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ルッキズム死ね。でも美少女にはなりたい。  作者: :)
第五章『終わるもの』

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なんもうまくいかない

「協力しろ、だと…?」


レジで、初めてあの棚から本を買ってくれた人が不倶戴天の伊勢居地コア子だった事実に頭を痛めるフカが更に困惑した表情で聞き返す。


店長には、悪いけど一度家に帰ってもらった。とりあえず大変だということだけ伝えてそうしたから、後でどう説明しようか悩む。


いや、違う。今悩むべきは目の前の女の子についてだ。


「…君は、自分の言ってることが分かっているのか?僕はその、敵だぞ?人類を滅ぼさんとする…」


「構わない」


…なんでそんなにキッパリ言えるんだよ。


「既に調べて知っている。ちょうどそういう仕事に当たってたからな。お前は吸血姫から王座を奪った後、人間を滅ぼそうとしている。そのためにお前やGBがここ100年程に世界中で人間に強い恨みを持つキャスタウェイを集めていたことも。お前が王となり次第、エニスタとかいうアルゼンチン野郎が奴らを王座の下に召喚する手筈になっていることも、全部分かっている」


「…もしかして、その動機もか?」


「それは知らねぇよ。私の力は心の中までは見えねぇ」


「そうか…。それで、その、それだけ分かっていて何故、僕と手を組む?せっかく著名な祓魔師だというのに、君は人間の敵に堕ちたいのか?」


「そうだ」


…え?


「そうだ、って…。え?どういう…?」


「私は、人間を滅ぼすつもりだ。…いや、違うな。私は吸血姫の味方で、カナモリの味方だ。だから、吸血姫には死んでほしくなくて、カナモリが吸血姫を殺す様子なんて見たくない。けど、今の人間社会は二人にそれを迫っている。そうだ、社会が、二人を苦しめているんだ。だから、全部破壊するんだ」


無茶苦茶だ。

何を言っているんだコイツは。


しかし、その目は嘘を言っていない。

ドス黒くて、ドス黒くて、ドス黒い。

見たいものしか見えていないって感じの目だ。


「お前としちゃあ、仕事の順番が逆転して気持ち悪いかもしれないけど。いいだろ?私達で先に人間滅ぼしちゃってさ、その後に、最終決戦しようぜ」


コア子はそう言って迫る。動揺するフカを置いて、グイグイと、重すぎる選択を。


「いやっ…!待て…!確かに人間を滅ぼすつもりなのはそうだが、そ、その」


「なんだ?」


「その…、そうだ!まだ十分な戦力が集まっていないんだ!ほら、人間全員を相手するとしたら、祓魔師や聖職者だけじゃなくて科学文明とも戦わなきゃだろ?そしたら今の戦力じゃちょっと厳しいかなぁーって…」


「…そうかな?あの面子なら十分コト足りてる気がするけどな。でもまぁ、不安なのは分かるよ。安心しろ。そのために私は、用意した」


「用意…?」


「あぁ」


コア子は自分の胸に手を置いて告げる。


「Black Outを解放する」


だって、お墨付きなんだろ?





