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ルッキズム死ね。でも美少女にはなりたい。  作者: :)
第五章『終わるもの』

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敗北ばかりの最終決戦(2)

地震のような衝撃が建物を包む。


「始まった…」


じゃあ行ってくる、終わるまでここで待っててね?と網走さんに言われた僕は、玄関で、靴は履いてるのに座っている。

僕の戦いなのに、しかし、立てずにいる。


吸血姫が静かに言った。


『…結論を出すことだけが正解じゃない。決断から逃げることだって、立派に生きるということだ』


「…」


『…Strike Onは、今すぐにでも使える。本当はこの力になんか頼ってほしくないが…。しかし、君が望むなら使い方を教える。それで、この力で全てを蹴散らして、逃げて、逃げればいい。時間はかかれど血はいずれ抜けるから、それからやり直せば、それで…』


「…」


『どうして不幸に立ち向かうのさ…』





本町一乗が息を切らす。

若く、才覚に溢れる、紫野の尊敬する兄であり、誇り高き本町家当主である彼が、立場で言えば同格のアバシリ・セイに防戦一方となる。


宙に飛び上がる。地上には戦闘開始と共に意気揚々と敵の懐に飛び込み、一瞬で蹴散らされた網走家六角隊と網走雲海の計6人がホウ酸団子で死んだアリの群れのように横たわっている。


あぁ、だから油断するなと、こんなところで家族喧嘩はするなと言ったのだ。それなのに、嫉妬剥き出しで、お前など網走家当主に相応しくないと言わんばかりに突っ込んだ雲海は馬鹿だ。それに盲目的に付き従った六角隊も馬鹿まみれだ。


これならまだ紫野が出た方が良かっただろうに。…いや、あの子は吸血姫のことが大好きだから無いか。

にしたってだ。もっと適任者が居たはずだ。


だのに、どうせあの出来の悪い目立ちたがりボンボン次男に唆されたんだろうな。

馬鹿、本当馬鹿、早く寝屋川に椅子を返せ中尾の馬鹿。


「!?」


宙に逃げた彼の前に、アバシリ・セイは間もなく現れる。まるで瞬間移動でもしたかのように一瞬で目の前に現れる。普段の仕事を想起させない、質素な装束姿。一乗と同じ、御三家の霊能力者としての戦闘服。


しかし、彼の拳は、一乗のそれと比べると、巨大。


「ッ!」


一乗は、すかさず能力を発揮させる。


『Breakin' out(ぶっ飛ばしてやる)』


触れたものをなんでも倍化できる力。

質量でも、運動エネルギーでも。身体に触れれば、腕力でも、脚力でも、回復力でも。


単純だが、とかく強い。今に自らの手で自らの腕に触れた、彼の腕力は通常の13000倍。威力にして約4000トン相当。鉄筋ビルだろうが、高速道路だろうが一撃で粉砕するパワー。破壊力。


だが、そんなものは、能力の格を前には無力。


空中でアバシリ・セイと拳を衝突させた一乗は、しかし、"互角"。いや、寧ろ、体躯の関係でアバシリ・セイに力比べで"負ける"。


その原因は当然、アバシリ・セイの力にある。


『Over The Rainbow(誰もワタシに追いつけない)』は、場合によっては吸血姫さえ上回ると言う。

その力は『加速』であり、彼に、対象を置き去りにする速度を与える。そして、そこにある全ての法則を完全に無視する。


概念さえ無視する。


ただし、制限はある。『加速』には時間を要し、その長さは置き去りにする対象に応じて増減する。

たとえば吸血姫の力やBlack Outのような規格外の力を追い抜こうとしたら、それこそ無限とも言える時間がかかるが、


一方で、"物理的な力関係などという単純なものであれば"あっと言う間に置き去りにする。

そう、たとえば、今の一乗の能力のような。


拳を押し戻され、どころか、全身ごと吹き飛ばされ、背後の商業ビルに叩きつけられ、落下した一乗は、意識を飛ばしかけながら思う。


(勝てない!分かっていたことだけどもこれほどまでに!彼との戦闘に備えて幾らかの『宝具』を持ってきたが、それもこのザマじゃ効くかどうか分からない!)


