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勇者でも魔王でもない俺は、物語に殺される君を救う  作者: ハリオアマツバメは泣いた
第二章 役なしは星夜節の脚本を喰う
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第二章 5話 救護の荷

「リオだ」


そう言った自分の声が、やけに低く聞こえた。


門前で白い布が揺れている。ミナの手から離れたそれは、王宮兵の槍の柄に結びつけられていた。子どもの小さな手ではない。鎧を着た大人の手が、宿場の北門の内側で掲げている。


それでも、黒註は布に絡んでいた。


手が違う。


子が違う。


先に立つ者が違う。


荷が迷う。


さっきまでミナの手首へ食い込んでいた文字が、今度は布そのものにまとわりつき、細く震えている。嫌がっているように見えた。いや、嫌がっていると俺が思いたかっただけかもしれない。


それくらい、頭の中が散らかっていた。


鐘が鳴った。


一つ。


夜明けを告げるには、まだ早すぎる音だった。


空の端は、ようやく薄くなり始めたばかりだ。宿場の屋根も、門の杭柵も、道端に残った霜も、まだ夜の色を捨てきっていない。家々の戸口に吊られた星飾りも、火の入っていない蝋燭皿も、朝を迎える準備の手前で沈黙している。


それなのに、セレナ修道院の方角から、乾いた鐘の音だけが先に走ってきた。


リオ。


最初に、その名前が浮かんだ。


ノエが言っていた。リオは鐘の子だと。朝の鐘を鳴らす子だと。足が速いから、使いにも出る。旗にも出る。だから鐘が鳴ったなら、リオが動かされたのだと、俺はほとんど反射でそう考えた。


だが、すぐに引っかかった。


いや待て。


そもそも、そもそもだ。


今の鐘は、朝の鐘なのか。


違う。


まだ朝じゃない。少なくとも、宿場は朝として動いていない。門の兵も、宿の主人も、王宮兵たちも、夜の緊張の中にいる。空が少し白くなり始めただけで、太陽はまだ見えない。


なら、あれは朝が来たから鳴った鐘じゃない。


朝を来たことにするための鐘だ。


役目を始めるために、時間の方を無理やり前へ押し出した音だ。


そこで、頭の中のものが一気に散らかった。


ノエ。


ミナ。


リオ。


白布。


荷車。


イリス。


どれも別々のことに見えていた。見えていた、というより、俺がそう考えようとしていた。目の前で子どもが次々に出てくるせいで、その場その場を止めることしか考えられていなかった。


ノエは、何をしに来た。


白布を持って、荷車の前に立つためじゃない。


ノエは、イリスを迎えに来た。夜明け前に、セレナ修道院へ連れていくために。そう言っていた。いや、言わされていた。


じゃあ、ミナは何だった。


ミナは白布を持っていた。古井戸の手前まで来ていた。荷車より先に、道の前へ立つために。救護の荷を通すために、子どもの体で道を開けるために。


なら、リオは。


鐘の子。


朝を告げる子。


けれど、今は朝じゃない。


俺は、門前で揺れる白い布を見た。


白布そのものはある。だが、それを持つ手が違う。ミナが持っていた時には、黒註はあの子の手首を締めつけるように絡んでいた。今は、布の縁で所在なさげに揺れている。


手が違う。


子が違う。


先に立つ者が違う。


荷が迷う。


その文字を見て、ようやく俺の頭の中で、ばらばらだったものが少しずつ並び始めた。


イリスは、もともとセレナ修道院へ送られる予定だった。


それは最初から決まっていた。王都で処刑を免れたあと、監視つきで北西国境へ送られ、セレナ修道院に預けられる。王宮兵の目があり、宿場を通り、夜が明けてから正式に引き渡される。少なくとも俺は、そういう流れだと理解していた。


だったら、修道院は待てばいい。


夜が明ければ、イリスは向こうへ渡される。王宮兵が立ち会う。手続きは面倒だろうが、表向きは何もおかしくない。教会は正面から、王宮兵の手で連れてこられたイリスを受け取ればいいだけだ。


