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ルッキズム死ね。でも美少女にはなりたい。  作者: :)
第四章『終わったもの』

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42/76

2分

「…うおおおおおっ!!」


瓦礫の中で起き上がった。アレは何だったんだ?急な爆発にふっ飛ばされた僕は、ジュワジュワと肉体を再生させた後、立ち上がった。


思えば、初めてのリジェネレートだった。痛みは、なかった。吸血姫の体は特別で、一度経験した痛みは二度と感じないように出来ていた。無限ループにハメられて、永遠に苦しむことがないようにってな。おかげで僕は、制服がボロボロになって、肌が土汚れまみれになったこと以外には何とも無かった。


「細田さんっ…!」


急に呼ばれてびっくりした。背後からの声の主はタカドノだった。


教室で僕に声をかけた凪野さんの様子を見て只事じゃないと思って、心配になって付いてきていたらしい。瓦礫に足を挟まれていたので、どかしてやった。ズボンが破れ、ちょっと大きめの擦り傷が出来ていたが、幸い、骨は折れていなかった。とりあえず唾塗ってあげた。


「それより、細田さん…」

「あれ…」


タカドノが、駅の方を指差した、そこには


渦巻く雲と、警報音と、人々の悲鳴と、宙を舞うビルと、地面と、街路樹と、


凪野さん


空中で、真っ黒なオーラを放出して、


頭を抱えてうずくまる、凪野さんがいた。


「凪野さん…」


吸血姫の、驚異的な視力でよく見えた。


今に彼女は、死にたいって顔をしていた。



 …



「…純粋なサイコキネシスか。単純だな。しかし出力が良い。上々だな。アレなら今の吸血姫にダメージを与えられるか、そうでなくても、事態解決に来た祓魔師らを幾らか殺れるだろう。後は行く末を見守ってやれば作戦は完了だ…」


西川駅から北西1200m、15階建てのマンションの屋上で、凪野の有り様を見届ける男がポツリと呟いた。


天パで、青い瞳で、革ジャンの男。

凪野海に絶望をプレゼントした男。

当然の如くキャスタウェイ。当然の如く『フカ』の部下。


ベルベルベルン。

縮めてベルン。

レプティリアン。


ただしホモ・サピエンスとのハーフ。故に、恐竜のように硬い鱗は背中だけで、他に特徴的なのは、体が丈夫なことと、舌が異常に長いことだけ。


『Back On The Rocks(ケツに火をつけろ)』


その能力には破壊力も殺傷性も無くて、出来ることは、ただ、相手の自責の念を増幅させ、ヒステリーを引き起こさせるだけ。


ただ、その"だけ"ってのがとかく良い。

対吸血姫にはとかく良い。


「…フカは言った。俺達が持つべき武器は『暗躍』だ、と。そりゃあそうだ。いくら弱っているとはいえ、相手は吸血姫だ。1000万分の1どころか、1兆分の1まで弱ってても、凡夫の俺等にとっては天災級の脅威でしかない。それに奴は、どういう訳かクリーン清掃事務所の連中に守られている。Black Outの伊勢居地コア子に、ペスティカを素手で殺しやがったハタ・カナモリだ。奴等のうち一人だけを相手にしても、こちらには総力戦が要求される。だから正面衝突は好ましくない。好ましくない…」

「…だからこそ、だからこそのメッケルダウンだったんだ!暗殺に限れば吸血姫並に理不尽な実力を持ったアイツだけが、伊勢居地コア子以外なら真正面から殺せる唯一の存在だったんだ!それが、何故、どうして奴は伊勢居地コア子に手を出した!?フカの話を聞いてなかったのか!?そういやアイツ、あの時スマホ弄ってたな!?聞いてなかったんだ!?そうなんだ!?あははははははっ!?クソがぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」


貯水タンクにガンガン当たるベルン。隣にいるポルターガイスト二人、…白布の死に装束を身にまとう10歳前後の少年少女、工作担当であるベルンの一方で、彼のボディーガード担当である、

名を、ビターマックスという彼と、シュガー・ブラウン・シュガーという彼女が静かに困惑する。


「また始まったよ。ベルンのキチガイ」


「ど、どうしよう…?ビター…?」


「どうもこうも、こうなったアイツは手のつけようがないからなぁ。…まぁ、後は帰るだけだから、いいんじゃないの?いくらでも精神錯乱してもらえば」


「そ、それでいいの…?いいのかなぁ…」


「いいんだよ。ほら、"影から"好きなお菓子でも出せよ。食べて待とうぜ」


「お菓子…!う、うん…!」


二人は二人で、その場に座って、盗ってきたお菓子を広げることにした。ジャパニーズお菓子。コンソメパンチが一番好き。


地響きが空を揺らす。


「にしても…」


お菓子を頬張ってほっぺたをハムスターみたいにするシュガーを他所に、ビターは呟く。


「クソッタレだな。ナギノ・ウミって、アイツの人生は。これからアイツは、罰という罰を食らった後だというのに、自分の力の暴走で更に色んなものを失っていくんだから。近くには学校も自宅もあるっていうのに、それすらも全部壊してしまうんだ。自分の手で、まるで自分の人生にそうしたように」


