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ルッキズム死ね。でも美少女にはなりたい。  作者: :)
第四章『終わったもの』

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どれだけ成長したところで

たった一つ、過去に歪みがあれば、いつだってそれが今を滅茶苦茶にしてくれる。

魂が体に定着してしまった今、存在に刻まれるほど深い記憶は、もう消せない。


けども、私は君を守りたい。

できることは、他にもある。


だから


『じっとしていろ』


あの事件の後。

コア子のベッドの上で目覚めて、彼女とカナモリからひとしきり心配を受けた後。

一人ぼっちの寝室で、僕は吸血姫にそう言われた。


次の瞬間、吸血姫は僕の腕を自分の下腹部に突き刺した。"まだジンジン痛む"下腹部にだ。

掛け布団、そしてシーツが血まみれになる。赤は今にもジワジワと広がる。


そんな中、吸血姫により鷲掴みにされ、体外に取り出されたのは、地面に落ちたザクロみたいだった。


それを呆然と見つめる僕に、吸血姫は言った。


『君はよく戦った。今に私達が人間たり得るのは、偏に君が君という尊厳を賭してまで、意志をびろんぎんぐ共に見せつけてやった結果だ。それは誇るべきことだ』

『…しかし、その分失ったものもある。押し付けられた不条理もある。特にコレは、…今に私が手に持っているコレは、今後の君の全てを阻害しかねない。その危険性を孕んでいる』


…なにせ、きゃすたうぇいは、その生存戦略において、たった数千年での急激な進化を迫られた。故に、人間と比べて、特段に生殖能力に長けている。

…尤も、アンデッドであり、"繁殖方法が異なる"私には関係のない話であったが、しかし、"以前の、あのやり取りを経た後の君の体は"、な…。


『…これは事故だ。噛み合いが悪かっただけだ。これを取り除いたことを悪だと思わないでくれ。吸血鬼の体は再生力に優れている。が、"これ"はあくまで別個体だから、再生の対象には含まれない。…これさえ、これさえ無ければ、後は全て元に戻る。全て、まっさらな君に戻るから…』


…それは、らしからぬ言葉だと思う。

吸血姫は非情で高慢で、キャラを考えれば、こんな状況だって、何か達観したことや、超然的なことを述べ連ねるのがコイツらしさだった。


けど、僕にはハッキリと、コイツの悲しそうな顔が見えてしまった。


「あっ…、あぁっ…」


体の力が抜けて、今に命の色を失ったソレは、手からこぼれ、膝の上にポトッと落ちた。

僕は慌ててソレを拾い上げた。自分の胸に持っていき、両手いっぱいに抱き、こうなるしかなかったソレを、自身にうずめるようにして泣いた。


「糸ちゃん…、助けて…」


しかし、悲痛は、僕を嘲笑うかのように前にしか進まない時計の針の音にかき消されて、消えた。



 …



「…本当に大丈夫か?」


今にローファーに足を通した僕に、カナモリはたまらず尋ねた。

対し、


「大丈夫だって。確かに、夏休みの宿題は間に合わなかったけどさぁ…、まぁ、あの学校なら宿題なんて有って無いようなもんだろ」


あっけらかんと僕がそう言っても、カナモリの顔も、隣でハラハラ僕を見つめているコア子の顔も晴れなかった。


あの一件があってから、僕は、しばらく外に出られなかった。

カナモリ以外の男の人が怖かった。男の人どころか、ドアノブの音とか、誰かの足音すら怖くて、ずっと自室で布団に籠もってコア子とゲームをしていた。


それじゃいけないと思ったのは、つい先週だった。思った、ってのは少し傲慢過ぎるな。アレがなきゃ僕は今頃も引きこもってたかもしれないのに、自分から動いたみたいに言うのは良くないな。


あぁ、悪い言い方をすると、動かされたんだ。


先週のあの日。


心配した凪野さんが、タカドノを連れて家に来たんだ。


突きつけられたんだ。選択を。


だから僕は、自分に迫らなくちゃいけないと思ったんだ。


このまま被害者でいるか、現実に向き合うか。


本当は、二度とタカドノに会いたくなかった。というか、合わせる顔がなかった。そりゃそうだ。僕はアイツになんて言えば良い?いや、なんて言えば良いかは分かっている。謝らなくちゃいけない。土下座をして、土を舐めて、心の底から誠意と責任を見せなきゃいけない。


