地上からの支援物資
少し遅くなりましたが8月2回目の更新です。分量もいつもより少し多め?
食料の匂いに誘われたらしいモンスターたちを次々と葬っていく。
この程度のモンスターに苦戦するほど柔じゃない。店で高く売られていた武器なのだから、スキル無しでも弱そうなモンスターぐらいはサクサク倒せなければ困る。
戦い続けていると、休憩を終わらせたっぽい騎士たちが加勢に来てくれた。
動きは流石にプロって感じだけど、装備だけなら僕の方が強そうに見えなくもない。
「何であの荷物持ち、この辺のモンスターを一撃でスパスパ切り倒しているんだ……?」
「スキルを使っているようにも見えないな。武器の性能差だろう。……何故あんなに高い武器を持っているのかに関してはサッパリ理解出来ないが」
「良いよなぁ。こちとら殆ど手入れも出来てない武器使っているのによぉ」
こちらをチラチラ見ながらヒソヒソ話している。戦闘中に小声で話せば聞こえないとでも思っているのだろうか。それとも、わざと聞こえるかどうかギリギリの声量にしているのだろうか。
いずれにしてもご丁寧に答える必要は無い。
どうやら全員の休憩が終わったみたいで、じわじわと進軍が始まった。
戦いながら、ナタリーさんが確認して来た。
「私たちが先陣を切るような感じになっているけど、大丈夫かしら?」
「いや、大丈夫じゃないでしょ。道とか分からないし」
そんな会話をしていたら、親切にも先頭を代わってくれた。話の流れ的に、僕たちもこの集団と一緒にダンジョンの攻略をすることになったみたいだ。今更断れないような気もするけど、まだ体力的にも余裕があるから大丈夫だろう。
次々と迫って来るモンスターたち。しかしながら、それ以上のスピードで狩っていく。
だが、モンスターの数が増えるにつれて、押し返され始めた。
近くにいた騎士がぼやく。
「クソったれ。出て来るモンスターも強くなってきたな」
なるほど。確かに、倒すために必要な手数が増えて来たように思う。
「そろそろ潮時だな。今担当しているモンスターを倒せた者から撤退準備を始めろ!」
ナタリーさんと顔を見合わせて、僕たちも撤退することにした。……のだが、どうやら徐々に囲まれてしまっていたらしい。
「どうして後方の警戒を怠っていた!」
「ちゃんとやってましたって! それ以上の速さで湧いて来たって事ですよ」
「冷静に所感を述べている場合か!」
「それ以外に考えられる原因がないからしょうがないじゃないですか」
騎士たちが不毛な口論を始めた。今はそういうことをしている場合じゃないだろうに……。というわけで、こちらから状況の打開策を持ち掛ける。
「前方のモンスターは僕が引き受けるので、皆さんは退路の確保に専念していただけませんか?」
「そりゃ願ってもない相談だが……大丈夫なのか?」
どうやら実力を不安視されているらしい。それもそうか。僕の外見、一応鎧を着ていると言っても一般通過庶民感を拭えていないし。
安心させるためにも、少し実力を見せておく必要があるだろう。
金属の性能を弄るスキル【金遣い】によって、武器の攻撃力を高め、モンスターの壁を豆腐のように切り崩していく。
すると、首を捻りつつも、
「じゃ、じゃあここは君たちに任せるから……」
「早めに退路を作るからね」
と控えめに言って後方のモンスターを倒しに行った。
順調にモンスターを倒していると、
「アウルム君、モンスター集団の後方から魔法が来るわ! 対策出来る?」
と声を掛けられた。
「えっ、全く魔法使えないし、どうしよう……魔法って盾で防げる?」
「まあ、今みたいに小さな魔力の塊が飛んでくるぐらいなら、多分」
元神官だけあって魔法に詳しそうなナタリーさんの言葉を信じることにして、アイテムボックスから盾を取り出す。
適当に選んだ物だったのだが、魔法に対する防御力も兼ね備えていたみたいで、見えない壁みたいなもので火球を防いでいた。
「あら、良い盾も持っていたのね。……まあ、直線的な魔法は対応出来ても、範囲魔法の対処は無理そうだけど」
「範囲魔法か……」
頭の中でイメージしてみるまでもなく、無理そうだ。空間をカバー出来る盾なんて、あるはずがない。
(おいおい、それじゃあ俺たち、死ぬ可能性がまあまあ有るってことじゃねぇか!)
ネガティブなことを考えていたら、花水さんがキレた。
(いや、どう考えても範囲魔法を盾で防ぐなんて物理的に無理でしょ?)
