アリシア・グローブ
ヒスイのお品書き
ヒスイ「なんかいい香りが辺りに漂ってる気がする。
本日のお品書き
・薬学の始祖
・隼人の師匠
主のお師匠様って強いのかな?」
「ユーリ、すまないけどオスカー様に手紙を届けてくれないか。俺と西城の連盟なら門番にいえば直接オスカー様のところに通されると思うから、そこで手紙の内容で不足してる箇所の説明を頼む」
流石にこれまでの説明を手紙に全て記すのは無理だったのでユーリに手紙の配達兼説明をかねてオスカー様のところに向かってもらった。
「オスカー様のところでも準備があるでしょうし、こちらでもサウスランド帝国の無関係な人には避難をする準備をしておいてもらおうかしら。うちの従業員経由で噂を流しておけば問題ないわね」
「噂ってどんな噂を流すんだよ」
「神への反逆とみなされれば王城から光の柱が昇るだろう。ってな感じかしら、反逆してきたら天井に向かってぶっ放してやるわよ」
なにをぶっ放すつもりなのか怖くて聞けなかったが、それをみれば正常な思考を持っている人なら逃げだすだろう。
「それで俺たちはサウスランド帝国に向かうのか?」
「いえ、流石に今から行くとオスカー様や他の国の偉い人たちから叱られそうなので、日時はユーリが帰ってきてから決めるつもりです。それまで子供たちに最低限の防衛術を教えようかと」
いくらヒスイが全力で守るとはいえ、自分でも多少身を守る術を学んでおくべきだろう。
「リュートさんには肉体的防御術を教えれるだけ教えていただけますか?!」
「それは構わんが、そうなると魔法防御は隼人が教えるのか?」
正直それが悩ましい。正直魔法防御に関しては“なんとなく”の感覚でやっている俺である。理論的に教えるなんてまずできない。ハクトやコクロに頼むという手もあるが、あいつらの場合求めるレベルが高すぎる。まずはドラゴンブレスを防ぐ魔法障壁の展開といきなり言われたときは何も言えなかった。
「俺じゃうまく教えられないから、俺師匠に頼もうかと思ってる」
「隼人に師匠などいたのだな!それはさぞかし腕のいい魔導士なのだろう」
「いや、確かに腕はいいんだけど・・・・・・」
リュートさんには言えない、俺の師匠が結構な曲者だなんて・・・・・・
「アリシアおばあちゃんのところに行くなら私も行くわ。おばあちゃんに魔道給湯器の調子を見てほしいって連絡もらってるのよ」
ちなみにアリシアさんは俺の魔法の師匠であり、西城の薬学の師匠でもある。
「2人に相談しないで勝手に決めて申し訳ないけど、戦いってのは何があるか分からない。準備をしすぎて困ることはないから、今回は俺たちの意見に従ってほしい」
ハイネとロビンに相談しないで勝手に決めた後ろめたさはあるが、ヒスイとて万能ではない。大抵の攻撃は防げるだろうが、万が一守りを突破されたり、ヒスイが機能しなくなったりしたら、自分の身は自分で守ってもらわなくてはならない。おそらく俺たちは攻撃で手一杯になるだろうから、子供たちにまで気を回せる自信がない。
「大丈夫です。もともとこういった訓練は受けたいと思ってました」
「ハヤトさんと凛さんの先生ってどんな人か楽しみ!!」
2人ともどうやら楽しみなようで一安心だ。
「それでその御仁はどこにいらっしゃるのだ?」
「この森の奥、森の中心に最も近いところに住んでるよ。もう隠居した身だから俗世から離れてひっそりと暮らしたいんだとさ」
「そのせいでおばあちゃんの行動範囲全域に幻術魔法が掛けられていて、普通に行っても見つけられないんだけどね。おばあちゃんから認められた人じゃないと入れないの」
西城は丸められ一枚の羊皮紙を取り出す。
「これはおばあちゃんが作ったスクロール。どうやって作ったか全く分からないけど転移の魔法が込められていて、使用者とその周辺にいる人たちをおばあちゃんの家に招待するんだって」
「転移の魔法だと!それは魔導士たちがずっと研究を続けている大魔法ではないか!!」
俺もローゼンクロイツ伯爵に似たようなものを渡したが、あれは神の力を存分に使ったチートアイテム。本来のスキルで作ることはまず不可能な代物だ。それなのに俺の師匠はそれを限定的ではあるが作り出してしまった天才だ。しかも同じものを作れないかと西城とこのスクロールを調べてみたが掛けられている魔法が複雑すぎて解析ができなかった。チートスキル抜きでこのスクロールを作れと言われても俺たちでも不可能な代物だ。