「…ふか?ふかふか?なんだっけ…?僕を殺そうとしてる奴の名前だっけ…?」


デカ女が一人いるだけでリビングが一気に狭く感じる。

寝起きの僕は、同じく寝起きのアゼヲと共にこたつを囲みトーストをかじりながら、彼女が口にモノを入れながら言った人名を反芻した。


「この前、フカに会ったって?」


「あぁ、主様を探している際に出くわしてな。『一緒に世界を滅ぼそう』って、なんかよく分からん勧誘を受けたんじゃ。気持ち悪いから無視したが、何なんじゃあれ?」


「ん、正直僕もよく分かんない」


「ふぅん、よく分かんないかぁ。あ、牛乳なくなった。おい網走ー、おかわりくれー」


アゼヲがコップをブンブン振る。


バーは、今日は営業日ではない。

だから、網走さんはアゼヲのずぼらに呆れつつも「はいはい」と穏やかにコップを受け取りおかわりを注ぐ。

というか、「そんなに飲むならココに置いとくわね」と、紙パックをまるまる食卓に置いていく。

ついでに網走さんはアゼヲに教える。


「フカは、私もコア子ちゃんから聞いた限りでしか知らないけど、この子を殺そうとしてるのよ」


「なんじゃと!むむぅ、なら会った時に殺しておけば良かったか…」


「そうしてくれたら大助かりだったけどね。…それで?フカってどんな奴だったの?」


「んー、なんかこう、男で、ドイツ人っぽくて、陰気そうな奴じゃったな。あぁでも、強いな。アレは多分、強い。隠しているようじゃったが、ガーネットにも匹敵するんじゃないか?」


「えっ?ちょっと、それ不味くない?」


こたつ囲み組に混じった網走さんが口を挟んだ。


「なんでじゃ?」


「だって、私達人間基準じゃガーネットだって対処不能の存在だったのよ?侍衛係研修生が必ず頭に叩き込む解決不可能案件、その一つがガーネットの討伐だったのよ?」


「へー、そうなのか。なんかすげー。…で?ワシは?ワシはどうなのじゃ?人間界じゃ何か言われとんのか?」


「アンタ割と話聞いてくれるじゃない。危ない奴だけど。だから案件V1、解決困難案件止まりよ」


「えー、なんかくやしー。ワシも今度からむやみやたらに街を焼こうかな」


「やめて?」


本気で困った顔をする網走さんに、アゼヲはクックと笑って、「今更そんな火遊びはせんよ」と言った。

網走さんは「全く…」と呆れながら、話を戻す。


「でも…、ホントに不味いことになったわね…。ガーネット級が相手じゃあ、とてもこの子を守りきれない…」


「えぇ?そうかぁ?お前ならどうにでもしそうじゃがなぁ」


「無茶言わないで。現役引退して15年経つのよ?もう拳の握り方すら覚えてるかどうか…」


「ふぅん、なんか知らんが難儀じゃな。なら、ワシが手伝ってやろうか?」


「えっ!?いいの…!?」


「おういいぞ。つか、せっかく出来た友をむざむざ殺されるなんて胸糞悪いからな」


「ありがとう…!なんてお礼を言っていいやら…!」


「んふふ、任せい」


アゼヲは胸を張りながらグイッと牛乳を飲み干した。そして、ためらいもなくぶへーっと息を吐いて、気持ちよさそうにした。

二人が話している間にトーストを食べ終えた僕に、網走さんが「ジャム足りた?」と言った。


"9月30日"。


今のところ、僕はまだ生きている。

死ぬ予定があるはずなのに、どうしてだろう。

目の前の光景は死ぬほど平和だった。


ぼんやりした。


アゼヲのせいってのはデカいと思う。僕の悲しみにある程度同意してくれる網走さんとは違って、彼女はなんかずっと明るい。


今だって、彼女は、僕のことなんか気にしないで、こたつからモソッと抜け出て、テレビ台に置いてあるニンテンドースイッチのリモコンを取って、「おい、スマブラやらんか?」と尋ねてくる。


