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ルッキズム死ね。でも美少女にはなりたい。  作者: :)
第四章『終わったもの』

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28/76

別に学校へ行くことが全てではないけど

たとえ小さな世界だとしても、水槽の中だとしても、それが子供にとって最初の社会であることには違いないのです。

夕食後。

小気味良い電子音が短な演奏をした。


リビングで、胡座をかきながら、月3000円のお小遣いでどうやって入手したのか分からないNintendo Switchで遊んでいたコア子と吸血姫は顔を上げた。


「お、風呂沸いた。入るか」


「おう、いってら」


「は?お前も来いよ」


「え?今日も一緒に入んの?」


「んへへ、一緒だと倍あったかいもんなー」


「もー…。しゃーねーなぁ…」


二人分の足音がペタペタ鳴る。

それと同時に、食後の茶を啜っていた秦の視線がリビングから脱衣所の方へ移動する。


「ん…?」


ふと、彼と吸血姫の目が合った。


「えっ、あっ、あの」


吸血姫はしどろもどろになった後、言う。


「あっ、あっ、お、お風呂入ってきます…」


「あぁ」


そそくさとその場を去る吸血姫を見送った後、秦は…、


両手で顔を覆って、深い溜め息をついた。


「…まだ怖がられてるのかなぁ」


この秦という男、殺し屋のような面と鋭い眼光の一方で、中身はただの子煩悩おじさんであった。



 …



「…先輩?何してんスか…?」


平日の昼下がり、本町が目撃したのは、ゲーム屋の前でうなだれている大男だった。


「…あぁ、本町か」


大男、もとい秦は、本町の麻呂眉から、戦闘服であるハイカラ衣装をザッと流し見した後、ボソボソと尋ねた。


「…なぁ、お前なら、最近流行りのゲームとか分かるか…?できればその、中高生くらいの男の子が楽しめるようなものが良いんだが…」


 何を思い悩んでいるのかと思えば、くだらなかった。


「…吸血姫ちゃんに好かれるためっスか。相変わらずこの人は…」


Black Outの一件まで秦とペアを組んでいた本町にとって、強面大男のナヨナヨした無様なんて、今更だった。

本町は彼を慰めるように言う。


「先輩は仏頂面過ぎるんスよ。もっと笑えば、吸血姫ちゃんもきっと誤解を解いてくれるっス」


「笑う、か…、以前コア子にも同じことを言われたな…」


「…あぁ、じゃあ、この提案は上手くいかなかったんスね?」


「寧ろ怖がられた…。コア子にも、『顔曲がってんぞ』って煽られた…」


「あぁ…、うわぁ…」


秦の下手くそな作り笑いを想像した本町は本心で気味悪がった。

明らかに引き気味の彼女の様子に、秦はショックを受けて更に凹む。


「そうだよな…、そうだよな…。そもそも、初対面でいきなり殺しを強要するような奴が好かれようとすること自体が間違ってるんだよな…。分かってる、分かってる…」


本町は慌てて彼を擁護する。


「い、いや、あの判断は状況的に仕方なかったって、吸血姫ちゃんだって分かってるハズっスよ…?」


「そうかな…」


「そ、それに、たとえ笑顔が苦手でも、過去の言動がアレでも、先輩が聖人であることには違いないっス…!ほら、現に、その瞳にはたっぷりの優しさが詰まってるじゃないっスか…!そこから放たれる輝きは、いつか必ず、吸血姫ちゃんにも届きますよ…!」


「そうか…?」


秦はふらりと顔を上げて本町を見つめる。その、彼女の言う瞳とやらを見せつけるかのように、瞳孔を広げて、じっと、じっと。


…やがて、その威圧顔に耐えきれなくなった本町は目を逸らし、グロッキーになりながら手のひらを返す。


「…あの、すんません。あんまこっち見ないでもらえます…?」


「!?何故…!?」


「やっぱ先輩にフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションは無理っスよ…。もう全部筆談にしたらどうです?」


「ばっ、馬鹿言え…!目と目を合わせることが信頼関係の始まりだって、この前読んだ本にもそう書いてあってだな…!」


「先輩の場合、睨まれてると思われるだけっスよ」


「…!?」


「…もしかして、その本の内容を馬鹿正直に信じて、吸血姫ちゃんに同じことしてました?」


「…!???」


「…良かれと思ってやってたことで、むしろ怖がられる理由を作ってますよ貴方…」


「あっ…、あぁ…!うぅ…」


間もなく、秦は崩折れた。


本町は仕事前だった。しかし、こんな情けない先輩をほっとくわけにはいかないので、仕方なし、彼女は彼を近くの公園に連れていき、ベンチに座らせ、缶コーヒーを握らせ、励ました。


