竜殺しVSおばあちゃん
ヒスイのお品書き
ヒスイ「おばあちゃんとリュートさんの戦いどっちが勝つんだろう?
本日のお品書き
・暗黒竜ヴァルハザード
・力の差
どんな攻撃もこの体なら大丈夫!(プルプル)」
冒険者ギルドで4人しかいないSランク冒険者、その肩書に固執するつもりもなかったが、自分がこの世界でも強者の部類に入るとどこかで思っていた。
「もう一度確認するが、本当に手加減はいらぬのだな」
目の前にはどう見ても70を超える老婆であろう老婆がニコニコした笑顔で立っている。
「あらあら、気を使ってくれるのはありがたいけど、おばあちゃんだって頑張っちゃうのよ」
隼人と凛の師匠であるアリシアさんはその見た目からはお世辞にも強い気配がしない。これまで戦ってきた強者は強さを隠すことをしてきたが、そのどれにも該当はしない。むしろ年相応の気配としか感じられなかった。
「それじゃあ始めましょうか」
アリシアさんのその言葉で回りの空気が一気に変わった。
「これほどとはな・・・・」
先ほどと姿勢も表情も何一つ変わっていないはずなのに、彼女から感じられる気配も魔力もこれまで感じてきたどんな強者よりも大きかった。体中から汗が滝のように流れるのを感じる。
「あらあら、気配や魔力っていうのは隠すものじゃなくて偽るものよ。隠せて一人前、偽れて強者、惑わせることができれば達人よ」
彼女の言葉は無茶苦茶だ。気配や魔力を隠す技術はそう簡単に身につくものじゃない。強大な力を持てば持つほどそれを隠すことは難しい。それを隠せてようやく一人前とは、恐れ入る。
そして彼女から感じられる魔力はSランク冒険者になるきっかけになった暗黒竜ヴァルハザードのそれを軽く凌駕している。
「暗黒竜を凌ぐ魔力とは恐れ入る」
「ヴァルちゃんにも困ったまものね。リュートちゃんが倒してくれなければ私が出ていくところだったんだもの、オイタをする悪い子を懲らしめてくれたことにはお礼を言わないとね」
暗黒竜をヴァルちゃん呼びとはこの御仁はどれほどなのだろう。
「これまでの非礼をお詫びする。あなたは俺が全力で挑んでも勝てぬ相手、それでも胸を貸していただける機会を作ってくれたことを感謝します」
竜槍ドラグーン、ヴァルハザードの肉体から作り出した最高の槍を構え目の前にいる強者に最上のお礼を言う。
「あらあら、本当にリュートちゃんは礼儀正しい子ね。10分、私の攻撃を耐えられるように頑張ってね」
アリシアさんは持っていた杖で地面を叩く。地面から大岩が現れると拳ほどの大きさに分裂して宙を漂い、なんの予備動作もなしに高速の弾丸となってこちらに向かってきた。
「うぉぉぉぉ!!!!」
石の一つ一つがとてつもない強度、全方位から放たれる弾幕の嵐をなんとか槍で防ぐ。
「ドラゴニックオーラ!!」
ヴァルハザードを倒した呪い、人間だったその身に宿ったドラゴンの力を極限まで絞り出す。体はドラゴンの鱗でコーティングされ並みの攻撃ではびくともしないはずなのだが、アリシアさんが放つ弾丸は易々とドラゴンの鱗を剝がしてく。
「目に見えるものばかりに気を捉えていると足元をすくわれますよ」
地面が盛り上がり俺の体は宙に放りだされた。空中で回避は不可能、しかも180度の攻撃が360度からの攻撃に変わる。180度からの攻撃ですらすべて捌ききれないのにさらに増えれば確実に倒される。
「ドラゴニックハウリング!!」
ドラゴンの咆哮は炎や冷気だけではない。強力な超音波を発生させ物体を内部から破壊することさえ可能だ。アリシアさんの弾丸は岩を媒介にしているもの、いくら魔力で覆っているとはいえ、岩自体の強度はそれほど高くないはず。超音波なら魔力を無視して岩を破壊できる。
「あらあら、悪くはないけど威力が拡散してしまっているわね」
超音波を周辺全体に発生させたが威力にムラができてしまった。正面で展開されてた弾丸は破壊できたが背後に展開されている弾丸までは破壊できなかった。
「ぐぉ!!」
竜の鱗があるはずなのにものすごい威力で吹き飛ばされてしまった。しかも一番強度がある腕の鱗を貫通して左腕の機能を完全に奪われた。
「あらあら、ごめんなさい!リュートちゃんが強いからおばあちゃんもちょっと力を入れすぎちゃった」
先ほど正面で展開されていた弾丸はほとんどがダミーにすり替わっていた。本命の一番威力の強い球を弾丸の中に隠して、超音波が放たれた瞬間超音波の影響が少ない背後に展開していた弾幕に力を集中させて一気に勝負を仕掛けてきた。あそこまで素早い弾丸をあそこまで精密に動かし、ここまで操るのは並みの魔力コントロールではできない神業だ。
