第三十六章 理解しているとしても
「ねえケファミア。本当に騎士になるさ?」
「もちろんです。今更なんでそんなこと言うんですか???」
今更なんてことはオリミア自身が一番理解していた。それでも、こう続けていた。
「無茶するってわかっているからさ。見ず知らずの誰かを助けるために全力で頑張れるのは格好いいけど、そのせいでケファミアが傷ついて、しっ死んじゃうのは嫌だからさっ」
「オリミア?」
ちっともわかってくれないと、己が夢のためなら命だってかけると、そんなことはオリミアが一番理解している。
それでも、それでもだ。
もしかしたら止まってくれるかもしれないと、騎士なんて物騒な戦いの道以外の道を選んでくれると……そんな叶わぬことを考えてしまうのだ。
騎士になるための武者修行の旅に付き合ったのも、旅の中でどうにか騎士になることを諦めさせられないかと考えてのことだった。
いいや。
そんな理由がなくとも、ケファミアと一緒にいたいからとついていっていただろうが。
「ごめんさ。忘れて、うん、忘れてさ。さ、さあてっ、さっさと騎士に──」
「傷つくのなんて当然ですよ。生きている限り、傷つき傷つけられることから逃れることはできないんですから。だったら、せめてそーゆーのに巻き込まれて泣いている誰かが救われたほうがいいじゃないですか。泣いちゃってる誰かを救う人はいない、なんて結末よりずっとです。だから私は騎士になりますよ。泣いている誰かを一人でも多く救うために、です」
理解していた。しているに決まっている。
絵本の中のデフォルメされた騎士に憧れて、実際に誰かを救えるだけの力を手に入れるまで努力してきた姿をずっとずっと見てきたのだから。
理解しているから、力づくでも止めることはできなかった。ケファミアが騎士以外を目指している姿を想像すらできなかったから。
単なるわがままなのだ。
だからこそ、願う以上のことを積極的にできないのだ。
それでもオリミアは──
「ですけど、私もまだまだですね。私のせいで傷ついている人がこんなに近くにいたのに、今まで気づきもしなかったんですから」
「けふぁ、みあ……?」
気づいた時には腕の中であった。
ぐいっ! と、隣を歩くケファミアがその手でオリミアを抱き寄せたのだ。
「きゃっ。な、なにをっ」
「大丈夫です。何があっても、絶対に、生き残ってやりますから。ですから、そんなに心配しないでください」
夢を諦めることは絶対にない。ケファミアはそんなに器用な女ではない。それこそ死ぬまで夢に向かって突き進み続けるのがケファミアなのだ。
そんなケファミアのことをオリミアは好きになったのだ。
「……まったく、仕方ない奴さ」
そして。
そして。
そして。
「今はまだピーチファルナのお父様に勝てず、キラーゾーン公爵家が三女を一人で倒せない程度ですが、すぐにでも強くなってやりますから!! 死ぬなんて心配させないくらいに、です!!」
だから、と。
ケファミアらしく、こう続いた。
「そのためにも一層頑張らないとですねっ。とりあえず今は騎士になるのが優先ですが、騎士になった後はやっぱりピーチファルナのお父様やキラーゾーン公爵家が三女みたいな強者とやりまくらないとですねっ。せめて私の腕の一本や二本吹き飛ぶくらいには熱い戦闘積み重ねて、オリミアが死ぬなんていらぬ心配しないくらい強くなってやりますよっ!!」
「…………、」
「ん? あれ、オリミアなんで拳をスキルで巨大化させて、怒っているです? なんで!?」
「もおおおっ!! なんで私こんな奴好きになったのさああああああーっ!!」
それはもう見事な右ストレートであった。
なんというか、脳筋はどこまでいっても脳筋であった。
ーーー☆ーーー
「緊急会議だっつってんのに来たのはキアラだけなノ!? モォ本当協調性ゼロなんだかラ!!」
「別にワタシも来る気はなかったけど、まあ真相ってヤツが判明しているかもって思ったからね。きひひ☆ あのクソ野郎に殺されかけたという『経験』は中々に大きい蓄えとなったし、ここから先はワタシがテッペンとってやるわよっ!!」
「……殺されかけたネェ。私チャンはそこすら違うんじゃないかって睨んでいるんだけどネ」
「あ? どういうことよ???」
「確かに三日前の闘争の最後、私チャンを含む旧『魔の極致』及び新『魔の極致』の面々はそれぞれ距離が離れた地点に飛ばされたわよネ。ご丁寧に怪我を回復するおまけ付きでネ。つまり誰かが横槍を入れたって話なんだケド、まずその誰かってのが世界の記憶を読み取ったってわからないのが異常ヨ。加えて新『魔の極致』第一席ザクロはあの闘争の後に死亡していたってのヨ? 新旧をサラッと叩き潰したあのザクロが死んだってのもぶっ飛んだ話なのニ、これまた死因すらわからないってのヨ!? モォ一体全体どうなってるのヨォ!!」
「きひひ☆ そそる話じゃない」
「ハァ!?」
「ザクロが殺されたとするなら、必然的にザクロ以上の誰かがいるってことよっ。ワタシがテッペンに立つ踏み台としては十二分っ。きひひ☆ 『魔王』をぶっ殺す前の前菜として貪ってやるわよっ!!」
「……そう簡単にいけば誰も苦労しないってノ」
それに、とネフィレンスは心の中だけで付け加える。
(結局全知全能は手に入らず、カ。一度殺しテ、『蠅の女王』で魂魄情報を送信する魔法道具と肉体に生前の力を封入する魔法道具を作リ、ミュウの力で作ったゼリシア=キラーゾーンソックリの肉の器に魂魄情報を送信することで『全知全能を抜き取ったゼリシア=キラーゾーン』と『全知全能の力だけが残ったゼリシア=キラーゾーンの死体』とに分離、後はルルアーナの力で死体を全知全能を使える兵器と変えれば大幅な戦力アップだったんだケド。ふうム、ゼリシアも友好関係に縛られて『今はまだ』動けなさそうだシ、ここは下手に刺激せず全知全能含む新『魔の極致』を確実に始末できるまで力を蓄えるべきよネ)
「まったク。簡単にできると思ったんだけどナァ、世界征服」




