好き、って言っちゃった。
午後10:40.
連休最終日終了。
「お疲れさーん!まぁ、何とか切り抜けられたってかんじだな。明日もちゃんと仕事なんだからな、気を抜くなよー!」
チーフが満面の笑みでそう言った。
明日も仕事、かぁ。さらっと残酷なんだよなー、チーフは…。
チラッと菅野さんのほうを見ると、いつものように冷静な表情だ。
けれど、なんだかいつもより穏やかに見えた。
「…じゃあ、今日はお疲れさん!」
そうチーフが締めくくると、皆いっせいに帰り始めた。
「諌早、今日先に帰ってもいいか?」
「え…あ、はい。そうですね。僕一人でも大丈夫ですよ」
さすがにアルデンテくんも理解したようだ。
菅野さんをあっさりと帰してしまった。
正直、複雑である。
っていうか、諦めろよ私…。でも!菅野さんのこと、好き…なんだ、よね?私は。
「悪いな、諌早。じゃあ、お疲れさん」
菅野さんは少しだけ微笑んで言って、帰っていく。その時、私に気付いたのか菅野さんが近づいてきた。
「今日はすまなかったな、木下。まさか、百合が来るとは思わなかったよ。本当に、すまない」
「そ、そんな…菅野さんが謝ることじゃないですよ。ほら、私フロントですから!こういうことにも慣れてますし!…気にしないでください」
少し、ウソだった。決して慣れているわけではない、それなりに怖かった。
でも、菅野さんにはそんなこと言えないよ。
本当に、大切な奥さんみたいだしね。
「そうか?…良かった」
菅野さんは安心したように、表情をほころばせた。私はくすぐったいような気持ちになる。
「ほら、奥さん待ってらっしゃるんですよね?急いで帰ってあげてください!」
「ああ。ありがとう、木下」
菅野さんは微笑みながら言って、私の横をすり抜けていく。
胸が痛む代わりに、とても爽やかな気持ちになった。
あれ?私…菅野さんのこと好きなはずなのに、なんでだろう?
「あ、木下さん!」
アルデンテくんが私に駆け寄ってきた。
「あの、すみませんでした。さっきはなんか、でしゃばっちゃって。俺、まだ下っ端のくせに…」
どうやら、私に“下っ端”と言われたことがよほど効いたみたいだ。ちょっときつく言い過ぎたかな。
「そんなに気にしないでよ、最初からできる人なんていないんだから!…今は覚えることいっぱいで大変だと思うけど、がんばってね!」
「はいっ!ありがとうございます」
私の言葉にパアァ、とアルデンテくんの表情が輝いた。単純でかわいいなぁ。
「あと…その、菅野さんのことですけど…」
アルデンテくんの口から思わぬ言葉が飛び出して、ドキッとした。
思わずその顔をまじまじと見つめてしまう。
「す、すみませんでした!…俺、気になってて。けど、さっきは菅野さんの仕事引き受けたりして、その…」
「な、何よ?」
アルデンテくんは何か言いたげだが、なかなか言おうとしない。こういうときの煮え切らない感じが、どうもまどろっこしい。
「その…木下さんは、菅野さんのこと…す、好きなんです、よね?」
心臓が止まるかと思った。なんで、こんなアルデンテな子が、私の気持ちわかっちゃう訳!?
「なっ、なんでそう思うのよ?」
「え…だ、だって、菅野さんの奥さんがそう言ってたから…」
言われてみれば、そんなこと言ってた気がする。うーん、あなどれないなアルデンテボーイ…ちゃっかり聞いていたか。
「好き、なんですか?」
そして、ズバッと聞いてくるのね。
実際、自分でもよくわからない。私って、菅野さんのこと好きなのだろうか?
でも、こんな風にアルデンテくんに言われるとなんだか、むしょうに腹が立つ。
「そ、そうよ!悪い?…じゃ、じゃあね!私、帰るから!」
「あ…ちょっと、木下さん!?」
アルデンテくんの言葉には耳を貸さずに、さっさと更衣室に入っていった。
「美空!さっきアルデンテくんと何話してたの?」
更衣室に入ると真っ先に穂波が聞いてきた。
仕方なく私は、大体のいきさつを話した。
その間穂波は複雑な表情でいた。
「ん?穂波、帰らないの?」
私が着替え終わっても帰る準備をしないので、不思議に思って聞いてみた。
「ごめんっ。今日は先に帰ってくれる?」
「いいけど、穂波は一人で大丈夫なの?」
「うん。本当、ごめんね!」
穂波が残るなんて、珍しいな。しかも、連休最終日で疲れてるはずなのに。
そんなことを思ったが、明日もあるので早く帰ることにした。
意外に、ちゃっかりしっかり?なアルです。