なのに、ノエが来た。


夜明け前に。


宿場の人間が眠っている時間に。


門の見張りも、宿の者も、まだ最低限しか動いていない時間に。


王宮兵の目が、昼間ほど多くない時間に。


イリスを早く引き取りたい理由がある。


そこまで考えた時、視線が自然と北の道へ戻った。


まだ荷車そのものは見えていない。けれど、道の奥から、かすかな軋みが聞こえる気がした。車輪が凍った轍を噛む音。馬が鼻を鳴らす音。夜明け前の静けさの中では、まだ遠い気配までやけに大きく感じる。


救護の荷車。


それは、単に北側へ救護の荷を運ぶためだけのものなのか。


違う。


少なくとも、今この夜明け前に限っては違う。


ノエが言葉でイリスの引き渡しを早める。


ミナが白布を持って、荷車を宿場側へ通す。


荷車は救護の荷を積みながら、イリスを修道院へ連れていく。


そう考えると、ノエとミナが別々に動かされた意味がつながった。


ノエは、前倒しの引き取りを成立させるための使い。


ミナは、その迎えの荷車を通すための白布役。


そしてリオは、鐘を鳴らす。


ただ時刻を知らせるためじゃない。


鐘が鳴れば、修道院の朝の役目が始まる。荷車が出る。子どもたちが配置につく。白布の子が、荷車の前に立つ。


本来なら、それはミナだった。


けれどミナは戻っていない。


ノエも戻っていない。


だから、リオの鐘が使われた。


リオがここへ走ってくる必要はない。鐘を鳴らした時点で、もう使われている。まだ朝ではない時間を、朝の聖務が始まった時間に変えるために。荷車を出し、イリスを引き取り、白布の子どもを配置するために。


ノエが言っていた言葉が、ここでようやくつながった。


俺は、頭の中で順番をもう一度並べ直した。


本来なら、夜明け後にイリスを正式に引き渡す。


けれど修道院は、夜明け前にノエを遣わした。


本来なら、救護の荷車は聖務として北へ出る。


けれど今は、その荷車がイリスを回収する迎えも兼ねている。


本来なら、朝の鐘は朝になってから鳴る。


けれど今は、まだ朝ではないのに鳴った。


イリスの引き取り。


救護の荷車。


白布の子ども。


朝ではない鐘。


リオ。


別々じゃない。


少なくとも、黒註は別々に扱っていない。


全部が同じ夜明け前に押し込まれている。


宿場がまだ眠っている時間。


王宮兵の目が薄い時間。


門が完全には開ききっていない時間。


子どもを先に立たせれば、荷車が進めてしまう時間。


そこまで考えて、俺は口の中が乾いていることに気づいた。


ノエが戻っていないことは、まだ修道院に伝わっていないはずだった。


ミナも同じだ。あの子は今、王国側の門の内側にいる。ユアンに背負われて、宿へ戻されたばかりだ。セレナ修道院へ知らせに走った者なんていない。そんな時間はなかった。


なのに、鐘が鳴った。


荷車は動こうとしている。


次の役目が、もう埋められようとしている。


誰かが見て、報せて、命じているなら分かる。


だが、その道がない。


あるとすれば、人間の目ではないものが、役目の空きを見ている。


ノエが戻らないなら、ミナ。


ミナが止まるなら、リオの鐘。


白布を持つ子が欠けたなら、朝を前倒しにしてでも次の役目を始める。


黒註は、子ども一人の喉や手首に絡んでいるだけじゃない。


もっと奥だ。


修道院の門。


荷車の轍。


鐘の音。


白い布。


その全部を、一本の黒い線が結んでいる。


俺には、そう見えた。


「……気持ち悪いな」


思わず、口から漏れた。


イリスがこちらを見る。


「何がですか」


すぐには答えられなかった。


俺自身、まだ言葉にしきれていない。ただ、ノエを止めた時とも、ミナの黒註を喰った時とも違う気味の悪さがあった。目の前の一人を引き戻しても、空いた場所に別の誰かが押し込まれる。