慣れた手つきだった。秦はコア子を引き取ったばかりの頃も、こうやって子供がいないところで凹みまくっていた。本町はその時のことを思い出しながら、本当は途轍もなく強いのに、家族が絡むとたちまちよわよわになってしまう先輩に、ほとほと呆れ、「しょうがないなぁ」と思いつつ、


本当に愛おしくて大好きだと思っていた。


彼女にとって、こんな先輩なんて、可愛くて仕方がなかったし、ずっと傍に居て、支えてあげたいと思っていた。今だって落ち込む顔をギュッと胸いっぱいに抱きしめて、赤ちゃんのようにあやしたくさえあった。



 …



「あ、今回の排除対象ってキャスタウェイじゃないんスか?」


当局の指示により、とある銀行の監視室に潜入した本町(以下、紫野)は、現在のペアである彼、本町剛(遠い親戚だよーん。以下、剛くん)に尋ねた。


「そうなんですよねぇ。どうも、数日前に開いたイワトの被害者が犯人みたいで…」


只今に紫野たちが受け持った事案は単純。

異能を手にした人間がその力を悪用して銀行内で窃盗を働いているので、何とかしてこいというもの。


「…今に、そこの警備員さん達が侵入者である私達に対し無関心なのは、そういうことっスか」


「えぇ、恐らくは異能によるものかと…」


紫野たちに対しても、監視カメラに映る、堂々と金庫内から金を盗み出していく一人の女性に対しても「大丈夫、大丈夫」と虚ろに呟き続ける警備員二人が不気味だ。


「…話し合いに応じてくれる相手なら良いんスけどね」


…間もなく、紫野たちはターゲットと対峙した。


「えっ、何アンタ、その格好。それにその眉毛」


金庫内、札束でいっぱいになったスポーツバッグを3つも背負う犯人の女性は、第一声にそんなことを言った。


「…格好は、これが私の力を発揮する上で一番効率が良いからっスよ。それに眉毛は、その、可愛いでしょ」


「可愛い?マジで言ってんの?もしかして今川義元なの?」


「…生まれつきこんな眉毛だったんスよ!それを言うなら貴女のプリン金髪とジャージだってダサダサのダサでしょう!?」


「あの、紫野さん?本題を忘れないでください?」


剛くんが静止したおかげで、醜い口喧嘩は一旦終わった。


剛くんは改めて犯人に告げる。


「あー、園田亜希子そのだ あきこさん、ですよね?私達は異能力によるトラブルを解決する政府機関、宮内庁侍従職侍衛係です。端的に言いますが、お縄についてください。私達は、"一部を除いて"、世俗にいる異能力者を放置できないのです。なので、お縄についてもらわないとそれ相応の"暴力"を執行することになります」


既に実名が割れていること、淡々と攻撃意志を告げられたことに、犯人の女性、園田はビビる。


が、怯まない。

彼女は4つの暴力事件により服役中の凶悪犯であり、異能により脱獄したばかりのアウトローだった。


彼女はニヤリと笑って言った。


「いやぁ、『大丈夫』だよ。私のことは放置で、気にすんなよ」


「…話聞いてました?そういうワケにはいかないから、私達は貴女の前に来ていてですね…」


「…そうっスね。『大丈夫』っスよね」


「…紫野さん?」


紫野の急な発言に剛くんは戸惑う。


この変化は何か。

園田の異能だ。

だからニヤリと笑うのだ。


『Ready Steady Go!(やってやれよ!)』


使用者が発した『大丈夫』という認識を、対象に強制させる、精神操作系の能力である。

(ちなみに能力は、声さえ伝われば、カメラや電話越し、録音媒体越しでも有効)


剛くんは無能力者であったが、生まれつき精神攻撃に人一倍耐性があった。だから、先程の園田の発言に動じなかったし、今も何ともない。


が、紫野は違う。彼女はとかく情緒豊かな人間で、人一倍動揺しやく、流されやすかった。

彼女は精神攻撃に対し、弱々の弱だった。


完全に人選ミスだった。


「『大丈夫』、『大丈夫』だよねぇ?私がこの銀行から金をかっぱらって行くのも。この先、この力で好き勝手生きていくのも、全部『大丈夫』だよねぇ?」


「…うん!全く問題ないっスね!全て『大丈夫』っス!」


「大丈夫なワケないでしょう!?紫野さん!正気に戻ってください!園田亜希子の処分を行うのが、今の貴女の仕事でしょう!?」


「違うわよー?今のその麻呂眉女の仕事は…、そうねぇ、デリヘル嬢なんかはどうかしら?今だってほら、そこのモサ男に呼ばれて来たんでしょ?90分、本番アリの裏オプ付きで」


