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ルッキズム死ね。でも美少女にはなりたい。  作者: :)
第四章『終わったもの』

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今を守るための条件

「…あぁ、そうか。吸血姫は"いかなる異能も意に介さない"んだったね。噂には聞いていたが、なるほど、私の力なんて当然のように効かないか」


局長が気楽に言う。


僕は、


…もはや局長は敵だと判断した僕は、怯えるのを止め、表情を徐々に怪物の方へ変えていく。


…この、局長とかいう奴をどうにかしたらコア子が戻ってくるのかは分からない。

けど、可能性があるのなら殺らない以外にない。


牙を剥いた。その時だった。局長は僕をスッと手で静止した。


「いや、勘違いしないでくれよ。私は確かにコア子くんを消しはしたが、別に危害は加えちゃいない」


「…はぁ!?」


何を訳分かんねぇこと言ってんだテメー。

しかし、局長は悠然と説明した。


「私の力は、端的に言えば現実改変だが、制限があるのだよ。『2分』。たった2分しか効果が無いんだ。それを過ぎちゃうと、せっかく改変した全ては元に戻っちゃうんだ」


…つまり、後2分経てば消えたコア子は戻って来るってことか?


「そういうことだ。だから心配はいらないよ。私は君の大事なものを何も傷つけちゃいない」

「…しかし、2分だ。たったの2分。それだけ過ぎちゃえばコア子くんは戻ってきてしまう。そうしたら、せっかく私は君と二人きりで話がしたいのに、また邪魔をされてしまうかもしれない。だから…」

「今のうちに、スタバにでも行っちゃおうか?」



 …



カウンター席で隣り合わせ、じっと見つめられることの負荷は、テーブル席以上だと思う。だって、テーブル席と違ってわざわざこっちに向いて来てるんだよ?なのに…


局長、めっちゃこっち見てる…。


「あ、あの…、なんスか…?」


「え、いや、なんというか…」


局長が、僕の手元にある、一口で残りが半分になった抹茶ラテを指さして言う。


「すごく飲みっぷりが良いなって、思ってね」

「それに君、ストローを使わずに直で飲んでたね。更にはラテといっしょに口に入ってきた氷も気にせずバリバリ食べていた」


…なんだこの人。めちゃくちゃ僕のこと見てるじゃん。カナモリかよ。


「私が彼に似ているのは仕方ないさ。シンちゃん…、いや、秦要護くんとは同期で、互いにとっての初めてのパートナーで、互いの癖が伝染っちゃうくらいにはずっと一緒に居たからね。…尤も、いくらかのいざこざを経て関係は険悪になってしまったが…」


へぇー…。


「…」


…いや。


「あの…、要件は何ですか…?」


「…要件?あぁ、要件ね」


局長の、せっかく買ったのに全く口をつけていないビターでクリームなアイスコーヒーのカップから、また霜がテーブルに垂れる。


局長は、もどかしそうに話を切り出す。


「まぁ…、そうだな。私は立場上、昨日の君の…、つまり、"キャスタウェイによる人間への危害"について、判断を下さないといけないのだが…」


「判断…」


「そう、判断。つまり、君を人類の敵と見なし即刻排除の命を侍衛係に出すか否かの判断」


「…ッ!!」


「あぁ、そう怖がらないでくれ。判断は、君に直接会ってから決めようと思っていたんだ。だから、もう安心してくれ」


「…??もう、安心してくれって、それはどういう…?」


「コア子くんの無茶苦茶な作戦は、存外私の心に刺さったよ。あんな馬鹿げたことに誇り高き吸血姫がノるハズないからね。その体は、想像以上に君の体だ。うん。やっぱり直接会わないと分からないことは多いな。紫野くんの報告書は君について美化し過ぎだし、彼女以外の人間が書いた報告書は君を悪く言い過ぎだ。良いところも悪いところもあって、人間なのに、なぁ?」


は、はぁ…。

…コア子のアレが功を奏したって事実だけは認めたくないけど、とにかく…、


「つまり、僕は大丈夫ってことで良いんですか…?」


「大丈夫…、ではないさ。君は吸血姫だ。それも、弱りに弱った吸血姫だ。弱りに弱ったBlack Outであるコア子くんと同様、君は、私が立場上、何としてでも今のうちに消さなくてはいけない存在だ」