そう思っている間にもアバシリ・セイは迫る。地上に着地し、今に膝をついている一乗を狙う。彼は慌てて懐から頼りない宝具を取り出す。『アメノカグヤマ』。振りかざすことで高出力レーザーを発射できる鹿の角。効くか?いや、効いて。助かりたい一心で彼は放つ。


結果は命中。レーザーは凄まじい貫通力を以てアバシリ・セイの右肺を確実に貫いた。光景を目の当たりにした一乗は一瞬、助かったのだとホッとする。


が、駄目。既に『負傷』を置き去りにしていたアバシリ・セイは、貫かれた肺など、意に介さない。確かにどてっ腹が空いたはずだった彼の胸は、次の瞬間にはまるで何事も無かったかのように無傷へと化す。無に帰す。擬似的な不死性。敗北の不可能性。


そして彼は、一乗へ追撃を振りかざす。15年のブランクなんてまるで感じさせない、存在の凄まじさ、リヴァイアサンが如く絶望的な巨大さは、遂に、どてっ腹への回し蹴りとなって本町家当主という偉大なる権力者を鼻で嗤わんとす…。


寸前、


「うひェェェェェッ!!」


アバシリ・セイめがけて、ルェイが飛び込んできた。


「「!?」」


飛び込んできた?

いや、ルェイは近くに居たヴァヴァに思い切り投げ飛ばされていた。


だから、これは彼女の意志での戦闘への介入ではなく、

結果、彼女は確かに、アバシリ・セイの横っ腹にぶつかり、彼の体勢を崩し、一乗が逃げ出せる隙を作り出したものの、それ以降は、


「すみまセン!すみまセン!すみまセン!」


謝る以外、何もしない。

だが、彼女はそれでも、十分であった。


何故なら、体勢を立て直したアバシリ・セイが、彼女を即座に敵と認識し、排除にかかるも、

何故か、彼の足元のマンホールが突然噴出し、彼を後方へ吹き飛ばした。更に、立ち上がろうとしても、サイドブレーキ引き忘れパーキングブレーキ入れ忘れのタンクローリーが追撃のように彼を轢き、そのまま彼の体を巻き込みながらドラックストアに突っ込み、大爆発して周囲ごと彼を吹き飛ばした。


しかしその間、ルェイは「ひぇェ…!」と頭を抱えてうずくまっているだけ。


『Lucky Man(俺の幸運をくらえ)』


単純に運が良くなる、どころか、世界が彼女の都合の良いように動く。

能力者にそれ以外は全く与えないが、しかし、それだけは確かに与える。


「なんやそれ!セコいな!」


一乗がヴァヴァに感想を叫ぶ。

ヴァヴァも全力で同意する。


「だが、あれこそが運動神経も頭も悪い、故に自分に自信の欠片もない、とかく弱気な少女が、それでも中国という巨大なフィールドでトップレベルである所以だ。…絶対に敵に回したくない能力だ」


「ホンマになぁ!やけど…」


爆炎を撒き散らす元ドラックストアの中から、何だか嫌なエネルギーの流れを感じる。


「…アレ、もしかしてセイの奴、今、『運』すらも置き去りにしたんとちゃうん?」


「だとしたら…、えっ?やっぱりアゼヲの相手をした方が良かったかな?」


二人は冷や汗をかきながら顔を見合わせた。


けど残念。彼らの期待に反して対アゼヲ戦線も散々だった。

いや、むしろ、こっちの方が悲惨だった。


「おい、お前さんら」


その証拠に、今に彼らに呼びかけた、アゼヲは別になんて事ないって顔をして、瀕死の重病人二人を彼らの前に放り投げた。


「幽玄…、ポールボール…」


「ん、まぁまぁ頑張ったと思うぞ、小奴ら。…で、次はどちらが相手してくれるのかの」


彼女の能力。


『Max Power(お前ら全員泣かす)』


あらゆる因果を無視して戦いに必ず勝つ力。

彼らに絶望を与える力。





同時刻。


場面は変わって、地下鉄東西線、京都市役所前駅から徒歩5分、姉小路沿い、近くにローソンもあるし、寺町通りを下ればとらのあなまである割と俗っぽい場所、そんな場所に佇む『表札のない大屋敷』。


本町家本家である。

そして、宝物殿とは、この大屋敷の地下に存在する、とても傍に地下鉄が通っていると思えない、ゼスト御池があるとは思えない巨大な異空間に建築された蔵を指すのである。


「…なるほど?今のような非常時には、この地下へ続く階段と異空間との接続を遮断してしまい、代わりにこぢんまりとした酒蔵に繋げてしまうのか。コソ泥にそもそも宝に触れるチャンスすら与えない。うん、全ての銀行と宝石店がこうだと良いね」


口ではそう言いつつ、しかし、GBは呆気なく階段と異空間を再接続してしまう。

階段の先に見えていた酒蔵への扉はグニャリと歪み、更に地下へと続く暗闇に変わる。


「器用だな」


コア子の素直な感心に、GBは笑んで返す。


「干渉と不干渉を司ることは、太陽神としての本来の力だからね。まぁ、弱体化し過ぎて今やこういう謎解きに貢献するのが限界だけどね」


「ふぅん」


軽く返しつつ、しかし、コア子はこのGBという不敵な男に警戒を強める。


(これで『弱体化』しているのか…)