いや、今回は少し違う。


別の誰かが目の前に来る前に、鐘が鳴った。


時間そのものが押し出された。


まるで修道院そのものが、一つの大きな口みたいに、足りない役目を探している。


「早すぎる」


俺は言った。


「ノエもミナも戻ってない。向こうがそれを知ってるはずがない。なのに、もう次が動いてる」


イリスは何も言わなかった。


ただ、門前で揺れる白布と、北の道と、修道院の方角を順に見た。


その沈黙で、彼女も同じ場所に目を向けているのが分かった。


「人が知らせてるんじゃない」


俺は続けた。


「たぶん、役目の方が先に動いてる。欠けたところへ、次の形を入れるみたいに」


言ってから、自分でも嫌になった。


役目の方が動いている。


まるで、人間より先に脚本が息をしているみたいな言い方だ。


けれど、今見えているものは、そうとしか言えなかった。


俺は門前で白布を掲げる王宮兵を見た。


子どもの手ではない。


鎧を着た大人の手。


それだけで、黒註は嫌がっている。


なら、逆に考えればいい。


あいつらは、白布なら何でもいいわけじゃない。


子どもが持っていなければならない理由がある。


「なあ」


俺は、近くにいた王宮兵へ声をかけた。


「なんで子どもなんだ。大人が持てば済むだろ、あんなもん」


答えたのは、オルドではなかった。


門柱のそばで弓を下ろしていた兵が、白布を見上げた。三十を少し越えたくらいだろうか。頬に古い傷が一本あり、目つきは悪いが、さっきミナを見た時には唇を噛んでいた男だった。


「ここだけならな」


「ここだけ?」


「俺たちは、あの戦の当事者じゃない。王国の門を通すかどうかを見るだけなら、大人が来ようが子どもが来ようが、本来は変わらん」


兵はそこで一度、北の道を見た。


門の外は、少しずつ明るくなってきている。それでも、道の先はまだ灰色の影の中に沈んでいた。車輪の音は、さっきよりはっきり聞こえる。


「けど、戦地じゃ違う」


「違う?」


「大人なら止められる。白い布を持っていても、荷車は荷車だ。中を見せろと言える。場合によっては、縛ってでも止める」


「子どもなら?」


兵は、少しだけ言葉を選んだ。


選んだというより、口に出すだけで嫌になるものを、どうにか短くしようとしているようだった。


「槍先が下がる」


兵は言った。


「怒鳴る声が遅れる。弓を引く指が、一瞬止まる」


その一瞬。


ミナの赤くなった指が、白布の棒を握りしめていた光景が浮かんだ。ノエが、戻らないと数が合わないと言った声も。


「その一瞬で、荷車は前へ出る。止めれば、救護の子を怯えさせた側になる。撃てば、撃った方が悪者だ。通せば、荷は抜ける」


兵は短く息を吐いた。


「あいつらの荷車は、この砦の方だけに出てるわけじゃないらしい。北の小道、川沿いの陣、グラスト側の救護所。教会の教えは国境を越えて広まってるからな。王国側だろうがグラスト側だろうが、聖印のある救護所なら出入りしていると聞く。白布をつけた荷車が、星夜節前から何度も出ていると聞く」


