第千八百四十四話・生みの苦しみ
戦国要塞、一巻から七巻まで発売中です。
七巻に関しては加筆修正をしており、女性陣の視点、土岐頼芸の最後、お市ちゃんの出番など書き下ろしの場面も随所にあります。
書籍版の書き下ろしなどは、今後webなどでの公開はありません。書籍としての付加価値は守ります。
web版と違い、一冊の本として読むことを意識した加筆修正になっており、購入をお願いできるものに仕上がっていると思います。
どうか、ご購入をお願い致します。
カクヨムにて現在『オリジナル版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』と『改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』があります。
『オリジナル版』は、1879話まで、こちらより先行配信しております。
『改』は言葉、書き方、長期連載による齟齬などを微修正したものに、オマケ程度の加筆があるものです。
なお、『書籍版』の加筆修正とは別物であり、書籍版の内容とは違います。
そちらも、どうかどうか、よろしくお願いします。
Side:甲斐に赴任中の武官
いずこからか、まだ血の臭いがする。ここは所領を手放すことをよしとせず、以前と変わらぬまま治めておった土豪の城だ。
「まったく……」
同じく尾張から来ておる文官は、嫌悪を隠さず苛立ちすら見せておる。ようあることだ。その一言に尽きるのだが、後始末をする立場となると心情は察するにあまりある。
一言で言えば、ただの土一揆。飢えた領内の者が土豪の城に押し寄せて一切合切を奪った跡地というだけだ。
残るのはわずかな材木の破片や土豪一族の亡骸のみ。これだから甲斐者は東国一の卑怯者などと言われたのだと痛感する。
「首は晒さずともよい。埋葬しろ」
織田に逆らった愚か者として首を晒すべしと甲斐者から進言があったが、厳密にはここの者は逆らっておらんのだ。清洲の大殿は所領を捨てぬ者も認めておる。一切の助けがないというだけでな。
左様なことすら理解出来ぬ者がこの地に多すぎる。
それに首など晒して病が広がったらいかがする気だ。尾張ではもう首を晒すことすら稀だ。薬師様が病の元になると懸念を示されて以降、罪人は処刑したらさっさと埋葬しておるというのに。
「それより警備兵を寄越してもらえ。近隣の村には土豪を討った嫌疑がある。確と詮議せねばならぬからな」
土豪の城で騒動があったと聞きつけた際に、近くにおった我らが駆け付けたあと、織田に従うと近隣の村の代表が集まっておるが、その者らの顔色が変わった。
「なっ!?」
「左様なこと聞いておりませぬ!」
愚か者が。一揆など認めるわけがなかろう。食えぬならば村を捨てればよかったのだ。それならば助けてやれたものを。
「そもそも屋敷や蔵にあった米や財はいかがした? さらに屋敷の柱すらないのは何故だ? 従うと言えばすべてが許されるわけなかろう。我らは盗人の村など要らぬ」
幾人かの武田家家臣の顔色も悪うなった。おそらくこの地に縁があり、勝手に村に一揆をけしかけておったのだろう。要らぬというのに土地を召し上げて功としようとした。放っておいても数年もせぬうちに自ら献上することになるというのに。
織田の大殿は甲斐など欲しておらぬ。武田家の面目を慮って受け入れたがな。土豪は織田の法に従ってはおらなんだが、それでも守護には従うという体裁を残しておった。
領内の村が飢えて苦しんだとて、こちらには関わりのないこと。何故、我らから信義を崩すようなことをせねばならぬのだ。
「お待ちを。それはあまりに……」
「何度も言わせるな。所領を献上することを強制するな。武田殿から左様に言われておらんのか? 土豪の臣従も村も我らは進んで欲しておらぬ。叩くのは従うと言いつつ、こちらの領地に手を出したところだけだ」
まあ、土豪も寺社も様々だ。中には従うと言いつつ、こちらの村と争うところもある。左様なところは許さず討てという命が届いて動いている最中であるが。
ここは大人しくしておっただけだというのに。勝手をする土豪の討伐を始めたことで、先んじて動いて潰さなくてもよい土豪まで一揆で潰した愚か者がおるのだ。
まことに地獄のような国だな。田んぼを見ても、冷夏で米が育っておらぬ。
東国一の卑怯者である武田などの臣従を許すからだ。
Side:季代子
当たり前のように届く報告にうんざりする。花火のあと、奥羽の諸勢力は動きを活発化させつつある。
南部、安東など主立ったところは降っており素直に従っている。とはいえ寺社や土豪などは、様子見や日和見をしていたところが相応にあった。
「何度も言わせないで。寺社へのこれ以上の配慮はないわ。不満なら神仏に祈って助けてもらいなさい。さもなくば、あなたの俸禄なり財から助けたらいい」
そんな状況でこちらの方針に不満がある者、地域でそれなりに名のある武士が仲介案を持ってくる。
内容は様々だけど、こちらから妥協をしろというところが共通しているのよね。
「神仏を軽んじると御身に災いが降りかかりまするぞ」
「止めよ! 無礼者が!!」
縁を辿って私のところまで来たのは褒めてあげてもいいけど、その態度に目通りを頼んできた南部家家臣が顔を青くして怒鳴った。
「だから神仏に助けてもらいなさい。災いではなく助けを求めたらいい。以前と変わらず寺領も守護使不入も認めているわ。こちらの政での利と助けがないのは当然でしょ。代わりに戦になろうが一切の助力も求めない。そちらが最初に納得した条件よ」
物価の違い、関所統廃合に伴い近隣へ行く際の関税の高さ。どれも予想外で困っているのは知っている。でもね。自分たちの選択ミスを認めず、こちらが折れる形で既得権と面目を一方的に維持したいってのは虫が良すぎるわ。
結局、仲介者は不満そうに下がった。
「申し訳ございませぬ」
南部家家臣が少し震えながら頭を下げた。最後の一言が余計だったのよね。他家ならば累が及ぶことも十分あり得る。
「取り次ぎは一向に構わないわ。でもね、こういうこともある。気を付けてね。何度も同じことをしたら私も許せなくなる」
「はっ、胆に銘じまする!」
地縁血縁、便利だけど厄介なのよね。頼まれて拒絶すると縁ある者や一族から責められることもある。
「ああ、さっきの者は別よ。私に災いを与えたいようだから、数日中に然るべき動きがなければ一族の俸禄をすべて召し上げて追放とする。先の寺に関してはこちらに不満のようね。今後は縁を切るわ。領内の商人との商いも禁じる。神仏の力で生きてちょうだい」
まったく小さな寺だってのに。上の命に従わないで勝手に動き騒ぎを起こす。こういうのが後を絶たない。
寺社というだけでありがたいと保護してやらないと不満で騒ぐ。私たちがこちらに来て以降、あまり寺社を潰していなかったことが響いているのでしょうね。
一度でも折れると、次から次へと同じことを要求するのが目に見えている。地縁もない私たちが必要以上に配慮をすると思わないことね。
利と助けが欲しければ、神仏の力では生きていけないと認めて、既得権を放棄して頭を下げなさい。
私はシンディやケティたちのように道を示してやる気はないわ。
長きに渡り閉塞して停滞しているこの地において、甘さは害になる。特に宗教はね。徹底的にやるわよ。