流石に、その発言には紫野も戸惑った。「…えっ?何言ってんスか…?そ、そんなわけ…」。

しかし、間もなく園田に刷り込まれた、「その認識で『大丈夫』なんだよねぇ?」によって、紫野は「…そうっスよね。私はデリヘル嬢…、デリヘル嬢…」と洗脳された。


紫野はぼんやりとしながら剛くんに歩み寄った。そして、スルスルと服を脱ぎ、すっかり露わにした胸や尻をたゆんと揺らして、


剛くんを押し倒した。


「ちょっ、ちょっ…!?何してんですか!?やめっ、ダメですよ!貴女には秦さんがいるでしょう!?」


剛くんは必死に訴える。大切なものを取り戻せと訴える。しかし、紫野は止まらない。彼女は彼に足を絡めながら、腰を揺らしながら、彼の肌に手をかける。


もみくちゃだ。二人はもはや園田どころではない。勝敗は決した。

園田は「バイバーイ♪」と気楽にその場を去ろうとした。


…だが、次の瞬間、彼女の足はビクッと止まった。


それもそのはず、彼女の目の前に、一体どこから現れたのか、得体不明の大男が現れたのだ。


「秦さん…!!」


剛くんの、腹が痛い時にコンビニを見つけた時のような安心した声に、秦は「あぁ」と軽く返事した。


同時に、ヤバい様子の紫野に呆れた。


「本ま…、いや、紫野。お前、まだ精神攻撃に耐性無かったのか。全く世話が焼ける…」


秦はぬるりと園田の傍を横切った後、今にすっぽんぽんになった剛くんの下半身にしゃぶりつこうとする紫野の頭を結構な威力でぶん殴った。


間もなく、彼女は正気を取り戻した。


「痛ッ…!へ…?おちんちん?…?剛くん…?何で裸なの?ってか先輩?何で?ってか何で私も裸!???」


たんこぶを生やした紫野は、慌てて恥部を両手で隠した。

恥ずかしさのあまりビャンビャン泣き出した。


頼りない後輩だなぁ。

秦はため息をついた後、改めて園田の方に向いた。


先程のふざけた眉毛とは違う、明らかにプロそのものな男を前に、園田は緊張を走らせた。


「…はっ、アンタもジエイカカリ?ってヤツか?私を捕まえに来たか?」


「…いや、今はもう侍衛係じゃない。民間のビロンギングだ。それと…」


秦は冷たく告げる。


「お前はこの後、捕縛なんてされない。交渉の余地無しと判断された異能力者は、市井の安全のために即座に排除される」


「…ッ!!」


インスタントに伝えられた死刑宣告に、園田は怯み、狼狽える。

が、彼女の根腐りはそんなことでは潰えない。

プライドは、決して彼女に善の道を許さない。


園田は仕掛ける。


「そ、そうなんだぁ~?でも止めといた方がいいんじゃな~い?私を殺すなんてさぁ~?それで『大丈夫』だって、ねぇ~?」


「…大丈夫、ねぇ」


コクコクと頷く園田に秦は返す。


「そうだな…、殺すなんて言葉、お前には使うべきじゃないかもしれんな」


「…!秦さん…!」


園田の能力の恐ろしさを垣間見た剛くんは顔を真っ青にした。

「そんな、あの秦さんでも形無しになってしまうのか?」。彼は絶望した。


園田も園田で、勝利を確信してニヤリと笑んだ。


そんな中、秦は淡々と園田に告げた。


「…ところで、俺の異能は『Far From The Light(光より出て)』と言って、まぁ、コアk…、娘が名付けてくれたものなんだが…、簡単に言えば、瞬間移動が出来る能力なんだ」


「…マジ?瞬間移動?良いなぁ~便利そう!」


園田が思わず感心する。洗脳して協力者にしちゃおうかな、なんて考える。

そんな彼女に、秦は頷いて続ける。


「まぁな。結構融通が効く能力でな、移動距離に制限は無いし、接触していれば複数人での瞬間移動も出来るし…」

「…何より便利なのが、『部位単位のアポート』なんだ。例えば、魚料理を作る時に、わざわざ捌かなくても鱗や内臓、骨を別の容器にアポートさせれば一瞬で下ごしらえが終わるし、"今みたいな状況だって、敵の頭部だけを俺の手元にアポートさせれば、一瞬で片がつくんだ"」


そこまで聞いた瞬間、園田はゾクッとした。


洗脳が効いてない!?まさか!?


