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ルッキズム死ね。でも美少女にはなりたい。  作者: :)
第四章『終わったもの』

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こんなつもりじゃなかった

この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません!!!!!!!

この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません!!!!!!!

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

試しにガングロ目黒の頭をバケツの中に沈めてみた。


「ナギッ…、ナギちゃんっ…!なんでっ…!」

「ウチら友達…、ゲホッ…、友達じゃなかったのっ…?」


南校舎中庭の女子トイレの汚い床に正座させられ、付け爪高野とつけまつげ水樹に頭を押さえられた目黒が、泣きながらそう言う。


濃い目の化粧がデロデロに落ちていてキモい。その泣き顔、屈辱、怒りはタカドノが見せてきたソレと何ら遜色ない尊厳の蹂躙に満ちている。


高野と水樹もそうだ。今に権力に逆らえず、ズッ友である目黒にこんなことをしている二人も、目をグショグショにしていて、唇を震わせていて、弱者の顔をしている。強者に搾取されるための顔をしている。


しかし、面白くない。


凪野は「…ヤニ切れた」と言ってトイレを出た。中森と峰が付いてこようとしたが、「ごめん、今は一人にして」と言って追い払った。


少し遠ざかって、チラッと後ろを振り返ると、今にトイレから飛び出した目黒と水樹、高野が肩を抱き合って泣きじゃくっていた。


「…」


強く吸い過ぎた金マルは辛過ぎだった。



 …



「警ら隊~、No.98!首尾は上々か?」


「イエッサー!本日も無事、清掃のおばちゃんを追い払うことに成功せり!」


男子トイレの前に仁王立ちする二年のヤンキー二人に、同級生一人が恭しく挨拶する。


あのトイレ、校舎一階南東の、食堂近くの男子トイレは細田が間違って入ったらしい男子トイレ。事件発生当初は絶好のオナニースポットとして共有されていたが、誰かが「聖地を汚すのはもったいない!」と意見したことをキッカケに、重要文化財として指定され、保護されるようになったのだ。


細田が使った個室は、何もかも、トイレットペーパーの千切れ方までもが当初のままで、便座には細田の小さな尻の型が、便器には香ばしい尿の黄ばみが残っているという。予約制で観光が可能で、一日に5人だけが監視の元、トイレを見たり、嗅いだり出来るらしい。現在では予約は半年待ちらしい。


狂ってやがる。ウチの学校の男共って昔からこんなに頭おかしかったか?


否。昔はもっと、マトモだった。いや、それはモラル的な意味じゃなくて、要は、底辺低偏差値高校の連中として、当たり前の行動しか取らないという意味でマトモだった。


イジメは平然と横行していた。カースト争いは苛烈で、誰もがギスギスしていて、一応のトップに立っていた光岡や花沢だって、いつも下剋上を警戒してピリピリしていた。女子も、生徒数こそ少なけれど、戦っていた。決して自分を安売りしないように、かといって、お高くとまって誰かの鼻につかないように、丁寧にダメージコントロールをしながら、周囲を操り、自分の影響力を高めていく。


それがこの学校におけるゲームだった。それが心地良かった。少なくとも、そのゲームの勝者であった凪野はそう思っていた。


それが、今や、どうだ。


この学校には、『伊勢居地と細田』と『それ以外』という構造が完全に出来てしまった。


あの圧倒的な光たちは他を全く寄せ付けず、競争すら許さず、皆まとめて影にしてしまった。男も、女も、物語の背景の、容姿の描写なんて有り得ない賑やかし担当キャラにされてしまった。


…本当はそんなことないのに。さっきイジメた目黒だって、中学の頃にニコプチのモデルやってた普通に凄い奴なのに。もう誰も覚えていないであろう竹中だって、中学ボクシングで全国大会に出場したことがある将来有望な奴なのに。


