子供たちの修行
ヒスイのお品書き
ヒスイ「主のお師匠様只者じゃない感じ・・・・・
本日のお品書き
・修行
なんだかラブロマンスの予感がプンプンする!!」
初対面の印象は近所に住む優しいおばあちゃん。耳がとがっていたからRPGなんかでよく知られるエルフという種族だろうと思った程度。とてもハヤトさんやリンさんのお師匠様という印象は感じられなかった。
「アリシア殿、子供たちに修行をつけていただけるようだがなぜ俺まで」
「あらあら、リュートちゃんもとってもお強いみたいだけど、流石に隼人ちゃんたちと戦うとなるとちょっと力不足みたいだから、おばあちゃんすこーしおせっかいをと思ってね」
笑顔で答えるその言葉に驚愕した。確かにハヤトさんたちは神の加護がありこの世界でも上位の戦闘能力を持っている。だがリュートさんだってこの世界で4人しかいないSランク冒険者、力不足と言われるほど弱くはない。
「確かに俺もまだまだ修行中の身、未熟なのは承知しているが決して2人の足を引っ張るような真似は」
「あらあら、勘違いしないでね。確かに隼人ちゃんたちは強いけどリュートちゃんも含めて彼らに勝てる人は結構多いのよ。それこそなんの準備もしないで戦えばBランク冒険者でも隼人ちゃん凛ちゃんも負けちゃうかもしれないわね。」
確かにハヤトさんも付与魔導士なので1対1なら弱いとか準備もなく戦えば負けるとよく言っている。凛さんも本業は魔道具や薬を作っている商人と聞いているし、戦闘職種ではない。
「だけどある条件下では2人ともこの世界で最強の戦闘能力を得るのよ。一国をも簡単に潰してしまえるほどのね。おそらく今回の戦いはその条件下にあるのね。だから今のリュートちゃんだとちょっと力不足なの」
「二人の本来の実力は俺を凌駕するということですか」
「あらあら、ちょっと違うわね。隼人ちゃんたちの実力はあなたたちが知っている実力そのものよ。言った通りその条件というのがかなり難しいらしくてね。一定の条件下で力を借り受けることができるらしいわ。私も詳しくは聞いていないけど」
おそらくそれこそ神の力だろう。神の許可が下りた時のみ使えるスキルか魔法なのだろう。
「隼人ちゃんたちの攻撃はなかなか激しいから彼らが本気を出したら守りに徹することをお勧めするわね。そのためのちょっとしたアドバイスよ」
アリシアさんは手にしていた水晶玉をリュートさんに渡した。
「私は隼人ちゃんみたく結界で空間を広げることはできないから、この水晶に別空間を作ってみたの、ここならリュートちゃんも全力を出せると思うから先に行っていてもらえるかしら」
水晶が輝くとリュートさんは水晶に吸い込まれてしまった。
「あなたたちにはこっち」
アリシアさんがポケットから小さな石を取り出した。
「これは魔石、あなたたちはまずこの魔石に魔力を込めることから始めるのがいいわね。2人とも魂の定着までもう少しかかりそうだし、下手に魔力をいじったら成長の妨げになるかもしれないものね」
「今魂の定着って・・・・・もしかしてアリシアさん僕たちの正体」
「あらあら、こんなおばあちゃんじゃ何もわかりませんよ。私の目は魔力の流れが見えるそれだけよ。2つの魂の核から流れる魔力がね」
笑顔で答えているが、つまり我々が転生者だということがバレているということ。のほほんとした口調から想像ができないほどアリシアさんは色々なことを悟っている。
「あんたが只者じゃないってことはわかった。それで俺たちは魔力を最低限扱えるように訓練してくれるってことでいいのか?」
ロビンは前世の牧田としてアリシアさんと対峙している。
「私も覚えたいと思います。ハイネとしてではなく、その、私の意思で」
名前まで明かしてしまってもいいのか迷ったがアリシアさんは笑顔でうなずいてくれた。
「あなたたちは本当に幸運だったわね。数年前に出会った隼人ちゃんと凛ちゃんはこの世界のことを全く知らなかった。国も魔法も魔物でさえ、私たちが当たり前に知っていることを知らないということは相当負担だったと思うわ。だからあなたたちは自分たちを不幸だと思ってはダメよ。無理やり連れてこられた場所とはいえ、あなたたちを守り、育もうと思ってくれている人がいるのだから」
確かによく考えてみればハヤトさんたちは何も知らないでこの世界に召喚されたんだ。しかも助けてくれるような人はいない。本当に2人だけ。
「俺たちが恵まれてるってのはよく分かってる。ガキとはいえロビン(こいつ)の知識もあるし、目覚めてすぐにハヤトさんたちが俺たちを保護してくれた。だからハヤトさんたちにもロビン(こいつ)にも借りがある。だから借りを返すまでは大人しくあんたらに従っておくさ」
