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ルッキズム死ね。でも美少女にはなりたい。  作者: :)
第四章『終わったもの』

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おわり

今朝。


10月あたまにある文化祭へ向けて少しずつ準備が進むいつもの学校で、

『シバルちゃんがいるんだから、メイド喫茶やったら天下取れるぜ!?』と意気込んだみんなが、放課後も残って作った、看板やらパーティションが後ろのロッカーに立て掛けてある、揮発したボンドとペンキでちょっと臭い教室で、


「あっ…!シバルちゃん…!」


皆がスマホ片手に、教室に入った僕に注目する。いや、僕が登校する度に皆の注目を集めるのは毎度のことで今更なことなんだけども、


今日のソレは、目が違う。


男も、女も。

奇異の目。欲情の目。軽蔑の目。


騒動の発端は、クラスのグループラインへの投稿だった。

なるほど、僕やコア子が気付けないわけだ。いじめられっ子としてハブられていたタカドノもまた気付けなかったし、既に退学済みの凪野さんにも気付けない。本当に寝耳に水。事態は水面下で最悪に転じていたわけだ。


僕と同じタイミングでタカドノも教室に来た。何事かと慌てて寄って来た彼と、コア子と一緒に、竹中のスマホを覗く。


その売女。


それは『僕の部屋』を背景に、ナイトドレスをたくし上げている。

それは『僕のベッド』の上で、尻を突き出している。


雄に媚びる、雌の顔をしていて、


乳輪や毛をチラリと晒している。乳首やおめこは流石に隠しているが、わざとらしい。別に見せても良いって様子。


稚拙な貞操観念。安物AV女優のような売り出し。頭が弱いどころじゃない。淫売。豚。小便器。同じ人間として恥ずかしい。


元のツイートは児ポと判断されて運営に削除されたのか、海外の転載サイトが情報源になっている。


ただでさえ中古で買った格安スマホのカメラのせいで元より画質が悪かったのに、コピーを繰り返されたせいで画像はかなりガビガビになっている。どのサイトのものか知らない透かしまで入っている。


しかし、映ってる奴が誰かくらいは何となく分かる。

ましてや知り合いなら。


ご丁寧に、エンコーをすっぽかされてブチギレしたパパが晒し上げたDMのスクショまである。自爆特攻かよ。パパの気持ち悪いメッセージが続く。それに乗じるように穴モテ女が犯され願望やアソコの濡れ具合の実況を返している。


穢れ。汚物。品性を疑う。関わりを持ちたくない。将来が心配。みっともなく発情している、毛穴と肉の塊。


それは僕。唾棄すべき僕。タカドノのおばあちゃんを殺した僕のように、悔いるべき過去で、悔いた後の過去で、今の僕とはまるで違う僕。


なのに、それは『細田縛』。銀色の髪も紅い瞳も明らかに『細田縛』。


コア子の一番の悪友で、カナモリの料理が大好きで、本町さんにちょっと憧れていて、タカドノとは趣味が凄く合って、凪野さんには甘えてしまう。


迫る男子たちにいつも困惑させられて、女子から目の敵にされているのが何だか寂しくて、勉強が出来る奴ってことになっていて、何だかんだ、皆にお世話になっていることに感謝していて、毎日が楽しいなって思っていた、


僕が、必死に守ってきた今の僕。


今や、目の前の竹中に勃起されている。


ふと教室の隅を見ると、酷い隈をつけてこけた顔をした目黒がどうしようもない笑みを浮かべていた。

彼女は僕に近づいて、「峰ちゃんと森ちゃんを殺したんだ!報いを受けろよビッチ野郎!」と叫んだ。そして教室を飛び出して、笑いながら走り去っていった。


「違う…」僕は呟いた。何が違うんだよ?言い訳の余地もなくお前だろ?でも、うわごとのように何度も呟いた。脳の回転が止まらなかった。焼き切れて気絶しそうだった。だって自撮りなんて、そんなの間違った過去だって分かっていて、糸ちゃんに治療されたからもう解決したことで、そんなのすっかり忘れていたから。


こんな形で横っ腹を殴られるなんて、僕が嫌いな『かつての僕』にこんな形で干渉されるなんて。


悪い妄想が止まらなかった。吐き気が止まらなかった。この人にだけは過去を知られたくないって、そんな人が、今の僕にはたくさんいた。幻滅してほしくないって、ずっと僕を好きでいてほしいって、だって僕も皆が好きだから、


