新章「甲鉄の黒潮 USSポーハタン VS サイレント・サンダー・震電丸!」 Episode 2 The Beautiful Sea Witch 『美しき海の魔女』
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新章「甲鉄の黒潮 USSポーハタン VS サイレント・サンダー・震電丸!」
Episode 2
The Beautiful Sea Witch
『美しき海の魔女』
瀬戸内海――。
小倉湾を離れたアメリカ海軍外輪フリゲート艦 USSポーハタン は、穏やかな海を西へ進んでいた。
艦橋では艦長ロジャーズが双眼鏡を下ろし、大きく息をつく。
「……ようやく静かになった。」
楽勝と思い、幕府軍からの要請を受けて参戦した長州遠征。
しかし現実は想像を遥かに超えていた。
大島口では、海中から襲いかかる正体不明の潜航艦。
水柱と共に飛来する魚雷。
さらに STEAM NINJA の強襲で砲塔区画は壊滅した。
戦場を小倉口へ移しても悪夢は終わらない。
長州艦隊の猛攻。
空から襲来する サイレント・サンダースカイ震電丸・空中強襲仕様 の爆撃。
援軍として駆けつけた USSサスケハナ までもが撃墜され、幕府軍は総崩れとなって撤退した。
今、周囲には船影一つない。
見渡す限り青い海。
高く昇った太陽。
視界は良好。
ロジャーズはようやく肩の力を抜いた。
葉巻に火をつけ、ゆっくりと煙を吐く。
「これ以上、アメリカ合衆国の軍艦を損傷させれば……。」
「私は本国で縛り首だ。」
苦笑しながらも、その表情は重い。
彼の頭に浮かぶのは、あの戦いだった。
「ジャップ……いや。」
「日本には、とてつもない戦闘力を持つ藩が存在する。」
「我々アメリカ艦隊と互角……いや、それ以上だ。」
そして、もう一つ。
「あの……ニンジャ。」
「ニンジャとは一体何者なんだ?」
「アサシンのような存在ではなかったのか?」
「蒸気で空を飛び。」
「異様な忍術を操り。」
「戦闘飛行船まで運用する……。」
ロジャーズは信じられないという表情で海を見つめる。
「ホワッツ……。」
「清とも、ルソンとも、朝鮮とも、インドとも違う。」
「日本には……上陸戦を仕掛けてはならない。」
「侍。」
「そして……ニンジャ。」
再び葉巻をくわえた、その時だった。
見張り員が叫ぶ。
「艦長!」
「三時方向!」
「海面に白い航跡!」
ロジャーズが双眼鏡を向ける。
海面を一直線に切り裂きながら、二本の白い線が猛烈な速度で迫ってくる。
「ホワッツ!?」
「魚雷だ!!」
次の瞬間――。
ドォォン!!
ドォォン!!
艦全体が激しく震えた。
右舷側に衝撃が走る。
煙と海水が高く吹き上がる。
「海を潜るニンジャの船だ!!」
「戦闘警報!」
「総員戦闘配置!」
「三時方向より魚雷攻撃!」
鐘が激しく鳴り響く。
乗組員たちは一斉に持ち場へ駆け出した。
「被害報告!」
「損害軽微!」
「浸水なし!」
「機関、航行可能!」
ロジャーズは歯を食いしばる。
「来ると思っていた……!」
「奴らはまだいた!」
---
その少し前…
海面下十数メートル。
USSポーハタンの三時方向八キロ…
静寂の中を漂う黒い潜航艦。
サイレント・サンダー・震電丸。
---
海中。
静寂だけが支配する世界。
震電丸の艦橋に立つ一人の少女。
雫・ア・アンジャ・グアルディン。
豊後国は大友宗麟の時代から交流が続く…
ポルトガル人とのハーフ。
透き通るような白い肌。
陽光を浴びれば黄金に輝くだろう長い髪。
吸い込まれそうな蒼い瞳。
西洋人形のように整った顔立ち。
まるで貴族の令嬢。
あるいは王宮に飾られる絵画から抜け出してきた女神。
戦場には、あまりにも似つかわしくない美しさだった。
だが――。
その蒼い瞳が敵を捉えた瞬間。
空気が変わる。
美しかった顔から微笑みは完全に消え去り、鋭い眼光が鋼の刃のように光る。
敵を沈めることだけを考える冷徹な戦士。
艦内の乗組員でさえ、その視線を浴びれば背筋が凍る。
その美貌と殺気の落差こそ、大友忍軍が誇る"海のエース"の真の姿だった。
雫・ア・アンジャ・グアルディンは震電丸の隔壁へ、そっと右手を添える。
ゆっくり目を閉じる。
耳ではない。
海そのものを"聴く"。
隕石ウイルスの「力」水流操作!