…。


「ただ、今回の一件だけは情状酌量の余地ありとするだけさ。…聞いたよ。君は友達を守るために戦ったんだってね?凄いね、かっこいいじゃん」


え、えへへ…、いや、そんな…。


「謙遜はいらないよ。私は本心で君を尊敬しているからね。…だからこそ、そんな勇気ある子を理不尽に罰して、そこに正義はあるのかな、と、そう思うわけだ」

「…ただし、それは私個人の意見に過ぎない。物事は、そう簡単には片付けられない。人は、物理的には単純な物事を感情的に複雑にすることに妥当性を抱く、どうしようもなく非合理な生き物だからね」


改めて、局長はカウンターの下で足を組んで言う。


「今回の一件、動機がどうであれキャスタウェイが人間に危害を加えた事実に変わりはない。立場上、私は君に何かしらのアクションを起こさねば、人間を守るものとして示しがつかない。だから…」


局長は僕にピースをしてみせた。

いや、2つのことを提示してみせた。


「2つだ。2つの約束を守ると誓ってくれ。それで今回は君から手を引こう」


1.人間相手に異形の力を振るわない(それは凍りつかせることだけでなく、腕力なども含む)。


2.血を、決して飲まないこと。


「これだけだ。いいね?」


…えっ?それだけ?

…カスみたいな条件じゃん。


「破ったら承知しないよ?特に2つ目」


「や、破りようがないですよ…?」


…多分。だって、血なんてそもそも飲まない。そんな食生活したことない。…一度だけグラッとしたことはあったけど、あれは単にのぼせてただけだ。気をつけりゃ、二度目はない。つか吸血姫も「血なんて飲めたものじゃない」って言ってたしな。飲まんよ。


力の行使は…、そうね、暴発させないようにするのは屁を我慢するようなものだから、完璧に出来るかは正直ちょっと心配だけど、まぁ、頑張る。


「あ、もちろんキャスタウェイや異能力者の人間相手には使っていいよ。私が見過ごせないのは、あくまで、銃を持っていない相手に銃を向けることだから」


「まぁ…、はい。とりあえず、分かりました」


「うん。その返事が貰えただけで、わざわざ君に会った価値があったよ」


局長は席を立った後、僕の頭を軽く撫でる。


「頑張って守ってくれたまえよ。これだけが、君が今の日常を守れる条件だからね」


「条件…」


その言葉を反芻した僕に、局長は微笑んだ。


「そ、条件。そこんところよろしくね。じゃあ、用は済んだから、私はそろそろおいとまさせていただくよ」


「えっ、あっはい」


あ、えっ、もう帰るの?なんだ、結構呆気なかったな。最初に身構えていたのは何だったんだってくらいあっさりだ。


でも、それも偏に、この人が…


「?なんだい?私のことをじっと見つめて?」


「いや…、なんというか…」

「局長さんのこと、コア子の話を聞く限りじゃ散々な印象だったから、その、拍子抜けで…」


「化け物だとでも思ってた?」


「はい…。あっ、いや、今はそんなこと思ってないですよ?局長さんのこと、良い意味でただの人なんだって分かったから…」


「人だよ。だから人を守りたい」


「…優しいんですね」


「違う。痛い目を見て学んだだけだ。特にコア子くんには、…あの時の、脅威を脅威としか思っていなかった私は、本当に酷いことをしてしまったからね…」


…じゃあ、あの子がココに駆けつけて来る前に帰るよ。2分なんて、もう余裕で過ぎてしまっているからね。


そう言って、局長は本当に行っちゃった。


結局、アイスコーヒーには一度も口をつけなかったな。

…貰って帰ろうかな?


「…うーん」


…今の日常を守るため、か。


「血を飲んじゃダメ、力を使っちゃダメ、ねぇ…」


…大切な2つの条件を反芻して、僕は薄い抹茶ラテ味の氷をもう一個食べた。

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