初めてのダンジョン
7月3回目の更新です。よろしくお願い致します。
発行してもらった冒険者カードをアイテムボックスに入れて、ダンジョンに向かうことにした。
目的地目掛けて真っ直ぐ歩き始めた僕に対して、ナタリーさんから疑念の言葉が差し挟まれた。
「ねぇ、アウルム君。ダンジョンに行くためにアイテム類を整えたり、装備を整えたりしないの? 流石にこんな軽装で行くわけには……」
「大丈夫ですよ。僕は神様からアイテムボックスも授かってますから。しかも、中の道具も割と充実してますから、何か欲しいアイテムがあれば遠慮なく言ってください」
あんまり詳しくは言わなかったが、本当に充実している。……今すぐにでも道具屋を開店してもある程度やっていけそうな気がするぐらいだ。何なら武器屋と防具屋も兼ねた総合ショップをやれと言われても秒で出来る。僕は冒険者志望だから、そういう定住生活に興味はないけどね。
「じゃあちょっと飲み物とか」
「飲み物ね。はい」
取りあえず水を渡しておく。
「ここまで気兼ねなく出してくるなんて……随分在庫に余裕があるみたいね」
「うーん、まあ、それなりに」
一応言葉を濁しておく。結構あることは確かだが、具体的に何日ぐらい持ちそうなのかは見当がつかない。
少し休憩して歩き出す。ダンジョンまでそんなに遠くないので割と早く着いた。
ダンジョンというよりは、ただの洞窟だ。一応看板も有るし、見張りっぽい人も立っているから、ここがダンジョンだと分かるのだが……思っていたよりしょぼい。
僕はダンジョンに来るのが初めてだったので、ちょっと拍子抜けしてしまった。
人が少ないから寂れているように感じるのだろうか。
「これがダンジョンかぁ。確かに人は少ないけど、言うほど危なそうな場所には見えないね」
「そりゃ、ダンジョンの入り口付近のモンスターはそんなに強くないから」
「アレ? もしかして来たことあるの?」
「ええ、神官養成学校に入っていた時に授業の実習として何度か入ったことがあるわ。深い階層までは行ったことないけど」
なるほど。凄い学校だ。羨ましい。僕とかそもそも学校行ったことないし。
(えー、学校で命の危険がある授業をさせられるとか嫌過ぎるでしょ。組体操とか武道関係の授業とかですら割と嫌いだったのに……)
花水さんが愚痴をこぼし始めた。愚痴の内容は全然分からないけど、花水さんも面白そうな学校に通っていたみたいだ。
ともかく、今回は学校のような物見遊山気分で乗り込むわけではない。街の平和を守るという使命があるわけだ。
ダンジョンに入ってみても、殆ど人が見当たらなかった。
遠くに一人ぐらい、高級そうな鎧に身を包んだ騎士が立っていた程度だ。
「アレは……本当に国王の直属の騎士みたいね」
「なるほど。強そうだね」
近くを通ると、声を掛けられた。
「君たち、そんな軽装備でダンジョンに何をしに来たのかな?」
厳しい声音というわけではなかった。明らかに初心者みたいな見た目をした僕でも過度に止められることがなかったから、最初の層はかなり安全ということなのだろう。
「……っと、そっちは神官様ですか。ここに何の用で?」
相手の騎士は、僕ではなくナタリーさんと会話することを決めたようだ。残念ながら、彼女は元神官だけど。
「私は神殿から派遣されてダンジョンの様子を見に来ました。こちらは荷物持ちみたいな感じの人ですからご心配なく」
「そうですか。街も少しは余裕が出来たんですかね?」
「いや……まだまだ難しいでしょうね」
「早く秩序が戻ればいいのだが……俺の家族、今頃どうしているかな? もう何日もダンジョンから帰れてないからなぁ」
騎士さんたちも街のことを心配しているみたいだ。しかもダンジョン生活を何日も強いられているらしかった。
「では、これから下層に潜っていきますので」
「ああ、無理はしないでくれよ」
一礼して歩いて行く。
ダンジョンを下っていくと、徐々にモンスターや騎士が増えていった。一応、それ以外の冒険者っぽい人も少数ながら存在していた。