僕は強奪するように竹中のスマホを奪った。ラインを開いて、画面を長押しして、目黒の投稿を消そうとした。しかし、システム的に無理だよ。どれだけやっても僕の親指の型が取れるだけ。


みっともない。顔面蒼白。もう遅いよ。だって、


隣を見ろよ馬鹿野郎。


コア子も、タカドノも、


ちゃんとお前に失望してくれてるよ。


醜い、醜い、本当のお前に。


良かったな。ようやく中身を見てもらえて。


全部お前が蒔いた種だ。


コア子が何かを言おうとした。それより早く、僕は教室を飛び出した。学校を飛び出した。

走る。走る。ガラガラと日常が崩れていくのを感じる。人生が壊れていくのを感じる。もう学校には行けない。全部、全部ぶち壊れた。僕のせいで。全部僕のせいで。僕はあれだけ頑張ったのに。あれだけ皆を悲しませたくなくて、皆の笑顔が守りたくて、だから、『みんなの僕』を守ろうとしたのに。


その僕すらも、今、壊れた。

僕に壊された。


壊れ去った。僕の正体が醜さそのものであることを皆に知られてしまった。美貌を皮に被ったゴキブリであることを知られてしまった。僕はもう存在できない。存在してはいけない。僕という存在は、もう…


「…!?」


足取りと共に息が止まった。

僕はなんだか、母さんとすれ違った気がした。


気がした、んじゃなかった。振り返ると本当に母さんがいた。普段着じゃない、いつもの仕事疲れをそのまま引きずったみたいなダルダルコーデじゃない。黒のジャケットで決めた、ピシッとした格好。


細長い紙袋を持っていた。


どこへ行くんだ…?僕はフラフラと付いて行った。


…母さんが足を止めたその家の表札には、『高殿』と書いてあった。


死にそうな顔で誰かに頭を下げている母さんを、僕は久々に見た。あれは多分、小学生2年生の時に僕が間違えてエアガンで3歳下の幼稚園生の背中を撃ってしまった時が最後だった。


「うちの息子が、本当に申し訳ありませんでした…!」


「もう良いですから…、もう…」


多分あれは、タカドノの母さんなのだろう。ボロボロと泣いて頭を下げる母さんを、泣きそうな顔をして止めていた。


電柱の影からそれを見ていた僕は、膝から崩れ落ちた。両手を地面についてくたばった。

その勢いで胸ポケットからポロッと落ちた生徒手帳に貼られた僕は、ぎこちない笑顔で胸を張っていた。


なんで生きてるんだよコイツ。


「死ねよ…」


震える手が喉を掻き毟った。

動脈が千切れ、ボトボトと血が溢れた。


「死ねよ!死ねよ!死ねよッ!!」


皮膚を、肉をほじくるほどに血溜まりが大きくなって、スカートがヒタヒタに浸った。喉が潰れて呼吸が出来なくなった。重要な神経がブチブチ裂かれて、体の感覚が何度も無くなった。


けど、死には到底及ばなかった。


自死なんて許されるはずがなかった。


だって僕は、痛みを痛みとも思わない吸血鬼で、


それも全部、僕が望んだことだから。



 …



「吸血姫…、なぁ…、ドア、開けてくれよ…」


元はと言えばテメェの自室だろうに。しかしコア子は、廊下からこの暗がりの部屋へ、潰れそうなほどに小さな声を送る。


普段のアイツなら、扉を蹴破ってでも部屋に入って、今に制服姿のままベッドにうずくまる僕を叩き起こしただろう。


だからもう、今は普段ではないのだろう。


コア子はぽそぽそ、泣きそうで、それでも必死に気丈さを振る舞ったような声で言う。


「私はさ、気にしないよ…。お前がどんな奴だって、私は気にしない…」

「そりゃあ、最初見た時はビックリしたけどさ…、でも、それだけだよ…。カナモリだって、本町だって、きっと気にしない…。お前はお前だ…。皆、お前のことが大好きで、それは決して変わらないから…」

「だから、お願いだから出てきてよ…。出てきてさ、また、皆でどこかに遊びに行こう…?」


…気にしない?