分かってはいたが、彼も大概、逸脱した個だ。


彼女の横手、真っ黒な地面が広がる。

ちょうど庭から屋敷に潜入した際に、縁側からバタバタと現れた、当主の留守を護る本町家の守護者十数名に向けてGBが放った、『太陽の火』の産物。


火は、BB弾程度の大きさの、線香花火の先っぽくらいの可愛いものだった。

だが、火は、瞬く間に数万倍に膨れ上がり、やがて屋敷の半分を飲み込む爆炎となって、全てを灰にした。


(…本当、手薄な時を狙って侵入して良かった。これがもし、当主もみんな居る、平時の万全な時だったとしたら…、あの真っ黒な地面は、きっと遺灰で真っ白になっていた…)


コア子はジクっと痛んだ胸をギュッと押さえた。

そんな彼女を他所に、GBは振り向くまでもなく、トントンと階段を下りながら業務連絡的に尋ねた。


「それで?他に敵影は?」


「え?あ、あぁ…」


コア子は、彼の後をついて行きながら答える。


「後はその、宝物殿の前に一人いるくらいだよ…」


「ふむ。どんな奴は分かるか?」


「…他人の目が無けりゃ自分の顔を判別することはできねぇよ」


「はは、そりゃそうだ。ま、残る相手が一人だけなら、気楽でいいな」


「…」


もう、地上の明かりが届かぬ程に階段を降りている。しかし、宝物殿への道はまだまだ続く。

俯くコア子に、GBは面白そうに尋ねる。


「それが人類を滅ぼすとかのたまう女の顔か?」


「…!う、うるせぇよ…」


ドキッとしたコア子は慌てて強がってみせた。「表情くらいで私を決めつけんなよ」とのたまって牽制して、話題をはぐらかした。


あぶない。

本当の計画がバレたかと思った。


あぁそうだよ。本当はコア子は、人類を滅ぼしてやるだなんて考えちゃいない。

…いや、嘘。ちょっぴり考えもしたけど、まだ、そこまで狂っちゃいない。


彼女の本当の計画。


それは、Black Outをダシにフカたちを利用して、本町家本家を攻略し、クラミツハに接触し、解放された力で現実を都合よく書き換えることにある。


 …え?能力の正体を知ってたのかって?逆になんで知らないと思ったんだよ。力に取り憑かれて7,8年は経ってんだぞ。その間に気になって調べるだろ普通。


『過去を改変する力』


凄まじい魔力を感じる言葉だ。本当に全てをひっくり返せる最終手段だ。究極兵器で、デウス・エクス・マキナで、神聖であって、それは本来、封印されて然るべきで、不可侵たるべきだ。


でも、であるならばこそ、このクソみたいな現状を好転できる。『吸血姫が血を吸った』という事実を無かったことにしてカナモリから『吸血姫を殺す理由』を奪える。吸血姫を殺して世界を滅ぼそうとしているフカ達なんか出生から否定して存在を抹消できる。他にどんな予想外な不都合があったとしても、過去に触れられるのなら、それを粘土のようにこねあげられるのなら、全て、問題とならない。


「…」


ただ、


魅力的な能力故に狼狽えてしまう。


『過去の罪さえ消せてしまう』という、禁断の扉に。


消せる。Black Outの力がその名の通りであれば、『タカドノのおばあちゃんが轢き殺された事実』さえ。

どころか、彼女自身の過去における不都合さえ。

カナモリの過去における不都合さえ。


何も、かも。みんなが当然のように背負っている全ての理不尽を無かったことに出来る。みんなの後ろ髪を引く悲しみを消し去って、みんなを完璧な幸福に出来る。


出来てしまう。


しかし、


いいのか?


そんなことが許されて?


「まぁ、褒められたことではないよ。過去を否定するっていうのは」


「…!」


急にGBがそういったもんだから、コア子は当然、ビビる。


「なっ、なんの話だ…?」


「何って、君の力の話だよ。知っているんだろ?あの力の正体」


「…っ」


…バレてたのか。

いや、にしたって、何故今、手の内を一つカミングアウトした?