そんな思考を巡らせようとしたが、間もなく、彼女のニューロンはプツンと活動を途絶えた。


「…だから、殺しをやってる気分になれないんだよ。あっけなさ過ぎて…」


秦は、バスケットボールみたいに園田の生首を鷲掴みにしながら言った。

首無しの胴体が前のめりに倒れた。断面から血がドボドボ溢れて、床に血たまりができた。


簡単過ぎる人の死に、未だすっぽんぽんの本町二人組は背筋を凍らせた。無意識のうちに互い身を抱き寄せていた。


インスタントな死の恐怖。呆気なく、そしてあまりにも隣に存在し過ぎる無。


『ハタ・カナモリ』という存在が放つ圧倒的な制圧力。絶望的な力の差。生物としての格の違い。


それにあてられた二人は、味方ながら、腰を抜かして立てなかった。


しかし、当の秦はまるで呑気に、今日の晩御飯の献立でも伝えるかのように日常的に、ブツブツと二人に言った。


「あぁ、そうだ。今回の一件は局長に報告しとけ。俺が報酬を要求してることもな。…強請りはしないさ。3万円もあれば、ゲームソフトが5,6本は買えるだろうから、それで。…流石にそれだけ買えば、1本くらいアイツが喜んでくれるものがあるだろ…」



 …



「…まさか、プレゼント代稼ぎに任務に乱入してくるとは思いませんでした。…それで?吸血姫ちゃんが喜んでくれるものは買えたんスか?」


「…全部もう持ってるって、滅茶苦茶謝られた…」


「あちゃあ」


…園田亜希子の一件から数日。水曜日の正午前。


皇居外苑、噴水公園内、ぼんやりと座れる噴水前の段差にて、秦は相変わらず落ち込んでいた。


「どうしよう本町…、吸血姫の奴、この一件でますます遠慮気味になっちゃった…」


隣に座る本町にすがる彼。この前はあんなにも頼りになったのに…。

平日昼間からしょぼくれる大の男に、周囲は指を指したり、ヒソヒソ話したりする。隣にいる本町にまで風評は飛ぶ。「きっとあの女が手酷く捨てたんだわ…」なんて。


そんな中、本町は、秦をじっと見つめて言う。


「あの…、別に、そんな無理して好かれようとしなくても良いんじゃないですか?先輩がいつも二人のことを想って頑張ってることは、黙々としていてもきっと伝わってますよ…?」


「…お前は本当に優しいな」


急に褒められて、本町はびっくりした。「そっ、そんな…!」と顔を赤らめて喜んだ。


が、その一方で秦は言った。


「…でも、黙々としていちゃ駄目なんだ。俺は、ちゃんと行動でアイツを満たしてやらなくちゃいけないんだ」


だって…


「儚いんだ…。アイツが今に享受している幸せは…。少し間違えれば簡単に崩れてしまう、そんな幸せなんだ…」


「…!」


…現状、吸血姫は秦のわがままと一定の条件下で生かされてるだけに過ぎない。

吸血姫は、Black Outと同じ。どこまで行っても世界の敵であり、人間社会の外にあり、その証左に、住民票もなければ、通信制の学校にすら通えない。


そして、そんな恵まれない生活すら、安定したものではない。

たとえば、ふと『上』の気分が変わってしまえば…、

秦の身に何かあれば…、

吸血姫がうっかり力を取り戻してしまえば…、


…園田亜希子は、"失敗した未来の吸血姫"なのだ。


そして、その時、吸血姫討伐に駆り出されるのは間違いなく彼なのだ。

『最強』の称号を欲しいがままにしている、彼なのだ。


「だからこそ、今、出来ることは全部やらなくちゃ。母を失い、吸血姫なんかになっちまったアイツを引き受けた『親』として。決して後悔がないように。互いにとって、過ごした日々が幸せだったと思えるように…」


