異世界ファンタジーならこのレベルのチート兵器が出ても大丈夫だよね?
7月1回目の更新です。
(辞職を願い出た人間を始末することで離職率ゼロを達成する……社員がすぐ辞めて定着しないことを逆手に取って『若い世代が活躍しています!』とか言ってる会社とか、進学実績を盛るために確実に受かりそうな大学を受けるように圧力を掛けたり、逆に偏差値低めでもやりたいことがあって志望校を決めている生徒に偏差値高めの大学を受けるように薦めたりする自称進学校みたいだ……!)
皆が得物を構えている緊張感溢れる空間で、花水さんが空気をぶち壊しにするようなことを呟いている。
当然ながらその声が聞こえているのは僕だけなので、僕だけ集中力を削がれているというわけだ。
しかしながら、この状況はあまり好ましくない。相手の強さが全く分からないからだ。
僕にはそれなりのスキルと超高い値段の武器防具がある。
でも、それらを上手く扱えるかどうかは全く別の話だ。
しばらくは誰も動かなかった。
なら、この場で一番の素人の自分から動いて流れを作り出さなければならないし、逆に言えば僕がこの場の主導権を握る最後のチャンスでもある。
僕は剣を握ったまま、触れた金属を自由に操るスキル【金遣い】を活かして、剣を高速でジェイガンとエリックの方に尖らせた。
「何っ!」
「ふむ……」
エリックは対処が遅れてダメージを受けていたが、ジェイガンは軽く躱した。まあ、ナタリーさんへの攻撃を止めさせる時にも使った技なので、あの一回でもう慣れたのかもしれない。
「アウルム君、ここで戦闘しても仕方ないわ。逃げましょう!」
「まあ僕も無益な戦いがしたいわけじゃないからね……」
相手に対して、平和路線の姿勢を見せていく。相手も平和が大好きそうな神官という仕事に従事している人間だから、こっちの空気に合わせて和平を結んでくれるだろう。
しかし、期待を裏切るような言葉だけが飛んで来た。
「見逃すとでも思ったのかな?」
目の前に薄っすらとした色の壁みたいなものが出現した。今日だけでもうんざりするほど見た防壁用の魔法だ。
試しに武器を振り下ろしてみたら、割とあっさり破壊出来た。
だが、すぐに新しい壁が現れる。
「大神官様の魔法をあんなにもあっさりと……あの少年、何者だ?」
「そう悲観するなエリック。彼は、破壊こそ得意なものの、それ以外のことはサッパリな人間と見た。何かスキルのようなものは使っているみたいだが、魔法を使える人間とは思えない」
「なるほど。魔法がロクに使えないとなると、防壁を破壊することは出来ても脱出することは難しいということですね。ましてやここは神官に魔力を安定的に供給する場である神殿!」
大神官様のお言葉を貰って、エリックが急に強気になった。
僕を集中的に狙ってくる。
武器による攻撃は、武器に勝手に捌かせている(スキルのおかげで、わざわざ振らなくても金属部分を動かして応戦出来る。何なら初撃で相手の剣を折れる……が、簡単にへし折って魔法に専念されても困るので敢えて折らない)けど、魔法による攻撃の対処だけは苦労する。
今壁をサクサク壊しているこの剣は対魔法力が強いらしくて、相手の攻撃魔法もバリバリ対処している。
でも、戦況は殆ど変わっていない。
相手の作る壁を壊して、すぐにそこから抜け出せたら良いのだが、僕の走るスピードは一般人と変わらないので、この部屋から全然逃れられないのだ。
それとは対照的に、僕以外の三人は加速魔法か何かの影響で機敏に動いている。……大神官のジェイガンだけは余裕があるのか殆どその場を動いてないけど、ナタリーさんを処罰しようとした時に恐ろしいスピードで動いていたので、やっぱり僕以外の皆は速く動けるというわけだ。
それでなくても、冒険者ならある程度の基本スキルやレベル、職業補正などによって一般人よりは速く動ける。
「アウルム君、あなたにも加速魔法を掛けるから、早く脱出しましょう!」
「今のお前に他人を気遣うほどの余裕があるのか?」
エリックがターゲットを僕からナタリーさんに切り替えた。
(このままじゃ埒が明かないな。ナタリーさんも危ないし、イマイチ加減が分からないけど……ちょっと本気出してみようか)
(え? まだ本気じゃなかったってことですか?)
