憧れ?と友の恋。
どうしよう…。
厨房の方を見ると、みんな忙しそうに動いていた。その時、ちょうどアルデンテくんと目が合った。
最初、彼は驚いた顔をしたが突然、オロオロし始めた。
ちょ、ちょっと!助けなさいよ!!
だが、彼はキョロキョロとまわりを見わたしている。どうやら、菅野さんを見つけたようだ。私の方を向いて、何か言っている。
菅野さんは、彼の頭をスパーンと叩いてから、怒鳴った。そして、厨房を出てきた。
「…お客様、申し訳ありません。そのようなサービスは扱っておりませんのでご遠慮ください」
「なんだぁ?文句あんのか!」
酔った男性は、菅野さんに食ってかかる。だが、菅野さんはひるまない。
「申し訳ございませんが、彼女はウチのスタッフですので。ご遠慮願います」
言いながら、男性の手首をつかんだ。
菅野さんと、男性がにらみ合う。しかし、普段から寡黙な菅野さんにかなうはずがなかった。
私の手を離して、目をそらした。
「感謝いたします。では、失礼いたします」
そう言って、菅野さんは厨房に戻っていった。私も一礼して、菅野さんのあとを追う。
「ありがとうございます、菅野さん。助かりました」
「いや、当然だよ。それより…諌早!」
名前を呼ばれた彼の肩が震えた。
「…はい」
「…あとで、話す」
菅野さんは、一度深呼吸をして言った。まだ営業中ということを思い出したようだ。
私は、無表情で彼を見た。目が合うと、彼は気まずそうにうつむいた。
本当に、アルデンテなやつ!
午後10:35.
やっと連休2日目が終わった。
「美空、大丈夫だった?…さっき、絡まれてたやつ」
「あ、うん。菅野さん助けてくれたし、平気だよ」
穂波が気遣うように言ってきた。ああいうお客さんは多くないので、すぐに情報は知れわたる。今回も、あの寡黙な菅野さんが彼を怒鳴ったので、ほとんどの人が知っているみたいだ。
「でも、菅野さんかっこよかったねぇ!も少し若かったら、クラッときてたかも…」
「それ、かなり失礼だよ」
「あはは、そう?」
穂波は楽しそうに笑う。
でも、本当にかっこよかったな。あーいう人、かなり好みだったりするし。
「…木下」
「はいっ?…あ、菅野さん」
「少しいいか?あのバカに謝罪させるから」
「え…はぁ」
あのバカ、って言うと彼のことだよね。
っていうか、もしかして今までの話全部聞いてました!?
菅野さんについていくと、調理台のわきに彼が正座させられていた。思わず吹き出しそうになる。
「諌早。木下連れてきたぞ」
ビクッと彼の肩が震えた。まるで、鬼教官とへなちょこ学生みたいだ。
「…すみません」
「うつむいたまま言うな!ちゃんと目を見て言うんだ!」
え、それも気まずいんですけど…。
学生くんはそろそろと顔を上げて、私の目を見た。キョロキョロとその瞳が動いている。
「ちゃんと見ろ!」
鬼教官が怒鳴った。なんだか、学生くんがかわいそうになってくる。
「あの、木下さん…すみませんでした!」
早口で言ってすぐにうつむいた。
よく見えなかったけど、彼の瞳は綺麗だった。まぁ、アルデンテくんにしては上出来じゃないですか。
「いいか、諌早。シェフとウエイターは同じ店の仲間なんだ。困ってたら、助けてやれよ!」
だが、そこから鬼教官の説教が始まった。
「そりゃ、仕事の内容は違うさ。俺たちの苦労も知らないで、って思うときもあるだろう。でもな、どちらもそれなりに大変なんだよ。…だから、助けてやれよ。迷ってないで、な?」
「…はい!」
アルデンテくんは顔を上げて言った。菅野さんは頷いて調理台に向かう。
「おい、仕込みするぞ」
菅野さんがこんなに多く話すところを初めて見た。
…かっ、かっこいい!!
何か、もう、人間としてすばらしい。憧れるなぁ。
「…美空っ!聞いてる!?」
「え、ごめん。何だっけ?」
ぼーっと菅野さんのことを考えていたら、穂波の話を聞いていなかった。
穂波は呆れたような顔でため息をつく。
「だからね…私、アルデンテくんのこと好き…みたいなんだ」
「ええっ!?」
いつの間にか、話は思わぬ方向へ進んでいた。
「なっ、何でっ!?どこがいいの!?」
「なによ、そこまで言わなくてもいいじゃない。…何ていうのかな、母性本能をくすぐられるというか…そんな感じ」
穂波は少しうつむき加減でそう言った。照れているのか、なんだか落ち着いていない。
本気、なんだ。
私はとにかく驚いた。
だって、アルデンテボーイだよ?
好みじゃないからなぁ、穂波の気持ちがよくわからない。
「そうなんだ、がんばってね」
「じゃあ、応援してくれるの!?美空がついてくれれば心強いよ、ありがとう!」
私、まだ何も言ってないんだけどな…まぁ、いっか。
私はいつものように適当に自分の考えをながした。そんなことより今は、ひたすらに疲れた。
美空の騎士は、菅野さん!?




