は2人以上ってことか」
「もともと王家が人造魔導士の実験を進めていたみたいだから、その関係者って線が濃厚ね。むしろ死霊使い(ネクロマンサー)が雇われてるとかじゃないかしら」
確かにその方がしっくりくる。
「でもヒスイが来れないとなると守りがきついよなぁ。俺も西城も最前線で戦えるわけじゃないし」
「あんたなら壁役とかもできそうだけど、雑魚相手ならともかくA級冒険者とか騎士隊長クラスの相手となると難しいわね」
俺は支援特化の魔導士、西城は現代兵器を使う中距離タイプ、この二人だと前線で敵を引き付けたり止めたりする役がいない。今回はそれをヒスイにお願いするつもりだったのにこれでは心もとない。
「やっぱりコクロかハクトを連れてくるべきだったな。そもそもあいつら抜きで仕事するのなんてほとんどなかったから」
「確かにあの2匹なら結界も問題ないと思うけど、今からでも呼べないの?」
「さすがに距離がありすぎるな。こっちに召喚する前提で準備しておけばできただろうけど、人間相手だからって油断しすぎたな」
これまで戦ってきた邪神なんかと比べれば人相手だからと心のどこかで油断していた。俺と西城、ヒスイがいれば大抵のことはどうにかできると慢心した結果だ。
「いけないわね。油断しないで来たつもりだったのに、どこかで人間相手だからって油断していたみたい。力押しでくる相手ならどうにかなったけど、こういう絡め手で攻めてこれらると弱いわね」
これまでの相手ならそれぞれが持っている奥の手を使えば大抵はどうにか倒せてきた。だがそれは、力でねじ伏せようとする相手をさらに力でねじ伏せてきた結果にすぎなかった。
「どうする?ヒスイがこっちに来れないんじゃ戦力的に不安がある。一度コクロとハクトを召喚できる距離まで引き返すか?」
戦争の開戦までまだ日はある。今急いで帝国を滅ぼす必要はない。リュートさんや子供たちとの合流を考えるならここで引き返すのも悪くない手だと思う。
「そうね。引き返すもの悪くはないけど、一度町を軽く探索してから考えましょう。ここで引き返すのはいい考えだと思うんだけど、ちょっと気になることがあるのよ・・・」
西城がこういう言い方をするのは珍しい。いつも自信たっぷりに物事を言うこいつが言葉を濁すことをあまりしない。こういう時は確証がないときか、あいつ特有の“オネエの勘”だろう。これがまた不思議と当たるところがこいつの恐ろしいところだ。
「それなら町を一周してみよう。何があるか分からないから2人で行動するぞ。ヒスイは悪いんだが、ここで待っててくれ」
町に入れないヒスイは明らかに落ち込んだ感じに見える。
「ならここで変な奴が来ないように見張っててくれ。もしかしたらリュートさんたちがこっちに来るかもしれないからな」
落ち込んでいたヒスイは任せろと触手で胸?を叩く。
町に入るにはこの門を通るしかないし、正直こんな怪しい街に入り込んだなら自業自得だろう。
「本当にゴーストタウンみたいだな。荒れてるし、所々に血の跡みたいなのがある」
「でも死体がないのが不自然よね。殺されたら問答無用でアンデットにされちゃうのかしら?そもそも私死霊使い(ネクロマンサー)ってあったことないから分かんないのだけど、こんなに大量のアンデットを従えられるものなの?」
「こんなに大量のアンデットやドラゴンゾンビを使役できる奴なんて、正直この世にいるとは思いたくないレベルだよ。俺は当初数人の死霊使い(ネクロマンサー)が集団儀式でアンデットたちを操っていると思ってた。だけどあのドラゴンゾンビからも周辺のアンデットからも同じ魔力が感じられた。つまり術者は一人だ」
「そんな奴が黒幕にいるってことよね。そいつ人間かしら?」
「分からん、ここまで来ても特別大きな魔力を感知できない。隠蔽の結界でも使ってるのかそもそもここに術者がいないのか」
「別の場所から操っているってこと?!」
「それも現時点では分からん。正直準備不足が否めないな。さっきも言ったが人間相手だから完全に油断してた。コクロやハクトもそうだが、ここまで厄介なら色々仕込みをしてくるべきだった」
付与魔導士にとって戦いが始まる前にどれだけ準備ができるかが勝負の分かれ目だ。ぶっちゃけよーいドンで戦いになれば周りの評判通り最弱の職業と言っていいレベルだからな。
「それはさっき反省したでしょ。備えてきたものをフル活用するしかないわよ。それにここに来るまで何もしてなかったわけじゃないでしょ」
そこもお見通しだったか。
「そこまで大したもんは用意できなかったよ。俺自身の能力向上と防御の付与。西城には体力上昇の付与だな。そのドレスがあれば防御面は問題ないだろ」
西城は俺と別れた後からずっと聖白のウェディングドレスを身に着けている。あの荷電粒子砲であっても傷一つつけることができなかったドレスだ。今更守りの付与なんて必要ないだろう。ってかこいつがあるならヒスイを連れていく必要なかったんじゃないのか?