遠く八キロ先から伝わる微かな振動。
ポーハタンの巨大な外輪が海水を叩く低い鼓動。
一拍。
また一拍。
その振動が海流に乗って彼女の指先へ流れ込む。
脳裏には、見えないはずの敵艦の姿が鮮明に浮かび上がる。
「…ふー。……右外輪…」
静かな声。
だが、その一言で艦内の空気が張り詰める。
「魚雷室!」
「一番!、二番!、発射準備!」
乗組員は一切の無駄口を叩かない。
金属音だけが短く響く。
「装填完了!」
雫・ア・アンジャ・グアルディンは敵の進路を計算する。
撃つのは"今"ではない。
外輪が次の波を受ける瞬間。
船体がわずかに右へ傾く、その一瞬。
「……三。」
「二…」
「一…」
青い瞳が見開かれる。
「ファイアーッ!!!」
二本の魚雷は音もなく暗い海を駆けた。
海面のポーハタンでは誰も気付かない。
しかし数秒後。
見張り員が叫ぶ。
「右舷!」
「白い航跡二本!」
ロジャーズが振り向いた瞬間――。
轟音とともに巨大な水柱が右舷を包み込み、水柱と蒸気が空へ舞い上がった。
---
彼女は目を閉じ、海を流れる振動へ意識を集中させていた。
爆発音が海水を伝わる!
その波を全身で感じ取る!
静かに口を開く。
「命中!」
「ふたはつ!」
一瞬、沈黙。
そして表情が険しく変わる。
「……損害なし…」
悔しさが胸を突き刺す。
「くっ……!!」
歯を食いしばる!
怒りが込み上げる。
黄金の髪が揺れる。
青い瞳が鋭く光る。
透き通るような白い肌。
人形のような美貌。
しかし、その美しい顔には戦士の殺気が宿っていた。
「敵艦……健在!」
「次で仕留める!」
彼女は震電丸の鋼鉄の隔壁に手を添える。
水の流れ。
船体を伝う微細な振動。
そして――
音。
ポーハタンの巨大な外輪が海を叩く低い鼓動。
ドン……
ドン……
ドン……
雫・ア・アンジャ・グアルディンの脳裏に、音だけで敵艦の位置と向きが鮮明に描かれる。
「見えた!」
「右外輪!」
彼女は音響管へ向かって力強く叫ぶ!
「魚雷室!」
「次弾装填!」
艦内に復唱が響く。
「次弾装填!」
「魚雷一番、二番、装填完了!」
雫・ア・アンジャ・グアルディンは静かに右手を前へ伸ばした。
「ウエッポンレディ!」
「ファイアーッ!!!」
圧縮蒸気とともに二本の魚雷が発射管から滑り出す。
音もなく海中を疾走する魚雷は、やがてポーハタンの右舷へ吸い寄せられるように接近した。
一発目が外輪の直前をかすめる。
そして二発目が――
ドゴォォォン!!
右外輪に直撃。
巨大な水柱とともに木製の外輪が砕け散り、蒸気と木片が空高く舞い上がった!
右外輪は大きく破損し、ポーハタンの速力が目に見えて落ち始める――。
USSポーハタンの右舷八キロの海中!
雫・ア・アンジャ・グアルディンの天才的な水中戦術が始まった!
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