きっとハヤトさんたちもハイネ(この子)も自分たちを縛るようなことはしないだろう。だけど私には目的がない。いきなり異世界の他人の体に転生してしまって何をすればいいのか正直まだ分からない。今は父の仇を打つという強い意志がこの体に宿っているので活力というかやる気がある。だけどそのあとは・・・・・・
「あなたたちも大変かもしれないけど、せっかく受けた生なのだから少し考えてみて。あなたたちの時間は動き出したばかりなのだから」
それからアリシアさんは私たちに魔力の使い方を教えてくれた。体に流れる魔力を感じ、魔道具に魔力を流し発動させる。この世界では当たり前に使える技術、だけど異世界出身の自分たちにはどうも慣れない部分がある。それでも少し練習すれば自然とできてしまうのはハイネやロビン、異世界で生まれた者だからだろう。
「あらあら、二人ともとても上手ね。それならこの魔石に魔力を一定の量をずっと入れ続ける練習をしてみて。今は体から感じる魔力をただ流しているという感覚だろうけど、その感覚を一定に、ゆっくりと流す感じね。これ以上魔力を出し続けるのが無理だと思ったら休んで魔力が回復したら同じことを繰り返してみてね。魔石はまだまだあるから今日の目標はここにある魔石を全部いっぱいにすることかしら」
そう言ってアリシアさんはどこから取り出したのか山ほどの魔石を地面に置いた。
「私はリュートちゃんの方にかかりっきりになっちゃうと思うけど、二人とも無理はしないように頑張ってみてね」
そう言うとリュートさんと同じ水晶を取り出し別空間に移動してしまった。
それから私たちは黙々と魔石に魔力を流し続けた。ただ流していた魔力を操作して一定量で流すという作業はかなり神経を使い、同じ作業を1分も続けられなかった。ロビンは「気合いだ!」と言って作業を続けたがいきなり倒れてしまいとても驚いた。
「多分、魔力ってやつが尽きたんだろう。すげぇ脱力感とめまいだ」
アリシアさんの助言通り、少し休めば魔力は徐々に回復するようでロビンはすぐに作業を再開し始めた。
「牧田さん、ロビンはこの後のことってなにか考えてたりします?」
元の名前は捨てる。これが2人で決めたルールの一つだ。相沢麗奈も牧田小太郎もすでに死んだ人間の名だ。この世界で生きていくと決めたときからお互いを元の名で呼ぶことはやめた。
「考えってほどでもねぇが、元の世界で出来なかったことをやりたいと思う」
「出来なかったこと、ですか?」
「別に元の世界に未練とかがあるわけじゃねぇんだが、生まれた家が普通とはちょっと違ったからな。この世界の普通ってのがどういうもんか分からねぇが、ダチとか作って、学校行って、人並みに結婚とかして幸せになる。そんな普通に憧れてたこともあったからな。せっかく生まれ変わったんだから、そういう事をしてみてぇとは思う」
牧田さんは組の偉い人をかばって死んだそうだ。それ自体に心残りとかはないらしい、お世話になった人のために死ねるなら本望だ、と言っているぐらいだから。そんな割り切れる牧田さんを羨ましく思う反面、うじうじと悩んでいる自分がひどくみじめに感じられた。
「すごいですね。私は何も考えられなくて不安、です。元の世界でもごくごく平凡な女子高生だったわけですし、なにかこれと言って目標があったわけでもありませんでしたから」
「それが普通だと思うがな」
「え?」
「俺がちょっと特殊なんだと思うぞ。突然こんな世界で転生なんて普通なら発狂もんだろうに、肝っ玉がすわってるといか大物というか」
褒めてくれているのだろうか?
「多分驚きを通り過ぎて逆に冷静になってるだけだと思います。私昔っからマイペースだったから」
「それでもハイネ(ガキ)の意思をしっかりと受け止めてるなら大したもんだ。俺は職業柄いろんな奴を相手にしてきたが、あんたやハヤトさんたちは俺の周りにいなかった人種だからな。見てて飽きねぇよ」
「さっきからそれ褒めてるんですか?」
「ああ、俺からしたら結構な誉め言葉だぞ」
最初は怖いとさえ思えた牧田さんだが、ロビンの体だからだろうか近くにいるだけでホッとする。その言葉も仕草もなぜか私にとって安心する。
「焦らなくていい。俺も大分混乱はしてるが、せっかく一緒になった縁だ。お互い助け合っていこうぜ」
「はい!!」
これからどうなるかは分からないけど、この人と一緒なら大丈夫。そう思えた。
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