新しい旅
「この子は、本当にいい子だったよ」
少年のそばで立ちつくしていた男性が、目に涙を浮かべながら少年について語ってくれる。
「この子は、恵まれない家庭に生まれてね、両親に放置され一人で生きていくことを決意したんです。そんな境遇にもかかわらず、自分の幸せのため、そして他人の幸せの為に一生懸命努力してきたんですよ」
「けれどある日、この子のことをよく思わない人が現れてね、この子に呪いをかけてしまったのです。長く生きられなくなってしまう呪いをね。自分にとって気に入らないやつだからって、あんまりだと思いませんか」
呪いをかけた犯人にいら立ちを隠せない様子で、語り続ける男性。気に入らない奴には何をしてもいい、そんな奴らが存在するなんて恐ろしいよ。
でも、呪いが原因なら!
「私の魔法で、どうにかできるかも!」
突然、教会全体に歌が響き始め、繊細で、透き通るような歌声があちこちをめぐる。カオリンの歌だ。やっぱり、彼女の歌は見事だな。凄く聞き心地がいい。
教会の中にいた人たちも、この透き通る歌声に心を奪われているようだ。心地よさそうに歌を聞く人たちが教会の中にいる。
「これは、見事な歌声ですね。彼の旅立ちにピッタリな歌だ」
少年の死を悲しむ男性が、歌の感想を述べる。
「うん! 私もそう思う。彼の、新しい旅にこれ以上ないくらい合ってるよ」
「おやおや、あなたもそう思いますか。この歌は彼をきっと……おや? これは一体どういうことでしょう」
ゆっくりと少年に近づいていた天使たちは、少年を連れ去ることなく天へと戻っていく。セイロウマルも、悲しそうな表情から嬉しそうな表情へと変わっていく。激しくわんわんと鳴いていて、ちょっと耳が痛くなる。
閉じ切っていたセイロウマルの主の目が、少しづつ開かれていく。はっきりとした呼吸音も聞こえるようになってくる。カオリンの歌が響く中、彼は立ち上がりながら、驚いた様子で口を開く。
「僕の体は一体……呪いによって衰弱しきっていたのに、いつの間に回復している」
「うおおおおおふ」
「セイロウマル、心配させてごめんね。僕、また再び頑張って生きてみることにするよ」
「うおうふ!」
セイロウマルと触れ合っていた少年は、私と話していた男性の方を見て感謝の言葉を述べる。
「神父さん、こんな僕の為にお祈りしてくれて、ありがとうございます。おかげで、こんなにも元気になることが出来ました」
「いえ、私の力では呪いをどうすることもできませんでした。聖なる歌の力により、あなたは救われたのです」
「確かにそうかもしれません。けれど、あなたのお祈りに僕の心は救われていたのです。お礼をさせてください」
透き通るような歌声の中、二人は暖かい会話を行っている。私もこの二人のように温かい心を持つ人になりたい。
「ボンジョルノ♪」
ミルクティー色のロングヘアーをなびかせた元気いっぱいの少女が、教会の中にやってくる。
「きれいな歌声に誘われてやってきちゃったよ♪ カオリン、私と一緒にマーチングバンドの道を進んでみない?」
カオリンを抱きしめながら、少女はスカウトを行う。




