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ルッキズム死ね。でも美少女にはなりたい。  作者: :)
第四章『終わったもの』

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良い人認定

人間が笑顔に弱いの、純粋に脳の欠陥だと思う。

その発言から1ナノ秒もしなかったと思う。

コア子は僕に向かって思い切り叫んだ。


「誰だっけ?じゃねぇよクソボケ!局長だよ!ちょくちょく話したことあっただろ!?私達を殺したがってる組織の長だよ!」


「…!!」


特別情報局?とかいうヤツのか!


「そうだ!奴は腐っても政府高官!いや、高官どころか、日本の国防における最重要事項の一つ、『対キャスタウェイ』の最高責任者であるアイツには人一人の人生くらい簡単に粉々に出来る権力が備わっている!」


「…!そんな凄い人が来るのか!?」


「そうだ!それも『吸血姫による人間への傷害事件』を聞きつけてやって来てるんだ!」


「…やべぇじゃん!」


「やべぇよ!」


「どうすんの!?」


「どうしようね!?」


コア子が焦る。あのコア子が焦る。腹に穴を開けてもヘラヘラしてる胆力オバケのこんな姿を前に、局長ってのがどんな姿形をしてるのか知らない僕も、流石に事態がヤバいらしいことを理解する。


動揺は伝播する。焦燥は伝染する。

僕達は互いを落ち着かせ合うように両手を、指を絡めて繋ぎ、涙目で向き合いながらきゃいきゃいテンパる。


「ど、どうすんのコア子!?あれだよな!?僕がソイツに会うのが不味いんだよな!?だったらその…、に、逃げるか?」


「逃げるなんて無理だ!アイツは公安とも、情報本部とも、内調とも繋がっている!どこに逃げようが必ず追ってくる!」


「じゃあ、倒すか…!?」


「もっと無理だ!アイツに力で張り合えるのはカナモリだけだ!」


「じゃあ、どうすんだよ!どうすんだよコア子!?」


「あ、慌てるな吸血姫!私にはこういう時のために用意した策がある…!正直まだ準備不足だが…、きっと上手くいくはずだ…!おいタカドノ!ぼさっと突っ立ってんじゃねぇぞラノベ野郎!テメェも手伝え!いや、テメェこそ手伝え!テメェこそこの事態を解決する鍵だ!」


完全に部外者だと思っていたのだろう、急に指名されたタカドノは「お、俺…!?」と言わんばかりに自分を指さした。



 …



「…で」


僕を見下げる、スーツ姿のクールな女性。スレンダーアンドグラマラス。大人の女性。気品高き顔立ちと、鋼鉄のような立ち姿。背の高さで言えば、カナモリの方がずっと高いのに、何故かアイツよりも圧倒的にそびえ立っているように見える。


…いや、今にこの人が高くそびえ立っているように見えるのは、

僕が四つん這いになっているからか。


…先ほどと同様、校舎裏にて。


「なんだい?この無様は?」


局長、つまり恐怖の権化が僕を指差してコア子に尋ねる。


僕、つまり無様は、今に犬用の首輪をつけて、地面に這いつくばっている。リードはもちろん繋がっていて、局長の存在感にビビり散らかしたタカドノが足ピンでおっ立ちながら握っている。ちなみにネームプレートには『私は社会の犬です』と書いてある。


「へへっ!どうっスか局長?吸血姫のことなら、貴女がわざわざ手を下さずとも、既に型無しっすよ!」


コア子が分かりやすく手でゴマをすりながら媚びる。「局長の襲来を無傷でやり過ごすには、吸血姫が如何に無害で、人間に従順かを示すしかねぇ…!」と言って学生鞄から首輪とリードを取り出したボケナスが、僕のケツを蹴り上げて叫ぶ。


「オラッ!吸血姫!今こそ日頃の調教で培った敗北宣言を復唱しろ!『私は人間様に敗北したメス犬です』『人間様に尊厳を蹂躙されて悦ぶメス犬です』『どうぞ私の頭を踏んでください』。さん、はい!」


