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【プレゼン】天才的なアイデア、無事に散る

ジョセフが戻って来たので、俺は満面の笑みで両手を広げて待ち構えていた。


「いや~きましたね。これは。天国に来て、才能開花しちゃいましたわ。」


俺は裏紙を机の上に広げた。お経みたいなやつが裏に印刷されている。天国の裏紙ってこれなんだ。まあいいや。


そして、ペンで表にでかでかと書いた。



★神崎を海外に行かせる方法 3つ トモスペシャル★


ジョセフは俺の向かいにある椅子に座り、長ーい脚を組んで長ーい腕を組んだ。


「どうぞ。」

「まず一つ目。」


俺は紙に書かれた我ながら汚い文字を指差した。


①優しさ大作戦

「神崎って優しいじゃないっすか。だから、どっかで外国人が差別されてる場面を見て、ショックを受ける。それで興味が出て、海外に行くっていう流れはどうっすかね。」


ジョセフは微動だにしない。


いや、このアイデアはぶっちゃけ、俺でもあんまりよくないなって思った。

でもいい、本命を光らせるためのダミーだ。俺は咳払いをして続けた。

ちなみに②も半分ダミーだけど...悪いアイデアではないと思う。


②貧困を救おうぜ作戦

「……二つ目。アフリカの貧しい子供たちの惨状を、ニュースで見る。可哀そうだと思って、現地に行きたいって気持ちが芽生える、みたいな。でもその前に英語を勉強しなきゃ~で海外に行く。」


ジョセフの眉が、ほんの少しだけ動いた。

お、反応した。よしよし。会社もそういう系だったし。


「三つ目。」


俺は3つ目の文章に波線を引いて、強調した。


③フォーリンラブ大作戦

「……これが、本命っすわ。アメリカ人のイケメンと出会って、恋に落ちる。その人に会いたくて渡米。」


ジョセフが、また少しだけ動いた。眉の角度が変わった気がする。こいつなりに反応してるのか。


「やっぱ恋って人間を動かしますよね。恋の力で外国までぶっ飛「……具体的には?」」

「具体的には?」


思わず復唱してしまった。


沈黙が....いや、思いついた!!!


俺はパチンっ!と指を鳴らす。


「運命の相手に出会うってむずいと思うんですよ。そういうことが天国でできるか微妙なので...もっと簡単なやつで。イケメンの歌手の大ファンになる。で、追っかけてアメリカへ!そのまま定住!」


どうだ!!!!某漫画なら俺の後ろに「ドン!!」って文字が入るくらいの勢いで伝えたら...。

……ジョセフが深くため息をついた。


「……読んだか?過去の記録。」

「...読み...ました。」

「全部か?」

「……。」


俺は目を逸らした。


「神崎実那は、高校時代にファンだったアイドルが、お騒がせ女優と熱愛していたことがトラウマになっている。」

「……あ、そうなの?」


「以降、推し活は一切しないと決めている。特記事項として書いてあるはずだが。」

「……そりゃ分からんて。推し活のトラウマとか、そんな細かいとこまで読めないっすよ。人間って時間経てば大体忘れるじゃないっすか。」


ジョセフは何も言わなかった。


「細かいとこは修正すればいいし。最悪うまくいかなくても、神崎の人生まだ18っすよ?多少遠回りしても死にはしないんで...あ、俺は死にましたけど!」


と、自虐をかます。


ジョセフはオフィスをひと通り見渡した後、俺に視線を戻した。能面みたいな顔で、静かに口を開いた。


「……2003年。ブラジル、サンパウロ。引継ぎの守護霊アシスタントが、記録を読み落とした。」


ん?何始まった?

淡々と話す、ジョセフの声はいつもより数段低い。


「担当者はアレシャンドレ・コスタ。32歳。建設作業員。幼少期に体罰として雨の中、家の外に立たされたことがトラウマで、雨の日には「早く終わらせたい・早く帰りたい」と焦る傾向があった。守護霊が少し気を付けていれば、回避できていた...アレシャンドレは自らの不注意で交通事故に遭い死んだ。残されたのは、妻のイザベウ。26歳。子供が一人、2歳だった。」

「……。」

「イザベウは働いた。子供を育てるために。休む時間も、眠る時間も削って働いた。精神が少しずつ削れていった。その頃、職場に同い年の独身女性がいた。マリアナ・フェレイラ。27歳。毎週末、友人と出かけて、旅行をして、好きなものを買っていた。イザベウが持てなかった時間を、全部持っていた。」


心なしか、事務所内に響くキーボードをたたく音とスタッフたちが話している声が大きくなった気がした。まるで、ジョセフの声をかき消すように。


「イザベウはマリアナに、小さな嫌がらせを始めた。マリアナが発言をすると、少し間を置いて違う話題にする、体臭がすると陰で嘲笑うなど...3年後、マリアナは重篤な鬱を発症した。職を失い、実家に戻った。両親の貯金が底をついた。38歳で自殺した。」


ジョセフは一拍置いて、再び続ける。


「イザベウはその後も働き続けた。子供と話す時間はなかった。子供に使う金はあっても、時間はなかった。子供はカイオといった。まともに構われたことがなかった。15歳で薬物中毒、17歳で傷害。20歳で服役した。イザベウは今も働いている。面会には、一度も行っていない。」


カタカタカタ、ピーピーピー、ズーズーズー。


キーボードの音、機械音が事務所で鳴り響く。周りのスタッフは「必死で自分は仕事してます」「私たちはそんな馬鹿者ではありません」って言っているようだった。



守護霊業務日報:第3日目


作成者: トモ担当対象の状態:ジョセフ鬼こわ


質問: ・怖い話しないでほしいです

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