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わたし、甘い蜜のような令嬢に溺愛されています  作者: りんご飴ツイン


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さあ、始めよう。特別を救うための挑戦を

 

 ゆえにこそ、だ。

 普通なら殺しにまでは発展しないような些細な因果さえも無意識、無自覚的に後押しさせた結果ピーチファルナは殺されてきた。


 とはいえあくまで無意識にして無自覚への介入。催眠や肉体操作みたいに完全に意のままに操るような強制力はなかったために、不発に終わることもあっただろう。だからこそ、その不確実さが前は死なずに済んだのに今回は死んだみたいなランダム性を生み出していたのだ。


 分かってしまえばどうということもない。レイ=レッドスプラッシュのようなクソ野郎がもう一人いたというだけ。


 裏で、影で、馬鹿みたいに踊るレイ=レッドスプラッシュを嘲笑っていたのだろう。ピーチファルナが死ぬたびにこのルートは駄目だから、今度はこっちのルートを進もうなんて試行錯誤しているのを見て、どうせいつかは失敗するのにと小馬鹿にしていたのだろう。


 ……ケファミアの襲撃もゼリシア=キラーゾーンという黒幕がいたとすれば説明がつく。レイ=レッドスプラッシュが救っておいたオリミアを誘導、死刑まで持っていったのか、それとも『蠅の女王』を操ってオリミアが死刑になったという誤情報をケファミアに伝えたのか。とにかく無自覚、無意識での誘導でケファミアを操れるよう、オリミアの死という分かりやすい理由を植えついたのだ。


 分かってしまえば、こんなもの。

 世界は今日も悪意に満ちている。


「……どうしてゼリシア=キラーゾーンはそんな回りくどいことをやっているでごぜーます? 目的が見えないでごぜーますが」


「『新世代』。六百年前の『戦争』にて最終的には撤退した私チャンたちを旧世代としテ、自分たちこそが究極に至りし最強とかさえずっている新『魔の極致』の第二席、それがゼリシア=キラーゾーンみたいネ。新しいだけあって柔軟性抜群のようデ、『魔の極致』語っておいてゼリシアは人間だシ、他にも何人かは魔族ではないみたいヨ。とはいエ、レイからもらった『蠅の女王』のログを見るまではゼリシア=キラーゾーンの暗躍どころかその存在すら隠し通していたってんだかラ、さえずる程度の力はありそうネ」


「で、目的は?」


「『魔王』、つまり旧『魔の極致』第一席ミーナの殺害みたいヨ。そのための前段階としテ、他の旧『魔の極致』メンバーを排除することでミーナの力を切り崩しているつもりのようネ。私チャンたちにもそのうち手を出してくるつもりかネ? とにかくあくまで水面下、バレずにこなしたいかラ、回りくどいのヨ。何度も何度も失敗を繰り返させテ、最終的にレイが精神的に死んじゃうのを狙っていたってところかネ」


「なるほど、なるほど、なるほどでごぜーます」


 頷き、笑みを浮かべて、両手をパンパン叩き。

 ぶぢぃっっっ!!!! と、あまりにも強く噛み締めた結果、犬歯が唇を貫く。



「そんなしょーもない理由でピーチファルナちゃんは何度も何度も殺されたでごぜーますか!? ふざっけんな、クソッタレがァッッッ!!!!」



 ドッゴォ!! と叩きつけられた拳が床をぶち抜く。ネフィレンスの足元まで亀裂が広がる。それだけの力を叩き出したのだから、当然レイの腕もまた弾けるように壊れていた。そんなもの、目に入っていないし、痛みを感じてすらいなかった。


「敵は見えたでごぜーます」


 ひどく。

 低い声音だった。


「これまでのように運命のいたずらを回避する総当たりではないでごぜーます。く、くふっ、くふふ☆ 全面戦争でごぜーますよ。『魔王』殺害。それがどんな利益になって、どんな欲望を満たして、どんなものを手に入れる結果になるかなんて知ったことじゃないでごぜーます」


 ピーチファルナは正しかった。

 無知で周回遅れだろうとも、真理を示していた。


 頼ればいい。

 一人でできないなら、できるだけの力を集めればいい。


 やっぱりピーチファルナは特別で、凄くて、可愛くて、もう最高だった。


「ネフィレンスう! 力を貸せでごぜーます!! 出し惜しみなんてしないでごぜーます!! 恥も外聞も何もかも捨てて、次の挑戦に全部ぶつけてやるでごぜーます!! だから、だから! ピーチファルナちゃんを救うために、ネフィレンスもキアラも他の奴も全員巻き込んでやるでごぜーます!!!!」


 なんと醜くて、なんと傲慢で、なんと穢れた叫びだったか。そこにまばゆい限りの正義は存在しない。英雄譚に登場する英雄のような格好良さなんてどこにもない。


 だけど、それがレイ=レッドスプラッシュのむき出しの感情だった。ピーチファルナを救う、そのためなら何でもする。


 そこまで想える誰かを見つけたのだ。

 退屈なんて感じる暇もないくらいの好きを見つけたのだ。


 魔族は悪で、レイ=レッドスプラッシュは大罪人で、だけどだからどうした。この場にはかつて『戦争』を引き起こしたようなクソ野郎しかいない。それでも、と繋げてきたからこそ、魔族は魔族として生き抜いてきたのだ。


「フン、格下が偉そうに吠えやがっテ。『今』ここで喚いたって意味はないわヨ。どうせ『やり直す』んでショウ? なら『次』はそうやってみっともなく助けを求めることネ。そうしたなラ、気まぐれに助けてやるだろうサ」


 もういいだろう。

 これ以上、真相究明に時間を使う必要はない。


 敵は判明した。

 ゼリシア=キラーゾーン。唯一の原因を取り除けば、ピーチファルナが死ぬ可能性は百パーセント消失する。


 さあ、始めよう。

 今度こそ、絶対に、ピーチファルナを救う挑戦を。



 ーーー☆ーーー



 もしも全知全能の力があれば、なんだってできるだろう。『蠅の女王』にハッキングして、ベルゼ=クイーンエッジの能力を引き出し望む魔法道具を量産することも、作り出した魔法道具『ハニートラップ』でもって好きな人員の無意識を操作、ピーチファルナが死ぬよう因果を接続、増幅することもできるだろう。


 ゼリシア=キラーゾーン自身が暗躍していることすら気付かせないよう、あくまで今あるものを有効活用するくらいには慎重に慎重を重ねていた。とはいえ敵は『旧世代』ながら『魔の極致』、暗躍を見抜く程度の力は持っていたようだ。


 それならそれでもいい。

 あくまで慎重に慎重を重ねていただけなのだから。


「遅いちゃん。さっさと過去に介入ちゃんすればいいのに。どうせ何をしたって次の時間軸ちゃんでは全知全能で粉砕ちゃんなんだから」


 ゼリシア=キラーゾーン。

 人間ながらに新『魔の極致』第二席の座に上りつめた怪物。ネフィレンスやキアラ、レイ=レッドスプラッシュを含む旧『魔の極致』の誰だろうとも実現できなかった全知全能が敗北することなどあり得ない。

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