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ルッキズム死ね。でも美少女にはなりたい。  作者: :)
第四章『終わったもの』

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おまけ

「吸血姫くん。君は本当に凄いね。願わくば、このまま何事も起こさず無事に過ごして、コア子くん共々侍衛係に就職してほしいが…。まぁ、その話は後でだね」

「…凪野くんは、悪いがこちらで預かるよ。なに、殺しはしないさ。彼女は被害者だからね。ただ、それにしても被害を出し過ぎた。それに彼女が稀に見る強力な異能の持ち主であることは事実で、何より、"前例にないイワトの開き方をしたことも気になる"。まぁ、心配しなくとも近い内に会えるさ。君たち友達同士を引き剥がす気なんて、私には無い」

「とにかく君たちは、もう家に帰るといい。お疲れ様。後のことは、心配しなくていいよ」

「後のことは全部、プロが片付けてくれるからね」



 …



ベルンは貯水タンクに頭を打ち付けた。


「無力化…!?有り得ない…!?せっかくこの俺が力を振るってやったというのに!?全て無駄になったというのか!?」

「無駄かァ~ッ!?無駄か無駄か無駄か無駄かァッ!??俺の努力は全部無駄かァッッッ!!??」


ガンガン、ガンガンと更に頭を打ち付けるベルン。貯水タンクがベッコベッコ凹んでいき、彼の心も凹んでいく。


うるせぇ。シュガーとしりとりをして遊んでいたビターがキレた。


「っるっせぇぞ変温動物!失敗したならまた頑張ればいいだろ!?俺達よりずっと年上のくせに小心者やってんじゃねぇよ!」


「トカゲ弄りするなイジメだぞ!それに、心の強さに歳は関係ねぇ!弱い奴はいつまでも弱い!だが、それもまた個性で美点だ!尊重しろ!しかし、まぁ…!」

「また頑張ろうってのには共感できるッ!さぁ『夜』に帰るぞッ!GBのアドバイスを聞いて、また三人で頑張ろうッ!」


意気込むベルンを指さして、シュガーが無邪気に言う。


「ぽ…、ポジティブだね…!」


「暑苦しいっていうんだよ馬鹿」


一瞬でビターにそう切り捨てられたシュガーはしょんぼりした。ビターは、そんな彼女を仕方ないと思い、ポンポンと頭を撫でてやった後、「ほら、帰るぞ」と言った。


機嫌を取り戻したシュガーは、間もなく準備を始めた。

そう、準備。


実は彼女こそがパーティの隠密担当であり、作戦の要。


『Secret Love(これが恋心)』


影の中に反転した世界を作り出せる。また、反転世界を通じて影から影へ移動できる(ギラティナみたいだね!)。

移動能力としてこれ以上無く便利。その上、影の中は別次元だからコア子の能力が及ばない。少なくともGBからはそう報告されていた。


コア子特効があるという事実は精神的健康に大きい。

だって安心できる。この力がある限り、敵はこちらに辿り着けないと。


シュガー自身、オドオドした性格の一方でそう思っていた。自分の能力に自信があった。故に彼女は、作戦失敗の報を受けてもほえーっとしていたし、影を開くも、自分たちより先に広げていたお菓子を仕舞って、でも、最後にもう一枚だけポテチを食べたいからと、影に腕を突っ込んで閉まったばかりのポテチ袋を取り出す余裕があった。ビターに「おい…!急げよ…!」と言われても、「もへぇ」と、モゴモゴと口を動かす慢心があった。


いつだって、まるで近所の公園で遊んでいる感覚。

すぐに家に帰れるこの場所に、不審者なんて現れるはずがない。

たとえ現れたとしても、私を襲うなんてことがあるはずない。

そういう安心感が、今に彼女を尊大にしている。


が、事実として、彼女は未だ影の中にいない。

いるのだ。不審者に攫われるかもしれない外に。


思うに慢心とは、予測と現実を混同してしまうことを言うのだ。


故に、次の瞬間、突然飛来した銃弾によって、シュガーの左頭部が無様に吹っ飛ぶことは、至極当然だった。


霊体に肉や血は無い。アストラルは基本的に三次元に質量を有さない。生者は自分からは触れられず、逆に死者は触れようと思った瞬間だけ質量を取り戻し、そして触れられる。そういう、死そのもののような理不尽さが、霊体最大の特徴。


