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転職するならお早めに

7月2回目の投稿です。

 神殿を出るまでの間にも、多くの妨害に遭った。

 例の変な装備を付けて、気が変になった人たちがナタリーさんを狙ってきたからだ。

 どうも、神殿の関係者を狙っているらしく、スキルを貰えなかった――言い換えれば神から見放された感全開の小市民は存在を認知されていないのかと思ってしまうほど全力でスルーされていた。

 ここに来るまでの間に出会っていたジャックやノーリスといった中級冒険者たちがナタリーさんに襲い掛かるものの、ナタリーさん個人の力で捻じ伏せられていた。やっぱり神官って強いんだね。

 一人一人は強くないものの、数だけは無駄に多い。まあ、その辺の人間に武器を握らせたら、自動的に神官に襲い掛かるように意識をコントロールしているみたいだから、次々と戦士が送り込まれても全く不思議ではない。

 ということで、僕は露払いを担当する。

 適当な剣を握り、剣先を分裂させて伸ばす。

 そうしているだけで、思ったところを刃が勝手に貫いてくれるので楽な仕事だ。

 痒い所に手が届くって感じだ。


「アウルム君、それどうやっているの? そんなスキル見たことないし……」


 ナタリーさんにはネタ晴らししても大丈夫だろう。まあ、ネタ晴らしと言いつつも僕が理解出来ている部分は少ないのだが。


「神殿で貰ったスキルじゃないから、ナタリーさんが知らなくても無理はないかもね。実を言うと、川で溺れかけた時に神様から直接貰ったスキルなんだ」

「あー、そう言えば、前に神に遭ったことがあるとか言ってたよね。アレ、神官のみんなをおちょくるための冗談だと思ってたんだけど、まさか本当に神様に出会ったことがあるなんて……」

「僕としては、神様に出会ってもいないのに神官を名乗れるんだ、って逆にビックリさせられたよ。神官って神様の下で修業してから就く職業だと思ってた。僕が昔住んでいた村の神官様はそう言ってたし……。神官になるための試験は、神様が作っているからとても難しいとか何とかって……」


 ナタリーさんは自嘲気味な笑みを浮かべた。


「ああ、それ? 神官養成学校では先生のことを神様と呼ぶ風習があるってだけの話よ。ちなみに、先輩のことは天使様と呼ばなければ、かなり痛い目をみることになるの。まあ、最上級生になれた時は間違いなく天国のように感じるけどね」

「えぇ……」


 かなり奇抜な風習だったのでコメントし辛い。

 ただ、気になることも出て来たので質問してみる。


「でも、その理論だと、神官養成学校を卒業したら、また見習いみたいになるんでしょ?」

「そうよ。目上の人に対して常に敬意を見せ続けなければならないの。さっきみたいに上司……それも大神官様に対して口答えするようなことは滅多に起こらない」


 はあ。何かよく分からないけど大変そうだなぁ。

 神官時代の話から離れたいのか、話題を変えて来た。


「それより、これからどうやって生活していこうかしら。勢いだけで神殿を出て行ったのはいいけれど……」


 その辺のことは考えていなかったのか……。


「うーん。まあ、神官以外にも仕事は有るでしょ」


 と言いながら、そろそろ明け方になって来た空を見上げた。

 街は、神殿の騒ぎの影響なのか、この時間にしては少し忙しくなっているように思われる。

 家々の一部からは、食事の準備という雰囲気とは少し違うような黒い煙が上がっていて、路頭には民衆たちが彷徨っている。

 ナタリーさんが振り返って肩を竦めた。


「これでも仕事ってあるのかしら?」

「ほら、仕事って与えられたことをやるだけが仕事じゃなくて、自分で生み出すのも仕事だから……」


 苦し紛れに適当に言ってみたけど、確かにこの状況で仕事と言っても苦しいものがあるよなぁ。

 そう言いながら歩いていると、偶然、冒険者ギルドの近くに来ていた。

 その扉には「冒険者急募! 初心者歓迎!」と書かれていた。

 どうも冒険者が不足しているらしい。僕が冒険者登録をしに来た時には、人で溢れていたイメージなのだが、いつの間にこんなことになっていたのだろうか……。


「確かに、最近は冒険者が急激に不足してしまったって聞くよね。武器屋や防具屋が何故か一斉に仕事を辞めた影響で冒険者たちが装備を修復し難くなったのが始まりで、さらに道具屋まで品揃えが悪くなって、回復薬等を揃えられなくなった冒険者たちがダンジョンに行けなくなったとか」