GBは穏やかに口を開く。


「まぁ、これは警告さ。君がこれから、Black Outを使うにあたってのね。1つに、かの力は使用者の意図を介せず、改変した過去をポイントに、現在までの間にある出来事の全てを辻褄合わせするように勝手に変更する。だから、遠い過去を修正しようとすればするほど、現在に加わる現実の揺れ動きは凄まじいんだ。バタフライエフェクト、なんて今や陳腐になったSF用語で説明するのが残念ながら一番分かり易いのかな。だから、第一に、改変したい過去は、"その影響を加味しても変えてしまいたいほど憎たらしい過去"であるべきだ」


コア子は生唾を飲んで頷く。


「そして2つに、」とGBが背後にいるコア子にふわりとピースをする。

そして言う。


「忌むべき過去を愛する者だっている。そう、例えば私のようにね」


「…は?」


なんだそのメルヘンな進言。

しかしGBは、これこそ最も重要な点だと言う。


地下から地上へ、冷たい風が抜ける。その風の音がハッキリ聞こえるのだから、ココは、如何に静かか。

GBは、その静けさに沿うように、丁寧に話をする。

本当は消したいほどに憎い、しかし、確かに今の自分を構成している、愛するべき過去を。


「…かつての私は、人を愛していた。尤も、私の場合は特定の個人ではなく、私を信仰する信者の人々であったが…。それでも、皆、私の家族だと思っていたよ。今となっては考えられないね。しかし私は、確かに、私を愛する彼らのために、この身全てで尽そうと常に全力だった。彼らを、愛していた」

「…だが、彼らはやがて、外国から入り込んだどこぞと知れぬ神にうつつを抜かし始めた。その神が政治利用されたならば、利益に目がくらんだ彼らは呆気なく私を捨てた。私は彼らに見捨てられたくなくて、必死に働いた。天国に行けるなどという本当かどうかも分からない教義とは違う、私なら木々に、作物に恵みの光を与えられると、私こそが、皆の幸福を支えているのだと、懸命に訴えた。だが、その時ちょうど現れた吸血姫との戦いに敗れ、私は遂に頼みの力すら殆ど奪われてしまった。残った僅かな力では人々を照らすことなど叶わず、私は、神の座を追われてしまった。…全ては私の敗北が故だ。だが私は期待をしたのだ。少しばかり、少しばかりではあるが、こんな私でも、人々は拾ってくれるのではないかと。あれだけ私から愛を注がれた彼らなら、きっと、危機に陥った私に手を差し伸べ、救ってくれると。…しかし、彼らは遂にそうはしなかった。もはや、偶像の形すら忘れ去られた私に居場所はなかった」

「…私は、端的に言って憎んでいる。私に孤独という絶望を与えた人々を、そして、そのような悲しみを生み出してしまう人類という脆弱な機構を。だから滅ぼす。吸血姫諸共。決して許せやしない。…しかし、そのおぞましい憎しみこそが、今の私を作っているんだ。私とフカを出会わせ、今に革命の炎とも表現できる闘争への活力を湧き上がらせているんだ。…私を、満たしているんだ」

「そんな私を、私は恋しいと思う。あぁ、決して健康ではないさ。だが、否定してはならない。疎ましい記憶によって作り上げられる悪感情も、歪みも、全てが私自身だ。そして、どんな形であれ、それらに向き合い、乗り越えた私とは、素晴らしいものであるに違いないのだから」


だから、私は忌むべき過去こそ、素敵だと思うんだ。

…君だってそうだろう?


そう締め括るGBの話を聞いて、コア子は目の前が真っ暗になった。


彼女は途端に、分からなくなった。


果たして自分が、正しい道を歩んでいるのか。


正しいと思えなくなっていた。


”私はもしかして、吸血姫からかけがえのないものを奪おうとしているんじゃないか?”


その疑念が募るほどに、今に下っている階段が、地獄への連絡通路のように目に映る。

重力が増し、体が重くなる。

しかし、着実に階段を下っていた彼女の眼前の視界はパアッと開く。


夜明け前のように微かな輝き。一面に広がる透明の湖のような地を儚く照らす。

幻想的な空間に似つかない、古錆びた蔵が佇む。

宝物殿が鎮座する。


勿論そこには、宝具を護る最後の障害がいる。


彼女が独断かつ軽率に突き進んだ道の、結論がいる。


「本町…?」


「…えっ!?コア子ちゃん!?なんで!?」


本町紫野。


「なるほど、アレが最後の一人か」


目の色を変えたGBが、手の内に小さな火球を携えて歩み出す。


「…!ちがっ…!待って…!待って!」


コア子は必死に彼の腕を引っ張って止める。

しかし、彼に比べて、コア子はまだ幼く、弱い。


彼女一人じゃどうすることもできない。


あぁ、クソ。そうか。


いつか言われた、「お前の優しさなんてエゴだ」ってアレ、本当だったんだな。


後悔しても、もう遅いか。





同日、午前9時28分。

また、場面は戻って西院駅前。


「カナカナ…!」


「ほぉ、あれが…!」


人類連合の精鋭を蹂躙し尽くした網走とアゼヲの前に、ハタ・カナモリは遂に現れた。

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