「私も色々調べてみたんだけど無理。魔道回路が複雑すぎて同じものを作るのは不可能ね」
つまりこの世界でこのスクロールを作れるのは師匠しかいないということだ。
「とにかくこれを使っておばあちゃんのところに行くわよ。コクロとハクトはお留守番よろしくね」
ユーリがいつ帰ってくるかも分からないので、2匹にはここに残ってもらうことにした。
スクロールを広げると地面に魔法陣が広がり辺りの景色が変わる。ちょっとした浮遊感が感じられるが、現代のエレベーターに似た感覚だった。
「みんな気分が悪いとかないかしら?」
幸いにもハイネとロビンはエレベーターの感覚を知っているので大丈夫そうだったが、リュートさんは慣れない転移で若干気分が悪そうだ。
「あらあら、隼人ちゃんに凛ちゃんいらっしゃい」
リュートさんの介抱をしようとしたとき目の前の小さな小屋から一人の老婆が出てきた。緑のローブに白を基調にしたブラウス、紺のロングスカートをお召しになったその姿は間違いなく師匠、薬学の始祖と呼ばれるエンシェントエルフ“アリシア・グローブ”その人だった。
「そちらの方たちは初めましてね。可愛いお客さんにカッコいいイケメンさんねぇ。隼人ちゃんの趣味が変わったのかしら?確かロリショタだったかしら?」
「違います!!俺の趣味は変わってません、リュートさんなら色々妄想できそうですけど、俺は!!」
「はいはい、中条の趣味なんてどうでもいいので本題に入りましょ。今日こちらに伺ったのはおばあちゃんにお願いがあってきたの」
「あらあら、凛ちゃんたちのお願いなら聞いてあげなくちゃね。皆さんどうぞ狭いところですが、お上がりになって」
相変わらずのマイペースっぷりに安心と心配が半々に思えてくる。
「ハヤトさん、あのおばあちゃんがリンさんハヤトさんのお師匠様なの?」
「なんかご近所の優しいおばあちゃんって感じだけど」
「心配しなくても大丈夫。あの人ああみえて滅茶苦茶強いから。俺とリュートさんの2人で戦っても多分勝てない」
俺の言葉に2人は驚いていたが正真正銘師匠は強い。
「確かに感じられる魔力量は高いが、それほどの御仁とは思えんが」
少し回復したリュートさんですら師匠の力を図り切れないようだ。
「まぁすぐに分かるよ。あの人の異常さは」
この後に3人が驚く姿が目に浮かぶ。
家に招かれ椅子に座ると師匠がいい香りのお茶を出してくれた。
「うふふ、この茶葉いい感じでできたから是非飲んでみて」
一口飲んでみるとさわやかなハーブの香りが口に広がる。苦味もなくほんのり甘い味がする。
「さすがおばあちゃんのお茶ね。今回もすごくおいしいわ」
「あらあら、うれしいわ。それで今日はどういった御用なのかしら?」
俺たちはサウスランド帝国を滅ぼすこと、人造魔導士のこと、ロビンとハイネのこと、これまでのことを師匠に話した。
「あらあら、あの国まだそんな物騒なことをやっていたのね。いやだわぁ」
結構重い話なはずなのに、師匠が言うとご近所に現れた痴漢程度の話題に聞こえるのはなぜだろう。
「それで子供たちに防御術を教えてもらえないかと思いまして」
「あらあら、隼人ちゃんが私を頼ってくれるなら喜んで教えますよ。でも教えているとお家のことまで手がまわらないわねぇ」
「そこは俺がやります。料理は俺が薬草関係は西城が手伝いますので」
「ついでにおばあちゃんに頼まれた魔道給湯器も直しておくわ」
「あらあら、ありがとうね。それじゃあお任せしてロビンちゃんとハイネちゃん、リュートちゃんもちょっとこっちに来てくれるかしら」
そういうと師匠は3人を連れて裏庭に行ってしまった。
「だ、大丈夫だよな」
「おばあちゃんも流石に子供相手なら手加減してくれると思うけど」
ちょっと、いや結構心配だがこれからのことを考えるとリュートさん含め防御を固めておいて損はないだろう。
「とりあえず俺たちは家のことをやろうか。後で3人が倒れてもいいように」
「そうね。久しぶりにおばあちゃんのところの薬草園を堪能するとしましょうか」
この後夕方近くまで師匠の訓練は続き、子供たちは魔力枯渇で倒れ、リュートさんは体力限界まで師匠の訓練が続いたようだ。
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