脳に引っかかった。その言葉は慰めの言葉。コア子が僕を想って言ってくれた同情の言葉。

それは分かってる。分かってるけど…、


「無理だよ、そんなの…、タカドノのこともあるんだしさぁ…」


僕は心の声をそのまま出すように、呻くように言った。言ったってしょうがないのにな。ここで急にタカドノの名前なんか出されても、コア子にはなんのこっちゃだろうに…。


そう、思っていたのに。


「…!思い…、出したのか…!?」


…は?


一瞬、コア子が何を言ったのか分からなかった。


思い出した?


知っていた?


なんで?


いつから?


分からない。


分からないけど。


なんで黙ってた?


間もなく、コア子はドアを開けた。動揺のあまり、だろう。コア子はここが聖域であることを忘れていた。


開けなきゃ良かったのにな。次の瞬間、コア子は息を止めて怯えた。


だって今に、僕はドアの方を睨んでいた。


つまり、コア子の方を睨んでいた。


「思い出したのか…?じゃねぇんだよ…!」


止まらない。売り言葉に買い言葉ってわけじゃないけども。

こうなってしまえば、もう止まらない。


僕はベッドから転げ落ちるように降りて、一気にコア子に飛びついて、押し倒した。

そして、コア子の顔面めがけて吠えるようにして叫んだ。


「お前がッ!全部教えてくれてたらッ!こんなことにはならなかったのにッ!僕がタカドノと仲良くなることもなかった…!あんなに可哀想な母さんを独りにすることもなかった…!なかったのにッ…!!」

「お前のせいで…、お前のせいで…、お前のせいでッ…!!」


違う。


これは責任転嫁。


だって知ってたとして、別に、コア子に僕の罪を一緒に背負う義務が発生するわけじゃないから。


それに、知ってたなら教えろだなんて攻撃だ。

だって、それを言うってのは、

無知だからこそ積み上げてこれた幸せを壊すってことだ。


優しい嘘を論破するようなことだ。

僕なら言えない。言えるわけがない。


だから違う。

こんなのは違う。

僕の本音じゃない。

発言じゃない。


だからコア子。気づいてくれ。お前いつも異常に鋭いじゃん。だから今回も察してくれよ。こんなの僕の本音じゃない。こんなの僕の本心じゃない。


カナモリ、何でいないんだよ。何で買い出しなんか行っちゃったんだよ。お前さえいてくれたら、コア子から僕を引き剥がせただろ。無茶苦茶なことを言う僕をひっぱたいて、大人の立場から怒ってくれただろ。


「あぁッ…!あぁッ…!」


しかし、僕は言ってしまった。心が弱いから言ってしまった。溢れる後悔が喉に詰まる。けれども口に出してしまった言葉は戻らない。僕に組み伏せられたコア子がポロポロと泣き出す。小さく嗚咽を漏らして、言葉にならない声で「ごめん」と何度も零す。


違う。違う。お願いだから謝らないでくれ。お願いだから正論をぶつけてくれ。「お前が悪い」と言ってくれ。お前は何も悪くないから。全部僕を想ってのことだって知ってるから。そんなこと知ってるし、分かってるし、なのに、情けないけど、僕はもう、理不尽な怒りに震える僕はもう、止まらないから。止められないから。


いつもの十八番で、拳銃で、僕の脳天をぶち抜いてくれ。


押さえつけたコア子の肩に爪を立てる。人間離れした握力も相まって、指がめり込み、ブチュブチュと血が飛び出てくる。


牙を見せる。コア子の首にめがける。それはもう、人間との共存を表していない。お前が殺すべきキャスタウェイの作法。おいビロンギング。動けよ。殺せよ。プロなんだろ?いつも鼻にかけてんじゃん。早く殺れよ、ほら、ほら…、


「…!」


牙に血が伝った。喉に温かいものが触れた。

その瞬間、僕の脳は絶頂したかのようにしびれた。


不味くて、グロくて、とても飲めないなんてとんでもない。

吐き出すなんてとんでもない。

それはまるで、モルヒネを舐めてしまったかのようで…。


「なんだよ…、ふざけんなよ…!」

「これすらも嘘なのかよ…!」


メチャクチャ美味ぇじゃねぇか、血。


コア子の手足が、一瞬だけ脊髄反射的に暴れた。が、間もなくだらんと床に垂れた。


彼女の肩を掴む両手が更に力んだ。

脳を本能に焼き尽くされてしまった僕は、久々の食事を止められなかった。


四章おわり。

ここまでお疲れさまでした。五章が最終章です。



次回は3月30日から始めます。

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