その剣は最愛のために
『やっとこの案件も終わりが見えてきたな。よしお前ら! 連続令嬢誘拐・殺人事件の犯人、とっ捕まえにいくぞ!!』
『待ってください!! 馬鹿なことやろうとしているんじゃないですよっ!!』
周囲の騎士へと呼びかける禿頭の偉丈夫へと掴みかかる勢いで声を張り上げるケファミア。相手は騎士団長、『古き慣習』に縛られし騎士団、その頂点。いかに『古き慣習』という形の複雑で無意味なふるい落としが意図的に残っているとしても、騎士団が数千人規模の武闘派集団であることに変わりはない。その中の頂点たる偉丈夫の実力は、相応のものだ。
反論すればどうなるか。
『古き慣習』の目的が選民思想的なものだとすれば、『上』が好き勝手できる環境を整えていることは想像に難くない。上司に対する意見など以ての外、ましてや叱責にも似た声音で叫ぶなど本来あり得ないことである。
『オリミアが連続令嬢誘拐・殺人事件の犯人? ばっかじゃないですか!? あいつが、私の幼馴染みが! そんな大それたことできるわけないですよ!!』
『幼馴染み? ふん、くだらん戯言だな。身内の意見など大抵そんなものだ。こんなことやるような奴には見えなかったってな。戯言にもほどがある。どこまでいっても他人は他人だ、完全に理解できるわけがないだろうが!!』
かもしれない。
騎士団長の理屈は正しいのかもしれない。
だけど、それでも。
ケファミアは即答していた。
『テメェが誰かを完全に理解することができないからって、私にも当てはまると思うんじゃないですよ、クソ野郎が!! 私は知っている。オリミアが知らないオリミアのことだって、隅から隅まで知っているんです!! 理屈なんてクソ食らえです、正論が私とオリミアに当てはまると思うんじゃない!! 私たちは「特別」なんです!! 生まれた時からずっと一緒にいたんです、これからもずっとずっと一緒にいるんです!! だから!!』
ぞわり、と。
偉丈夫より噴き出す殺意に背筋を震わせ、しかしケファミアはやはり即断していた。
警告もなしに抜剣した騎士団長よりも早くに、目の前の禿頭野郎の顔面に拳を叩き込んだのだ。
『が、ぶべびば!?』
『させやしないですよ』
吹き飛ぶ騎士団長を見て、ようやくざわめき出した周囲の騎士どもを見据えて、ケファミアは高らかに言い放っていた。
『騎士団全部を敵に回そうが、この国全部を敵に回そうが! この世界全部を敵に回そうが!! オリミアには指一本触れさせやしないですよ!! オリミアに触れていいのは私だけなんですからッッッ!!!!』
そして激突があった。
『特別』を守るためなら何だって敵に回してやる。
例えその結果、連続令嬢誘拐・殺人事件の犯人を庇ったということで『不浄汚染罪』が適応されたケファミアにも同等の罪が降り注ぐことになるとしても、だ。
ーーー☆ーーー
『やってない……』
『知っています』
『わたっ、私! 令嬢さんを誘拐なんてしてないし、殺害なんてしてない!! なのに、なんで、こんなことになってるのさ!?』
『分かりません。が、これだけは言えます。私がオリミアを絶対に守ります。それだけは必ず果たしてみせますよ』
『なんでさ……』
『?』
『生体情報ネットワーク「蠅の女王」なんていうとびきり信ぴょう性のあるものが私が犯人だと判断したのに、どうしてケファミアは疑うことなく信じられるのさ!?』
『知っていますし、聞いたからです。オリミアはあんなことする奴じゃないと知っていますし、今まさにやっていないと言ってくれました。だったら信じられます。信じるに、決まってますよ』
『ケファ、ミア……』
『大丈夫です、何とか突破口は見えました。真相がどうであれ、「冤罪ということにできる」手札を手に入れたんですよ』
『それって、なにさ?』
『ははは。まあ何でもいいじゃないですか。ササッと終わらせてくるので、オリミアはここで待っていてください。騎士の座を追われたとはいえ、この剣が守るは無辜なる民と決まっているんですよ』
『ばか。こんな時まで絵本の真似事?』
『憧れですから。だから、叶えます。絵本の中の騎士が無辜なる民を救えたように、私もまたオリミアを救ってみせますよ』
『……、ばか』
ーーー☆ーーー
騎士団を敵に回した当初、今後のアテなんて何もなかった。とにかくオリミアを救ってみせる、それだけしかなかった。
ゆえに。
だから。
オリミアと合流する前、降って湧いた『それ』に飛びついてしまったのか。
『連続令嬢誘拐・殺人事件の犯人を庇って、「不浄汚染罪」に沈んだのでごぜーますか。唯一の女騎士ともあろう者が殺人犯と同等だなんて落ちたものでごぜーますね』
『レイ、レッドスプラッシュ? なぜ公爵令嬢が、いいえ何でもいいです。オリミアの敵だというなら、公爵令嬢だろうが国王だろうが魔王だろうが神様だろうが! 片っ端から叩き斬るだけです!!』
『力を貸してやるでごぜーます』
『なん、ですって?』
『くふふ☆ 簡単なお仕事一つこなしてくれれば、例のオリミアとかいう奴を冤罪という形で自由にしてやるでごぜーますよ』
『待って、待ってください! どうして、そんな──』
『もちろん私には私の目論見があるでごぜーます。で、それが? 貴女にとって重要なことは何でごぜーますか? それ以外の些事を気にする必要はないと思うのでごぜーますが』
怪しさしかなかった。
普段であれば決して耳を傾けなかっただろう。
だけど、この時だけは。
令嬢としては珍しく香水の類を使っていないのか、何の匂いもしないレイ=レッドスプラッシュという形をした『安易な救い』に手を伸ばしていた。
なんでもいい。
オリミアを救えるなら、それ以外はどうでもいい。
そう思うくらいに、感情が一つに増幅、凝縮されるくらいに、オリミアを救いたかったのだ。
お仕事は簡単だ。
ピーチファルナとかいう奴を捕まえようとする追っ手を殺し尽くすこと。それさえ果たせば、オリミアの罪は冤罪という形で処理してもらえる。
これは。
今の時間軸のピーチファルナにとってはレイ=レッドスプラッシュと出会う前に結ばれた契約であった。