「私とベイカー君の愛の結晶だもの、このドレスがあるだけで私はベイカー君に守られているの~、いるの~、いるの~」
テンションが上がった西城の声がやまびことなって木霊している。まあ、自慢するだけの性能を備えているのは理解できる。お披露目の跡でコクロに聞いたらコクロでもこのドレスの防御を突破することはできないらしい。聖獣ですら破壊不可能なドレスってどんだけすごいもんを作っとるんですか!!
「その調子で前衛の壁役を引き受けてくれると助かるよ。ぶっちゃけここで奇襲とかされたら一巻の終わりだし」
フラグとは回収されるものだ。俺の言葉が現実となって帰ってくる。
屋根の上から黒い物体が俺めがけて攻撃を仕掛けてきた。得物は短剣、咄嗟に棍を取り出して防いでしまったのがいけなかった。間合いより内側に入られてなかなか相手から離れられない。
「中条!なんとかそいつから離れなさい!!」
ライフルを構えて叫ぶ西城だが、離れられるものならとっくに離れている。距離を取ろうにも常に間合いの内側をキープされ、力で押そうにもうまく流されて押せない。
近接戦でいえば俺より数段格上の相手、フードを被って顔は見えないが小柄ながら俺の力を技術的にいなしている。
「何者か知らないけど、話を聞いてくれるとありがたいな」
この距離では魔法を使うこともできない。魔力を練り上げるために意識をちょっとでもそらした瞬間あの短剣で首を切られるのが目に見えている。
「話すことなどない。ここに居る以上あなたたちは敵」
声を聴く限り幼い女。体格や声からして15,6歳ぐらいだろうか。だが、しゃべれるということはこの子はアンデットではない。
「問答無用で敵扱いはしてほしくない!」
棍と短剣が打ち合う瞬間に棍に掛けていた“軽化”の付与を解除する。もともとこの棍はなん十種類もの金属を付与魔法で固めて作られた職人中泣かせの武器だ。当然質量は見た目通りではない。軽化の付与で5キロほどの重さになるように調節をしているが、本来のこの棍の重さは推定5千キログラム、もちろんそんなものを受け止められる化け物はこの世にほとんどいない。当然あまりの重さに武器を手放すことになるのだが、技術が高ければ高い人ほどこの戦法は有効だ。
「あんたみたいな技術が高い人たちは、相手の筋肉や視線なんかで次の行動を読んで先読みをする。そういう人ほどこう言った予想外の事態には弱いもんだ」
俺も相手も武器を落としているが武器を持っている人はもう一人いる。
「この距離ならいくら素早く動いても私の銃の方が早いわよ」
ライフルを構えた西城がすぐ近くまで迫っていた。
「さて、話を聞かせてもらおうかな」
お読みいただきありがとうございます。
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