 全ての現象に自分が関わっていて本当に申し訳ないと思わなくもない。

 でも、武器屋の人も防具屋の人も、仕入れたアイテム類や日用品を道具屋じゃなくて僕の方に売り込んでくれた商人さんたちも、みんな幸せそうな顔をしていたから、決して悪いことをしているわけじゃないはずなんだよなぁ……。


「それだけ人手が足りないとなると、僕でも何か出来るのかな?」

「まあ私もその辺の冒険者よりは強いから……ちょっと話だけでも聞いてみましょうか」


 ギルドの中に入って、受付で話を聞く。

 僕だけだとあまり丁寧な対応をしてくれなかったかもしれなかったけど、神官の服を着ているナタリーさんが隣にいたからか、割と丁寧な受け答えをしてくれた。


「現在、ダンジョンに潜ってモンスターを討伐出来るだけの冒険者が激減してしまっていて……。一応食料手当も出しているのですが……」


 ナタリーさんが納得したような声を上げた。


「もうお金よりも食料の方が需要が多いって聞きますからね」


 そういうことになっていたのか……まあ、僕はアイテムボックスの中に大量の食料を抱えているから大丈夫なんだけど。

 受付の人が心配そうに呟いた。


「今は国王様が派遣してくださった常備軍がダンジョンのモンスターを討伐してくださっていますが、それも何日持つか……」


 ん? どうしてここに来て軍隊の話が出て来るのだろうか。


「もし軍隊の人たちがモンスターを討伐出来なかったら何か起きるんですか?」

「確かに気になるわね。私も初めて聞くような話だし……」


 受付の人が意外そうな表情を浮かべた。


「神官様はご存知なかったのですか?」

「ええ、まあ、新人なもので……」


 もう辞めたという情報を言わないのは流石だ。


「そうでしたか。まあ、別に秘密というほどの秘密でもないのでお話しますと……ダンジョンでは絶えずモンスターが生まれていて、そのままダンジョンを放置してしまいますと、ダンジョンからモンスターが溢れてしまうのです。だからこそ、我々冒険者ギルドは、絶えず多くの冒険者を送り込んでモンスターを減らすということを使命の一つとしていたのです」


 そういう事情があったのか……。僕みたいな一般人からすれば、今まで騙されていたかのように思ってしまうほどの衝撃の内容だ。


「じゃあ、僕たちは割と危険な場所で生活していたというわけですか?」

「冒険者の皆様が順調にダンジョンでモンスターを倒すことが出来ていれば、そこまで危険というわけではないのですよ。遠くからダンジョンを管理しようとするよりは確実にコントロールしやすくなるので、むしろ安全とも言えるかと」


 それもそうかもしれない。でも、やっぱりこういうことを知ってしまうと不安に思ってしまうので、民衆たちに不要な不安を抱かせないように、敢えて教えていないのかもしれないと感じた。


「なるほど。じゃあ、私たちもダンジョンに行ってもいいですか? ……冒険者登録とかはしていないのですけど」


 受付の人が、女神を見るかのような視線でナタリーさんの方を見た。

 勢いよく頭を下げた。


「ありがとうございます! 猫の手も借りたい状況だったんですよ! 簡易の冒険者登録の準備をしますので、このシートに必要事項を記入していただけますか?」


 そう言って、一枚の紙を渡して来た。


「あの、こっちの人は私の助手なので、もう一枚ください」


 ナタリーさんに紹介された僕に向かって、受付の人は訝し気な視線を送って来た。

 まあ、今は特に何の装備も身に着けていないので、助手と言われても違和感しかないだろう。ただ、神官から授かったスキルがないので、ダンジョンに行くならこの流れに乗っかるしか方法が無い。


「まあ、僕は荷物持ち程度の役割なんですけどね」


 数秒考えた結果、


「まあ、今は人手不足なので許可しましょう」


 僕用の紙も渡された。前に見た書類よりも記入箇所が目に見えて減っている。

 書き込んで渡すと、あまり厳しいチェックを受けることもなく審査が通り、数分後には冒険者カードが渡された。

 こんなのでいいのだろうか……と思いつつも、念願の冒険者デビューを果たせたのだった。


次回もよろしくお願いします。

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