でもまぁ、仕方ないことか。


ビターは、自分の過去を思い返しながら、同情するようにして言った。


生きるってのは、それだけで悪夢なのだから。



 …



少し前に、コア子がイワトが開く条件を渋々話してくれた。


僕は…、その時僕は、コア子にどんな言葉をかけたら良いのか分からなかった。


「凪ッ…!野さんッ…!」


近づいたら、吹き飛ばされた。凪野さんの周りには突風が吹き荒れていて、まるで、独りにしてと言われてるみたいだった。

蹴り飛ばされたサッカーボールみたいに地面を跳ね、電柱の腹に叩きつけられた。口から有り得んくらい血が出たけど、平気か平気じゃないかで言えば平気だった。


せっかく来てくれたところ悪いけど、タカドノには帰るように言った。コア子が、つまりプロがカバーストーリーで真実を隠している手前、僕が勝手に現状の説明をするわけにはいかないし、そもそも、ただの人間にこの場は危険過ぎる。


タカドノは、言えば、間もなく避難してくれた。ただ、去る間際に凪野さんの方をジッと見て、何かを思いついた顔をしていたのが少し気がかりだけど…。


「…」


感情の爆発が力の暴走の要因であることは死ぬほど理解できる。分かる。僕だってちょっと頭にきただけで目黒らを殺しかけた。それくらいの力が漏れ出た。であるならば、


…今の凪野さんは、どれほどの悲しみを抱えているんだろう?


想像すら出来ない。

というか、想像出来ない。


思えば、僕は凪野さんについて何も知らない。


僕はただ、凪野さんについて、いじめっ子のリーダーだったこととかか、実は優しくて、話してみればズバッと意見を言ってくれて頼りになることとか、ダンゴを撫でてる時の顔が素敵なこととか、それくらいしか知らない。


知ろうとしていない。僕は、凪野さんのことを良い友達だと思っていたのに、凪野さんの背景について関心は抱いても直接聞いたことがなかった。なんで急にイジメを止めて、僕に優しくしてくれるようになったの?とか。怖い表情をしている峰らに呼ばれて、大丈夫だった?とか。今朝だって、急にカラオケなんてどうしたの?とか。


もっと聞けば良かった。もっと聞いて、凪野さんのことをもっと知ろうとしたら良かった。そうなんだよ。僕って奴はコミュ障で、とにかく無言がダメだと思って、相手を楽しませなきゃと焦っていて、そのために取り繕った会話しか出来なかった。


他人に関心が無いんじゃなくて、その余裕が無かった。


だから、なんだよな。あの時のコア子に声をかけてやれなかったのもそうだけど、ここまで追い詰められた凪野さん相手にも、何をどうしてやればいいのか分からないのは、そうなんだよな。


踏み込めない。他人の心の奥を知るのが怖い。

表面上のやり取りに心地良さを感じてしまう。


それがどうも、手放せなくて…。


「君が殺らないのなら、代わりに私が殺ろうか?」


そう言って僕の注意を引いたのは、局長だった。

ビックリした。局長はいつの間にか僕の隣にいた。


喉を掻っ切る鎌みたいに鋭利な指に黒のグローブをギュッと通す局長に、僕は言う。


「や、殺るって…」


「当然の判断だ。アレの覚醒が"作為的で悪意的だった"とはいえ、既に甚大な被害を齎しているのは事実だ。死者も多い。早急に叩かねば被害は増すばかりだ」


…私が出張らなきゃアレを何とか出来ない、今の侍衛係の体たらくには泣けてくるがね、そう言って局長は、凪野さんの方に踏み出した。


一歩、二歩。


僕は咄嗟に局長の腕を掴んだ。


「…止めるのかい?もし、それが考えなしに私を邪魔することが目的なら、君が相手でも容赦はしないよ?」


唇を噛む僕を、局長が睨む。


「…もし、君が物語の主人公なら、読者の想像を超えるような一言とか、感動の名台詞とかでも言って、目の前の可哀想な少女を救えたのかもしれないね」

「けどね、そんなものこそフィクションなんだよ。人の心は複雑で、頭には二面性どころじゃない、三重にも四重にも矛盾した考えが渦巻いているんだ。だから、人は癒えるのに時間を要するんだ。何年も、下手したら何十年も。色んな言葉を交わして、色んな経験を通して、そうして、心の傷を色んな角度から解釈して、理解して、段々と体に馴染ませていくんだ」

「…本当なら、若い君たちこそそういう機会に恵まれてほしかったよ。でも、ごめんね。ダメなんだ。事態は急を要するからね。たった一人を救うために全てを敵に回すことは、シンちゃんの選んだ道なんだ。私じゃない。私の、じゃないんだ。だからごめんね」


そして、局長は僕の手を振り払った。僕に背を向けて、一歩、一歩と凪野さんに死を送るための歩みを再開した。


絶望が、物語に幕を下ろそうとした。


…しかし、次の瞬間、僕は嫌でも思い出した。

そういや、そうだった。

局長にはどこか、カナモリに似た部分があったんだ。


思い出さざるを得なかった。

だって局長ってば、立ち止まったんだ。


ふと振り返って、そんなの無視すりゃいいのに、今に切ない涙を流す僕を見て、

ハッとした顔をしたんだ。


「…2分、だ」


局長は、考え込んだ後、おもむろにそう言った。


「私の現実改変の効果は、『凪野くんには異能なんて無い』って嘘は、たったそれだけしか保たない。しかし、もし、それまでに、君があの子の感情を鎮めることができれば、2分が過ぎても、異能が戻って爆発することはない」

「いいかい。2分だ。能力の連発なんて出来ないから、一度っきりの2分だ。その間に私は、そこのコンビニでアイスコーヒーでも買ってるから、その間だけだよ」

「頼んだよ」

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