「先輩…」


事情を理解した本町は、秦と同じように悲しんだ。


その時だった。秦のガラケーがブーっと鳴った。

電話が掛かってきたのだ。知らない番号からだった。


「…はい。秦ですが…」


秦はどよんとした気持ちを引きずりながら電話に出た。

が、次の瞬間、彼は姿勢をピリッと正した。


電話の相手は警察だった。


「あのー、お宅のコア子ちゃん?と、キュウケツキ?を名乗るお嬢さんを預かっているのですが。二人の保護者さんで間違いないですか?」


聞けば、二人は新宿東宝ビル前でポップコーンとスプライトを広げてたむろっていたので、怠学を理由に補導されたのだと。


 なにやっとんじゃアイツ等。


秦と、ついでに本町は大慌てで補導を行った交番に向かった。具体的には、秦の力で交番近くの人気の無い路地に瞬間移動し、その後は小走りで駆けた。


近づくにつれ、悪ガキ二人の会話が聞こえてきた。


(ちなみに余罪:『Station to Stationによる映画の無銭視聴』)


「なぁ…、異能使ってるから流石にバレないよな…?こういうのしょっ引く用の罪名とかないよな…?」


「ねぇし、バレるわけねぇだろ。ってかお前、オドオドし過ぎ。悪いことした時ほど堂々としろ。逆に、そんなに内股じゃあ、無い容疑すらかけられちまうぞ?」


「お前がキモ座りすぎなんだよ馬鹿っ!何で補導されといて足組んでられるんだよ!?」


子どもたちがずっとこんな感じだから、秦は交番に到着して間もなく、義憤に燃える警官のオッサンに思いっ切り詰められた。


「お父さん!ダメでしょう!?お子さんのことはちゃんと見てなきゃあ!こっちのちっちゃい子は悪びれもしないし、こっちの外人さんは、反省する素振りはあるけど、変な冗談ばかり言ってるんですよ!?もー!普段どういう教育してるんですか!?」


「はい…、はい…、すみません…」


秦が高い背を屈めて何度も頭を下げる。


「そっちのお母さんもそうですよ!?自分の子供が大事なら、悪いことは悪いってちゃんと言ってあげなきゃあ!」


「へっ!?お母さん!?私がお母さんっスか!?」


その言葉に動揺した本町を、椅子に背もたれたコア子がすぐさま煽る。


「やーい、カナモリとカップル扱いされて悦んでやんのー。こんな場面でも発情しちゃうなんて欲求不満かよー?」


「うっ、うるさいっスね!ママの愛ある拳でも食らえっ!」


本町のゲンコツにポカポカ殴られるコア子と吸血姫。コア子は嘘泣きをしたが、一方で吸血姫は本気で涙ぐんだ。「な、なんで僕まで…?」。


ギャーギャーと騒がしい交番内。


一見すると楽しい。子どもたちは元気で、問題こそあれど、幸せそうに笑っている。


しかし、秦は今に憔悴し切っていた。


…二人が問題児過ぎるから、それもあるけど。

二人を他人に問題児扱いさせてしまった、その不甲斐なさを悔やんでいたのだ。


やっぱり、俺は間違っているのか…?

『親』として、何も出来ていないんじゃないのか…?


そうだ、何も出来ていないのだ。


警官は言う。


「いいですかお父さん?子供が本当に大事なら、ちゃんと学校に通うように怒ってあげなさいよ?学校で学べることは、今しか学べないんですから」


「…えっ?」


ただし、彼の過ちとは愛情や笑顔の量のことではない。

現実に対してちょっと怯え過ぎているというだけだ。


「学校…、ですか…」


「えぇ、学校ですよ」


「この二人が、学校に…」

「…そんなの、許されるのでしょうか…」


変な質問だなと警官は首をひねる。


「そりゃあ許されるに決まってるでしょ?」

「それとも何か、二人を学校に通わせられない理由でもあるんですか?そしたらねぇ、転校するなり、通信制を活用するなり、別の方法を取ればいいのですよ。いいですかお父さん?親の仕事ってのは、別に叱ることや子供を塾に通わせることじゃないんですよ。『非力な子供のために道を作ってあげて、その後どうするかはじっと見守ってあげること』。それこそが親の仕事であり、子供にあげられる最大の愛情なんですよ」


「…!」


…随分、的はずれな指摘だ。

そりゃそうだ。警官は"二人の事情を知らない"。

秦が人知れず諦めていた"現実"を知らない。


しかし、だからこそ、無関係者の配慮のない言葉は秦の心に響いた。

常識を砕き、彼に一つの決心を生み出した。


そうだ、そうだよな。

『親』ならば、ならばこそ、戦って、傷ついて、苦しんで、

コイツ等のために、道を作ってやらなきゃな。


「…ありがとうございます。警官さん」


秦は頭を下げた後、子どもたちに振り向いた。


「おいお前ら」


…思えばそこは、自分は満足に行けなかった場所だ。


だからこそ、彼にはそれが、ゲームなんかよりずっと良いプレゼントのように思えた。


「学校行くか?」


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