が、適切な手段で吹き飛ばされれば、治らない。

脳漿を飛び散らした彼女の頭部は三日月のようにガッポリと空いたまま戻らない。

彼女の命は、コンソメパンチを口に含んだまま終えた。


「シュガー…!シュガーッ!!」


一瞬の混乱の後、ビターは叫んだ。今にバタリと倒れた彼女に慌てて駆け寄り、質量ゼロの死体を必死に抱えた。


一方でベルンは周囲を警戒した。特に、南南に注目した。それは勘。ちょうどその方角から何か"銃弾らしきもの"が飛んできたと、彼の野生の勘が言っていた。


が、予想は外れ。いや、当たってはいたのだけれど。


しかし、瞬間移動を前に、出現地点予想など無意味。


敵は南南とは反対方向の、ベコベコになった給水タンクの上から現れた。


「いせっ…、いじ、コア子ッ!???」


その小柄は、制服は、ガキは、明らかに、そうだ。


しかし、有り得なかった。


何故?ベルンは、今にコア子が目の前に現れた原因が分からなかった。何故なら彼は、この作戦を遂行する上でずっと伊勢居地コア子を警戒していた。絶対に姿を見られないように、ずっと影の中を移動していた。影の中から視て、影の中から聴いていた。表立ったことは一切無い。ただ唯一、凪野に能力を食らわせるために、今朝に一度だけ、危険を承知で凪野と直接言葉を交わしたが…。


しかし、結果として、RSh-12Ko改は、その銃口から放たれた、祝福が施された銀弾は、確かに仕事をした。


その事実だけが、プロの世界における全て。


動揺するベルンに対し、コア子は容赦しない。

彼女は、地面に着地すると同時に彼へ向けて構えた。そして放った二発目の銃弾は、反応が遅れたベルンの背中を捉え、確実に心臓を貫こうとした。


しかし、天は、まだ彼を見放していなかった。


「…!?レプティリアンかテメェッ…!」


幸運にも、弾丸は、レザージャケットこそ抉れど、彼の背中を覆う硬い鱗よって弾かれていた。

…尤も、だからといって運動エネルギーがゼロになった訳ではなかった。ベルンは背骨を伝う強烈な衝撃にたまらず地面に手をついた。まだ隙。コア子はすかさず四つん這いになったベルンの脳天を狙う。


が、


「伊勢ぃッ地コア子ぉぉッ!!!」


悲痛に叫ぶ、ビターがコア子の注意を引いた。彼の憤慨は当然だった。彼とシュガーは15世紀オーストリアの小さな農村出身で、吸血姫の配下によって故郷を滅ぼされ、父も母も、自分までも殺され、怨霊となってでも一緒にいた仲だった。彼にとってシュガーは唯一の家族で、真の気持ちを共有しあえる仲間だった。

故に、その怒りは正義であり義憤だった。


周辺のエネルギーがビターに集中する。そして次の瞬間、飛び出した彼の拳がコア子の顔面に一気に迫る。


『Hyper Super Power(とにかく、すごく、強い)』


質量ゼロの霊体だからこそ実現する光速移動、そして攻撃。

端的に言って無敵。


だが、刹那、ビターの拳は強烈な何かによって相殺され、弾かれた。


「…!!」


秦だ。秦要護が彼の前に立ちはだかったのだ。


「クッ…!!テメェッッッ!!どけェェェッ!!」


「…ッ!よせ!ビター!!」


発狂するビターに、ベルンは叫ぶ。


『ハタ・カナモリとは絶対に交戦するな』


それは、フカの右腕であるGBから再三受けていた忠告だった。やめろ、戻れ、ベルンはそう言いたかった。

だが、今のビターに忠告など関係ないことだった。忠告如きで復讐心は抑え込めなかった。燃える脳髄に従い必ず殺す。伊勢居地コア子も、秦要護も。グチャグチャにしてやる。

その想いだけを胸に、ビターは絶対不可視の速度で秦の背後に回り、そして攻撃を、…今度は絶対に防がれるはずのない攻撃を仕掛けた。


だが、


「…!???」


すり抜けた。

すり抜けた?

あぁ、すり抜けた。まるで幽霊である自分みたいに。秦の顔面めがけて放った拳が、明らかに空振ったんだ。

なぜ?どうして?


続けての攻撃も、渾身の殴る、蹴るも、決して秦に当たらない。

顔面だろうが、胸部だろうが、どこにめがけて仕掛けようが、彼はまるで立体映像のよう。


脳が、理解が、追いつかない。


「なんで…?」

「なんで…?なんで…?」


混乱するほどに、困惑するほどに、

ビターの復讐心が、疑問と恐怖に塗り替わっていく。


どうして?どうしてどうしてどうして?

