騎士たちとの交流
8月1回目の更新です。
水分補給をしようとしたら、騎士たちに囲まれて、「水を持っているのか?」と質問された。確かに持っている。しかし、タダで渡すほどお人好しでもない。
「まあ、アイテムボックスに少しは……」
「アイテムボックスか。なるほど、荷物持ちを自称しているだけはある」
そう言いながら、騎士たちが少し渋い表情を浮かべた。
横からナタリーさんが耳打ちしてきた。
「アイテムボックスはその特性上、保持者を殺しても中身を奪うことが困難なの。だから、無闇に私たちを脅せる立場でもないわけね」
物騒な単語が聞こえて来た。しかし、おかげで少し安心出来た。
ナタリーさんが騎士たちに質問した。
「逆に、皆様は水や食料を持っていないのですか? 糧食の準備は常識というか、むしろ皆様の財力を持ってすれば簡単なことかと思っていたので……」
気恥ずかしそうに頭を掻きながら、代表者的な人が答えた。
「神官様の仰る通りで、当初は潤沢に用意していたわけだよ。しかし、補給が滞っていてね、在庫切れというわけさ。現地調達も当然視野に入れていたわけだが、ここはモンスターどもが多く、瘴気が濃い。食えるモンスターがそもそも少ないというのに、腐敗のスピードが速くなっていてどうにもならん」
(モンスターって食べれるんだね)
(出来れば食べたくないが……あと、昆虫食も嫌だ。その点では俺の元居た世界と似たような食文化の異世界で助かった)
花水さんと話しながら、騎士の話を聞く。
「地上との連絡も取るようにしているのだが、どうも上手くいってないみたいでね。食料が尽きてから丸一日経っている。このダンジョンを放置するわけにはいかないから、撤退は視野に入れられない。……というわけで、君たちに食料を恵んでもらいたいわけだ」
「なるほど。事情は把握出来ました。しかし、完全無料というわけには……」
こちらが優位だと分かっているのだから、一応交渉してみる。とは言え、何か欲しいものがあるかと言われれば別に無いのだけど。
相手が一人ならタダで渡すだけの余裕を持てるのだが、騎士の数は多い。無尽蔵というわけでもないから、在庫が心配になってしまう。それに相手は金を持っている王族直属の騎士だと聞いている。それなりの見返りを用意するのが筋というものだろう。
「そうか。何が望みだ?」
ナタリーさんと顔を見合わせる。僕に一任する、という感じに顎を振った。ふむ、どうするか……。
「金か?」
「いや、お金にはあまり困っていないので大丈夫です」
「それじゃあ、武器か?」
「武器も結構持っているので……」
「なら、女か?」
想定外の条件を提示されたので、動揺してしまった。
「お、女ぁ?」
(ヒューッ! 分かってらっしゃる。これで決まりだな!)
花水さんのテンションがいつもより高くなっている。しかしながら、こんな条件、良いのだろうか?
ナタリーさんの方を見ると、少し嫌そうな顔を見せていた。僕としても人間をお金で買うことには抵抗がある。ここは断っておく方が良いだろうか。
「ええと、それもお断りします」
「なるほど。無欲な人だ。物がダメなら、名声か。よし、お偉いさんに謁見出来るように取り計らってやろう。これでどうだ?」
そう来たか……しかし、どこかでこの話に決着をつけるとするなら、ここが良い塩梅の落としどころなのかもしれない。他に欲しいものがパッとは思い浮かばなかったし、話を延々と引き延ばしたいわけでもなかった。
「じゃあ、その条件でお願いします」
「決まりだな」
取引が成立したので、水を配給した。人数が多かったので、配るだけでも一苦労だ。
そうこうしている間に、モンスターが出て来たみたいで、水を飲んだ人から順番にドンドン迎撃に向かっていった。
ここに降りて来た時よりも、機敏な動きで戦っていた。やはり適度な水分補給は重要なのだろう。
しかし、水分が補充されれば、もっと別のものも求めたくなるのが人間というもの。
それも、消費エネルギーが多い仕事をこなしているのならば当然だ。
食料もまあまあ在庫がある。だが、この流れで出してしまってはこちらの出し損になってしまうだろう。一度時間を置いて、また別の報酬を引き出すのが賢明というものだ。
水を配り終えたら、僕たちも戦線に移動する。
前線では、熾烈な戦いが繰り広げられていた。
僕たちもあまり邪魔にならない範囲で攻撃に参加した。あまり見られたくない技でもあるから、コソコソと立ち回る。出来るだけ敵を引き付けようと心掛けているが、その度に花水さんが抗議の声を上げて来た。
(近すぎるだろ! もうちょっと安全というものを考えろ!)
(大丈夫ですって。この辺のモンスターの攻撃を通すほど柔な防具じゃないのは知っているでしょ?)
(だが、今は異常事態で、本来ならもっと奥の層で出て来るモンスターもこの辺まで進出しているんだろ? 用心するに越したことはない)
(うーん。それも道理だけど、経験豊富そうな騎士さんたちが慌ててないなら大丈夫だと考えてもいいでしょ)
(……うむ。だが、くれぐれも俺の命が掛かっていることは忘れるな)
まあ僕のことを遠回しに心配してくれているのだろうな、と思って戦闘を継続する。
皆の動きがちょっと良くなって来たので、前線も少しずつ押し上げられていった。
魔物の気配が一度退いていくと、一部の騎士たちがモンスターの解体を始めていた。
そう言えば、普通の冒険者はああいうことをやるのか。
「アンタたちは素材回収とかをしなくて良いのかい?」
「ええ、この辺の階層のモンスターの素材には困っていませんから……」
「あー、確かに豪華な装備をしているみたいだからな」
僕たちは手慣れてないので、逆に傍観に徹することにした。些細なことだが、怪しまれる要因を自分から作るわけにもいかない。適当に答えたら、向こうの人が勝手に理由を付けて理解してくれた。
彼らの動きを見た感じ、素材の回収だけじゃなく、肉の回収なども行っているようだった。
ナタリーさんが駆け寄っていく。
「モンスターの瘴気によって腐敗が早まっているみたいですね。浄化を手伝います」
ナタリーさんがモンスターの肉に手をかざして魔法を使うと、淡い光が肉に降り注いだ。
「おお、流石は神官様だ……感謝します。これなら我々も腹を下すことを気にせずに食べられるでしょう」
彼女が立ち上がると、騎士たちはすぐに調理に取り掛かっていた。
少し浄化しても、早めに処理しなければ厳しいのだろう。
肉を焼いていた騎士たちがこちらを見て、
「神官様、アンタも食べるかい?」
ナタリーさんが視線を受け流すようにこちらを見て来た。
「アウルム君、食料の在庫って有る?」
小声で聞かれたので、小声で返す。
「うん、有るよ」
騎士の方に視線を戻して、
「私は大丈夫なので、皆さんで食べてください」
騎士たちは歓喜の声を上げながら、焼いた肉を食べ始めた。
「遠慮したから毒でも盛られたかと思ったが、全然そんな感じじゃなさそうだな!」
「むしろちゃんと浄化されているから、いつもより肉が旨いぜ!」
「あの二人には感謝しかないな!」
そんな談笑の声が聞こえてきた。
しかしながら、僕たちの方まで香ばしい匂いが届くということは、肉食のモンスターたちを引き寄せるということでもある。
ぞろぞろと寄って来た魔物目掛けて、僕たちは武器を構えた。
次回もよろしくお願い致します。