アイツ等が、アイツ等が皆を惨めにするのだ。


「そういや姐さんがさぁ…」「マジィ?」


「見ろよこれ、シバルちゃんの…」「おほっ」


廊下の隅で膝を抱えて丸くなる。


居場所が、無い…。



 …



この世で最も尊敬できない大人の代表である中山のボケのクソ財布をパクってきた。

それを、体育の時間で教室に誰もいなくなったトコロを見計らって、細田の鞄に仕込もうとしたら、たまたま教室に戻ってきたタカドノにバレた。


「なっ、えっ、なっ、にっしてるの…!?」


タカドノは、最初こそ、バツの悪そうな顔をした凪野にビビって後退りしたが、ソイツが今に弄っている鞄が細田のモノと知った途端、贅肉を震わせながら食って掛かった。


「…このこと、細田に言う?」


「い、伊勢居地さんに言うよ…!」


「ふぅん、そっかぁ。…一発ヤラセたげるから黙っててくんない?」


「なっ…、はっ…?!何をバカなことを言ってるんだっ…!」


「…ヤラないの?」


「やるっ、やるわけがないっ…!だろっ…!?」


「なら勃起してんじゃねぇよ、気持ち悪い」


「えっ、あっあっ」


今に慌てて股間を押さえる体操着姿のタカドノは、相変わらずのキモさだった。いじめられて当然の不快さだった。


けど…


「お前、言うようになったじゃん」


中山の財布をスカートのポッケに仕舞い、細田の机に腰掛けた凪野は素直に感心して言う。


変わったよ、タカドノの奴。相変わらずデブだけど、自信がついた。

今イジメたら、殴り返してくるのかな?それは買いかぶり過ぎか。

けど、細田のためなら殴ってきそうだな。


「細田とはもうヤったの?」


教室に戻ってきた目的なのだろう、シーブリーズを手にしたついでに水筒にかぶりついていたタカドノが分かりやすく吹き出す。


「そっ、そんなわけないだろっ…!?」


「えぇ~?マジィ~?でも細田に言い寄られてはいるんでしょ?」


「違っ、うからっ!ホントにやめてよっ、そういうこと言うのっ!」


「…ホントに違うの?」


「ホントに違うっ!!」


…そうなんだ。それは意外というか何というか。

凪野はてっきり、細田はタカドノをたぶらかして遊んでるのだと思っていた。ニコニコ笑顔で煽るような言葉ばかりかけて、ボディタッチも多くて、…傍から見たらオタサーの姫志望のクソビッチなんだけどなぁ。


「…細田さんは、本当にそういうのじゃないよ…。あの人はただ…」


「ただ?」


「…俺を友達だと思ってくれてる、だけ…」


「ふぅん。そうなんだ。おもんな」


その後タカドノは、「凪野さんだって、見れば分かるでしょ?」なんて言った。知るかよ。つかテメー、細田のことただの友達だとか言っておきながら、ちゃんと彼氏ヅラしてんじゃねぇか。そういうとこなんだよな。自覚無しに独占欲を見え隠れさせるところがオタクのキモいトコロなんだよな。


でも、まぁ

そういや細田のムカつく顔、正面からは見たこと無かったなぁ、ってね…。



 …



「無い!無い無い無い!私の財布が無い!無いぞぉぉぉっ!!?」


教室中を走り回る中山を他所に、凪野はメルカリでバーキンをポチった。


「な、な、こんなのどうだ?お前なら着こなせると思うんだが?」


伊勢居地がタカドノのスマホで水着を調べる。画面にデカデカと映った金ピカのビキニを細田に見せる。


「何だそのパーティーグッズみたいな水着。…ってか、昨日から言ってんだろ。ビキニは嫌だって」


「なんでぇ?もったいねぇじゃねぇか」


「…お前、僕の出自を思い出しながらでも同じことが言えるか?」


「思い出したら尚の事面白ぇだろ」


「お前っ…!やっぱり僕を小馬鹿にするために勧めてんだろ!?そうだろ!?」


…何を騒いでるんだか。くだらない。あの白い肌なら何でも似合うだろーが。


「…」


…しかし、ホントに綺麗な肌だよなぁ。生まれた瞬間から太陽の下に出たこと無い?一日三回くらいコラーゲン注射してる?産毛すら見当たらない、半袖のカッターシャツから曝された二の腕は皮を剥きたての若木のように瑞々しく、ハンコ注射の痕すらない。見れば見るほど羨ましくなる。


(やっぱ、普段食べてるものから違うのかな…?)


そう気になって、凪野は中間休み、購買があるのにわざわざ学校を飛び出してコンビニに駆け込み、パンパンのレジ袋を抱えて近くの公園に駆け込んだ細田を追いかけてみた。


(伊勢居地もタカドノもほっぽって何を…?)


ベンチに座る細田に、背後の草っ原からコソコソ近づいた。次の瞬間、


「だからぁ!僕の体を勝手に操って買い食いしまくるのは止めろって言ってんだろッ!?」


あまりの大声に凪野はひっくり返った。

細田は続ける。


「おまっ…、何だこのレシート!?たすきかよ!?5864円って…、どうしたらコンビニ飯でこうなるんだよ!?…野菜ばっかりは健康的でつまらん?っるせーよデブ!不老不死に胡座かいてんじゃねーよ!バーカ!バーカ!」