「いえ、俺が不甲斐ないだけです。ご心配はいりません」
正直左腕が全く動かない。竜の力で並みの人間よりも回復スピードはかなり早いのだが、ここまでひどく傷つけられれば完全に動かせるようになるまでかなり時間が掛かる。
「あらあら、リュートちゃんが思ったより強かったから驚いちゃった。流石にアースバレットだけでは倒しきれなかったわ」
「ちょっと待て、さっきのがアースバレット?!」
アースバレットは地属性の初級魔法、小石を敵に向けて放つ程度の魔法のはず。どう考えてもアースバレットで竜の鱗を貫くなんて不可能だ。
「あらあら、初級魔法だって使い方次第よ。そもそも魔法のランクなんて人が決めたものにすぎないもの。どんな魔法も工夫次第、これは隼人ちゃんから教えてもらったことだけどね。うふふ」
確かに隼人が使う魔法は思いもつかない使い方ばかりだった。それでもアースバレットで鱗を砕かれるのは驚き以上にショックだった。
「リュートちゃんは竜の力に大分頼っているようね。あなたの努力もあるでしょうけど、もう少し違う使い方、広い使いたかたをした方が可能性が広がると思うわ。大丈夫、あなたはまだまだ強くなれるわ」
ここまで圧倒的な力の持ち主に強くなると言ってもらえることが何よりうれしかった。
「ありがとう、ございます」
「あらあら、それじゃあ続けましょうか。左手は使えないみたいだから今度は鱗に耐性がある炎で戦いましょうか」
アリシアさんの手元には小さな火の玉が無数に表れた。しかも赤い炎ではなく翡翠色の淡い光の炎だった。
「少し温度を高くしてあるから頑張って防いでね」
それから片腕一本で炎、水、風の弾丸を防ぐ訓練が延々と続けられた。途中回復した左腕を使おうとしてもすぐに潰されてしまい、半日ひたすらアリシアさんからの攻撃を防ぐことをしていた。正直後半は雨あられの弾幕を防ぐことに夢中になってほとんど記憶がない。気が付くとアリシアさんが作った空間から出ており、アリシアさんの家にあるベットに寝かされた状態だった。
「リュートさんは随分派手にやられたねぇ」
部屋の入口から隼人が食事を持って入ってきた。体中痛みがひどく動かすことが難しそうだったが、なんとか上半身だけは起き上がることができた。
「さすが隼人と凛の師匠というだけはある。まさかここまで手も足も出ないとは思わなかった」
正直強いと予想はしていたが、予想のはるか上をいく強さだった。
「それでも五体満足で師匠の修行を続けられたんだから、やっぱりリュートさんはすごいよ。俺なんて最初の修行のあと2日間ベットから起き上がれなかったもん」
あの御仁ならそれぐらいやりそうだ。当の本人は隣の部屋で凛と楽しく会談しているようだ。
「それにしてもあのような御仁がこの世にいるとは、あれほどの強さや見識があるならもっと有名になっていてもおかしくはないと思うが」
冒険者ならおそらくS、いやSSランク。城勤めなら軍の最高司令や王の側近騎士クラスにだって簡単になれてしまうだろう。
「師匠はあんまり人と関わろうとしないんだよ。自分の力や知識を悪用されるのを嫌うからね。それでも薬学の知識はしっかりと後世に受け継がせてるらしいよ。薬学の世界から“薬学の始祖”なんて呼ばれてるぐらいだからね」
薬学に関しては分からないが、さぞ高名な方なのだろう。それに加えあの戦闘能力があるのだ。人の世から離れたくなる気持ちも少しは分かる。
「リュートさんならその傷でも明日には治ってると思うから、明日も師匠が相手をしてくれるってさ。食べれるようだったら少しでも食べたほうがいいよ」
そう言って消化の良い粥とくだものの擦りおろしを持ってきてくれた。
「すまんな、これなら食べれそうだ」
今固形物を食べれば間違いなく吐くだろう。食事に関しては隼人に任せておけば大抵問題はない。
「師匠もそこまで無理は、しない・・・・・きっと、しないと思うから」
断言できないのはアリシアさんの考えが読めないからだろう。あの御仁は何を考えているかまるで読めんからな。
「心配はいらんさ。お前たちの足を引っ張らないようにしっかりやるさ」
あのアリシアさんが言うのだ。俺の実力では隼人たちの足を引っ張ってしまうことは確実だろう。着いていくと決めたからには荷物になるわけにはいかん。必ずこの1週間で強くなって見せる。
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