花水さんにはまだ隠している能力があるらしかった。僕には特に策が無かったので、ここは花水さんに任せてもらうことにする。
アイテムボックスから二本目の剣を取り出す。
一本目とは違って、初心者でも手が出しやすい安いやつだ。
「僕は心優しいから忠告するけど、それ以上ナタリーさんに近付くと……」
二本目の剣の刀身が消えた。
ほぼ同時に、ナタリーさんとエリックの間の空間を閃光にも似た何かが通り抜け、部屋の壁が吹き飛んだ。更にその先にあった別の壁も数枚吹き飛んだらしく、神殿の外の景色も見えている。
外もノーダメージとはいかなかったらしく、森の木がなぎ倒され、焼け野原が広がった。
特に何か魔力とかを込めたわけでもないのに、凄まじい威力だ。
(花水さん、これ凄いですね)
興奮する僕に対して、花水さんは少しテンションが低かった。
よく考えると、僕以外の三人の動きも止まっている。
(やり過ぎちゃったかな……。俺IT関係の仕事に就いてたけど、大学は文系だったからこの手のことよく分かんないんだよな。スキルで鉄をウランに変質させて、よく分かんないけど原子レベルで分裂して猛スピードであっちに飛んでいけ~とか念じたらこの結果だもんな……流石に原子レベルまで分解したら、使った剣は元に戻らんよな……ていうか、まずウランに一瞬だけマジで変わっちゃったけど、握ってたの一瞬だったから大丈夫だよね? 直ちに影響はないのは確かだけど……)
花水さんは誰かに言い訳をするかのように、よく分からないことをブツブツ呟いていた。
「お、お前……今何を……」
エリックが声を震わせながら呟く。
正直、何が起こったのかよく分からないのでこっちが説明してほしいぐらいだ。
花水さんもノーリアクションだったので、僕が代わりに適当に答える。
「どうした? 見切れなかったのか?」
(ねぇ、分解能って知ってる? 原子が肉眼で見えるわけないでしょ)
またよく分からない単語が増えた。しかし、無視して続ける。
「僕の忠告のおかげで君は当たらずに済んだんだぜ? ありがたく思って大人しく手を引け。次は当てるぞ」
エリックが大神官様の方を見た。
静かに首を横に振る。
「君では彼の技を防げない。私でも……相当な事前準備が無ければかなり厳しいだろう」
(ヒューッ! あの技を準備出来れば防げるかもしれないとか言っちゃうとは、流石異世界ファンタジーと言うべきか、それとも、ただの傲慢や誤算なのか……)
大神官様が弱気の姿勢を見せたので、ナタリーさんが安堵の息を漏らした。
「あんなに危険な技を見せられたら、逆に全力で君を倒さなければならないのだが……しかし、神殿を無闇に壊されたり、街を戦火に巻き込むのは憚られる。今回は君を見逃そう」
大神官様の気が変わらないうちに、僕たちは歩き出した。
さっきぶち抜いた壁の方に行こうとしたのだが、花水さんの影響で足が普通の出口の方に向かった。
(あっちの方、割と危険な状況になっている可能性もあるんだよなぁ。いや、実際の所はよく分からんけど……神が後処理してくれないかな……)
(えぇ……何それ……)
困惑しつつ、大人しく指示に従ってそっちの方向を避けて進む。
僕たちの背中……というより、ナタリーさんの背中に声が掛かる。
「ナタリー、ここで神官を辞めたら、社会ではやっていけないぞ! いつか絶対に後悔することになるからな!」
笑ってしまいそうになるほど根拠のない言葉だった。エリックの指す社会ってどこだよ。
ふと隣を見ると、ナタリーさんは屈託のない笑顔を浮かべていた。
カクヨムの方で『新世代異世界FES YAKIMORI』(実際は「YAKIMORI」の文字の左右に火の絵文字と木の絵文字が入っているんだけど、なろうで投稿しようとしたら「環境依存文字だからダメ」みたいなメッセージが出て、なろうでも投稿するかどうかは悩みどころ)という新作を始めました。
エルフの森が燃えます。よかったら一読よろしくお願いいたします。(https://kakuyomu.jp/works/1177354054886285070)
次回もよろしくお願いします。




