貢献できない、ただ守られてるって状況がどれだけ重くて辛いか
阿鼻叫喚の執務室から淑女は何食わぬ顔で退室する。鋭い目に、ビシッとしたスーツ姿、高い背も相まり全てを見下しているような風貌をした冷徹な淑女。
そんな彼女の後を付いて行く、ピリッとした姿勢の『補佐官』の女性が話しかける。
「…それで、官房長官殿は何と?」
「『今すぐ吸血姫を殺せ!』の一点張りだよ。まぁ、遂に吸血姫が傷害事件を起こしたんだ。為政者としては心此処に非ずだろうね」
淑女は、つまり、先日の『吸血姫による女子高生傷害事案』について話している。
補佐官は頷いて述べる。
「…当然の反応でしょうね。私としても吸血姫の即刻処分には賛成です。いくらハタ・カナモリが抑止力になっているとはいえ…。イギリス人じゃあないんですから、我々には『明日芽吹くかもしれない危機の芽は今日潰す』姿勢が重要でしょう」
「正しいね、それでこそ私の補佐官だ」
凛と笑み、補佐官を称える淑女に、補佐官は…、むしろ苛立ちを募らせた表情で問う。
「…なら何故、吸血姫の味方をするのですか?局長」
…
「…ってことだ。まぁ、知っちまった以上しょうがねぇから教えてやるけどよ、他言無用だからな?」
「う、うん…」
校舎裏。
コア子がタカドノへ『真実』を打ち明け終えた。
僕は終始ハラハラしながら二人のやり取りを見つめていた。
今朝のコア子は寝坊しなかった。
それもそのはず、今日は『いじめっ子女子氷漬け事件』の翌日。彼女は病み上がりだというのに、一刻も早くタカドノに話をつけるために、朝一番に登校してくれていた。
…まぁ、そうだよね。いくら、"別に口外していい"とは言ってもね。
僕だと、変なことを話しちゃうかもしれないから…。
頼りないから…。
…実際、コア子はタカドノへの情報開示にあたり、大枠は銭湯で僕に伝えた内容と同じなれど、いくらかの留意をしていた。
一つに、彼女は僕の紹介を、あくまで『一介の吸血鬼』に留めていた。
『世界を滅ぼす力を持つ存在』『キャスタウェイの王』『吸血姫』などと、赤裸々には伝えていなかった。
二つに、人間の異能が後天的なものであることを伝えていなかった。
三つに、僕が多くのキャスタウェイに命を狙われていることに触れていなかった。
そして最後に、
僕が男であることは伏せてくれていた。
…優しさ、なんだろうな。
考えてみれば、前者3つに比べて、僕の正体なんて、伝えることに何ら危険性はないのに。
タカドノと僕の関係を変にかき回さないように、気遣ってくれたんだろうな…。
「あ、あの、伊勢居地さん?質問なんですけど、その、細田さんに氷漬けにされたアイツ等はどうなったんですか…?」
「あ?アイツ等?アイツ等なら無事だよ。カナモ…、パパが!パパが速攻でサウナにぶち込んでくれたからな。3時間もしたら溶けて、みんな息を吹き返したぞ。ガハハ」
「えぇ…?」
…快活に笑うその裏に、どれほどの思慮があるのだろうか?
憂鬱になる。あのいじめっ子共が一命を取り留めたのだって、病床に伏しながらも、コイツがベッドの上からずっと僕のことを見守ってくれていたおかげだ。
後始末は全部コイツ。
ホント、僕は何もしていない。
ただ呆然として、
ただ突っ立っていただけ。
僕は、壊すことばっかりが得意で、
コイツが、みんなが守ってくれなきゃ、
僕は、息をすることさえままならなくて…。
…なんでこんな生産性のない奴が愛されてるんだろう。
俯いた。分からなくなった。
だが直後、僕はコア子が山賊笑いをピタッと止めたことに気づいて、すぐに顔を上げた。
どうした?
そう尋ねた、次の瞬間、コア子はブァッと冷や汗をかいて震え始めた。
らしくないな?
「いずれ来るのは分かってた…!けど、まさか、こんなにも行動が早いとは…!」
来る?え?何が?
小首を傾げる僕に、コア子は伝えた。
「局長だ…!」
「…局長?」
…って、誰だっけ?