「わたっ…、えっ!?言うの!?」


「言え!言わなきゃ殺されるぞ!殺されてぇのか!?」


「わっ、私は人間様に敗北したメス犬です!人間様に尊厳を蹂躙されて悦ぶメス犬です!どうぞ私の頭を踏んでください!」


「そうか!ならお望み通りにしてやる!ほらご主人様!やれ!」


「えっ!?ご主人様って、俺っ!?で、できないよそんなこと!?」


「やれ!やらなきゃお前の大好きな細田さんが殺されるぞ!殺されてもいいのか!?」


「うっ…、うぅ…!ごめん!細田さん…!!」


「いいぞタカドノ!無様だぞ吸血姫!ついでに私の靴を舐めさせてやる!」


タカドノに頭を踏みにじられて銀髪を泥で汚した僕は、地面とキスしたばかりの唇の前に差し出されたコア子のローファーのつま先を屈辱的にチロチロ舐める。手や膝小僧に舗装が不十分な校舎裏の砂利がブスブス刺さって苛立たしい。突き上がった尻がスカートを持ち上げていて股ぐらがいつも以上に心もとない。


…あぁ、何やってるんだろう、僕。


「どうっスか!局長!この通り、今や吸血姫はこんな扱いにも耐えられる程に従順!危険性なんてあるわけがない!コイツはもはや卑しい雌!辱められることが大好きで、キモオタのデブでも腰ヘコしながらご主人様にしちゃう節操なしの家畜!ペットなんですから!…まだ疑ってるっスか?なら、おい吸血姫!次は校舎の壁にマーキングだ!」


「はっ、はぁッ!?流石にそれは出来るわけないだろ!?」


「できっこないをやらなくちゃだろうが!それでも嫌ってんなら無理矢理にでもサセてやる!オラァッ!足上げろ!」


「ちょっ…!やめっ…!やめろ!おい!コラ!」


コア子がレスリング選手ばりのタックルで僕の右足に掴みかかる。そして、無理やり持ち上げて、僕を犬がションベンする時の体勢にする。痴態丸出しポーズを前に、タカドノが咄嗟に目を逸らす。コア子がそれにさえキレる。「テメェもご主人様ならちゃんと吸血姫を辱めろ!」とかなんとか無茶苦茶を言う。暴れる、抵抗する、困惑する。やがて皆、何のためにこんな揉みくちゃカオスになっているのか分からなくなる。


…局長がクスッと笑う。


「…本当に仲が良いんだね。君たち」


微笑ましいモノを見た、という感じの微笑みだった。


え?笑うの?少なくとも、局長の怖さをコア子からの伝聞でしか知らない僕はそう思った。

同時にホッとした。笑顔ってすごい。局長から『人間らしさ』を感じた。


僕は顔を上げて、改めて局長を見上げた。

なんだか、局長がさっきよりも近くにいるような気がした。


なんだ、そんなに怖い人じゃないじゃん。


「けど、コア子くんは少し邪魔だね。私は吸血姫くんに用があってやって来たんだから、…ちょっと"消えてくれるかな?"」


…離席しろ。という意味だろうか?マジ同意。こうなりゃもうコイツなんざただのうるせぇ置物だよな。

局長が温かい人だと知って、もう逃げたり誤魔化したりする必要が無いと分かった僕は、コア子に「…だってよ。ほら、どっか行けコラ」と言うべく右足の方を見た。


しかし、そこにコア子の姿はなかった。


「…え?」


コア子…?僕は四つん這いからペたんこ座りになって、辺りをキョロキョロする。


「あれ…?え…?コア子は?なぁタカドノ?コア子の奴はどこ行った?」


「…えっ?」


タカドノは、鳩が豆鉄砲って顔をして言った。


「こあこ…って誰?」


…背筋がブワッとした。

立ち上がり、「こっ、コア子だよ!伊勢居地コア子!さっきまでここに居ただろ!?」とタカドノに迫った。

が、タカドノは本当に何も分からないという顔をして、「ほ、細田さんが何言ってるか分からないよ…?!」と僕に返した。


頭が真っ白になった。


消えた?


え?


局長の一言で消えた?


本当の意味で、完全に消えた?


真っ青な顔をして局長の方を向くと、局長はまた、クスッと笑った。


コア子の、あれだけの動揺の意味を、僕はこの期に及んでようやく理解した。

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