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【歓迎会】騙された口に入る肉無し料理

「いや~マジで助けてくださいよ。死ぬかと思いました。」

「死んでるけどね、君。」

「……あ、そうでした。でもマジで怖かったっすよ。急に2003年のブラジルの話し始めて。」

「いや~トモくん、やっちゃったなって思ったよ。隣で聞こえてたから。」

「聞こえてたなら、助けてくださいよ!」

「いやあ、我が身が大事ですよ。」


香水おじさんは苦笑いしながら、肩をすくめた。


そうこうしていると、事務所の奥からガタガタと音がした。見ると、縦も横もでかい体のスーツ姿のおじさんが台車に大量の食器を乗せて運んでくるところだった。


「おーい!新入り!歓迎会やるぞー!!」


声もでかい。


「え?」

「この事務所から出るのは、基本あいつが許されてないからな!事務所の中でやる!」


刑務所か。


気づくと、事務所の中央に折り畳みテーブルが並べられていた。

ずんぐりむっくりで茶髪ポニーテールのおばちゃんがテキパキと皿を並べている。そして、細くて俺の肩くらいしか身長のないニコニコした初老のじいさんがどこからともなく大量の料理を運んできた。


ごま豆腐、高野豆腐や野菜の煮物、野菜の天ぷら、白和え...。


「はいはい、どうぞどうぞ。」

「……これは、」

「精進料理だよ~命あるものは食べられないから。」

「...つまり、」

「肉と魚は、ないよ。」

「...おなか一杯になるかなあ。あ、スパイスあります?」

「それも禁止。」


初老のじいさんはニコニコしたまま答えた。笑顔が全く揺れない。俺は湯気のたつ薄味そうな煮物を眺めて、深くため息をついた。


全員が折り畳み椅子に座って、乾杯した。飲み物はお茶だった。


「俺はオオタ!」


全てがデカいおじさん...改めオオタさんが声高らかに言った。


「ミキでえ~す」

「キーだよ。」

「廣瀬 錬三郎だよ。」


...うん、何回聞いても香水おじさんは覚えられねえ。香水おじさんで。てか、みんなニックネームなんだから統一しろよな。


「よろしくお願いします。トモっす。」

「お前、身体デケーな!!なんかやってたのか?」


オオタさんは俺の腕をガシッと掴み、筋肉を確かめる。


「あ~~多分?記憶はないっすけどね……皆さんって、なんで守護霊やってるんすか?」

「お、直球だね。」


オオタさんはもったいぶって咳払いする。


「俺は社長やってた頃に、税金ちょろまかしてたらしい。少しだけな。少しだけなんだが、それが積もり積もったみてーだな。覚えてねーが。」

「私はね、」


ミキさんが手を挙げた。


「買い物が好きでね。借金しまくったみたい。で、返せないまま死んじゃったらしいわ。でも、それよりもこの人の方が、私は悪いと思う!」


ミキさんは香水おじさんを指差す。香水おじさんは苦笑いした。


「ああ、俺は浮気と不倫かな。でも、ありがたいことにいろんな人にすごく感謝されてたみたいで。差し引きでここになったらしい...覚えていないけどね。」


香水おじさんは困ったように笑った。

ちなみに、さっき香水おじさんに「神崎海外行かせるプロジェクト」の時に教えてもらったが、香水おじさんが臭いのではなく、担当者がめちゃくちゃ香水をつける人らしく、毎日その匂いが移ってくるそうだ。可哀そうに。

