まさかの急展開。
午後10:35.
閉店時間。
「あのっ!木下さん…」
解散になった途端、アルデンテくんが声をかけてきた。無視する訳にもいかないので、仕方なくその方を振り向く。
「何?」
短く不機嫌さを隠さずに答えると、アルデンテくんはたじろぐ。
その様子がさらに苛立ちを募らせる。
「その、えっと…」
はっきりしろ、アルデンテボーイ!
怒鳴ってやりたがったが、どうにかその言葉を呑み込んだ。
「ちょっと来て!」
アルデンテくんの袖を引っぱって、裏口から外に連れ出した。春とはいえ、まだ外の空気は冷たい。おまけに、ウエイターの制服は半そでなので外の寒さが身にしみた。アルデンテくんの長袖の制服が恨めしく思える。
「うわ、寒い…」
長袖のアンタが言うな!
「諌早くん…あなた、よくそんな普通でいられるわね」
「え…?」
理解できないのだろうか、きょとんとした顔で私を見つめてきた。
思わずため息が出る。
「だからっ…昨日、穂波をフッたでしょ?」
「えっと…はい、断りました」
あっさりと言ってのけた彼に、怒りが込み上げてくる。
「…んでよ?どうしてっ、何がいけないの?」
「ちょっ…なんで、木下さんがそんな、怒るんですか?」
「うるさいわね!いいから答えなさいよ!」
オロオロとする彼を怒鳴ってやる。
激しく動揺していたが、しばらくすると私から視線をそらして頬をかいた。
「それは、その…つまり、えっと…」
煮え切らない男…アルデンテボーイィ!!
はっきりしろ、腹が立つッ!
「言って!」
「は、はいっ!…お、俺…好きな人、いるから…断ったんです」
……はい?今、何と言いやがりましたか?
「へぇ、そう。あなたに好きな人、ねぇ?…ぜひともお聞かせ願いたいわね」
自分でもわかるほど黒いオーラを纏って、私は言った。
「ええっ!!?」
「言いなさい」
思わず命令口調になる。
言うがいいわ。引き剥がしてやるから、何としてでもね。
自分の中に生まれた妖しい感情は膨らんでいく。
「でででで、でもっ!や、やっぱ、そういうのは、ちょっと…」
「言うくらい、いいじゃないの」
まぁ、言って後悔させない、とはいえないけどね。
「や、やっぱりできないですよ…」
「…わかったわ。つまり、あなたが好きな女はとんでもない人ってことね?だから言えないんでしょ?」
「そっ、そんなことないですよ!!」
アルデンテくんはすぐに否定した。私は少し驚いてしまう。
だって、煮え切らない男がこんなにも必死になるなんて思わなかったから。
厄介ね…これは引き剥がすのに苦労しそうだわ。
そんなことを思いながら、なんだか燃えてきた。やってやろうじゃないの!
「じゃ、じゃあ、言ってみなさいよ」
「それは…」
「やっぱり、言えないの?私に知られたくないんだ?」
「だから、その…」
「何よ?」
煮え切らないその男を間髪いれずに問いただす。
「…好きなんですよ!」
「だから、誰がよ!?」
ダメだ…。会話が成り立ってない。なんだか疲れてきた。
そう思った途端、外の寒さを嫌に鮮明に感じるようになった。両腕を組んで寒さに耐える。
「…さん!木下さん…聞いて、ます?」
「え…何?」
「だ、大丈夫ですか?やっぱ、入りましょう。本当、寒いですから…」
アルデンテくんがドアノブに手をかけていった。
逃げる気だな…。
直感的にそう思った。
「嫌よ。…帰りたかったら言いなさい」
「そ、そんなぁ…」
情けない声で彼が言った。
ああ、もう!さっさと言いなさいよ!
「クシュン!」
くしゃみが出た。鼻をすする。
…本当に寒いなぁ。春なんだから、もっと暖かければいいのに。
「木下さん、本当に大丈夫ですか?あ、これ…着てください」
アルデンテくんがシェフの制服を差し出してきた。下に着ていたのだろう、薄い半そでのシャツ姿が寒々しい。
「いらないわよ。あなた見てるほうが寒くなるわ。…それより、早く言いなさいよ!」
そうすれば、帰れるんだから。
寒そうに腕をさする私の姿を見てか、アルデンテくんはわかりました、と呟くように言った。
「お、俺…俺の、好きな人は…木下さ…」
「ちょっと、ストップ!!」
はいッ、と手を上げて私は彼を制止した。
今、何て言った?
え、ウソ?木下…って私のことですか?ウソウソウソ…何で?
「…もう一度、言って」
「ええっ?もう一度、って…何を、ですかっ!?」
「あなたの好きな人よ」
そう、きっと聞き間違いよ。
最後まで聞かなかったし。私は自覚がある、かなり早とちりだということを。
テイク1で上手くいくはずがないわ。アルデンテくんよ?この大根役者はセリフを間違えちゃったのよ。さ、テイク2行ってみようか?
さながら頭の中では撮影現場の監督さん。混乱して自分でも理解不能…。
「だっ、だから…木下さん、ですっ!」
「っ!!」
冗談…じゃなさそうね。
体がスーと冷えていく。外のこの寒い空気のせいだ、そう思うことにした。
この場に立っていることがどうしようもなく耐えられなくなってくる。
ドアに向かって駆け出した。
中に入ろうとした私の腕を彼が掴んだ。思っていたよりも、ずっとしっかりとしている。
「あ…あの、返事は…?」
「でっ、できるわけないでしょ!!」
アルデンテくんの手を乱暴に振り払って、私は中に入った。
更新遅れました…。こんな作者ですが、お付き合いください。よかったら意見・感想きかせてください!!