ありえない。ありえないありえないありえない。


そうでもない。


あなたにだけ説明しよう。

秦が今に実体を持たない理由。

一言でいえば、光学的テレポート。要するに、瞬間移動能力の応用である。

原理は簡単。たとえば秦がA地点にいるとして、彼は、自身の体にぶつかり反射する光をB地点に瞬間移動させているのだ。すると、身体はA地点のままなれど、自分の姿はB地点に映る。

そうして彼は、自身の透明人間化と、存在の座標ズレを実現させていた。


勿論のことだが、ビターがこれを理解することはない。

15世紀出身の原人が。彼はただ神秘に怯えるしかない。


戦慄するしかない。

正気に戻った脳で、理解するしかない。


勝てない。


分からないけど、分からないけど。


このまま戦っても勝てない。何をどうやっても勝てない。

何が違うって、持ち得る常識が違い過ぎる。種としての限界が違い過ぎる。

このままでは、見るも無残に殺される。


「うわっ…、うわああああああッ!!!」


だから、無茶苦茶の恐怖心を抱えながら、必死に、必死に、まるで悪魔を追い払うように、祈るように拳を、一撃を放つしかない。


…また空振り?

いや、

彼の拳は、今度こそは、間違いなく秦の実体を捉えていた。

気まぐれで光学的テレポートを止めた彼に届いていた。


ただし、

拳は、まるで戦隊ごっこの時に3歳児がお父さんに向けて繰り出したパンチのように、柔らかく、そして呆気なく受け止められている。

それは、たとえ今まで空振ってきた攻撃が当たっても、まるで意味が無かったことを示している。

生物としての、あまりにもな格差を示している。


「あっ…、あぁっ…、ああっ…!」

「あっ、あああああああああああっ!!!!ああああああああああああ!!!!」


敗北を悟ったビターが選んだのは、逃走。

復讐ではなく、怨念ではなく、

たった一人のシュガーの家族として、彼女を決して忘れないように、悲しみの中に生きる。

それで彼女に報いようと、そう転換した。


光速は、そのための役に立つと思っていた。


が、


残念なことに、秦の能力は瞬間移動。

超人的な反応速度に裏打ちされた彼の移動速度は、場合によっては光速よりも速く…。


故に、間もなく、ビターの正面に立ちはだかった秦は、

対霊体用のグローブをまとった彼の拳は、哀れな亡霊の頭部を確実に吹き飛ばし、

死に体は、音も出さずに地面にくたばった。



一瞬の静寂が場を包む…。


「あ」


直後、コア子が呑気な声を漏らした。


ベルンがマンションから飛び降りたからだった。


自殺?いや、レプティリアンの肉体なら15階からの落下を耐えられる。着地の衝撃は甚大だけど、それでも、逃走の活路を見出したベルンは、全身の骨にヒビを入れ、内臓の位置を無茶苦茶にしながらも、走り出す。


走り出さねばならぬ。だってそれは、彼の勝負だった。


「逃げればッ!逃げれば逃げれば逃げればッ!!明日はきっとやって来るッ!生きてる限り負けではないッ!生きてる限りやり直せるッ!生きてる限り、生きてる限り、生きてる限りィッ!!」


ベルンの命が、今、燃える。


しかし、コア子とカナモリはまるで追って来てなかった。

どころか、マンションの屋上でなんか呑気に駄弁っていやがった。


「しかしコア子、よく敵の存在に気づけたな?」


「まぁ、前々から何か見られてる気がしてたからな」


「…気がした?なんだ、それだけで捜索に踏み切ったのか?」


「ふふん。"見られた気がした"なら間違いなく"見られた"。プロの世界に気の所為なんてない。あるのは自分の技量への絶対的な自信だけさ」


「…立派になったなぁ。今日はお祝いでもするか」


「ご褒美は?」


「なんだ?何か欲しいのか?」


「スマホ」


「駄目」


そして、もみくちゃにケンカを始める。


…舐めてるのか?

そう苛立った直後だった。


「…え?」


スッと、ベルンの体を縦断するように風が抜けていったような気がした。


途端、彼の足は止まった。そして、彼は必死になって自分で自分を抱きしめた。今に"自分の体が分かれていかないように"、自分を、抑えようとした。


が、無駄。間もなくベルンは割られた薪みたいに真っ二つになって、無様に息絶えた。


「…日本刀のつもり、ですけど…」


彼を斬り伏せた、本町は血で濡れた自身の手刀を払いながら思う。


「今日も非番なんっスけどね、ははは…」


彼女は、先輩をデートに誘おうと着て来た、気合の入ったベージュのミニワンピを血まみれにしながら、たはーと落ち込んだ。


1時間後、デートにはちゃんと行けた。

ばちこん

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