(そりゃそうだが……盾で防げないような技を使うやつが出て来る場所で、この世界の冒険者たちはどうやって戦っているんだ? まさか、対処方法が範囲外に逃げるだけ、とかいうオチじゃないだろうな? もしそんなだったら、範囲魔法だけでモンスターが俺TUEEE系異世界転生小説の主人公みたいな扱いになっちまう)
よくわかんない異世界転生なんちゃらは置いとくにしても、花水さんの指摘は一理ある。
範囲魔法を使うモンスターに対処する術が殆どないなら、ギルド等で大々的に注意喚起されていてもおかしくないはずだが、全然そんな話は聞いたことが無い。
もしかしたら、そんな高等魔法を使うモンスターが少ないという可能性もあるが、その仮定が成り立つならば、ダンジョンに潜った経験が少ないナタリーさんが話題に出すのは不自然のような気がする。
「範囲魔法って、どうやって対処すればいいんだろうね?」
さりげなく独り言を装いながらナタリーさんに質問する。
「うーん。一番確実なのは魔法を撃たせる前に攻撃して、魔法を中断させたり相手を倒したりすることかな。でも、それって難しいから、こっちも対魔法用の防壁を魔法とかさっきアウルム君が出したような装備で作り出すことが一般的だと思う。一番の悪手は範囲から出ることね。逃げれば当然相手も範囲を操作して追いかけて来るから、対策するための時間稼ぎ程度にしか使えない……って感じに習ったけど、どうかしら?」
ナタリーさんの視線は僕から少しズレていた。後ろの騎士たちに尋ねたのだろう。
「ああ、それで大正解さ。というわけで、一旦退却しよう。足止めの協力、感謝する」
適当にモンスターを蹴散らしながら、前に食事をしていた拠点まで退却していく。
その道中で、騎士の集団の一部から、
「何で範囲魔法の対策も知らない素人があんなに簡単にモンスターを倒せるんだ?」
「それよりあの盾見たか? 俺の収入じゃ、あと何年働けば手に入るんだよ、って感じのレア物だったぞ」
などという会話が聞こえて来た。
「ところで、まだまだ追いかけられているけど、このまま退却を続けていても大丈夫なの?」
「ええ。ダンジョンの一部にはモンスターの活動を阻害する神聖な場所が幾つかあって、冒険者たちの間では、安全地帯とかセーブポイントみたいな名前で呼ばれているの。……今はモンスターの勢いが強いから、完全な安全地帯とまでは言えないけど、それでも休憩ぐらいは出来るってわけ」
「そして、俺たちはモンスターどもを押し返しながら下の階層のセーブポイントを次々と解放していくのが仕事なのさ」
ナタリーさんに続いて、騎士の人も丁寧に補足してくれた。
例のセーブポイントに着くと、その近辺を守護していたらしき騎士たちが出迎えてくれた。
「お疲れ様です、隊長! 今しがた上から支援物資が届きました!」
その言葉で集団に活気が戻って歓声が上がった。荷物らしきものがちゃんと見える。
いや~、良かった良かった、と思っていたら、花水さんが鋭く声を上げた。
(待て。一緒に戦っていた騎士連中と、ここで荷物を受け取った騎士のテンションの差が大き過ぎるようには見えないか?)
指摘されてから双方の表情を確認してみると、花水さんの言う通りな気がしないでもない。これは一体どういうことだ?
疑問に思っている間に、隊長と呼ばれた人が、大きな箱の開封に取り掛かった。
蓋が開けられた箱に騎士たちが群がり……一斉に溜め息をついた。
一人の騎士が箱の中身を無造作に掴み出して床に叩きつけた。甲高い金属音が響く。
「これのどこが救援物資だって? これ、倉庫に置いてある予備の武具じゃねぇか!」
なるほど。出会った時から食料に飢えていた彼らにとっては、手入れされた武具という一応の価値があるものでも救援物資とはカウントされないらしい。そりゃそうだ。金属では腹は膨れない。そもそも喉を通る大きさのものでもない。
「一応、別のものも入っていたぜ」
出て来たものは手紙だった。家族か誰かからのものだろう。
「これは……王からのものだろう。隊長、頼む」
「ああ。確認する」
「こっちはケビンの母親からだな。おーい!」
こんな感じで一通一通きちんと宛名などを確認して割り振っていく。
その間にも別の騎士たちが中身の確認を進める。
「おい! 水と食料もあるぞ!」
箱の下の方に埋もれていたらしき真の救援物資が掘り起こされた。
しかしながら、外に出して見ると、その総量の少なさに誰もが嘆息した。
「こんなの足りるわけねぇ」
「ふざけんなよ、この街の平和は誰が守っていると思ってやがるんだ……!」
不満に満ちた空間の中で、王からの手紙とやらを読み終えた隊長格の騎士が小さく呻いた。
「どうやら、地上の補給は芳しくないらしい。その上で任務を続行せよ、だとよ。昇進を約束されても全く喜べないんだよなぁ」
苦笑しながら、箱を指差した。
「ほら、平時じゃ滅多にお目に掛かれない勲章が大量に入っているだろ? 無事に持って帰ることが出来たら、その地位に就くことが出来るんだとさ」
誰かが箱を無造作にひっくり返すと、確かに豪華な勲章が大量に出て来た。人数分あるのだろうか。僕には価値がよく分からないけど、ナタリーさんが息を呑んだところを見ると、それなりのものらしい。
騎士たちがノロノロと自分の名前が彫られたものを拾っていく。この状況ではありがたくないけれども、貰えるものは貰っておけ、という投げやりな様子にも見える。
(ふむ、思っていた通り、ロクな支援物資じゃなかったみたいだな……ん? いや、これは紛れもなく支援物資じゃないか!)
花水さんが脳内で叫んで、僕の身体が勝手に動き出した。
「皆さん。その箱の中身を僕に全てくれたら、僕がその箱一杯に水と食料を詰めて返してあげましょう……と言ったら、どうしますか?」
次回もよろしくお願い致します。




