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ルッキズム死ね。でも美少女にはなりたい。  作者: :)
第五章『終わるもの』

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身の丈に合わない

客の少なさというのが彼がこの店を一番好く理由だ。


そりゃあ、同じ書店員なら丸善や蔦屋、ローカルな所で言うと大垣書店の方が働きがいがあってスキルアップに繋がるのかもしれない。

しかし彼は、それらを犠牲にしてでもこの職場が好きなのだ。


三条会商店街のはずれにある八百屋みたいなサイズの本屋さん。天井が低く、通路も狭い。近所の子供がコロコロを買ってくれることで何とか生計立てられているような、そんな店。


フカは、この店の副店長だった。バイトだけど。他に従業員は、高齢で8時間もお店に立っていられない店長と、朝の荷解きの手伝いと経理をしてくれる奥さんしかいなかった。

だから、実質的に、ココはフカのお店と言っても過言じゃなかった。

その証拠として、彼は通常の業務を熟す傍らで、流行とは全く逆の商品を、店の奥のアダルト本コーナーの隣、ゴールデンラインの二段を私物化してこっそり並べていた。


在庫額にして2,3万円程度のしょぼいものだけど。


評判は…、良くなかった。ここは地元の主婦と子供で何とか成り立っているお店だ。彼の趣味と客層は違い過ぎる。まだ一冊も売れていない。数字的にもちゃんと赤字だった。


それでも彼はこの棚をいじってる時が好きだったし、たまにチラッとこの棚を見てくれるお客さんを見つけた時にドキドキするのが好きだった。


買ってくれたら凄く嬉しいんだけどなぁ。夢のまた夢だった。


「ちょっと、トイレ行ってきまーす」


「あい~」


フカは出勤後、僅かに残っていた品出し前のこどものともに輪ゴム掛けした後、それらを売り場に出すついでに店長に言った。


小売だけど隠語なんて使わないよ。つかお客さんいないしね今。


店内入口の隣、店長夫婦の家に入ってトイレに鍵をかけ、のんびりと小をする。

その後トイレを出て、さぁ店に戻るかと思ったところで…、リビングの方から悲鳴が聞こえた。


「…ッ!どうしました!?」


どうもしてなかった。

慌てて駆けつけたフカが見たのは、最近ハマっている華流アイドルのドラマを見て興奮している奥さんだった。


「ね、ね、テンロクくん!この子かっこいいわぁ~」


「お、驚かせないでくださいよ…!」


転んで怪我したとかじゃなくて良かったと、彼は心の底から安堵した。

だって、彼は心配していた。近頃ますます体調を悪くしている店長に続いて、奥さんも白内障に罹ったばかりだったから。


BSに釘付けの奥さんの、不健康なほどに細くて平らな背中を見てふと思い出す。

「この店を君に任せたいんだ」という店長の言葉。

店長の父の代から細々と続くこの書店を、思い出のせいで畳むに畳めなかった彼の言葉。


悠久の時を生きる存在であるフカにとって、それは造作もない、他愛もないことだった。もう1000年近く生きている彼にとって、更に数十年働くなど、僅かな間の暇潰しに過ぎなかった。


しかし、想いを継ぐと思うと重い。彼はまだ返事を出来ずにいた。


(彼らには凄く感謝している。報いたいといつも思っている。けど、僕なんて所詮、今はたまたまこの職場に居るだけの根無し草に過ぎない。正体だって明かしちゃいない。裏でやっていることだって…。そんな軽くて嘘まみれな存在が、彼らの大切な宝物を受け継ぐなんて…)


なのに、どうして、彼は悩む。

答えなくて、応えないことに罪悪感さえ抱く。

返答は、きっと今日も、明日も出来ない。

ハッキリしたことはずっと言えずに悩み、苦しみ、


そして、明後日、人類は滅ぶ。


彼は俯きながら店内に戻った。


俯きながら戻ったから、気づくのに遅れた。


「…!??????いせっ…、えっ…!????」


彼のお気に入りの棚の前に、人がいた。


今に邱妙津の『ある鰐の手記』をパタムと閉じた、パーカーにジョガーパンツにスニーカーの、動き回る気満々な恰好。


荒ぶる意志。


伊勢居地コア子だった。


「いい趣味してんな、お前」と言って、腰を抜かすフカを睨んでいた。


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