「ダンジョンは下に行けば行くほど強いモンスターが出て来るようになるらしいよ。ダンジョンは深い場所になればなるほど、モンスターたちの領域になるの。恐らくだけど、強いモンスターたちが集まってダンジョンの支配力を高めれば高めるほど、地上に進出しやすい環境が形成されるんじゃないかな」
「なるほど。だから騎士の人たちはモンスターが集まり過ぎないように適度に間引いているって感じなのかな」
話している間にも適当にモンスターを倒していく。
僕は剣を握っているだけだ。金属部分を伸ばして、刺さったら相手の体内を切り裂くように変形させる。
身体の中までしっかり固いモンスターなんて殆どいないはずだから、今のところはこの戦術でどうにかなっている。もう少し相手が増えても、触る武器の数を増やせば容易に対応できるだろう。
ただ、あまり公で見せたい技でもないので、人の監視が多い時はナタリーさんに戦ってもらっている。まだ余裕があるみたいだけど、そろそろ人前でも僕が加勢しなければならなくなるだろう。
そうこうしているうちに、騎士が多いフロアに辿り着いた。
人もモンスターも明らかに今までより多い。どうやらここが最前線みたいだ。あまり深くまで潜った感じじゃないけど。
多くの騎士たちは疲れた表情を浮かべていた。
「今日の物資の補給はまだか?」
「やっぱり供給の便を考えればここを最前線にせざるを得ないよな……」
「腹が減り過ぎて動けねぇ」
彼らの呟きによって事情をある程度察した。
彼らにはこれより深くまで攻め入るだけの能力があるのに、主に物資調達の関係で、更なる侵攻が不可能になっているようだ。
「上の連中がどこかでストップさせているんじゃないか?」
「あいつらの仕事は楽でいいよな」
割と深刻な状況なのか、不穏な空気まで漂っている。
「アウルム君、どうする?」
「うーん、一応最前線の敵とかも見ておきたいから、行ってみようか」
騎士たちの前を通り過ぎようとしたら呼び止められた。
「お前ら、ここに何の用だ?」
視線を交わして、二人同時に冒険者ギルドから貰った書類を見せた。
「人手が足りないので是非とも、と言われまして」
「なるほど。神官のアンタもか?」
「はい。ダンジョンの様子を見て来いと言われたので……ああ、彼は荷物持ちみたいな者ですが」
「そうか。ご苦労なこった。……あまり深入りするなよ。ここが最前線だから、本来ならもっと下に行かないと出て来ないようなモンスターもたまに見かけている」
「ご忠告、ありがとうございます」
挨拶をして、歩き進める。
騎士集団から少し離れただけで、すぐにモンスターに囲まれた。モンスターにとって僕たちは、群れからはぐれた羊みたいな扱いなのかもしれない。
騎士たちにスキルがバレると面倒なので、出来るだけ近付いて剣先を変化させる。
それでも、今までの層で出会ったモンスターたちより固くて体力もあるみたいだったから倒すのに少し時間が掛かっていた。単に形状を変えるだけでなく、スキルで武器の性能も上げているはずなのだが、それよりもモンスターの練度が高いというのだろうか。
僕は割と高級な金属防具も着用して、さらに攻撃のリソースとなり得るものを増やして手数を増やしたが、ナタリーさんは手一杯のようだった。
ある程度モンスターを倒したら、休憩も兼ねて騎士の集団の方に戻った。
「さっきモンスターに囲まれていた時は殺されたんじゃないかと思ったのだが、よく生きていたな……」
「ええまあ……しかし、私たち二人だけで戦線を押し戻すのは難しそうですね」
あまりに当たり前なことをナタリーさんが口走ったので、騎士さんが引きつった笑みを見せた。
「そりゃそうだろうな」
来た道の方に少し移動して座る。
「あの数は中々厄介ね。アウルム君はまだ戦えそうだったけど、私はついていけないかも……頭数が足らないわ」
それは僕も痛感したことだ。どうするか考えつつ、アイテムボックスから水の入った瓶を二つ出して、片方をナタリーさんに渡しながら飲んでいると、
「あ、あんた……水を持っているのか?」
モンスターの代わりに騎士たちに囲まれてしまった。
次回の更新は8月上旬を予定しています。よろしくお願い致します。