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ルッキズム死ね。でも美少女にはなりたい。  作者: :)
第五章『終わるもの』

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回天

前線本部より観察していた、フカの登場と、ハタ・カナモリの死亡という絶望。

そして、通信機に嫌と言うほど届いてくる、作戦本部からの撤退命令。従う余裕がないからと放置していたらやがて届いた、北部、西部、東部の京都市包囲ラインが突破されたという報。市外、府外に流入したキャスタウェイが殺戮を始めたという報。


10月3日、午前11時37分。

端的に言ってこの世の終わりを抱いていた、その時現れた、ルェイの姿。吸血姫の姿。


どうしろと?


「やっ、やっぱり捨ててきた方が良かったかな!?どうなのかな!?ネヤガワ!?」


「そう…、だね…」


分からない。寝屋川にも分からない。


が、思うに、意味があるのだ。

吸血姫の死体が今ココにあることには。意味があるに違いないのだ。

川から流れてきた訳ではない、何でもない、誰でもない『Lucky Man』のルェイが連れてきたのだ。


考える。そして浮かぶ、"こうとしか考えられないという一つの解釈"。否定しようとしてみる。しかし、「いや、でも…」と、寝屋川の脳はその解釈を賛成し続ける。偶然にも、彼女が"彼"の人となりを知っていることもまた、この際運命に感じる。


寝屋川は、オドオドするルェイから吸血姫の身柄を預かった。旧伊勢居地コア子捜索隊にその場を任せた。そして、直ちに遺体を医療ベッドに連れて行った。


しかし、その行為だけでも周囲からの反対の声は凄まじかった。医療班の驚愕。通信班の恐怖。

その意見は、救急医療の後、持ち前のバイタリティで目覚めたばかりの強者達も同じだった。


「どういうことだネヤガワ?我々の手柄ではないとはいえ、吸血姫の死は人類側における確かな成果だろ?」


頭に包帯を巻いたヴァヴァが指摘する。

彼に同意するポールボールが更に寝屋川を追求する。


「その、地べたではなく、ベッドの上彼女を寝かせるということには、少なからず悪い意味を見い出せるぞ?なぁ、冗談だと言ってくれないか?」


…寝屋川は、しかし、彼らの主張に対抗しない。彼らが今に抱く恐怖は分かる。特に彼らは欧州出身で、歴史的に見て、日本人よりも遥かに吸血姫の恐怖に晒され続けてきた民族だ。


それに何より、彼らと彼女で決定的に違うのは…、


「ポールボール。一つ訂正だ。この子は『彼女』じゃなくて『彼』だ。それに、友達の子だ。幾ら大敵とは言え、そんな関係の子を地べたに寝っ転がらせる訳にはいかないだろ?」


あぁ、まぁ、これから私が始める行為は、きっとこの場の誰にも理解されないのだろうなと寝屋川は思った。

でも彼女は、知るからこそ、凪野海を救う際に見せてくれた彼の強さを知るからこそ、やらない訳にはいかないと決心した。


現実改変が有効なのは残り1分と2秒。


輸血パックをくれと言っても抵抗されるだろう。そこでごちゃごちゃしてる内に安全時間が過ぎてもなんだ。

だから、寝屋川は自身の左手首を噛み切った。そして、カッターで切るよりも野蛮に溢れる自分の血を、吸血姫の口にあてがった。


「はっ…、はあっ!?なにっ…、してんですか!?」


八雲幽玄がいの一番に飛び上がり、寝屋川を静止せんと駆け寄る。彼女の左腕を両手で掴み、引き剥がそうとする。続けてポールボールも、ヴァヴァも、役目を終えてずっと前線本部で待機していたアム・イブ=サンまでもが阻止に参加する。全員顔面蒼白で、まるで核ミサイルの発射スイッチに指を置いた馬鹿野郎を見るような目で、寝屋川を取り押さえようとする。


しかし、寝屋川は決して引き下がらない。右手でベッドのフレームを持って自分を固定するように引き寄せて、左手首に吸血姫の牙をねじ込ませて、互いが決して離れないようにする。


同時に、分かってくれと周囲に訴える。


「もうこれしかないんだ!人類がフカに勝つ方法は!彼を信じるしか、彼の理性を信じるしかないんだ!」


それでも、寝屋川を否定する周囲。

だが、それでも止まらない彼女。


彼の事情を知るからこそ。

しかし、彼の事情を知るからこそ。


謝罪と共に、それでも彼を、現実へ引き戻さんとする。


(なぁ君、辛かったろう。苦しかったろう。だから、今に死ねてホッとしてるだろう。けど、そんな君にお願いだよ。酷な、酷なお願いだよ)

(私達を助けるために、もう一度地獄に戻って来てよ)


だが、いくら寝屋川冬香でも多勢に無勢で、彼女は間もなく、引き剥がされた。取り押さえられた。

何も果たされぬまま、2分は過ぎようとした。





天井から伝う血の糸よ。

しかしまだ、彼には届かない。

深海の底のようなまどろみの中、魚の死骸のように沈む彼は幸福であった。


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