「戦地にもか」


「噂だ」


兵はそう言ったが、否定する声ではなかった。


「だが、戦地じゃ子どもは効く。腹立つくらいにな。教会には人の心がねえのさ」


近くにいた別の兵が、わざとらしく咳払いをした。


オルドも、こちらを見ている。


兵は肩をすくめた。


「……おっと。聖職者様への敬意を忘れるところだった。今のは聞かなかったことにしてくれ」


「無理だな」


俺は言った。


「俺も同じこと思ってた」


兵は、少しだけ口元を歪めた。


笑ったわけではない。ただ、怒りをそのまま顔に出す代わりに、そうしただけだった。


白い布が道を開くのではない。


白い布を持たされた子どもを、誰も撃ちたくないだけだ。


ノエが夜道を走らされた理由。


ミナが足を痛めても白布を握っていた理由。


そしてリオが、まだ朝ではないのに鐘を鳴らされた理由。


全部が、一本につながる。


口の奥に、黒註を喰った時とは違う苦味が広がった。


その時、物見台の上から声が飛んだ。


「北側、荷車です!」

















全員の視線が、北の道へ向いた。


灰色の朝もどきの中から、馬の影が現れる。低い車輪の軋み。凍った轍を踏む音。荷台の上には厚い覆い布がかかり、側面にはセレナ修道院の印が見えた。


白い布を見つけたのだろう。


荷車は一度、まっすぐこちらへ進みかけた。


だが、距離が近づくにつれて、その動きが鈍った。


馭者の手綱が、わずかに引かれる。


荷台の奥で、人影が動く。


修道服を着た若い男が、覆い布の隙間から顔を出した。まだ二十代に見える。眠っていたわけではなさそうだったが、目の下に疲れが残っている。男は門前の白布を見て、それから、その周りを見た。


子どもを探している。


ミナの姿を。


あるいは、別の小さな影を。


白布を掲げているのが王宮兵だと気づいた瞬間、男の表情がほんの少しだけ強張った。


それは、驚きというより、計算が狂った時の顔だった。


俺の隣で、さっきの兵が低く呟く。


「ほらな」


荷車は門前で止まった。


馬が白い息を吐く。車輪の木枠にこびりついた泥が凍り、ところどころ白くなっていた。荷台の覆い布には、夜露が細かくついている。救護の荷と書かれた木札がぶら下がっていた。