「…できるの?」


「あ?舐めるでないぞ?ワシは64時代からやり込んでおる猛者じゃからな!"能力ナシでも"のしてやるわ!」


…いや、僕を気にしてるからそんなことを提案してくれるのかな。

アゼヲのアイクをネスでボコボコにしながら思う。


「…ふふっ」


僕達を見て、網走さんが笑った。そして、そっとスマホのカメラをこちらにかざして、パシャリと一枚取った。


「なんか、いつも写真撮りますよね」


撮られることが未だむず痒い僕は思わず尋ねた。

すると網走さんは、何故か意地悪な顔をして答えた。


「まぁね」


その直後だった。

網走さんのスマホがテトンとなった。SMSの通知音だった。


けどそれは、軽く流していい中国からの迷惑メールとかではなくて、

どうやら、網走さんの顔を真っ青にする程度にはヤバいものらしかった。


「…?どうしたんですか?」


聞いた。

すると網走さんは、震える手で僕に僕に画面を見せてくれた。


間もなく、僕も顔面蒼白になった。


『こあこだ』

『とくべつじょうほうつく、じゅうがつみっかせめてくる』





9月29日。

宮内庁一ツ橋事務所。三階。給湯室。


シンとした16時に寝屋川のスマホがやかましく鳴った。

誰からだ?かつての部下からだ。


「…局ちょっ、おっ、寝屋川さん!吸血姫が、吸血姫が発見されました!『バー・ステラ』です!網走家当主と共に店を出る姿が確認されました!」


「…!??なんだと!??」


物凄い勢いの報告だった。

ドタバタと大勢の慌ただしい様子がマイクにうるさく入る。


「他に分かったことは?」


「ありません!」


「そうか。引き続き報告を頼む」


寝屋川は電話を切った。そして、彼女は湧いたばかりのケトルの湯を他所に、給湯室を抜け、事務所を出る準備をしながら、滑らかに連絡帳アプリを開いて、秦にコールする。


スピーカー通話に切り替える。呼び出し音がうるさくてもどかしい。早く伝えねばと口がパクパクする。早く、早く出て、早く…。


『おかけになった電話をお呼びしましたが、お出になりません』


「…は?」


何かの間違いか?と思ってもう一度かける。

が、結果は同じ。


なんで?なんでだよ。

「何かあったらすぐ報告するから、いつでも出られるようにしといてね」って言ったじゃないか。「わかった」って頷いてたじゃないか。

何やってんだよ。吸血姫くんが見つかったんだぞ?アーちゃんが敵にまわるかもしれないんだぞ?


こんな危機なのに、シンちゃん、なんで、なんで…





うるせぇよ。


背骨を抜かれたみたいにソファにくたばる秦は、もうずっと鳴っているスマホを他所にそう思った。


薄暗いリビング。

テーブルの上で、寝屋川が持ってきたコンビニ弁当や菓子パンが消費期限を切らしている。

酒に逃げようと思って買ったけど、結局、この期に及んでも下戸なせいでグラス1杯分もマトモに飲めなかったトリスの酒瓶が床で割れて散っている。

廊下には"あの日"買った詰替え用の様々が転がっている。


暖房を点けずにコートを着ている。もう何日も着替えていない服と相まって、もはや体の一部のように思える。

傍には小さなローファーが二組ある。これ抱えて泣いてたって話をしたら、絶対引かれるんだろな。


電話が止んだと思ったら、今度はメッセージの嵐だった。

ピコン、ピコンと。

最後は「今家だよね?そっち行くからね?」と締め括られている。


不快ったらありゃしない。


吸血姫が見つかった?セイの奴と一緒だった?


知ってんだよクソが。


全部アイツからのLINEで聞かされてんだ。


ずっと煽られてんだ。


『長岡京駅前でコア子ちゃんが倒れたよ?』

『なんで?貴方、今どこで何してるの?』


『さっき寝てる間にコア子ちゃんが出て行っちゃったよ』

『返事してよ。心配じゃないの?』


『あの子。やっぱりご飯食べてくれないの。ねぇ、何か好きな食べ物とか知ってる?』

『夜の王、バイトはじめました!なんてね(笑)』

『サイゼなう。今日はちゃんとご飯食べてくれたよ!』


『ねぇ、コア子ちゃんが大変なの』

『吸血姫のことで動けないのは分かったけど、あの子のことは気にかけてあげられるでしょ?』

『まさか、ブラックアウトがらみであの子まで殺すことになってるんじゃないでしょうね』


『アゼヲちゃん降臨~!』


クソが。もう嫌だよ。スマホの通知音なんて。聞きたくない。聞きたくないけど、マナーモードにするのは怖いから、世界の方が気を利かせろよ。


これ以上、俺を傷つけて遊ぶなよ。


「ふぐっ…、うっ…、うぅっ…!」


なんだ。もうずっと水分摂ってないのに、まだ出るんだ。


そうだよ。


俺だって、その立場に立ちたかったよ。


酷いイジメだよ、本当。

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