僕は、タカドノの魂の強さを踏みにじったんだ。


だから、僕は、意気込んで、でも震えながら、ゲロ吐きそうになりながら部屋から出て、玄関にやって来て、タカドノを見た、その瞬間、


僕の口から、出るべきはずの言葉は出なかった。


だってタカドノは、…未だに満身創痍で、体中に包帯を巻いていて、足も折れているから松葉杖をついている、紛れもなく被害者そのものなアイツは、


僕を見て、確かに微笑んだんだ。


「細田さんが無事で良かった」と言わんばかりの、安心した笑顔。

その直後にした、僕の精神状態を心配して歪ませた、目元や口元。


僕は絶望した。だって僕は、…取り戻した記憶の末に混乱して、『今を守るため』とかほざいて、その力を振るえば容易に守れただろうに、レイプ魔三人に半殺しにされるタカドノを放置して、あまつさえ、強姦を呈した合意セックスをコイツに見せつけた僕は、紛れもなく、ホンモノのクソ野郎なのに、


なのにまだ、僕というやつは、タカドノリョウの友達の、『細田縛』だった。


周りにしたってそうだ。

コア子も、カナモリも、凪野さんだって、あの時の僕を、恐怖で動けなかった可哀想な性被害者だと信じている。勇敢にも異能での蹂躙を放棄し、非暴力に徹した聖者だと信じている。信じているから、最近のコア子は僕が現代ニヒリストの制服の如きモサッとしたジャージを一日中着ていても、風呂上がりに髪を乾かさずにゲームを再開していても、何も言わない。そういう心配は、きっとカナモリや凪野さんの中にもある。どころか、本町さんや、局長にだって、きっとある…。


僕は結局、タカドノに「大丈夫だよ」と言って微笑み返してしまった。


それが、皆が抱く『無垢で被害者で可哀想な僕』という虚栄で、『今を守る』という体で僕が生み出してしまった虚像だから。


本当はもう、僕に幸福なんて相応しくないのに。



 …



貼り付けた笑顔を貼り付けたと悟らせないように、必死に、必死に振る舞う。

まるで何事も無かったかのように。


いつも以上に男共に厳しいコア子を窘めたり、アニメージュを机に広げて、タカドノと今期のアニメについて話したり、帰りにたまたま仕事帰りの凪野さんと会ったから、コア子と、タカドノと、四人でカラオケに行ったり。


楽しい。楽しいよ。このまま世界が終わってしまえばどれほど良いかって何度も思った。


これでいい。これでいい。こうでなきゃいけない。僕の日常はこうだった。コア子の日常もこうだった。タカドノも、凪野さんも、皆こんな今を送っていたはずなんだ。


これで淀みないはずなんだ。これが正常なはずなんだ。これが、これが…


「吸血姫ー!じゃん!サプラーイズ!」


ひとしきり皆で歌いまくった後、コア子はソファの上に立ち上がって言った。


直後、タイミング良くカナモリと本町さんが部屋に入ってきた。本町さんはあからさまにホールケーキが入っているであろう箱を掲げていて、カナモリは紙皿とフォークの一式が入ったビニール袋と、なんかゲーム機でも入ってそうなサイズの怖いプレゼントを携えていた。


仕事帰りの凪野さんとたまたま会った、というところから仕込みだったらしい。

夏休み明けの9月の半ば、今日は僕の誕生日。言われて初めて思い出した。


忘れてたよ。そりゃあ、忘れてたに決まってる。


だってそれは、『僕』の誕生日だ。

『細田縛』のじゃない。

『僕』の、もう顔も見たくない『僕』の誕生日だ。


タカドノがホールのショートケーキにろうそくを立てて、こちらを見て、少し気恥ずかしそうにはにかんだ。


「細田ぁ~、感謝しなよぉ~?『細田さんの誕生日サプライズがしたい!』って、タカドノが提案してくれたんだから~」


「ふっ、フン!タカドノが言い出さなくても、吸血姫の一番の友達たる私が計画を立てていたからな!そこんところは勘違いするなよ!」


「…あれっ?吸血姫ちゃんってロウソク何本立てるんっスか?」


「…それ以上立てるな本町。クリームの面がもう見えなくなってるだろ」


嬉しそうに談笑して、そして、皆が僕に言う。


誕生日おめでとう。


お前なんか、生まれてこなきゃ良かったのに。


そう思っても、そう悔やんでも、僕は生きていかなきゃいけない。


清純で、純白で、いつだって美少女たる『細田縛』を。


僕が選んでしまったのだから。


だから、僕は微笑まなきゃ。

どれだけ苦しくても、もう嫌だと思って、塞ぎ込みたくても、それは自業自得なんだから。


「ありがとう」と言って、この日常を守らなきゃ…。


次の日だった。


クラスは僕の自撮り写真流出の話題で持ちきりだった。


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