そして、香水おじさんは中肉中背の典型的なおじさん、って感じで特記事項のない見た目だ。


「キーさんは?」

「ん~。」


キーさんはニコニコしたまま少し間を置いた。


「ちょっと、いろいろやっちゃったみたい。」

「いろいろ?」

「いろいろ。」

「んも~!キーさんはいつも教えてくれないのよ!ここに来るくらいだから、全然大した罪じゃないのにね~!」


ミキさんに対し、キーさんは何も言わず笑顔のまま煮物を口に運んでいる。


絶対一番ヤバいやつだ、と俺は思った。穏やかなおじさんが実はヤクザの組長でした、くらいの怖さがある。


「トモくんは?」

「い~や、俺も別に大したことしてないんすけどね。皆さんに比べると。」

「おいおい!言うじゃねえか!」

「や~だ~も~!」

「あの変なメールのコピーには友達の革財布を食いちぎったこと、コンビニに教科書捨てたこと、とか書いてありましたね。そういうのの積み重ねだったっぽいっす。」


みんな、これにはドッと笑った。キーさんですら、ふふふっと昆布を噴き出して笑った。


「てか、俺、担当がクラスメイトだったんですよ!そいつをアメリカの社長にしねーと天国行けないんすよ!マジで助けてください!」


その瞬間、

再び事務所にドッと笑い声が響いた。でも、今度のはさっきの比じゃない。


オオタさんが腹を抱えてヒーヒー行ってるし。ミキさんが膝を叩いている。香水おじさんも震えながら静かに笑っている。


キーさんだけは、特に笑わずマイペースに煮物を食べ続けている。


「私もそれで今の担当にしたのよ!」

「どういうことっすか。」


オオタさんが笑いを収めながらテーブルに身を乗り出し、俺の肩に腕を回す。

俺より若干身長が小さい上、デカイ俺の身体にオオタさんは腕を回しきれなかった。


煙草くせえ。


「いいか、トモくんよ。担当者の基礎資料には確実に『将来的に影響力を持つ可能性がある』って書いてあったんだよ。」

「……え。」

「で、あいつが『これを達成させれば極楽浄土に行ける』って言う。だから皆、その担当を選ぶ。毎回それで担当者をこっちに決めさせる。あいつの常套句(じょうとうく)だ。」


おじさんは太い人差し指を見せつける。


「じゃあ、神崎が本当にアメリカの社長になれるかどうかは……。」

「ねえな。」


オオタさんはあっさり言った。


「うちの担当も最初の書類には『国際的なビジネスリーダーになる可能性』って書いてあった。今、地元の小さな工務店で働いてる。その気配、今のとこゼロ。」

「私の担当はね、『日本で大ブームを巻き起こす漫画の原作者』って書いてあったの。今はコンビニでフリーター。文字すら書かない。」

「俺の担当は、一応大きな企業の役員になった。」


香水おじさんは穏やかに笑った。


「今のところ一番成功してるんじゃない?」


ミキさんの言葉に香水おじさんは、弱弱しく笑う。


「そうだね...社会的には。子供に過度な教育虐待してなければ、だけど。あのままだと地獄行きだね。影響力が大きいのに、地獄行くならこんなことやっている意味ないよ全く。」


若干、気まずい空気になったので俺は話を変えることに。


「……てか本名なんすか。ジョセフって。」

「知らない。」


オオタさんが即答した。ミキさんもすぐ答える。


「誰も知らないの。名乗らないから。」

「俺がジョセフって呼んだら否定しなかったんすけどね。」

「あ、うまいことやったね。私はずっとあの外国人って呼んでるわ。」


オオタさんが腕を組んだ。


「噂によると、あいつの出生国の守護霊部署でも嫌われてたらしい。厳しすぎて。どこに行っても同じみたいだな。」

「ここでもそうだもんな。」


香水おじさんが穏やかに言った。


「イケメンだけど、本当に嫌い!」

「説明が少なすぎる。最低限しか言わない。」

「こっちが聞いても『マニュアルに書いてある』で終わらせるんだよ。」

「マニュアル、辞書より分厚いのに。」

「あと急に仏教用語出してくる。」

「『疲れは心の曇りだ』って真顔で言われた時は笑いそうになったわ。」

「笑えないのよ、あいつの顔で言われると。」


全員...キーさんと俺以外が深く頷いた。

俺は薄味の煮物を口に入れながら相槌を打った。……早く肉が食いたい。

極楽浄土行ったら食えるかな。

守護霊業務日報:第3日目


作成者: トモ担当対象の状態:ジョセフ鬼こわ


質問: ・怖い話しないでほしいです


・追加です。極楽浄土行ったら肉食えますか?

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