そう言いながら爆弾おにぎり(からあげ入り)をモゴモゴ食べる細田は奇怪そのもの。

えらいもん見てもうたぁ、と思った。

凪野は腰を抜かしながらズリズリと後退り、その場を去ろうとした。が


「…えっ?後ろ?誰かいんの?…って、凪野さん!?」


爆弾おにぎりを食べ終えて、次にフライドチキンを手にしていた細田は、凪野の方に振り返って驚いた。


「き、奇遇、ね…」


こんな奇遇あってたまるか。

しかし、凪野は、目の敵である細田相手に尻をまくって逃げるなんてダサいことはしたくなかった。

だから、彼女は


「…とっ、隣いいかしら?」


心臓をバクバク言わせながらも、攻めるように細田の隣にドカッと座り、奴のレジ袋から適当な菓子パン(ピーナツジャムを挟んだコッペパンだった)を奪い、かじった。


それで矜持を守ったつもりだった。


「あ…、な、何っスか…?凪野さん…?」


細田がビビる。なんで自分をイジメようとしてる奴が隣に座ってくんの?って顔をして、首を傾げる。


「べ、別に」


一方でこの状況を作り出した側の凪野もビビる。何でイジメたいほどウザい奴の昼食に同席してんだ?って顔して、ヤニに火をつける。


((なんだこの状況…))


両者が退席のタイミングを伺う中、細田は変わらず、暴食を続ける。


フライドチキンを食べ終わる。

焼きそばパンを食べ始める。

焼きそばパンを食べ終わる。

スパム握りを食べ始める。

スパム握りを食べ終わる。

メンチカツサンドを食べ始める。

メンチカツサンドを…


「…食べ過ぎじゃない?」


凪野は、思わず指摘した。


「えっ、あっ」


細田は戸惑うが、しかし食べる手を止めない。


脂質

糖質

脂質

糖質


「…肌、荒れるよ?」


「そうっスね!そうっスよね!僕もそう思…、思わん!食べたいものを食わずして何が人生か!?苦痛の上に積み上げた幸福に、相対的以上の価値があるか!?大体、幸福とは…!って、勝手に喋んじゃねぇテメー!脳みその隅っこに引っ込んでろ!」


凪野は、細田を過食症の多動症なんだ訝しんだ。それに、二重人格の気もあるとも思った。可哀想に。細田はきっと、こんな有り様を隠したくて学校を飛び出したんだろう。


面白くなった。

試しに凪野は、細田から食べかけのメンチカツサンドを取り上げてみた。

細田は「あっ、あっ」と漏らしながら、凪野が掲げたメンチカツサンドに両手を伸ばした。「かっ、返せ小娘!」と、魔女みたいな口調で呻いた。


しかし表情は捨てられた子犬みたいだった。


(あ、なんか…)


細田のこの感じ、この、良い感じに可哀想で、微笑ましくて、いじめたくなる感じ、まるで…、


(なんか…、ダンゴみたい…)


凪野は直感でそう思った。


…ダンゴ。凪野が飼っている犬。親戚から貰ったブスのパグ。1歳。食べ過ぎでコロコロに太っていて、散歩すら嫌がるボケ。不器用過ぎてお手も出来ない。片足をあげると、コケるのだ。うんちが臭い。食い意地が汚い。食い方が汚い。


世話が焼ける。呆れることはしょっちゅう。なんでこんなブス飼ってるんだろう、捨ててやろうかしらと年に数度、本気で考える。けど、凪野が帰ってくると必ずリビングからヨテヨテと走ってきて、彼女の足元で嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねまくる。だから、結局、甲斐甲斐しくなってしまう。


可愛いと思ってしまう。


「口元、ベトベトになってる」


凪野は、ベンチの端でタバコの火を消した後、ハンカチを持ち合わせていなかったので、カッターシャツの裾で油で汚れた細田の口元を拭った。


(唇、ぷるっぷるだなー…)


ついでに、何となく指で唇を弾いてやった。すると、細田の奴、みるみるうちに顔を真っ赤にした。


「なっ…、なっ…!」


いたずらにビックリしたのか、それとも他人に口元を拭かれることがそんなに嫌だったのか、それにしても動揺し過ぎじゃね?女同士だぞ?そういやタカドノも、たまに優しくしてやるとこんな反応してたな。


「…クラスのマドンナが、キモオタみたいな反応してんじゃねぇよ」


「あうっ…、ごめんなさい…!ごめんなさい…!」


「はぁ…、ったく…」


こういう意味でイジメる気は無かったんだけどなぁ。


そう思いつつ、この後も凪野は、おもむろに冷めたシケモクを細田の頬にチョンと当ててみたり、不意打ちで写真を撮ってみたり、色々した。戸惑ったり、恥ずかしがったりする細田の豊かな反応を眺めては、クスクスと笑った。


…本当、こんなつもりじゃなかったんだけどなぁ。

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