修道服の男が荷台から降りる。


「セレナ修道院の救護荷です」


男は、王宮兵を見て丁寧に頭を下げた。


声は落ち着いている。落ち着きすぎている。


「北側の負傷者が待っております。星夜節前の聖務につき、どうか道をお開けください」


オルドは、門の前から動かなかった。


「夜明け前の通行だ。荷を検める」


修道服の男の眉が、わずかに動いた。


「救護の荷です」


「なら、なおさら検める」


オルドの声は平らだった。


怒っていない。


だからこそ、相手が言葉を差し込みにくい。


「子どもを夜道に出した理由も聞く。白布を持たせ、荷車より先に立たせた理由もだ」


男の視線が、門前に掲げられた白布へ向いた。


そこには子どもがいない。


王宮兵がいるだけだ。


「……手違いがあったようです」


男は言った。


「子どもたちは、聖務の手伝いをしているだけです。救護の道を示すために」


「足を痛めた子どもを、夜明け前の道に出してか」


オルドが返す。


男は一瞬黙った。


その沈黙だけで、十分だった。


イリスが一歩前へ出た。


オルドより前には出ない。だが、荷車の側面にかかった荷札を見るには十分な位置だった。彼女の目は、覆い布ではなく、木札と封蝋を見ている。


俺は、その視線の動きで分かった。


イリスは黒註を見ていない。


だが、別のものを読んでいる。


「その荷は、宿場の施療所へ向かうものではありませんね」


イリスが言った。


修道服の男の目が、今度こそはっきりと動いた。


「何を」


「北側の印があります。砦か、その先の補給路へ向かう荷です」


彼女は木札を見たまま続ける。


「救護の荷であることは、否定しません。ですが、少なくとも宿場内の施しではありません。修道院内の子どもたちのための荷でもない」


男の顔から、礼儀正しい表情が少し剥がれた。


「ヴァルクライン嬢」


その呼び方で、俺の視線が男へ向いた。


男は、イリスを知っている。


いや、知っていて当然か。


この荷車は、救護の荷だけではない。


イリスを迎えに来た荷車でもある。


男は姿勢を正した。


「あなたのお迎えも仰せつかっております。朝の聖務に合わせ、修道院へお連れするようにと」


「私の引き渡しは、夜明け後の正式手続きで行われるはずです」


イリスの声は静かだった。


「王宮兵の立ち会いのもとで」


「鐘が鳴りました」


男はそう言った。


「修道院では、すでに朝の聖務が始まっております」


朝。


その言葉が、ひどく嫌な形で耳に残った。


まだ朝ではない。


なのに、鐘が鳴ったから朝だと言う。


鐘が鳴ったから、聖務が始まったと言う。


鐘が鳴ったから、イリスを渡せと言う。


鐘が鳴ったから、荷を通せと言う。


リオは、ここにはいない。


それでも、もう使われている。


鐘を鳴らした時点で、あいつはこの荷車を動かすための役目に組み込まれている。


俺の目に、黒註が浮かぶ。


鐘の子は、朝を告げる。


朝を告げれば、役目が始まる。


役目が始まれば、荷は進む。


荷が進めば、女は門を越える。


文字は、荷車の車輪、白布、修道服の男の足元、そして北の道へ絡んでいた。一本ではない。何本もの細い線が、同じ方向へ引かれている。


イリスを乗せろ。


荷を通せ。


子を立てよ。


欠けた役目を埋めよ。


俺は歯を食いしばった。


「オルド隊長」


イリスが言った。


「この荷車を通すべきではありません」


「理由は」


「荷の行き先が、宿場ではありません。私の引き渡しも、予定より早められています。さらに、子どもを先導に使った形跡があります」


言葉は冷静だった。


だが、その横顔は少しだけ硬い。


彼女も分かっているのだろう。


ここで荷車を通せば、教会側が主導権を握る。


救護の名で荷が北へ進む。


イリスも荷車に乗せられる。


そして、子どもを白布役にすれば道が開くという筋道が、また通ってしまう。


オルドは短く頷いた。


「荷を検める。ヴァルクライン嬢の引き渡しは予定通り夜明け後だ。それまでは王宮兵の監視下に置く」


修道服の男の声が、少しだけ強くなった。


「聖務の妨げになります。負傷者が待っています」


「ならば、なおさら急ぐ前に中身を確認する」


「教会の荷を疑うのですか」


「子どもを夜道に出した者を、私は疑う」


その一言で、門前の空気が変わった。


修道服の男は口を閉じた。


荷車の後ろで、馭者が手綱を握り直す。馬が落ち着かないように首を振った。白い息が朝もどきの空気に溶ける。


その時だった。


修道院の方角で、もう一度鐘が鳴った。


今度は、一つではなかった。


短く、二つ。


間を置かずに、さらに一つ。


通常の朝鐘ではない。


急かすような音だった。


修道服の男が、わずかに顔を上げる。


待っていた音だった。


そう見えた。


「鐘が鳴りました」


男は、さっきよりもはっきりと言った。


「これ以上の足止めは、朝の聖務を妨げることになります。負傷者への救護も遅れます」


朝の聖務。


また、その言葉だ。


空はまだ薄い。宿場の屋根も、道端の霜も、荷車の車輪についた泥も、灰色の中で冷えきっている。


それでも、鐘が鳴れば朝だと言う。


鐘が鳴れば、聖務が始まったと言う。


鐘が鳴れば、荷を通せる。


鐘が鳴れば、イリスを引き渡せる。


リオは、ここに走ってくる必要なんかなかった。


もう十分に使われている。


鐘の音だけで。


ノエがイリスを呼びに来た。


ミナが白布を持って道に立たされた。


リオが鐘を鳴らし、朝を前倒しにした。


三人とも、別々のことをさせられているようで、全部が同じ荷車へつながっていた。


俺の目に、黒註が走る。


鐘が鳴れば、朝となる。


朝となれば、聖務が始まる。


聖務が始まれば、荷は進む。


荷が進めば、女は門を越える。


白布が止まるなら、鐘を鳴らせ。


鐘が鳴れば、道は開く。


門前の白布が風に鳴った。


子どもの手からは奪った。


だが、脚本はまだ、別の形で道を作ろうとしている。


「……ふざけんな」


声が漏れた。


その布に絡む黒註は、さっきより濃くなっていた。


読んでいただきありがとうございます♪

感想、リアクション等よろしくお願いいたしますm(__)m

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